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1-6「チート装備があるんならクソザコ初心者でもラスボス級とも戦えるとかマジで言ってます?」

「――ここか! ほほぅ、なるほどなるほどォ!?

 ほう、ほう! いいじゃねェか!! 完璧だ!!

 まさにここは『宝物庫』ってワケだ……! どれもこれもなっかなかのモンじゃねェーの!?

 あるとは思ってたが、見つけるのは半ば諦めていた……ここに来て見つかるたァ、運が向いてきやがったな!!」


「おじさん……そろそろ何やるか教えてくれよ?」


 【ヒロイン】を足止めしている間に、僕らはこの『宝物庫』に辿り着いた。

 僕がこの世界で最初に目覚めた場所である。

 僕からすれば来た道を戻った形だ。

 扉は固く閉ざされていたが、おじさんがブツブツとなにか呟くと、あっさりと開いてしまった。

 さっきのような呪文かなにかだろうか……?


「……今まで【ヒロイン】が殺してきたヤツらの所持していた【アーティファクト】……これはただ捨てるには勿体なさ過ぎる……

 どこかに保管していると考えていたのは間違いじゃなかったぜ……オレが知らない『有効活用できる処理』がある可能性もあったがな……

 ヘッ、だったらオレが片付けてやろうじゃあねェか、うん?

 これだけの材料があるんだ、【命剣(めいけん)】だって作れる――」


「あのー……?」


 僕が今着ている服や、持っている刀を見て、おじさんは「こういう」部屋があることを悟ったらしい。

 「そこに行けば反撃の手段を用意できるぜ!」――そう言うおじさんを僕はここに案内した。

 で、実際にこの宝物庫に辿り着いた途端、妙なテンションになってしまった。

 今はなんか夢中になって物品を見ながらブツブツ呟いてるし……


「【命剣】の材料にするよりも有効に活用手段は無いか……? いやケチって失敗するのが一番バカらしいな……あァ、だがどれか一つくらいは、いや2、3、4程……あァクソ、欲を出したらキリがねェ……だがなァ……これほど【アーティファクト】が大量に保管されているような場所他にねェ……ワクワクしちまうだろ……こうなりゃ一品一品本格的に確認を――」


「いやいやいや!! めいけん? あーてぃふぁくと? とかよくわからんけど!! 多分そんなに時間余裕無いだろ……っ!?」


「……おっと!」


 肩を揺さぶりながらそう叫ぶと、ようやく落ち着きを取り戻してくれた。


「いや~スマン! ちょいと予想以上に品揃えが充実してたもんでなァ~つい血が騒いじまった! ガハハ」


「しっかりしてくれっての! 【ヒロイン】の足止めも長くは持たないんだろ!? おじさんの指示に従ってわざわざ行き止まりのこっちに来たんだぜ……!?」


「焦んな焦んなってェ! リラックスリラックスゥ~」


「こ、この人はぁ~っ!」


「ダハハ! ……まぁ確かに余裕はねェ。作戦を伝えるぞ、いいか……」


 おじさんが勢いよく肩に手を置いて、僕と向かい合う。


「まずオレが、ここにあるモン全てを材料として、クソ強い武器を作る。

 で、ソレ使って、()()()()【ヒロイン】をぶっ殺す! いじょ!」


「……は? ……はぁーーー!?」


 何故そこで僕!?

 まだ異世界ビギナーの僕が、あのあからさまにおっかなさそうな【ヒロイン】とやり合う!?

 普通に「数々の異世界を旅した」おじさんがやった方が良くないか……!?


「……オレは今回戦闘用員にはなれねェんだわ。ホレ」


 抗議の声を上げる僕に、おじさんは左手の甲を僕に見せてきた。

 ……何だコレ? 天秤の模様のタトゥー?


「呪いの刻印だ。しかも超強力なヤツだ……以前にも【ヒロイン】とやり合った時があるんだが、その時にコイツを食らわされてなァ」


「の、呪いって、どんな!?」


「極端に疲れやすくなる感じだな……何も対策もなけりゃあ、ちょっと走ったら息が上がっちまう……

 今はとある手段でカバーしてるが、ソレに力を随分取られちまってる。

 この状態で【ヒロイン】と戦ったら即殺されちまうだろうな」


「ま、まじかぁ……」


「ということでオマエがやるしかねェーの。なァに、心配すんな! 今から作る武器は、強いのもあるが……オマエに向いてるヤツだ。

 それさえありゃあ、オマエには誰も勝てねェよ――まァ、見てろ!!」


 おじさんは部屋の中央にある品々をどかし、そこにドカリ、と座り込んだ。


「今オマエが持ってるその剣も使う! 服も脱いで欲しいくらいだが――」


「……勘弁してください」


「おう、まァそれはいいか! さァて、オマエは部屋の隅で待機だ! 大船に乗った気分で見学してろよ――【ヒロイン】すら楽勝でぶっ殺せる、最強武器の誕生をよォ!!」





 >>>





「――⦅イリカ・ソクイ・クイラ⦆!!」


 おじさんが叫ぶと、部屋にあった品々が瞬時にドロドロに溶け始め、粘り気のある液体に変わり果ててしまった。

 それらは、吸い込まれるようにして一点へと集う。

 ――おじさんの右手だ。地面に手の平を置かれたソレに、瞬く間に集まっていった。


「――ハッ!」


 おじさんが「たまらねェ」とでも言いたげな、恍惚とした表情で笑った。


「スゲェぜ……! 想像以上だ、こんなもん初めてだ……!!」


 右手が掲げられる。

 ――光輝いている。見る見るうちにその光は大きく、強くなっていく。

 光に呼応するように、風が吹き荒れ、地は揺らいでいる。


 直視できない程の光。

 強烈な風に吹き飛ばされてしまいそう。

 揺らぐ地鳴りは体の芯にまで響き、本能的な恐怖を思い起こさせた。


 ほんの数秒で、凄まじい様変わりっぷりだった。


 この場を特徴づけていた品々は消え失せ、神々しい光と、荒れ狂う風、猛る地が支配する。

 見ていろ、と言われたは良いがもう目を開けていられず、立ってもいられない。

 地面に必死にへばりついていなければならなかった。


「クソ、こんなことが出来るんならマジでアンタが【ヒロイン】と戦えよな……っ!?」


 【ヒロイン】の「呪い」とやらがかかってる状態でコレだ。素人目には「全然元気じゃん」、なんて思えてしまう。

 悪態が口をついたが、これ以上の文句を言えるような余裕は無かった。


「――いーや! 今から作るのは、こんな事よりもっとスゲェ剣さ! なァおい、ワックワクのドッキドキだろうが!? ダーーーッハッハッハァッ!!!」


 こんな状況でも僕の言葉が聞こえたのか、馬鹿笑いと共に返事をしてくるおじさんの声が聞こえてきた。

 ……あぁクソッ! もうどうにでもなれ!


「行ける……! 間違いなく行ける――非現実の極み、妄想の具現!! 【蜜技】の極致に、オレは今至る――!!」


 

「――――――⦅イーリ・ガラノ⦆――――――!!」


 

 ――爆発でも起こったのかと思った。

 凄まじい衝撃で僕の体は吹っ飛ばされ、背中を壁に思いっきりぶつけた。


 目をつぶっていても感じる強烈な光が、少しずつ少しずつ、和らいでいく。

 風も地揺れも収まっていて、周囲に気を配る余裕ができると――すぐに異変に気付いた。


 悪寒がする。

 理屈では説明できない。さっきまでこの場所に無かった、圧倒的な力。

 まるで人工的に神が創り出された瞬間に居合わせてしまったような、背徳感。


 瞼を開けた。

 ぼやけた視界が、部屋の中心にピントを合わせていくと、そこに――


「……ほれ、拍ちゃん。できたぜェ……」


 おじさんは体中を冷や汗だらけにして、それでも「やり切った」と言わんばかりに笑っていた。


「流石に呪いの影響化でここまでするのはキツかったぜ。……後はま、よろしく頼むわ」


 おじさんの手には、二振りの刀が握られていた。

 装飾の無い、黒一色の刀。その姿を見て思わず震える。

 あまりにもストイックなデザイン。

 ただ一つの役割を果たすことしか考えられていない、といった趣き。

 その確固たる在り様は恐怖ですらあった。

 不必要なモノを削ぎ落し、削ぎ落し――

 ただ「在る」というだけでいつか僕まで削ぎ落されてしまうような気がした。


「名付けて――【命剣・終幕(めいけん しゅうまく)】。

 …………さて、そろそろ時間切れみてェだぞ、拍ちゃん」


 そうおじさんが言うやいなや、ゴォン、という爆音が響いた。見ると、僕らが入ってきた扉がビリビリと震えていた。


「やっぱ力づくで開けられちまうかァ~……さっきロックかけておいたんだがなァ。マジで【ヒロイン】は規格外だぜ」


 またも爆音が響く。扉がミシリと嫌な音を立てる。

 ドン、ドン、ドンと凄まじい勢いで扉が攻撃されているのだ。


「……おじさん。僕、マジでアレとやり合わなきゃだめなのか?」


 思わず弱音が漏れた。あの扉は大きく、見た目頑丈そうなのに……外からの一撃ごとに、確実に壊されている。どう考えても尋常の相手ではない。


 あの【ヒロイン】の美しくも儚げな姿からは想像がつかないが、彼女はきっと、人の手には負えない化け物なのだ。

 「そういう」雰囲気をひしひしと感じる。


「心配いらね~よ。いいからその剣、持ってみなって」


 言われて僕は、おそるおそるその二振りの真っ黒い刀の柄を、両手に握りしめた。


「・・・・・・・・・・・・」


 怖いぐらいに手に馴染む。重過ぎず軽過ぎず、長過ぎず短過ぎず……

 先ほどここで拾った剣とは比べ物にならない。自分専用にあつらえたかのような握り心地。

 ……いや、そんなスペックの話はどうでもいい。

 この刀が定められた宿命のようなものを僕は感じる。共鳴し、共感する心。


 ――どくどく、どくどく、どくどく。


 心臓が力強く鼓動を打つ。

 僕はようやく僕になった。そんな不思議な言葉が頭に浮かぶ。


「力なんていらねェ。触れるだけでバッサリいける剣だ。

 どう使えば良いかは――わかるな?」


 「触れるだけでバッサリいける」――なるほど。

 ……確かに自分にピッタリだ。


「勝ちの目は、確かにある。そうだろ?

 可能性があるのに挑戦しないのは馬鹿だ。オマエも【黄金具現】により産まれた【勇者】なら、やってみせろよ。

 死線を超え――理想の世界を目指せ。

 一つ、アドバイスをしてやる。

 想像しろ――オマエが、その刀で! あの【ヒロイン】をぶった斬るその光景を!

 そしてソレを現実にすることだけ考えろ! それでいい!」


「――想像して……現実にする……?」


「そうだ。それが、元々のオレ達には無かった、新しいルールさ。

 もう理屈を教えてやる時間はねェ。ただ信じて、やってみせろ!

 オマエならできる。

 この『日本国王』サマが賭けるに値する男だ、名姫拍都ってヤツはな!」


 ……その「日本国王」って肩書、ほぼ無理矢理認めさせたようなモンなんだけど。


 ともかく。この【終幕】……という刀。

 持ってるだけで底知れない力を感じる。僕が少々不甲斐なくとも、問題無く立ちふさがる敵を倒してくれそうに思えた。


 (……倒す――殺す、か)


 ――やれるのか? 色々な意味で……


「……ま、やばい役目背負わせて、すまねェとは思ってるよ」


 おじさんが戸惑う僕を見て、少しだけ優しい口調で声をかけてきた。


「途方も無い願い――『理想の世界』が欲しいなんていうような願いは、本来並大抵の覚悟で手に入るモンじゃあねェんだ。

 道理を捻じ曲げる為に、色んな無茶をしなけりゃあなんねェ。それこそ、1,2回くらいはくたばるぐらいに。

 ……結局、生きるとは『戦う』ってことなんだろうな。それは、【勇者】になる前もなった後も変わらねェんだろ。


 だが違うのは、今のオマエには願いがある。

 あの衰退した世界じゃ、生きる意味を見つけるのも難しかっただろうが、今は違うだろ?

 『理想の世界』に、オマエは希望を見いだせたんだろ?


 戦えば、勝ち続ければソレは叶えられる。ハッキリとした目標があるんだ。

 人はな、()()()()()がありゃあ、案外戦えるんだよ。

 ビビる必要はねェ、オマエの理想の第一歩として、【ヒロイン】をかる~く捻ってやれ!」


 その言葉を聞き終わるとほぼ同時に、扉が崩れ落ちた。ついに【ヒロイン】が、頑強な宝物庫の扉を破ったのだ。



 ――視線が交差する。



 ――出会ったばかりとはいえ、彼女が恐ろしい強敵であることは十分に理解できた。

 普通なら、この刀――【命剣・終幕】と言ったか――があったところでまるで話にならないのだろう。


 普通なら、普通なら……そう。だからここは彼女を倒すより逃げる、いや逃げることだってどうせできやしないから諦めるしかない。



 諦めろ。諦めろ。諦めろ。



 そう自分に言い聞かせた。なのに――

 体に流れる血液が熱を持ち、僕を急かす。



 ……いる。そこにいる。僕の行く道を閉ざそうとする敵が、そこに――――!



 殺されるのか。勝てるはずもないから……だから諦めて戦うこともせずに殺されるのか。


 ……だけど、おじさんの言う通りだ。

 僕には願いが、理想の形が、【黄金具現】を見出す以前には無かったその希望の未来のイメージが――


「――あるじゃないか……!!」


 確かに、ついさっき体感した『死』は安らぎだった。

 だが結果として、僕はまだ生きている。

 そしてその生に、意味を持たせることも出来ているんだ。


 だったら、僕は自分の目指す未来を追い求め、戦い続けてやる。

 可能かどうかなんて、どうでもいいんだ。


 「心に火がついた」――とは、こういうことか。

 冷めようの無い熱が、理屈を押しのけた。


 その赤い瞳を見据え、僕は――



「――――――――――ッ!!」



 気合の(歓喜の)声を上げて、殺意を滾らせる獣と成った――!

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