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天国に堕ちた勇者ども  作者: 新崎レイカ(旧:れいかN)
第五章 シカタガナイ
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5-6 「野郎はあっさり死んで、美少女はなんとなく生き残るのがお約束」

「やられた――本命は天使型はじゃなかったのかよォ……っ!!」


 式鐘おじさんが悔しげに歯ぎしりする。

 彼は【サブヒロイン】に向かって走り出していた。


「こ、これ本当にどうするの……?」


「・・・・・・・・・・・・とりあえず、花子ちゃんはおじさんの傍にいれば良いと思う……一人でいたら死ぬぞ」


「――っ、う、え……」


 花子ちゃんは今にも気を失いそうな、真っ青な顔色になっていた。

 ……当然だ。彼女は戦いの場にはいれど、実際に自分で戦っていたわけではない。

 後方でみんなが戦うのを見ていただけ。みんなが余裕で【ヒロイン】達を追い払っている、ヌルい修羅場を外野から眺めていたようなものだ。

 理屈では理解していても、「ここが殺し合いの場である」実感なんてものは持ち得なかったに違いない。

 それを思えば、本当に倒れていないだけ頑張っている方だと言える。


 だけど、頑張っただけ、努力しただけではどうにもならないのがこの場所なのだ。

 花子ちゃんは先に走っていったおじさんの後をふらつきながらも追う。

 僕はそんな彼女を護衛しながら並走していく。


 ……ここまで血の匂いがする。

 僕ら【勇者】が仲間として集まり、【天秤地獄】を進むようになってから、初めて嗅ぐ匂い。


 ――だけど、どこか納得している。

 今までの負傷者ゼロっていうのがそもそもおかしかったんだ。


 これは本来「そーいう」話で。

 むしろ、ようやく「それっぽく」なったのだ。


 人を異なる世界から引きずり込み、殺す場。

 【天秤地獄】が【勇者】に牙をむき始めた。



「アリス――貴様!!」


 アリスさんが敵だった、という衝撃から最初に立ち直ったのはフォーデさんだった。

 自身の武器である杖が、彼自身の気勢に呼応するように紫炎に包まれる。


「貫いてくれる――っ!!」


 突撃の勢いをそのまま乗せた、杖での突きが【サブヒロイン】に迫る――


「ウうゥぅゥああアッ!!」


 フォーデさんの攻撃を彼女は咄嗟にその巨大過ぎる腕で受けるが、その防御ごと吹き飛ばされ、怪物らしい咆哮を上げながら地面を転がった。


「ヴェネぇっ! しっかりしろ……! キング、ジャック両隊! 何を呆けてる!」


「だ、だけどよフォーデさん……」


「――ヤツは敵だったのだ! つい先ほどまで我らと和やかに談笑しておきながら、その胸の内ではほくそ笑んでいたんだろう!」


「あ、あり得ないよっ! 全部――演技だったって言うの!? 私達に笑いかけてくれたのも、ヴェネ隊長のことが好きだって言ってたのも――」


「我も信じられない! だが事実としてヤツは今、我らの敵として立っているんだぞ……っ! 無理矢理にでも切り替えろ! ヤツを……倒せぇっ!!」


「う、う、うぅ……っ!」


 フォーデさんが喝を入れようと声を張り上げるが……一緒にいた期間こそ短いものの、共に過ごし、中心人物の一人とまで見られていた彼女の豹変にショックを隠し切れない【勇者】達。

 武器こそ構えてはいるが、なかなか動こうとしない――


「――やらなきゃ、やられるだし……っ!」


 硬直しかけた状況に銃声が響き渡る。

 静瑠さんの持つ拳銃が火を噴いていた。

 フォーデさんの一撃が効いているのか、【サブヒロイン】は地面にうずくまったままだったが、何とか地面を転がるようにして避ける。


「フォーデ様、わたくしがコイツを抑えておくだし! ヴェネ様の傷を見て欲しいだし!」


「――深いが――呼吸はある! 我が癒すまで持ちこたえろ! 他の者もさっさと加勢しろ、静瑠嬢に一人で戦わせる気か!?」


 フォーデさんがそう叫ぶと、ショックから立ち直った数人が動き始めた――が、一手遅かった。


 【サブヒロイン】はビクン、と体を震わせたかと思うと、さっきまでうずくまっていたのが嘘かのように――


「っ!? はや――」


 獲物を狩り取る肉食獣の如く、爆発的なスピードで静瑠さんに迫り、その爪を降り下ろし――!


「――がァっっッ!!」


「――えっ……?」


 怪物の腕は、静瑠さんのすぐ真横の地面に叩きつけられていた。

 静瑠さんが躱したのではない。怪物自身が逸らしたのだ。


「あ、アリス、様?」


「あ、ア、あ~……し、シずる、さン……」


 最早意味のある言葉を話せない、純粋な怪物になってしまったように見えていたが――

 その赤い瞳の奥に、僅かな理性が見えた。

 膝をつき、腕をもう片方の手で必死に抑え込みながら、声を絞り出す。


「タ、たすケ……たー……スケ、て……っ!」


「・・・・・・・・・・・・まさか、操られている、とか――――――っ!?」


 その助けを呼ぶ声に、動揺していた【勇者】達がスイッチを切り替えられたかのように機敏に動き出した。


「――――――あぁ、ちっくしょうが! 助けを呼ばれちゃあ黙ってるワケにゃあいかねぇな!!」


 救いを求められる、という状況に思うところでもあるのか――

 みんなの顔つきには一筋の希望が差し込んでいるように見えた。

 その様子を見ていたおじさんは、即座に指示を出す。


「正気に戻す、呪いを解く――その手の【蜜技】が使えるヤツ! アリスにありったけくれてやれ!

 それ以外のヤツは【輝使】共の足止めをしろ! 目についたヤツを片っ端からぶちのめせェッ!」



 ――戦況は混沌とし始めた。

 隊列も隊毎の役割も関係無く、【勇者】達が猛烈な勢いで行動していく。


 おじさんに指定された【蜜技】が使える者は【サブヒロイン】の周囲に集合し、ブツブツと詠唱しはじめる。

 それ以外の者は四方八方大暴れしながら【輝使】をめちゃくちゃに蹴散らしていく。


「盛り上がってきたぁ……っ! 良い動き、良い表情、良い心情だ――! 役者を増やしてあげよう、さぁ踊れぇっ!!」


 陶酔しきった顔つきの【ヒロイン】が指揮棒のように腕を振ると、さらに大量の【輝使】達が現れる。

 歩兵型と天使型の混成部隊だ。ハイエナのように僕らに殺到してくる――


「拍ちゃん、オレも解呪の【蜜技】を準備する――花子ちゃんとオレを護衛しろ!」


「うあ、あああ……や、やばいってやばいって拍都クン! もう視界全部敵敵敵ぃぃぃ!」


「わかった! 花子ちゃんは落ち着け無理にでも!」


「いぃぃぃやあぁぁぁ・・・・・・・・・・・・ぁぅ」



 花子ちゃんがついにオちた。だけど流石に責める気にもなれない。

 これはもう完全に極まった修羅場だった。それも、この【天秤地獄】に堕ちてから一番の――!

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