4-4 《力の源は愛や勇気などなど》
「――まァ……アレだ……
ここを脱出してからじっくりオマエ自身の『理想』ってやつをしっかり考えて、もう一回【黄金具現】をやり直せばいいだろ!」
いたたまれない表情の式鐘のおっさんのフォローに、無い胸が痛くなってくる。
まぁでも、そうするしかないのは事実だし、切り替えて頑張るしかないか。何をどう頑張れば良いかもよくわからんけど。
「どうせだったら、ホレ、他の【勇者】の連中から色々話聞くのも良いんじゃねェかな!?」
「そ、そうそう! 色々聞く内に考えもまとまってくるんじゃないか!?
何もないってことはつまりそれ何だって始められる的な……まぁそーいうアレだろ!」
「微妙にヒデーこと言ってない……? まぁそれはもう良いから、話進めてくれーい」
アタシがそう言うと、式鐘のおっさんは場を仕切り直すようにゴホン、と咳払いをした。
「……そうするかね。
花ちゃんだけじゃなく拍ちゃんもよく聞いとけよ。二人はとりあえず、既存の三部隊――ジャック隊、クイーン隊、キング隊――じゃなく、エース隊に入ってもらう」
「エース?」
拍都クンが首を傾げる。
アタシも彼から【勇者】が3つの部隊に分けられている、とは聞いていたけど……
「いわばオレ直属の特殊部隊って感じか? 戦闘時にオレの近くで待機してもらって、状況に応じて特別な仕事をこなしてもらおうかと思ってる」
「……ぶっちゃけ僕はこれまでと変わりない感じ?」
「あァ。エース隊だ特殊部隊だっつっても、特殊な事情がありそうなメンツをまとめる便宜上の呼び名でしかねェと思ってくれていい。
これからもし新入りが入ってきたら、とりあえずエース隊に配備してオレの傍で観察――っつったら引っかかる表現かも知れんが――まぁ、特に注意して見ておきたいんだよな」
エース隊、なんて名前はカッチョイイ~けど、つまり「普通じゃない」メンツをおっさんが良く見ておく……ってか保護? フォロー? するためのグループ分けってことかな。
「つまりは良い意味でも悪い意味でも問題児っぽいのが集まる部隊なのね?
まぁ正確に言うと今んとこ問題児はアタシ一人なワケですが」
「卑屈になるなよ、ソレが本来フツーだ。
拍ちゃんも【勇者】になったばかりにしてはやり過ぎなくらいよくやってるし、今のウチの主力メンバーの一人と言っても過言じゃあねェが……やっぱり経験の浅さは不安だしよ。
不測の事態があった時にフォローしやすくしておきたいってことよ。念の為にな」
「お~、拍都クンは頑張ってるのかぁ。よしよし、そのままもっと頑張ってアタシを楽させてくれたまえー」
「いっそすがすがしいくらいに人任せにしようとしてくるなぁ花子ちゃんは……」
「ま~そりゃちょっとは申し訳ないけど。どう頑張ってもアタシじゃ力になれない感じじゃんコレ。
ガッコ―のお勉強なんかとは次元が違うでしょ。【蜜技】、だっけ?
そんなファンタジィ~~~なヤツがポンポン飛び交うようなお話じゃあねぇ。
手ぇ出せないよどこにでもいる平凡なオンナノコなアタシにゃあ」
「どこにでもいる平凡なオンナノコ……?」
拍都クン、またも首を傾げる。
失礼だぞこの野郎。
そりゃ確かにアタシは平凡と言うには色々足りて無さそうではあるが!
でも結局のところ、「他の【勇者】が持ってるらしい特別な力なんて一切持ってない」、って見方で言えばアタシなんて「平凡」と表現したっていいぐらいだろう。
つまり周りが特別に過ぎる。ここでアタシがでしゃばっても足を引っ張ることにしかならない。
もっと言っちゃえば、本来彼らは戦う力がないアタシを捨て置くべきで……
連れていってくれるのは、つまり彼らの良心によるところが全てなのだ。
「とにかく、何もできね~アタシは出来る限りアンタたちの邪魔をしないってことだけを考えるべきでしょ? 違う?」
「まったく、気遣いが一切いらねェのがありがたいんだか何なんだか。
だがな花ちゃんよ、一概にそう言い切れはしねェかもだぜ?」
おっさんがビシーっとアタシに指を突きつける。
「【蜜】ってのはなかなかご都合主義なモンだからな!」
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「さて、花ちゃんよ。
拍ちゃんからは【蜜】と【蜜技】についてはどれだけ聞いてんだ?」
「『フォ〇ン』と『テク〇ック』みたいなもんなんでしょ?」
「……何故にそれで例えたよ」
「いいじゃんよう」
「ともかく……『特別なエネルギーを使って引き起こす不思議な現象を引き起こす』――わかりやすく言っちまえばこういう話だが。
もっと正確に言えば、【蜜】には元々『想像を具現する』ってな役割があってな。その具現の結果を【蜜技】と呼んでるのさ」
「想像を?」
「具現する?」
この言い方は拍都クンも初耳だったようで、アタシと同じように疑問の声を上げていた。
「――拍ちゃん、指先から火って出せるか?」
「……はぁ? ……え、どうだろ。もしかしてその気になったら出せちゃったりする?」
「案ずるよりなんたらってな。ライターみたいなイメージでよ。伸ばした指先から小さな火がボッ、と出るのを想像して、やってみろ」
おいおいそんなことできるわきゃねーだろ、とアタシは呆れたが、拍都クンは何か思うところがあったのか、集中するように目を閉じていた。
そして、右のひとさし指をピンと伸ばして――
「――よし、できたな」
「……うそん」
おっさんの言う通り、彼はその指先に火を灯していた。
マジで魔法じゃん……実際見ると結構神秘的な光景だ。ちょっと感動してるかも。
「考えたことをそのままできちゃうってワケ?」
「そういうこったなァ。
それこそ花ちゃんだって、その気になればできるんじゃね?
オマエ、【ヒロイン】から逃げてる時にいくら走っても疲れなかった、って言ってたじゃねェか。
無意識にイメージっていうか、やりたいことっていうか。そいつを具現してたってことだろうよ。
オマエは【勇者】として不完全かも知れんが、【蜜】を扱う資格はしっかり持ってるってことさ!」
……なんてこった。
思ったことをそのまま現実にする、なんてそれこそ神様みたいな力じゃん。
何もできね~どころかその気になれば何だってできてしまうのだ。
ちょっとテンション上がってきたかも!
「それもー何でもありじゃん! 苦労することなんてなくない?」
「敵も同じことが出来るんだぜ?
あとオマエや――灯もそうなんだが、元々の肉体の強さが敵より劣ってるだろうから、ハンデはある」
「あ~……そういうことかぁ……」
……上がったテンションがものの数秒で元通りになっちゃった。
つまり、ここでの戦いってのは「何でもできる」ヤツ同士のルール無用の異次元バトルってことか。
楽はできないもんだなぁ。ツライなぁ。
「それに、具現したい想像の規模がデカく、非現実的、超自然的であればあるほど必要な【蜜】の量が増えて、応じて肉体の消耗は激しくなるし……
どれだけ強力な【蜜技】が使えるかはどれだけ『明確に想像ができるか』だったり、どれだけ『強い意志を持っているか』だったりする。
精神の強さ、とでも言うべきかね。
オマエら……もし敵とやりあうことになったら、まずは心を強く持つことを意識しろ。目の前のヤツを『絶対ブチのめす!!』ってな思いが一番重要ってこった。
精神の戦いってヤツだな!」
「愛と勇気が力になっちゃう感じ? やべ~な、もうそれちっちゃい子向けのアニメの世界観じゃん」
「甘く見るなよ? 【蜜】を使った戦いで負けるってのは、肉体どころか精神までぽっきりへし折られたっていう完璧な証明になっちまうんだからよ……
幼稚で単純な仕組みと言えなくもないが、だからこそ残酷だ」
「な、なるほどぉ……」
ここでの戦いで負けたら、な~んも言い訳できないってことか。
……なんかそれ、めっちゃ嫌かも。
自分の思いが全否定されるようなモンでしょソレ。
「――つまり、【ヒロイン】が強いのは、それ相応の意志ってのがあるからなのか」
拍都クンがポツリ、と呟く。
「意志ってか、心の中に確固たる『何か』があるのは間違いないんだろうよ、アイツも。
もしや特別な事情があるのかも知れんが――ともかく、全くのしょーもないヤツ、ってことでは無いだろうなァ」
「・・・・・・・・・・・・」
おっさんの答えを聞いて、彼は黙り込んでしまった。
……その沈黙に、「敵」に対して以上のモノがありそうなのは――気のせい、なのかな?
「何はともあれ、だ」
おっさんがパチン、と手を叩いて話を引き戻し、アタシに向き直った。
「簡単な話じゃあねェものの、花ちゃんも『土俵には立てる』ことは間違いねェんだ!
その気になりゃあオマエは陸上選手よりも早く駆け回り、ボクサーよりも強烈なパンチをぶっ放せる!
オマエはいわば不完全な【勇者】だ。
【勇者】としての『理想の肉体』を持っていないからな、元々の体の機能じゃあ他の【勇者】や敵に劣るだろうな。
だが、【蜜】自体は使える。勝ち目はゼロにはならねェぞ。
万が一、やり合うってことになっちまったら――それを思い出せ、いいな?」
「お、おうよっ」
おうよ、と答えたはいいけど……やっぱり正直な所アタシには、自分がそんな異能力バトルに参加できる自分を想像できる気がしなかった。
頼むぞ、他のお強い【勇者】のみんなよ。アタシは多分最後まで役立たずだ。か弱い女子(笑)らしく守られておく、ゼ。




