表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天国に堕ちた勇者ども  作者: 新崎レイカ(旧:れいかN)
第五章 シカタガナイ
42/78

5-5 「いつだって見開いておけ、デッドエンドのフラグはいつだって身近にあり——」

「飛行できるタイプか!?」


 式鐘おじさんが唸る。

 これまで通りの灰色の【輝使】達もいつの間にやら集結し、僕らの軍勢と向かい合っていた。


「チッ! 

 ――灰色のヤツを『歩兵型』、白いのを『天使型』と呼ぶことにする! 

 ジャック隊は優先して天使型を撃ち落とせ! 他はいつも通り!

 戦闘開始だ、やっちまえ!」


「おっ、判断早いねぇ! 受けて立ってあげようか――全軍、突撃せよ! ……あっは、一回言ってみたかったんだよコレ!」


 自らが仕える者の声に反応し、【輝使】達が一斉にこちらに殺到してくる。

 「天使型」と呼ばれた白い【輝使】は、すさまじい速度で急降下。

 その狙いは――


「あいつら、ジャック隊に向かってる!」


 飛べる、というその利点を生かし、クイーン、キング隊では無く、その後方のジャック隊を直接狙う作戦のようだ。


「全て撃ち落とそう! ボクに続いて!」


「おう!」


 ヴェネさんの号令を合図に、ジャック隊の一斉放火が頭上に迫る天使型を襲う。

 それを受けたいくらかの天使型は、あっさりとその体を砕け散らせ、粉々にされていく。


 しかし――


「っ!? どうした、弾幕が薄いぞ貴様達!? キング隊各位、ジャック隊を援護せよ!!」


 いち早く異変に気付いたのはフォーデさんだ。

 隊に号令をかけ、自身も紫色の巨大な炎を放ち、ジャック隊の一斉放火に加わる。

 だが、それでも足りない。対空砲火を抜けた天使型が、隊列に突き刺さっていく――


「ぐあっ!!」


「ちぃ……っ! やられたか! キング隊、負傷したジャック隊員の回復に向かえ!」


 苦痛の声を聞いたフォーデさんが手早く指示を出していく。

 敵陣のど真ん中に到達した天使型が暴れ出すが、ジャック隊も接近戦がまったくできないというわけではない。

 キング隊の援護もあり、ジャック隊は少しずつ自陣深くに入り込んだ天使型を撃破していく。


 だが、ジャック隊よりさらに後方で戦闘を見ていたエース隊の僕らには、状況の悪化具合が良く見えていた――


「・・・・・・・・・・・・ヴェネ? アリス? おい、どうしたってんだ!? 誰でもいい、あいつら二人がどうなってるか報告しろ!」


 ――そう。

 ジャック隊の一斉放火の密度は、いつもより確実に低かった。

 ヴェネさん、アリスさん――このジャック隊の主力と言える兄妹の、輝く弓矢での攻撃が欠けていたからだ。


「ちょ、ちょっとこれヤヴァくない……?」


 引き攣った笑みを浮かべながら、花子ちゃんが呟いている。

 【ヒロイン】の宣言通り――【天秤地獄】の本意気が明らかになったのをひしひしと感じる。

 一際目立つあの兄妹の攻撃を見逃すなんてありえない。

 「何か」が、起こった――



「あ、あ、あ……!

 アリス、だぁーーーっ!! アリスが、アリスが……ヴェネ隊長を――――――ギャアアアアッッッ――――――!!」



 声が上がる。【勇者】ですら耐えられぬ程の激痛に悶えた……断末魔の悲鳴が。


「……っ!?」




 ――その響きだけでわかった……

 負傷者すらいなかった、僕ら【天秤地獄】攻略隊から――初めての死者が出たのだ。




「アリス、だって……!?」


 声がかすれていた。

 さっきの言葉、まるで、まるで……アリスさんが、ヴェネさんを……傷つけた、みたいな――!


 【勇者】のみんなが散開する。

 何かから距離を取るように、後方に飛んでいく。

 すると、人の体で埋もれていた視界が少しずつ開けていき……彼らが間合いを離したその対象――「敵」が僕らから見えるようになった。




 まず目に入ったのは、血まみれで倒れ伏した男。

 鎧と翼を血に染め、地面に伏せているのは……ヴェネさんだった。

 その少し遠くに、また一人。

 ジャック隊の一員であり、例に漏れず【勇者】としての強靭な肉体を持ったその男の体は、無残に引きちぎられていた。

 胴が完全に裂けていて、中身が――


「う、……っぐ――!」


 吐いてしまうのを懸命にこらえながら、視線を上げると――やはり、そこに「敵」がいた。




 それは、【ヒロイン】と同じ目をしていた。

 黒い白目に真っ赤な瞳。燃やし尽くされそうな赤がそこにあった。


 両腕は異常な程に肥大化している。肌は真っ黒に変色し、その怪物性を明白に表現していた。

 爪は長く、見るからに凶悪なフォルムだ。血がベッタリとついている。きっとアレで、僕らの仲間に決定的な傷をつけたのだろう。


 変わり果てたソイツの顔には、確かに――




「――――――アリス、さん・・・・・・・・・・・・」




 彼女の面影が残っていた。




「【サブヒロイン】って言うんだ」


 【ヒロイン】の声が響いてくる。

 とっておきの玩具を自慢気に紹介してるみたいな、無邪気で、陽気な……そんな声色だった。


「――仲良くしてくれたまえよ? なんせ、きみ達の大切な……仲間を素材にしたのだから」



 「敵」は、アリスさんは、【サブヒロイン】は……

 血の涙を流し、ただただ虚空を眺めている――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ