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天国に堕ちた勇者ども  作者: 新崎レイカ(旧:れいかN)
第二章 ミンナヤッテル
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2-8 「世の中は複雑過ぎる……あ~あ、全部暴力で解決できたら簡単なのにな~!」

 灯姉に起きた「事件」の真相が長らく明かされなかったのは、彼女が籍を置いていた大学の特異性が強く影響していた。


 これはあくまで噂だったけれど。

 大学は24世紀以降ではほとんど有名無実と言われている総理大臣よりや国会よりも、世の中を動かす「力」を持っていると言われている。

 ありとあらゆる組織が、絶望してやり過ごすようにダラダラと動いている中、大学だけは精力的に活動しているのだから自然と力がそこに集まるのは想像しやすい。


 そして、噂は真実だった。

 知られれば面倒な情報が流れるのを簡単に阻止できるような力を、大学は持っていたのだ。



 僕が聞いていた話は、大学内で灯姉が「暴行」を受け、それによって絶望した彼女が自ら死を選んだ、というもの。


 大学にはいくつかのグループがあり、灯姉は武道、格闘技に長けた者達のグループに加わった。

 灯姉がその才を認められた剣道だけでなく、空手や柔道、ボクシングやレスリングに長けた者までが、同じ場所で鍛錬をしていたのだ。

 日によって稽古をする「武」は変わる。かなり異常だが、そのグループに所属する者全員が、日によって設定された「武」の力を鍛えるのだ。

 例えば弓道で才を認められてそのグループに入ったとしても、本日は総合格闘技ですと言われればそれに従わなければならないのだ。


 「普通」の人間としては「いやいやそれは無茶過ぎ!」、と思うが、大学は「異常」な場なのだ。

 何らかの「武」の才能がある人間は他でも実力を発揮する、なんなら普段と違う経験から、それまでには気づけなかった可能性を見出し、それこそ世界に影響を及ぼすほどの圧倒的境地に至るのだ、と考えていた……らしい。


 途方も無い話だが、大学の目的を考えると……それくらいにワケのわからないやり方で無ければ彼らの望む人材の育成はできない、といったところだろうか。


 ともかく、灯姉も例に漏れず、それまで全く経験の無かった武術、格闘技も含めて、そのグループの中で稽古に励んでいた。

 グループの人数はその当時で10名程。女性は灯姉一人だった。


 そのグループの中に、灯姉より数年早く剣道で認められた男性がいたらしい。年は30を超える。大学に年齢は関係が無い。

 灯姉が加わった時期では、その男の方が剣道の実力は上であり、彼女はその強さとそれに見合った精神を尊敬していた。

 男の方も、灯姉が女性ながらに才覚と実力、剣道に対する姿勢を高く評価しており、すぐに意気投合したらしい(その話を聞いた当時、僕はソレって恋愛感情的なアレなの!? と聞きそうになったけど空気を読んで我慢した)。

 他の者も灯姉をすぐに認め、グループ内の人間関係は良好だった。――長くは続かなかったが。


 始まりは、灯姉がそのグループ内でも一つ抜けるぐらいの「武」を身に着け出した事だろう、と当時大学の関係者を名乗る者から聞いていた。


 もう僕のような「普通」な人間にはまったく想像つかない次元の話だと思うが、灯姉はそれまで一切触れてこなかった「武」の分野でも、明確に才覚を発揮し始めたという。

 例えば……ボクシングでその出身の者に上回る、なんてほどじゃないにしても、ギリギリ勝負になるぐらいにはなっていたのだ。

 グループ内での衝撃は推して測るべし、ってな具合だろう。

 全くの未経験の格闘技で、その格闘技の能力を認められ、大学にまで入った者にすら迫るかという異常な成長速度。


 そして出身である剣道では、グループ入り当初では敵わなかった剣道家の男すらをも超えた。

 ――それが決定打だった。


 要は「嫉妬」だったのだろう。

 灯姉が加わる前は、グループ内のメンバーの実力は拮抗していたのだ。

 得意分野ではもちろん一番で、それ以外では他の者と同じくらい。

 全員がそうだった。だからバランスは保たれていた。

 しかし、灯姉の才覚はソレを崩す程であり、その存在は他の者の心をかき乱す。

 それも、グループ内唯一の女性の身で――


 そんな飛び抜けた事を成し遂げても灯姉はそれまでと変わらず、驕らなかった。

 変わらずグループ内のメンバーの実力を尊重し、尊敬し続けた。

 ……その態度すらも、嫉妬に狂う彼らにとっては火に油を注ぐことだったのかも知れない。



 発案は、最初は灯姉と意気投合していた、剣道の才を認められた男だったそうだ。

 灯姉を、()()()()()

 その計画は、何の反発も無く。恐ろしい程簡単に実行された。狂っていた、としか表現のしようがない。


 9人の男からの「暴行」には、灯姉が()()()()()()()()()行為すらあったという。口に出すのもおぞましい種類のモノが――


 信頼し、尊敬していた仲間達から受けた、考える得る限り、いや考えられないぐらいの、非人道的な行い。

 「死」を選んでも、何ら不自然ではない。

 僕も、受け入れがたい衝撃は感じたが、「何故」とは思わなかった――




 >>>




「――だが、その時オレは疑問を抱いたんだよ。

 ……オレが『非現実的』な力を持ってるヤツだからかも知れん。同じ『非現実的』なあいつらに微妙な違和感を感じたのさ。

 大学の奴らの説明には一見不自然な点は見当たらなかった――が、どこかきな臭い。理屈じゃなかった。ただの、ちっぽけな……勘、だよ」


 式鐘おじさんは独自に大学の調査を始めることにした。

 彼の異世界由来の能力は大学の隠された事実を次々と明らかにしていく。

 しかし、ある程度の「一般には知りえない情報」を得ても、おじさんが感じた違和感は消えなかった。


「大学は抜け目がねぇ組織だ。所属している人間のデータは完璧に管理される。

 一日一日、全員がどういう鍛錬をして、どういう成長、変化を遂げたか、漏れ一つ無く正確に、詳細に記録してるようなトコだ。

 ……でもよ、だったら何故灯が『暴行』される事件なんてモンが起こったんだ?

 一日ごとに一人一人の変化を観察してるような奴らが、ソレの前兆を見逃すか?

 優秀な灯が駄目になっちまったら、アイツらにとっても都合が悪いだろうに――」


 おじさんは「灯の事件は()()()()見逃された」という仮説を立てる。

 しかし、そこからさらに深く調べるのはおじさんの能力でも難しかった。

 本当に知られてはマズい情報は「非現実的」な手段でも手に入れられないように管理しているらしく――


「大学がオレの能力にも対抗できてるのを知ったオレは、ここからは自分だけでは無理かも知れん、と考えた。

 あそこは、知られてるよりさらに伏魔殿じみてやがる。それこそ、強引に武力で勝負をかけても、対抗手段を用意出来る程ではないか、とも考えた。

 ――それで、あんな無茶をしたのさ。

 ……『日本国王』さ。馬鹿みたいだろ?

 『オレにはこんなにおっかない力があるぞ! ほら言う事全部聞きやがれ!』――そうやって総理大臣を含めた『お偉いさん』を脅して、っていうな。そんな無茶なやり方だよ。

 それが案外すんなり成功したんだから【蜜技】ってのはおっかないモンだなと思ったな。

 【黄金具現】を公式な形で世の中に提示する、ってのもやりたいことの一つではあったが、どちらかというとメインはこっちだ。

 大学とやり合う為に、ほんの僅かでも自分以外の力が欲しかった。

 オレは単純な力こそ持っているが、騙したり取り入ったりするやり方はロクに知らんからな。

 暴力以外のやり口を知る人間が欲しかったのさ」


 「日本国王」などというぶっ飛んだ立場に対する法整備などはロクに無かったが、それでもそれ以前の国家のトップ層を抑えてしまったのは事実。

 極めて強引で幼稚で単純な形ではあったものの、「権力」を手に入れたおじさんは、その力で調査をさらに進め、戦力を把握し、最終的には大学が所有するとある施設の場所を突き止め、そこを強襲する。



 その施設は――

 人を異なる世界へと送り込む為の研究をしていた。

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