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3-0 嗚呼、昔は良かった!

 僕の元いた世界は……21世紀の中頃に見つかった【理力】が枯渇してから、ひたすら終焉に向かって転落していくようになってしまった。


 それまでの何よりも巨大なエネルギーを産み出せる、【理力】が充実していた頃はそれこそ「飲めば瞬く間にほぼ全ての病気を治せる薬」だの「地球の反対側にすら一瞬で移動できる転送装置」だの、非現実的な道具が個人で所有できるような世の中だった……らしいのだけど、それは地球で暮らす人類にとってあまりに急激で、無理な負荷のかかる進化だった。

 当時深刻視されていた環境問題すらも【理力】で無理矢理解決できるようになると、人々は【理力】に強すぎる依存心を抱いてしまったのだ。

 ほとんど無限にあったような【理力】は、22世紀が始まる頃には……その底が見え始める程になってしまう。


 そんな状況に立ち向かった人もいた。【理力】が尽きる兆しを感じ取った一部の人間達は手を取り合い地位を得て、革命家の集団を作り上げ、声を上げた。


「後の世代の為に、今を生きる我々が力を合わせなければ!」


 努力して得た地位を用いて、過剰に【理力】を消費する様々なモノを廃止する。

 それだけではなく。性能を落とした代わりに、効率的に【理力】を使用できる……そのような、技術の粋を尽くして作られた代用品を用意した。


 世界を永らえさせる為に。

 将来産まれるであろう子供達の為に。

 革命を起こそうとした。世界を変えようとした。


 しかし――


「こんな不便なモノが使える訳が無い!」

「なんて粗悪品だ、これでは生活が成り立たん!」

「今さら原始人のような生活をさせるつもりか!」


「――あぁ、昔は良かった!!」


 革命家達を批判したのは、【理力】に依存し、堕落した先人達である。

「飲めば瞬く間にほぼ全ての病気を治せる薬」が「飲んで2時間安静にしていればほぼ全ての病気を治せる薬」に代わることに対し怒り狂った。

「地球の反対側にすら一瞬で移動できる転送装置」が「地球の反対側に30分で移動できる転送装置」に代わることを嘆き悲しんだ。


「なんという理不尽! なんという悪行! 許されざることである――!」


 結果として、革命は不完全なものに終わった。未来を守る為の節約、あらゆるモノのダウングレードは、結果としてほんの僅かしか為すことができなかった。


 革命家達は諦めずに、行動し続け、革命を起こす事に挑戦し続けた。

 しかし、彼らが何と言おうとも、大衆のほとんどが彼らの足を引っ張り続け、毎回中途半端な結果に終わり……結局、決定打を放つことはできなかった。

 むしろ、ダウングレードする度にかかる、モノの切り替えにかかるコストの方が大きくなってしまい、彼らは人々から「無能」と蔑まれた。


 そうして、ついに革命家達は敗北し、姿を消した。


 ――革命家達の正しさが証明されたのは、彼らが表舞台に立ってから長い月日が流れ、そのほとんどが死した後の事であった。

 23世紀。【理力】の枯渇はついに無視できぬ問題となったのだ。


 慌てた彼らは先の革命家達の不出来な真似事を始めた。

 この時点で、思い切って身の回りのモノの機能を大幅に下げることができたなら、まだ道はあったかも知れない。


「ここまで性能を落とせば安心だろう」

「いや流石にそれはやりすぎだ、耐えられない」

「……なら、このぐらいで」


「ダメだ! ここまで下げたのにまだ十分じゃないなんて!?」

「ならもう少しだけ……」


「このぐらいなら維持できる」「この水準ぐらいは守れるはずだ」「もう少し下のランクで……」「なに、ほんの少しの辛抱だ!」「いつか技術が進歩する! そうすれば、人類は再び進化の道を歩むことができるだろう……!」


 ……まぁ、そんなことを言っていたのかも知れない。


 結局、その努力は以前の中途半端な革命の焼き直しでしかない。

 あまりにも思い切りのない、のろのろとした動き。


 その都度その都度の、その場しのぎの生活水準の引き下げ。まるで、過去に引きずりこまれるような――歴然とした退化、後退であった。

 その光景は人々から気力を失わせる。

 そして……後に生まれる子供達はそんな先人達を見て学ぶのだ。




 夢も希望もありはしない、と。




 子供達はくたびれた大人になり、次の世代に自分がされたのと同じようにその絶望を示していくのだろう。

 抜け出せない悪循環を誰もがはっきりと感じることができた。


 24世紀を迎えた僕らの住む星、地球。

 その文明の在り様は、今や……21世紀の前半レベルだと言われる所にまで引きずり落とされたのだった。




 >>>




「――そこから抜け出した、と思いきや地獄と来た。

 ままならないよなぁ……」


 照明の落ちた部屋の暗闇の中、僕はひとりごちていた。


 灯姉の経歴の話は相当にヘビーだった。

 その後は簡単な食事ぐらいしかする気が起きず、僕はそのままベッドに潜り込んでいた。

 体中が疲労感でいっぱいだったが、不思議と不快では無かった。


 明日から、【天秤地獄】の最奥を目指して出発することになった。

 きっと、その道中であの【ヒロイン】の妨害もあるだろう。

【蜜】をほとんど思いのままにできる【天秤】を手に入れ、ここから脱出する為の戦いが始まるのだ。


 戦い――そんな大事を前にしているワリには、僕は落ち着いていた。

 気が重くなることもなく、心がほんの少し上向いているような感覚。


 灯姉が生きていた、という事実のおかげ、なんだろう。

 何もかもが肯定できるような事情じゃないのはわかっている。

 だけど、それでも……救われたような気分になった。



 ここから出られたら、灯姉とゆっくり話がしたいと思った。なんでもないことでいい。くだらないことでいい。

 それだけで、もうどこか違う世界にでも行かないとどうにもならなかった自分の人生に、価値ってヤツを見いだせる気さえしてきた――

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