お忍び王子 5
レーナは、厨房でラーメン作りに挑戦した。
まずは、重曹と卵を使って中華麺を打つ。
かん水を使えば卵は不要なのだが、今回は入れる。その理由は、卵白に含まれるたんぱく質によってコシが出るからだ。それだけでなく、麺の色も黄色くなって、より中華麺に近づけられる。
スープはアクアパッツァの具を濾して代用した。
トッピングには、客の言っていた茹でわかめ。これはそのまま使えた。
この国にはタケノコがないので、代わりに地元のキノコをごまと油で炒めて濃い目に味付けする。
ネギに似た香りのハーブを薬味に使い、仕上げに特製塩レモンを振り掛けて完成させた。
「出来ました」
堂々と出されたラーメンに、バンダナ男が目を丸くする。
「ほう、見た目は似ているな。しかし、味はどうだろうか」
箸はないので、フォークでパスタのように口に運ぶ。
味の出来栄えを疑っていたバンダナ男だったが、食べた途端におし黙った。
「……」
「いかがですか?」
「これは……、パスタとは違う……。俺が異国で食べた、黄色い縮れた麺と同じだ……」
中華麺の食感がちゃんと再現されている。まさかできるとは思っていなかった男は、心底驚いた。
見守っていた店内から、一斉に、「オオ―!」と、歓声が沸いた。
同時に、「こっちに酒をくれ!」「こっちもだ!」と、賭けに勝った客たちの注文が相次いで、フランカは大忙しとなった。
多くの客が、「俺も食べてみたい」とラーメンそのものに興味を示した。
「まだありますよ」
「じゃあ、俺にもくれ」「私にも。ラーメンとやらを食べてみたい」
希望者数名にラーメンを振る舞う。
「こんなパスタ、食べたことない! いや、ラーメンか」
「これはこれで旨い!」
「コシが違う」
客たちのラーメンをすする手が止まらない。あっという間に、全員の器が空になった。
「見事な料理だった!」
「凄いな。異国料理にも詳しいのか」
「腕前は間違いないようだ」
レーナの料理人としての力量に誰もが感嘆して自然と拍手が起こり、称賛の声が止まらない。
バンダナ男は、喜ぶどころか悔しそうにフォークを握りしめて、あくどい目つきになっている。
一部始終を見ていたカルロ王子は驚き、レーナの腕は噓偽りなしと確信した。さらに異国の料理知識も豊富で感心する。
自分も食べてみたくなり、フランカにオーダーした。
「私にもくれないか」
「ラーメンは終了だよ。遅いよ」
「そうか、残念だ」
ガッカリした。
(育ちの良さが邪魔をして、なんでも出遅れてしまうなあ)と、ランベルトはカルロ王子を見ていて歯がゆくなる。
食べそこなったカルロ王子は、代わりに塩レモンパスタをオーダーした。
「塩レモンパスタをくれ」
「はいよ」
「私にもくれ」
ランベルトもカルロ王子に付き合って注文する。
数分で出てきた。
「はい、塩レモンパスタだよ」
スライスレモンがたっぷり乗っかったビアンコパスタだ。
食べると、パスタにもレモンを練り込んだように味がしっかり浸透している。
酸っぱいだけでなく、酸味の奥に旨味のハーモニーがしっかり味わえる。
「これは、ワインの後のシメに丁度良いかも」
「本当ですね。サッパリ食べられます」
「しかし、これは……」
食に造詣が深かいカルロ王子だったが、隠し味が分からず首をひねった。
それを、フランカが目ざとく見咎める。
「何? 不味かった? うちの人気メニューなんだけど。誰でも一度食べると病みつきになるってね」
「ああ、誤解させたなら悪かった。味は申し分ない。しかも、確かに一度食べたら癖になる。このパスタ、ただ単にレモン汁を絞って振り掛けただけじゃないようだな。何を入れたのか知りたいのだが」
「何を入れているかは、レーナしか知らないよ」
「あとで教えて貰えるだろうか」
フランカはまた鼻で笑った。
「ハ! お客さん、呆れたことを言わないでよ。大事な店のレシピだよ。簡単に教えるわけないでしょう。食べたければ、またここに来ることだ」
先ほどからのカルロ王子に対する無礼な振る舞いを、いよいよ見過ごせなくなったランベルトは思わず立ち上がった。
「貴様!」
「何よ!」
フランカも負けていない。
ランベルトとフランカがにらみ合った。




