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天国に堕ちた勇者ども  作者: 新崎レイカ(旧:れいかN)
第六章 オマエノセイ
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6-5 「推理モノの犯人当てはもっぱら勘でやるタイプです……一見怪しくなさそうなの逆に怪しいから犯人はお前じゃね!?」

「――おい、適当な事言ってんじゃねぇ! そんな簡単な話じゃねぇだろうが!」


「な、なんだよ……! そんな弱音漏らしたって何も変わんねぇだろ!」


 拠点の大広間に大声が響き渡った。

 ……また言い争いか。最近多くなってきた気がする。


 きっと理由という理由も無いのだろう。

 【サブヒロイン】によって、この【天秤地獄】攻略隊は相当な苦戦を強いられている。

 最初はこれだけの数の【勇者】がいれば楽勝……なんて雰囲気があった。

 しかし今は負傷者も死者も増え、はっきりと目に見える形で厳しい状況に追い込まれているのをみんな実感させられているだろう。


 言い争いが激しくなってくるが、僕は何をする気もない。

 何故なら、もし僕が間に入ったとしてもどうにもならないだろうから。


 【サブヒロイン】が現れてから、僕に対する目が変わってきたように思える。

 それ以前は、彼らは気さくに接してくれて、僕の方が勝手に気後れしているような具合だった。

 だが、【サブヒロイン】を躊躇もなく殺していく僕を見て、不気味に思われているらしい。

 あからさまに顔や口に出されはしないが、用も無いのに声をかけられる……なんてことは無くなった。


 隊長格やおじさん、花子ちゃんぐらいなものだ、普通に絡んでくれるのは。


 ……流石に、ヴェネさんからは距離を取られてしまってるけど。

 なんせ、僕は【サブヒロイン】だったとはいえ彼の妹であり恋人でもあったアリスさんを手にかけている。


 間違ったことをした、とは思わない。

 ヴェネさんの方も、必要な時は話をしてくれる。きっと彼も、仕方のないことだったと理屈では考えられているのだろう。


 でも、割り切ることはどうしてもできないのだと思う。

 それは無理もない、と思うし、このことについて僕から何かを話してもどうにもならないだろう。

 出来る限り、そっとしておくつもりだ。今までも、これからも。




 怒鳴り合う声をBGMに、マジさん特製の虹色のハーブティーを飲みながら、考える。

 言い争いの方は、テキトーなところでおじさんかフォーデさんが止めに来るだろうからほっとくとして――


(【魔王】……いったい誰なんだ?)


 ――【ヒロイン】が言っていた事が気にかかる。

 確か彼女は、僕がここに加わる前から【魔王】は紛れ込んでいた、と話していた。


 ってことは、花子ちゃんだけは除外か。


「せいぜい『あいつか? いやこいつか? それともそいつかぁ!?』と疑心暗鬼になりまくりたまえ!」


 またも【ヒロイン】の言葉を思い出す。本当に面倒臭い手を打ってくるもんだ。

 手がかりなんて何もないが、どうしても考えてしまうのを止められない。


 やっぱり、重要ポジションにいる人だろうか。強いらしいし。

 例えば、隊長格の誰かが【魔王】で、いきなり寝返られたら――


(……最悪だろうな)


 ヴェネさん、フォーデさん、マジさん、静瑠さん、ジュニ。

 そして考えたくはないが灯姉も候補に入るか。

 うーん、見た目だけならフォーデさんは【魔王】って感じだけど。

 ……マジさんとかだったら……別の意味で強敵そうだなぁ。


 本当に最悪なのは式鐘おじさんが【魔王】ってパターンかな。

 もしそうだったらどうしようもない。

 【黄金具現】を創り出す程の【蜜技】の使い手であるおじさんが敵だとしたら、「【天秤】で全部どうにかする」という目的だって果たされないかも――


(――って、ナチュラルに身内疑うの、我ながらヤバイなぁ……)


 【サブヒロイン】は新入りの人を警戒するだけで良かったけど、【魔王】はそうもいかない、というのを今実感した。

 昔からの知り合いであるおじさんや灯姉さえも或いは、なんて考えてしまうのだから。


 ……信じたいとは思う。だけど、そこまで楽観的にもなれないのだ。


 参ったな。僕も結構キテるのだろうか……





 >>>





 雰囲気の悪化につれて、妙な所でも人間関係の変遷があった。


「う、お……わぁぁぁっっっ!?」


 日課である灯姉との特訓の最中。

 拠点内に女性の悲鳴が響き渡った。


「……花ちゃん?」


 灯姉が悲鳴の主の名を口に出すと、それに答えるようにどたどたどたと部屋の外を走る物音がして――


「は、拍都クン、灯さぁ~ん~~~!!」


「うわっ! 花子ちゃんどうした!?」


 扉をばーん、と開け放った花子ちゃんが、部屋の中に転がり込んできた。


「こ、殺されるっ! ガングロギャルメイドと巨乳ロリバニーにヤられちまう! 性的じゃない方の意味で! シリアスな意味でぇ!!」


「毎度のことだけど落ち着けぇ!」


「あの目はガチだぜ!? リアルガチで藪からスティックに死亡フラグがおっ立ちやがったぁ!! うわぁぁぁ~ん、アタシが何したって言うんだよ~う!」


「……ホントにシリアス? とてもそうとは思えない言動なんだけど……」


 ガングロギャルメイドと巨乳ロリバニーって、もしかしなくても静瑠さんとジュニだよな?

 その二人に殺される……?

 彼女らは花子ちゃんの【蜜】の扱いを教える役目を引き受けていたはず。

 練習が死ぬ程厳しい、とか……?


「……やっぱり、ここにいたっすね?」


「ヒィッ!?」


 気が付くと、ジュニがやってきていた。

 花子ちゃんを追ってきたのだろう。すぐ後ろには静瑠さんもいる。


「ジュニ、静瑠さん・・・・・・・・・・・・何かあった?」


「・・・・・・・・・・・・」


 ジュニの表情を見た途端、ちょっとゾッとしてしまった。

 彼女は楽しい時はニコニコして、悲しい時ははっきりと泣き出しそうな顔をする。

 表情がいつもはっきりして裏表なく、それに癒されることもあった。


 だけど、今の彼女の表情からは、完全に感情が消え失せていた。

 冷え切った顔つきで、花子ちゃんをじっと見つめている。


「拍都せんぱい……そこの女を引き渡してもらえないっすか?」


「ちょ、ちょっとジュニ、マジでどうした!?」


「そいつは敵の可能性があるだし――拍都様、灯様。悪いだしが、彼女は消させてもらうだし……」


「えぇ……静瑠さんまで?」


 彼女ら二人は、それぞれの武器を構えながらこちらににじり寄ってくる。

 完全に戦闘中の雰囲気だ。


「……どういうことだ、二人とも。

 花ちゃんに敵の可能性だと? 説明しろ」


 立ちはだかるように灯姉が前に出る。


「【サブヒロイン】――あいつらはみな、新入りだったっす。

 ジュニ達が出発して、しばらく経って後から入ってきた新入り達。

 その条件なら、その女だって当てはまってるっす」


「拍都様、灯様、式鐘様――ここの主力3人の旧知で、気心が知れた仲。

 そんな人が都合良くここに堕とされること自体不自然で、しかも【勇者】の肉体も持っていないイレギュラー。

 ……【サブヒロイン】の可能性は十分にあるだし」


「お、おいおい……」


 ほとんどこじつけみたいな理由に唖然とした。


「……花ちゃんはここに来てから今までずっと、何もしていないだろう。

 今までの【サブヒロイン】は来てから1、2週間かそこらで行動を起こしていた」


「……だからこそ、っすよ。

 他の【サブヒロイン】とは違うパターンで油断させておいて、ここぞという場面で動き出されたら大事っす」


「これまで【サブヒロイン】の相手をしてくださっていた拍都様も、その女が相手となると動きも鈍りそうだし。

 それに、花子様を疑っているのはわたくし達だけじゃないだし。

 他の皆様も、経緯が違う花子様を不気味に思っている……

 その状況は、戦いにも影響が及びかねないだし。ならばいっそ、出来るだけ早く――」


 灯姉の反論をにべも無く跳ねつけながら、尚も花子ちゃんを追い詰めるようににじり寄る二人。

 しかし、その時――


「――おいおいオマエら、何やってる!?」


 ――式鐘おじさんが駆けつけていた。

 どうやら悲鳴を聞きつけて、急いで駆けてきたらしい。





 >>>





 二人はおじさんに連れていかれた。


「この二人はオレが説得しとく。任せてくれや」


 そう言い残して行ったおじさんを信じるしかない。


「二人とも、マジでどうしちまったんだ?」


「し、しぬ――死ぬかと思ったぁ……」


 僕は困惑で立ち尽くし、花子ちゃんは脱力してへたり込んでいた。


「……二人とも、ストレスが溜まっているんだろう」


 灯姉が語るに、二人も他のみんなと例外無く、【サブヒロイン】の被害に心を痛めているらしい。

 しかし、副隊長という立場から、自分を律しようとし過ぎている。

 みんなと同じように不安なのに――


「この状況で、隊長格という中心人物の一人であることに疲れているんだろう。

 ……あまり責めてやらないでやってくれ」


 二人とも無理してテンションを上げよう、とはしていなかったけど、定期的にみんなと話したりしてたのを何度か見た事がある。

 みんなから避けられていた僕とも普通に会話してくれていたし……彼女らも、あんまり不安を表に出さないように頑張っていたのだろうか。


「……なんか、ホントやっばい事になっちゃったね」


 花子ちゃんがボソリと呟いた。

 ぼんやりとした内容だったが、言いたいことはわかる。


「アタシ達、さぁ……ここから生きて出れるのかなぁ……」



 その溜息交じりの言葉に、何も答えられない。

 しかも、花子ちゃんの受難はこれだけでは無かった――

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