モフモフ相棒ペッピーノ 4
レーナの奮闘虚しく、連れて行かれそうになったところに救世主が現れる。
「ギャイン! ギャイン!」
尻尾を巻いて逃げ惑うペッピーノだったが、鎖に繋がれているから逃れられない。
「だから、やめて!」
大きくこん棒を振り上げた飼い主とペッピーノの間に、レーナが入った。
こん棒が背中を直撃する。
「痛い!」
身を挺してペッピーノを庇った結果、死にそうな激痛がレーナを襲った。
飼い主はビビった。
「バカ! 何やってんだ! 今のは俺のせいじゃないからな! お前が勝手に割り込んだからだ!」
飼い主は、謝るどころかレーナを責める。
「クウーン……」
ペッピーノが悲しそうに鳴いた。
「……ウウ、これで気がすんだ?」
痛みに痺れる体を無理やり起こして、飼い主に向かう。
「お前、正気か? 犬の身代わりに叩かれるなんて。呆れた野郎だ。しかし、処分は決まったことだ」
「私がペッピーノを引き取ります。それでいいでしょ」
「こんな番犬にもならないボケた犬を? 物好きなこった!」
バカにして吐き捨てるように言った。
レーナは、痛みを堪えてペッピーノの背中を優しくなでる。
「この子は優しくて番犬には向いていないかもしれないけど、ボケてはいません。賢い子です」
「クウーン」
ペッピーノがレーナの打たれた背中を盛んになめている。
「ほらね。ちゃんと分かっているでしょ。自分の怪我より、他者の怪我を治そうとする優しくて賢い子なの。ちゃんと育てれば名犬になれる。だから、殺さないで、私に譲ってください」
「そんなに言うなら、売ってやる。いくらで買う?」
とうとう、お金のことを言い出した。
「お金はありません」
「じゃあ、この話は無いな」
そこにセルジョがすっと現れた。
「ずっと見ていたが、いい加減にしろ」
「セルジョ!」
「ペッピーノの処分費だって掛かるはずだ。むしろ、その金を彼女に渡して引き取ってもらってもいいはずだ。それを弱みに付け込んで金を要求するなんて、恥ずかしくないのか?」
レーナには応援してくれるセルジョが男前に見えた。
ビシッと言われた飼い主は、さすがに恥ずかしくなったのか、「分かった。ただでやるよ」と言った。、
「あとで自分の犬だと難癖付けて騒ぐなよ。俺が近所中に経緯を触れ回るからな」
「ああ、うう……」
図星だったようで、飼い主が真っ赤な顔になる。
「じゃあ、ペッピーノは今日から私の犬ですね」
「好きにしろ」
飼い主は荷車からペッピーノを下ろすと、鎖の持ち手を「ホレ」と、レーナに投げてよこした。
「ペッピーノ! 良かったね!」
「ワンワン!」
レーナが大きな体を抱きしめると、ペッピーノは嬉しそうにレーナの顔をペロペロと嘗め回した。
「ふん。後悔するなよ。それと、セルジョ、お前も物好きだな」
飼い主は、空の荷車を引いて帰っていった。
レーナは、セルジョにお礼を言った。
「セルジョさん、本当にありがとうございました」
「いや、いいんだけど、大型犬はエサ代が掛かると思うよ」
「それなら大丈夫です。幸い、食べ物はたくさん手に入るので。でも、こんな朝早くに散歩していたんですか?」
セルジョは、少しうな垂れる。
「君の昨夜の怒りを見て、自分が恥ずかしくなったんだ。僕はペッピーノを見捨てようとした。気になって目が覚めて、様子を見に来て、君が自ら飼い主に打たれてまでペッピーノを庇っているのを見て心苦しくなった。それで気が付いた。僕がペッピーノを助けるべきだったってね。遅くなってごめん」
「セルジョさんは行動してくれた。それだけで十分です」
レーナの言葉に、セルジョの表情は少しだけ晴れやかになる。
「あんたが作るアクアパッツァ、本当に旨かったよ」
「また食べに来てください」
帰っていくセルジョを見送った。