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天国に堕ちた勇者ども  作者: 新崎レイカ(旧:れいかN)
第七章 シヌキデヤレ
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7-6 《【魔王】は直感で動く》

「さて、【魔王】様の状態も確認できたことだし。

 もう帰って大丈夫だよきみ。当日はよろしく――」


「……待て。いくつか、問いたいことがある」


 話を切り上げようとする【ヒロイン】を、無意識に引き止めていた。


「ふぅん? ちょっと意外だね」


 少し驚いたように眉を上げる彼女。

 確かに、意外かもしれない。

 なんせ、自分でも何故こんなことを言い出したのか妙に思っているぐらいだから。


「――よろしい、何が聞きたい?」


 少し、焦る。

 ほとんど勘、ちょっとしたひっかかりで、考えをまとめきる前に口を開いてしまったことを後悔してしまう。

 しかし、彼女とは別に親しい友人というわけでも無し、「やっぱり何もありません」と言うのは流石に気まずい。

 とりあえず、それらしい質問をでっちあげてみた。


「・・・・・・・・・・・・その。

 何故、彼らだったんだ?」


「ふむ?」


「今回引きずり込まれた者達……【黄金具現】によって【勇者】となった彼ら。

 他の誰でもなく、彼らでなくてはならなかった……その理由はあるのか?」


「……うーん。

 引きずり込んでくる人間を選んでいるのはわたしじゃなく、あくまで【天秤】だからね。

 正確な事はわからないな。推測ならできるけど……」


「……それでいい」


 この質問は、本当は【ヒロイン】に何を問いたいのか――その考えをまとめる時間稼ぎ、繋ぎだ。

 予想だろうが想像だろうが妄想だろうがなんでもいい。

 ……自分の雑さ加減に嫌気が差してきそうだ。死ぬような目に遭っても、性分は変わらないらしい。

 了承した自分に、【ヒロイン】は軽く頷いた後、自身の推測を語る。


「【天秤地獄】が異世界から人を引きずり込む理由は大きく分けて3つ。


 【ヒロイン】【サブヒロイン】【魔王】といった、自身の助けとなる人員を手に入れる為。

 【天秤】の機能を使う為の【蜜】を確保する為。

 そして、世界のバランスを崩す程の【蜜技】の使い手の排除の為」


 1つ目は、条件に適合する者が対象で、【ヒロイン】、【サブヒロイン】、【魔王】……それぞれの役割を十全にこなせるであろう人間が選ばれるらしい。

 2つ目は、ほぼ無差別。引きずり込んだ人間を殺害することによって【蜜】を手に入れようとする【天秤地獄】にとって、この用途であればどんな人間だろうと【蜜】さえ補充できればいいのだから。

 3つ目は、【天秤地獄】という世界が創られた理由そのものと言える。

 これを達成する為に、先に挙げた二つの理由で人々を引きずり込んでいるのだから。


「で、今回の【黄金具現】がきっかけで産まれた【勇者】どもの場合だけど。

 1つ目はもちろん違うし、2つ目だと考えるには作為性があり過ぎるように思える。

 となると3つ目かなぁ、とわたしは考えてるね」


「……彼らが世界のバランスとやらを崩す存在だと?」


「可能性はあるんじゃないかなぁ。

 『自分に都合が良い』という条件付きとはいえ、一つの世界で主役を張れるぐらいの能力を持たされているんだし」


 正直なところ、【勇者】達は一緒にいて強い力を持っている、とは感じているが「世界のバランス」とやらに影響を与えるほどのものか、と言われると肯定しづらい。

 将来的に()()なる可能性がある、という事か?


「そもそも、『世界のバランスを崩す【蜜技】』とは、例えばどういうものなんだ?」


「あれ、【魔王】にはその知識は与えられてないのかい?」


「……知る必要がない、と思われているのかもな」


「殺戮者としてあれば良い、って?

 きみも災難だねぇ……と、それはともかく。

 ちょっと長くなりそうだけど、なんとか短くまとめてあげよう」


 まず、と【ヒロイン】が最初に話したのは、今や数多に存在する「異世界」には種類がある、ということだった。

 【黄金具現】や、過去にあったその類似――「世界を創る【蜜技】」によって創り出された世界と、逆に誰の思惑も関与せず、偶然、自然に発生した世界。


「――前者を仮に《創異世界》、後者を《実異世界》としよう。

 今更確認するまでも無いが、【蜜】とはありとあらゆるモノが保有するエネルギーだ。

 世界そのものですら、その内に【蜜】を持っている――」


 【蜜技】とは自分の内にある【蜜】を使って引き起こす技である、ということは自分も知っている。

 だが、【ヒロイン】はここで、【蜜】に関してもう一歩踏み込んだ事実を口にした。


「【蜜】っていうのは、【蜜技】に使われるエネルギーである以前に、『ソレが存在する為』に必要なモノでもあるんだ」


「存在する為……?」


「うん。その『モノ』が持っている【蜜】を、何らかの方法でゼロにしちゃうと、存在を保てなくなって消えていってしまうんだよ。想像しづらいかもだけど。

 ……拍都の持つ【終幕】は、きっとその仕組みを利用しているんだと思う。

 斬った部分にある【蜜】を消し去ることで物体を両断しているのだろう。


 ……話が逸れたね。ええと……さっきも言ったように世界には二つの種類がある。

 《実異世界》の方は何も問題無い。その世界が誕生した時に、必要な【蜜】も同じく自然発生する」


「《創異世界》の方は違う、と?」


「その通り。《創異世界》は、それが創る為、存在し続ける為の【蜜】を用意しなければならない。

 で、その【蜜】はどこから確保するかというと……既にある他の世界から無理矢理奪い取っているのさ」


 ……奪い取っている、とは穏やかじゃない。

 存在する為に必要な【蜜】を持っていかれた方の世界はどうなるのだろうか。


「ちょっと削られたぐらいで存在を保てないってなっちゃあ、不安過ぎるからね。

 世界はそれぞれ、必要分に加えて余分に【蜜】を保有しているし、減った時は時間をかかるものの回復していく機能まである」


「なら問題無いのでは……?」


「回復が間に合うのならね。

 実際のところ、回復を遥かに上回るペースで【蜜】が消費……《創異世界》が産み出されているからね。持っている【蜜】を根こそぎ奪われて消滅してしまった《実異世界》は一つや二つじゃないよ。

 特に最近はそのペースが凄まじい。

 美核 式鐘が編み出した【黄金具現】が原因だろうな。過去にも世界を創る【蜜技】はあったけど、あそこまで簡単に、準備さえすれば誰にでも使えてしまうようなモノは無かった……」


「なるほど、話が読めてきた……

 世界のバランスを崩す【蜜技】とは、つまりは世界の持つ【蜜】を奪って発動するような、図抜けて大規模な……それこそ世界を一つ創り出すような【蜜技】のことか」


 「当たり」とこちらをびしっ、と指さす【ヒロイン】。

 ……まるで教師のようだ。意外と質問に答えることに乗り気なのだろうか?


「『世界を創る【蜜技】』は一例だね。こういう無茶苦茶やる【蜜技】は、使う人間が持つ【蜜】だけじゃ足りないから、大抵他の世界か強引に【蜜】を引っ張って発動する仕組みになっている。調べてみたら、【黄金具現】も例に漏れずこのパターンだったよ。

 ……そうだなぁ。もしかしたら今回は警告の意味もあったのかもね」


「警告?」


「今回、【黄金具現】によって産まれた【勇者】を大量に引きずりこみ、殺そうとしているのは、『【黄金具現】を使った者はこうなるぞ』って、【天秤】がどこかに主張したかったから、とか。

 まぁ、これこそただの想像なんだけど」


「・・・・・・・・・・・・」


 これも【ヒロイン】のソレと同じく、ただの個人的な想像だが。

 警告、というより代償を支払わせようとしているような、そんな気配を感じる。

 理想の自分で、理想の世界で生きる為の技。

 いくら魔法のような現象を引き起こせる【蜜技】であるとしても――



 【黄金具現】は、あまりにも決定的に、致命的に……摂理を捻じ曲げている。

 それはきっと、地獄に堕とされても不思議ではない程に。

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