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天国に堕ちた勇者ども  作者: 新崎レイカ(旧:れいかN)
第七章 シヌキデヤレ
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7-9 「わかりたがりは何処にだって湧いて出る」

「――あと、たった一歩だ。それだけで、全部終わるんだ、オマエラ! 状況は厳しい、それは認めざるを得ねェ! だがそれで諦められるような話じゃねェ! 【勇者】としての意地を見せてやろうじゃねェかァっ!!」


 拠点の大広間に式鐘おじさんの決意の叫びが響き渡る。

 それを受け止めるみんなの顔つきは、この場所の恐ろしさを何も実感していなかった最初の頃とも、【サブヒロイン】に襲撃され疲弊していた頃とも異なっていた。

 ……感情を無理矢理押し殺したような、決死の表情。

 あと、たった一歩。あとたった一度の戦いを生き抜けば終わるという事実があってこそ持ち続けられる、燃え尽きる前のろうそくのきらめきのような……今までで一番の激しい戦意があった。


 これまで何度も意識させられてきたことだけど、花子ちゃんが覚醒したことによる影響は凄まじかった。

 【ヒロイン】は彼女との戦いを避けるように、これまで頻繁に行ってきた僕らへの襲撃をしてこなくなり、その結果僕らが【天秤地獄】の最奥に向かう歩みは明らかに速くなった。


 あまりに次元違いな花子ちゃんへの畏怖。

 一旦は大人しくなったものの、あの【ヒロイン】が最後までこのままというのはいくらなんでも楽観が過ぎる、このままでは終わらないだろうという想像。

 その二つから来る緊張感もあれど、長く戦いが無いことから来る弛緩もどこか感じられた僕らであったが、最奥を間近にしたこのタイミングで、ついに【ヒロイン】は動き出し、最終決戦に向けての最初の一手を打ち込んできた。


 そして、その一手は僕らにあった緩みを吹き飛ばし、改めて覚悟を決めさせるには十分な程に、強烈なモノだったのだ。



 その結果、僕らの中心メンバーの一人であり、頼れる存在だった――キング隊の長、フォーデさんが離脱することになってしまった。

 話は1時間程前に遡る。




 >>>




 灯姉との、恐らくは最後の稽古を終えた僕は拠点の大広間に足を運んでいた。

 もう少ししたら、明日の最終決戦に向けての作戦会議が始めると聞いていたからだ。

 【勇者】の人数は大分少なくなったとはいえ、まだ90名程度は残っている。

 いよいよ明日が最後だろう、という特別感もあってか、それまで少なくなっていた各々同士の会話もあり、大広間はそれなりにざわついていた。


 しかし、そこにあからさまに人が寄り付いていない一角を見つける。

 ……花子ちゃんがポツリと、一人寂しげ? にただボー、と気の抜けたような顔をしながら、机に肘をつき天井を見上げていた。……明日がラストっぽいと言うのに、こっちの気が抜けてしまうくらいの緊張感の無さである。


 ……そういや彼女、ここに来る前からやることも話相手もいないタイミングだとあんな感じだったな。

 あんな風に、放心したみたいな様子になってしまうのだ。ああなるとしばらく復帰に時間がかかる。やることなすこといつも以上にゆったりペースになってしまうのである。

 ここで覚醒キメてからなんとなく「遠さ」を感じていたけど、あの様子を見るとそこまで気にすることでも無い気がしてきた。


「――どんだけ気ぃ抜いてんだよ、ウチのエースさん?」


 気づけば気兼ねなく声をかけていた。


「……んあー? ……ぅおっ」


「何その反応……」


「――あー、いやね。話しかけられるの久しぶり過ぎて咄嗟に反応できなかった」


 そうヘラヘラ笑う彼女らしいヌルい反応に、僕もつられてヘラヘラ笑ってしまう。


「みんなからヤベー扱いされてたもんな」


「おうよ。リリィぶっ殺してからほとんど誰にも話しかけらんねー」


「何か覚悟キマっちゃってる感あって話しかけづらかったんだよ」


「まーじでぇ?」


「僕もさっきの間抜け面見てようやく声かけられた感じ」


「うわ、間抜けって。ヒデー」


「明日、多分最終決戦なんだよ? おじさん、ほんと目と鼻の先だって言ってたじゃん。

 いわば今はまさに決戦前夜なワケよ。本来ここまで来たって感慨を噛みしめちゃったりするエモい場面なワケよ。なのにあの顔は無いって。『絶妙に微妙』顔のままじゃん。もうちょっとキリっとしようよ」


「『絶妙に微妙』顔ってなんだコラァ! っつーか顔はしょうがねぇだろ! アンタ達みたいにキャラクリし直してないんだし!」


「キャラクリて」


 うーむ。覚醒して尚話が軽い。本当に以前いた世界でのテンションと変わらない。

 軽いままであんなことができるのが彼女の恐ろしさなのかも知れないが。


「……つーか、本当に調子どうなのよ。明日もどうせ、花子ちゃんがメインでしょ。

 おじさんだって多分、ウチの最強キャラの花子ちゃん中心で作戦決めるでしょ。調子悪いじゃ済まされないぞ?」


「あー……最強? 最強扱いなのかアタシやっぱり」


 ……自覚無かったのか。

 んー、と彼女は少し唸ってから、ゆっくりと話し始める。


「んーとさ……さっきジュニさんと静瑠さんから土下座された」


「は?」


 何で土下座? という意味と、唐突に何の話? という意味が合わさった「は?」である。


「なんかさ~、『もうそういう事考える余裕無い』って言ってた。

 まぁ【サブヒロイン】かもって疑ってて、今もその疑いを実は捨てきれないのだけど、それでももう信じるしかないとかなんとか……」


 しかし、その僕のクエスチョンマークに答える気は無い……というよりどう答えたらいいかわからない、とばかりに、彼女の話は続いていく。


「もうアタシのこと、実際はどうあれ味方って仮定するしか無いって。

 もしアタシが【サブヒロイン】だったらもう自分達に勝ち目は無い。逆に味方だったとしても、ちゃんと協力し合わないと【ヒロイン】には勝てない気がする……とかまぁ、そういうことを。

 だから、自分達はもうなりふり構わず、恥知らずと言われようともアタシと協力関係を改めて結びたいと。

 自分達に出来ることは何でもするー、もし自分達の過去の行いが気に食わないのなら殺してくれても構わない、その時は他の【勇者】とは協力して欲しいとか何とか、もう必死の形相でDOGEZAをだね……」


「お、おおう……」


 話の内容からしてもうちょっと深いリアクションをしたかったが、うめき声のようなものしか上げられなかった。


「あれはヤバい画だったよ。ガングロギャルメイドとやたら肉付き良いロリっ娘バニーに土下座させてんの。なんかのプレイかなって。もう謝られるこっちがビビっちゃって、アタシ『いいっす、大丈夫っす、別に気にしてないんでホント……』って。顔面汗びっちゃびちゃにしながらさ。

 まぁそれで、仲直り? みたいな感じになったんだけど……なんか色々ピンと来なくてさぁ」


「ピンと来ない?」


「自分がそこまでヤバいと思われてるとか。

 協力し合わないと【ヒロイン】に勝てないとか。

 あの二人が何で自分の事を恥知らずだと思ってるのか。

 何でもすると言われたって何要求すれば良いかわからんとか。


 正直何言ってるかわからん……いやどうやら自分はここじゃあそこそこ強いっぽくて。

 それでも【ヒロイン】には勝てないと思われてて。

 敵だと決めつけてた癖に追い詰められたら助けを求めることを恥だと感じてて。

 要求するのはエロいことで良いんだろうな。


 みたいな感じでわかるっちゃわかるんだけどなんかわかってない気がする……」


「聞いてるこっちがとっちらかってきた……」


「――花子よ。


 貴様は自分が強いと思ってはいない。

 しかし【ヒロイン】に負ける気も一切しない。

 あの二人の行いが恥だとは全く感じない。

 何でも要求できるような資格が自分にあると思えない。


 だが自分の考えに自信を持てず、自分と異なる考えを持つ静瑠嬢とジュニ嬢が間違っていると考えられていない。

 でもでもしかしじゃあ自分の認識が全て間違っているというのもズレている気がする、ってことはもうはっきりしてることが何もないしどうしようもないし放心でもしておくか~~~!! となってしまったのが今の貴様なのだ。違うか?」


「あーそれそれそんな感じぃ~~~、っていつからそこに!?」


「――え? ってうわっ!? フォーデさん!?」


 いつの間にか――なんでこんな人の気配をあっさり見逃したのかもよくわからないが――気づいたらフォーデさんが僕ら二人の真後ろに立っていた。

 だいぶ慣れてきたとは言え、いきなりこの人の非人間的なビジュアルと向かい合ったら流石にちょっと驚きもする。

 まぁ例えばマジさんでした、って方が正直キツいけど。その場合、心臓が止まるかも知れない。


「いやすまんな花子よ。あの『リリィ』とかいう【サブヒロイン】との戦い以降、我なんとなく『集中したいから余計なこと話しかけてこないで欲しい』とか貴様思っちゃってるのカナ~~~と勘違いしていた。

 まぁぶっちゃけ我も貴様にビビっていて、自分の都合の良いように解釈していたのかも知れんが。

 だがいい加減見ておれん、ということで乱入させて貰ったぞ」


 ・・・・・・・・・・・・ビビってたんだ、フォーデさん。

 そんな風に全く見えないんだけど。そこがこの人のスゴい所なのかも知れない。

「むしろアタシがフォーデさんの見た目にビビってたんですけど」と苦笑い気味にエヘラエヘラとしながら、花子ちゃんは先ほどの言葉を肯定した。


「でもさっき言われたこと、当たってる気がするかもデス」


「む? 当たっていたのか? 我テキトーに言っただけであったのだが」


「アンタ何しに来たんだ……っ!」


「だって我フォーデであって花子じゃないし。所詮他人の気持ちなど推測以上のことはできないのではないか?」


「そうかもだけど……っ!」



 どんどん話を収拾つかなくしようとするのはやめてくれ。

 思わず天を仰いでしまった。

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