お忍び王子 4
――ザワ……
先ほどまでと打って変わって、店内に不穏な空気が流れる。
碇模様のバンダナを頭に巻いた男が、「異国で食べた麺料理を食べさせろ!」と、大声でわがままを言っていたからだ。
「メニューにないものは出せないよ。自分のかーちゃんに頼みな」と、けんもほろろにフランカは断るが、「ここなら食べられると期待してきたんだ。できないというのか。それなら大した店じゃないと言いふらすぞ」と、しつこくごねている。
「やれるもんなら、やってみな! みんなにあんたの非常識が知れ渡るだけだよ!」
このままではトラブルになりそうだ。
レーナが出てきて、「どんな麺料理だったんですか?」と興味深げに聞いた。
「玉子が入ったような黄色くて細い縮れた麺で、スープはサッパリした薄黒い色で、茶色い薄切りの何かとわかめが入っていたなあ」
「なるほど、それはラーメンでしょう。茶色い薄切りはタケノコという植物です」
「ラアメン? ああ、そういう名前だったかもしれない。どうだ。作れるか?」
レーナはしばし考えた。
(作り方は知っているけど、中華麺にはかん水がいるのよね。この国にかん水はあるのかしら?)
前世で、たまたまラーメン好きの同僚から、かん水が手に入らない場合の作り方を聞いていた。
『中華麺作りには、かん水が必要だ』
『かん水って、何ですか?』
綾里は、かん水をよく理解できないでいた。
『中国の塩湖で採れる水のことで、これを使うと中華麺独特のコシと香りが出て黄色く発色するんだ』
『じゃあ、その塩湖の水がなければ作れませんよね。こんなに世界中に広がっているのに、塩湖の水が足りなくなりませんか?』
『炭酸ナトリウムを含む水なら、かん水と呼んでいいんだよ』
『塩は塩化ナトリウムだから、それに炭酸を加えればいいんですか?』
『まあそうなる』
『かん水が手に入らない場合は、どうするんですか?』
『手っ取り早いのは、重曹だ。重曹を使うことでかん水の代わりになる』
『重曹ならどこにでもありますね』
『僕も自家製麺を打つ時には、かん水の代わりに重曹を使って作っている。手っ取り早いし、十分美味くなる』
そんな会話を交わした。
(重曹なら手元にある)
レーナは、できると考えた。
「分かりました」
「作れるのか?」
「少しだけお時間を頂きます」
「いくらでも待つよ」
バンダナ男は、余裕の顔で酒を飲みだした。
フランカは、「余計なことを。一々客のわがままに付き合っていられないよ」と、不満たらたらだ。
レーナが無理難題にどう応えるのかと、店内の話題を集めた。
「いやいや、異国料理をいきなりは無理だろう」
「失敗したら店の評判を落とすぞ」
「でも、彼女ならやってくれるかも」
「どっちに賭ける?」
「作れるか、作れないか。負けた方が一杯奢るってことにしよう」
王室から話題が変わってカルロ王子はホッとしたが、レーナのことを心配した。
「大丈夫かなあ……。いや、きっとあの子ならやってくれる……」
「肩入れし過ぎじゃないですか?」
ランベルトは、冷めた目つきでワインを飲む。




