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3-4 「勢いがあれば何でもできたりできなかったりするかも知れない的なアレ」

 戦場にまるで似つかわしくない沈黙。

 表情の見えない【輝使】すらも、打ちのめされたような雰囲気を漂わせていた。


「――――ほ、ほ……本当になにやってるだしか灯様っ!?」


 金縛りにでもあったかのような、耳が痛いくらいの沈黙を破ったのは静留さんだった。


「ま、まだ飛び出さなくても良かっただし! 切り札の一つとも言える貴方様を、こんなに早く敵に見せなくても!」


「……私はそんな大層なヤツじゃないんだ。

 刀を振り回すことしか能が無い。単純なことしか出来ない。つまらない人間だ。

 申し訳ないが……隊長、などと呼ばれて力を振るうのをもったいぶる価値など、私は私に感じない」


 灯姉は式鐘おじさんの方を見やった。


「……すまない、兄さん。私には隊長は務まらないかも知れない。

 薄々感づいてはいたが、この戦いが始まってしばらくしたら確信に変わったよ。

 正直、指示なんてどう出せばいいかわからないし、後ろで控えているのも性に合わない。

 立ち塞がる者を片っ端から斬る。仲間を傷つけようとする者を斬る。

 そんな阿呆のような単純な役目の方が向いているし、役に立てる……気がする。うん。

 問題あるようなら、クイーン隊の隊長は他の者に任せてやってくれ・・・・・・・・・・・・それで――」


 そこで言葉を切り、周囲をぐるっと見渡した。


「……【ヒロイン】の傀儡共よ。いつまで立ち止まっているつもりだ。

 いつまで待ってやればいい? 無抵抗の相手を斬るなど、いくらバケモノでも良心が痛むぞ」


 その言葉を受けて、ようやく――戦場が元の騒がしさを取り戻した。

 【輝使】達が思い出したかのように動き始め、【勇者】達も戦闘を再開する。




 ――その様子は灯姉が参戦する前と明らかに変わっていた。

 【輝使】の動きはどこか精細を欠いている……いや、それ以上に【勇者】達の気迫が先ほどまでと違う。

 僕にもはっきりとわかるぐらいに、【勇者】達が数で勝る敵を圧倒しはじめている。


 その様子を見たおじさんは、ギラリと歯を光らせて、猛獣のような笑みを浮かべていた。


「ハ――ハハハ……あァ、なんつーか……そうだよなァ。何を難しく考えてたんだっつ~話だ。

 慣れないことはするもんじゃねェなァ。まったく、らしくなかったぜ。

 やりたいことをやりゃァいいし、やりたいことをやるしかねェんだ――結局、どこまでいってもな……


 ――オイ、隊長格全員、もうヤっちまっていいぞ」


 静かな口ぶりだった。ただその静かさには、「嵐の前の」という前置きが似合いそうな……「そういう」思いを含んでいるように見えた。


「……良いのですか?」


 ヴェネさんが問い返す。


「い~さい~さもう。誰でも思いつきそうな最低限の指示くらいはオレがやるからさァ。まァオマエらも『隊長っぽいこと』はテキト~にやったり言ったりしな。失敗しても皆でフォローするってことで。

 ――思いっきりやれ! 思うがままにぶっ飛ばしてやれ!

 そ~いう姿に、仲間ってのはついてくるもんらしいぜ? 丁度あんな感じにな」


 おじさんは灯姉の方を顎でしゃくった。


「フルメンバーで盛り上げてやりな!

 ぶっ壊れチート野郎集団として、ふさわしい振る舞いをしてくれ――ぶっ殺してきな!!」


 そのセリフを合図にしたかのように、マジさんとジュニが飛び出していった。


「こーはいは灯せんぱいの援護に行くっす! マジせんぱいは向こうの敵をお願いできるっすか!?」


「フッ……良かろう……この『赤き虎』の力を見せてやろう……――みたいな? かしこまりました」


「……ホントに大丈夫っすか?」


「ア~ハーはっ! 大丈夫じゃね!?」


「やっぱわけわかんないっす、もー! でも信じるっすからね!」


 二人は流星のようにそれぞれの戦場に突入し、その手に持つ武器でそのまま敵をなぎ倒していく。


「――仕方あるまい。我も出るとするか……式鐘王よ、我は本気閣下の方に向かうとする」


 やれやれ、と言いたげに首を振りながら、フォーデさんが手に持った杖を地面にダン! と音を立てながら叩きつけると、そこから紫色の光で描かれた魔法陣のようなものが浮かび上がった。


「力押しで何の芸も無く蹂躙とはな……童のような単純な策よ」


「何だァ? 嫌いか? そーいうノリは」


「――そうだな……実を言うと、嫌いではない。むしろ……」


 言葉を切って、フォーデさんが口元に非人間的な歪みを表す。

 紫の白目に囲われた純白な瞳をギラギラと輝かせ、長い白髪が蠢く。

 ――まさに怪物のソレだ。絶対的に『上』のモノが持つ、特別な畏怖感。そして……ある種の安心感。


「――好ましい。頭を空にする、というのは中々に愉しい。全ての頂点に君臨する魔人、このフォーデ=フィマすら愉しませる程に。

 ……良い。良いな、良いではないか。悪魔の如く殺戮の限りを尽くすのも、あぁ、愉しいであろうな――」


 魔法陣から飛び出してきた何かに、フォーデさんがふわりとした動作で跨る。

 それは紫炎に包まれた、漆黒の馬であった。


「派手にやるとしよう――我が友よ……フハハハ――ハーッハッハッハッッッ!!!」


 フォーデさんに応えるように、黒馬が跳躍する。

 身に纏う炎を揺らめかせながら高く高く、洞窟の天井ギリギリにまで届くほど。


「【ヒロイン】の尖兵共よ。今、我は気分が良い。

 ――抵抗することを許そうではないか……!」


 ――そして一気に降下する。戦場の只中へ、隕石のように堕ちていく。許されていようがなんだろうが、抵抗などできる訳もない一撃が、今突き刺さる……!

 一際大きな轟音。強敵である宝石の兵士達が玩具のように叩き潰され、紫炎に焼かれていく。


「……うーん、乱暴な事になってきたなぁ。――でもいっか。戦いなんて元から乱暴で野蛮で、綺麗じゃないものだし……せめて好きなようにやるのがいいよね。

 ボクはフォーデ君とマジさんを手伝うから、静留は灯さん達をお願いするよ。

 特にジュニは強いんだけどちょっと危なっかしいからね……」


「はぁ……なんでこうなっちゃうだしか……わかりましただし、ヴェネ様」


 言いながら静留さんは、その手に持つ小さな拳銃で宝石の兵士の頭ど真ん中をあっさりと撃ち抜き、動きを封じる。

 その様子を見て、ヴェネさんが微笑んだ。


「――さァて。こっからが本番ってな。拍ちゃん、しっかり見とけよ? 俺達は『ヤバい』んだぜ?」



 僕の肩を叩きながら、そんな風におじさんが語り掛けてくる。

 隊長格の加わった【勇者】達の戦い。ゾクゾク、と心がざわめきはじめていた。

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