序章・始まり
盗賊団と万屋の二つの顔を持つ、ジャスティス。それは、行き場の無くなった者たちの集まり―――。
霧に覆われたラキ大陸をジャスティス専用の飛空挺スウェフティで飛び回り、貴族、ごろつき、たとえ正体不明の奴であろうとかまわない、どんな奴からもどんな依頼も受けて忠実にこなす、完璧な万屋である。
だが、それは表の顔。裏の顔は盗賊団。盗んで盗んで盗みまくる正義の敵、悪者の味方。
ジャスティスの一員であるレイスは、行き場の無くなった者の一人である。
幼いころ、ジャスティスのボスであるセルリック・ワイズローズに拾われた孤児である。赤茶髪という変わった髪を持ち、金色の瞳、そして、男にあるまじき、女に酷似する美貌。美人。本人は男である。
拾われたとき、およそ六歳ほどだったレイスだが、その六歳以前の記憶は無く、名前も無かった。レイス、という名はセルリックがつけたものだ。
持っていたのは短剣と、地味なクリスタルのペンダント。
レイスはセルリックの元で育ち、剣術を鍛え上げ、いまや熟練した剣士である。不自由など無かったため、本人は一生をジャスティスで終えようと思っている。
レイスはスウェフティの、操縦室、実際は自動操縦なのだが、操縦室であるセントラルプレイスでセルリックに尋ねた。
「ボス、アルマーニ城までどのくらい?」
「もうちっとだな」
今回の依頼はラキ大陸を統治する国アルマーニの城に忍び込み、国宝の竜の涙を盗むこと。楽だが、内容的にはぶっ飛んでいる。つかまったら死刑もの。
依頼人は正体不明で、名前のみが明らかになっている。その唯一の情報である名はシューク。顔合わせは受け渡しのときに、とのことだった。名前だけでは女か男かはっきりしない。レイスは暇そうに欠伸をした。