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天国に堕ちた勇者ども  作者: 新崎レイカ(旧:れいかN)
第二章 ミンナヤッテル
15/78

2-5 「過ぎたるはなんちゃらって言うし、イロイロとそぎ落としていきましょう――お願いですから! なんでもしますから!」

 おじさんが「クイーン隊の隊長」について、いよいよ意を決し語ろうと口を開いた、丁度その瞬間だった。


「――やっと見つけただし。式鐘様、この方が新入りだし?」


 妙な言葉遣いをする女の声が聞こえ、顔を上げた。

 扉が声の持ち主によって勢い良く押し開けられている。

 ズカズカと遠慮なく部屋に入ってきたその姿は、妙に迫力があった。


 一番に目につくのはその服装。

 ヒラヒラしたフリルのついたメイド服を着ていたのだ。こんなもんコスプレイヤーとかそのテの喫茶店の人しか着る機会ないんじゃないか?

 特定の趣味の人間を狂わせるその衣服を身に纏う人物は、しかしソレにはひどくアンバランスだった。

 日焼けサロンにでも通い詰めたかのような作為的な黒い肌。

 いかにも染めましたと言わんばかりの金髪は片目を隠すように垂れていた。

 こういう人、どっかで見たことがある。すごく昔の時代の資料とかで……


 なんだったけ。

 ……「ガングロギャル」?


 ギャル+メイド服? ええー……

 ていうかまさかこの人が「おっぱい大きいカッコイイ系のお姉さん」、じゃあないよね?

 おじさんの方に視線を向けると、気の抜けた顔で「違う違う」と手をヒラヒラと振っていた。

 まぁそうか。巨乳じゃないし。並だし。し。


「・・・・・・・・・・・・なんだか、すごく失礼なコトを考えられている気がするだし」


「――え? あぁーいや。なんでもないです、ホント!」


 いかにも「不愉快です」と言わんばかりの刺々しい口調と共に顔を覗き込まれ、反射的に「すみません!」と謝っていた。

 これから頭上がらなさそうだ……


「悪ィ悪ィ、ちょいとタイミング悪くてな? 拍ちゃん、コイツは――」


亜須城 静瑠(あすき しずる)だし」


 フン、と鼻を鳴らしながらそっけなく教えてくれた。見た目通り、すごく気の強い人みたいだ……


「まーったく、そうツンケンすんなってェ。

 拍ちゃん、察してるかも知れんがコイツも隊長格の一人ってワケだ。

 で、静留よ、こいつは――」


「式鐘様のご友人が来られた、って話はさっき広間で聞いてきただし。……そんな方、絶対ロクな人じゃないだし」


「どういう意味だ静留ゥ!? 酷くね~か!? まるでオレに問題があるみてェじゃねェか!」


「あー、うん、まぁ……問題無いとは言い難いな……」


「いや否定してくれよ拍ちゃん」


「おじさん自身はどう思うんだ?」


「……静留の言う通りだな」


「わかってるじゃん」


 そんなやり取りでヘラヘラ笑っていると、静留さんは大きくため息をついた。なんか申し訳ない。


「なんだよ静留、そのツラはよォ。 ……よし拍ちゃん、なんか面白い自己紹介しろ」


「フリ雑過ぎないか?」


「だってよォ。オマエときたらさっきから面白みのねェ自己紹介しかしてねェじゃん。

 静留にまでそんなノリじゃあダメだぜ。こういうヤツにはな、一手目でわからせてやらなくちゃならん。

 じゃねェとこのメイドさんにお世話してもらうどころかパシらされることになっちまう。

 不自然な程人気な購買の激レアパンを争奪するイベントに巻き込まれちまうんだ」


「いやそんなことしないだし……」


「ほーれほれカマしてやれや拍ちゃん。オマエが制御不能の暴れ馬だと言うことを教えてやれっ!」


「お願いだから普通にして欲しいだし!」


「うん、普通に自己紹介したい……」


「フツーだとォ!? おい拍ちゃん、ソレでいいのか!? オマエの目指すべき境地は『フツー』なんぞで辿り着くのか!? あァん!? あ~つまんねェ~そんなんだから元の世界でくすぶってたんだろうが!」


 なんだか急にめんどくさいノリになってきた。

 式鐘おじさん……何かの覚悟を決めるその瀬戸際に、話が中断されてしまったからか、テンションが妙なことになっている。


「ほれほれ、見る前に跳びやがれ。レディ、ステディ、ゴ~だオラっ」


 後にして思えば、そう急かされついついノってしまったのが失敗だった。



「えーと、名姫拍都の名に、名姫拍都の姫に、名姫拍都の拍に、名姫拍都の都で、名姫拍都です。よろしくお願いします」



「よっしゃ完璧だ拍ちゃん!」


 おじさんと僕は、いえー、とハイタッチを交わした。ヤケクソだった。つーか超〇校級のパクリだった。


「……やっぱし、ロクでも無かっただし……」


 と静留さんがまたも大きくため息をついた。……しまった。ヤッチマッタってヤツだ。


「す、すみません、急かされてつい……」


「つい、でソレが出る時点で変人だし……」


「おっしゃる通りだし」


 否定を一切許さない完璧な正論である。認めるしかなかった。


「静留、コイツも【天秤地獄】の攻略に加わるからよ。よろしく頼むわ」


「なんかスミマセン」


「いや、いいだし……いいんだし、わかっていただし……【勇者】なんて、どっかおかしい方ばかりだし……ええ、今さら落ち込むことないだし! こんなわたくしですらキャラ薄い方っていうのはわかっていただし! どうせギャル+メイドキャラなんて他にもいると思うだし! もし新しい人が来るならもうちょっと大人しめで、なんて思ってなかっただし! 負けないだし!

 拍都様、よ・ろ・し・く・だし!」



 涙目になりながら僕の手をとってブンブンと上下に振り回す静留さんであった。

 まぁ頑張っていただきたいだし(他人事)。





 >>>





「静留はジャック隊の副隊長だ。

 狙撃が得意でな。スナイパーってヤツよ。後方で戦場を広い視点で観察してもらいながら、要所要所で銃で――」


 指を銃に見立て、撃つようなジェスチャーをするおじさん。

 メイド+ギャル+スナイパーか。盛るなぁ。


「……わたくしは中学生くらいからライフル射撃の競技をやってただし。そこそこ上手いつもりだし。

【勇者】になってからはその力も相まって一度も的を外したことはないだし。

 ……まぁ、拍都様も適当に頼って欲しいだし。」


「あ、はい、頼ります。どうも……」


 酷く疲れた様子で、育ちが良いのか悪いのかよくわからない妙な話し方で、そう言ってくれる静留さん。

 どうも見た目に反して苦労人な感じがする人であった。


「まァそう落ち込むなよ静留。つーかここにゃあオマエ含めてキャラが濃すぎるヤツなんかウジャウジャいるだろ? いい加減慣れろっての。悪い奴らじゃないだろ」

「悪くない()()だし……」


「気が遠くなってきた」とでも言いたげな表情をする静留さんに、おじさんは何かを思い出したのか、諦めきったような顔をしてぼそりとこう言った。


「・・・・・・まァ、ほれ……()()に比べたら全員霞むだろ?」


「・・・・・・あの人は別格過ぎるだし」


「マジ? って、誰?」


 文脈を読み取らないと、およそ人名だと気づけないような名前が出てきた。

 僕の疑問を受けて、おじさんと静留さんは一瞬顔を見合わせた。


「多分ココで一番ヤヴァイ奴だな」


「【黄金具現】が無ければ生きられない人ブッチギリで第一位だし」


 ・・・・・・・・・・・・


 僕は思わずへにゃりと笑ってしまった。おいおい、勘弁してくれ。思わず天を仰いだ、その瞬間――


「――――――うっ、フフフフフフゥっっっ!!! あ、コレ吾輩出てイイ感じですかどうですか!? しずお嬢のターンかなコレコレって吾輩空気読んで全裸待機してたんですけどどどー! んんーいいですか出ちゃっていいですか出るよ出ちゃうよああ出るっ! あうっ!!」


 最高に厄介そうなセリフが大音量かつ超早口で部屋中に響き渡った。 それも、上から――


「って上?」


 なんでそんなとこから、と疑問を口にするよりも早く、僕のすぐ後ろにどちゃっ、と何かが墜落した音がした。

 ……何故だか僕は、そのすぐ後ろのモノを見るよりも、ソレが落ちてくる前にいたであろう天井の方を確認した。

 天井の一部が扉になっていて、思いっきり開け放たれていた。


「おゥ、あんな扉つけた覚えねェぞオレ。わざわざ作ったってのか? 好き勝手加工できないようにワリとしっかりした【蜜技】使ったんだが?」


「この人にそんなモン関係ないだし……どうやったかはわからないだしけど……」


「だな」、と肩を竦めるおじさん。


「んふっふふふふっん――――ちーっす! いやちゃーっす!」


「どうしよう、振り向きたくない」


「観念しろ拍ちゃん」


「あい」


 保健所に連れていかれる子犬のようなダウナー気分で、ゆっくりと振り向いた。

 まさにもうどうとでもなれ、といった気分である。


 アルカイックなスマイルを浮かべた、その――少なく見積もっても2メートルは越える大男の外見は、「わけがわからない」としか表現しようがないものだった。


 全身タイツだ。しかもトラ柄。ギラギラ光ってる。ちょっとサイズが小さいのか、やたらくっきりボディラインが見えている。やめてほしい。

 タイツに覆われていない顔を見れば、肌色はペンキで塗ったかのような緑色が目に痛い。その癖かけている眼鏡はスタンダードな黒縁スクエアのタイプ。首元には犬につけるような赤い首輪。どういうことだ。やめてほしい。

 極めつけは髪。あろうことか、ちょんまげである。なんだ……SAMURAIか? それだけならまだしも、髪色は鮮やかな虹色だ。RAINBOWだ。やめてほしい。


 ……もうなんなのだろう?

 変態さんだと思うんだけど、あまりにも突き抜け過ぎていて一般的な変態に申し訳ないくらいなので、もしかしたら逆に変態じゃないのかも知れない。何考えてるんだろう僕は。

「変わったデザインのキャラクター」なんてそう珍しくはないけれど、それらだって何らかの指向性は大概見いだせるものだ。しかし、彼にはそれすら……


「――――――はぁ?」


 初対面の相手に「はぁ?」などと言ってしまった。


 なんというか僕は腹が立っていた。驚くこともできないぐらいにムカがついていた。悲鳴を上げられないぐらいには激怒していた。あまりのキャラ迷子っぷりに。しかも迷子なのに親御さんを見つける努力すら怠っているときた。そのまま捨てられてしまえ。


「お初にお目にかかります。某、里来多 本気(さときた まじ)と申します」


 急にテンションが急降下し、完璧な角度のお辞儀をしながら名乗ってくる目の前の変質者、あるいはそれ以上のナニか。一人称統一しろ。やめてほしい。


「――マジ……」


 さっぱりリアクションが思いつかずに、なすすべもなく僕はその名前を繰り返した。


「そう、マジ、でぇすぅ~~~!!」


 ぐわば、と身を乗り出してくるマジ氏。やめてほしい。


「『本当に恥ずかしいけどえっちな気分になっちゃったゾ☆』を略して本気、読みはマジでぇすっ!! AHAHA! 

 誕生日は2×50-90月6÷3+2-2日で年齢は8さい身長は222cmで体重は111kgスリーサイズは上から300、50、300血液型は『お前変態だからAB型って言っとけ』と上司に言われたのでAB型特技は料理です。

 あたくしと一緒に死ぬまでがんばろーね拍都きゅん!」


「……とりあえず『きゅん』付けについては不問にしますので、一人称だけ統一してください」


「なら吾輩にしゅる!」


「うむ、ご苦労」


「はは~っ」


 べたーっと地面にへばりつくように土下座をするマジさん。

 ……というかつられて僕もキャラおかしくなってない? こわ。


「えーと、その……なんというか、よろしくお願いします」


 ……もう、そうとしか言えなかった。

 勢いにつられて失礼な言葉遣いになってしまった気がするので、せめて形だけ……今からでも礼儀を尽くしておこうと思い、深く頭を下げた。


「おうよ、よろしく! なにか困ったことがあれば吾輩に言えよ、がっはっは! んじゃな!」


 そう言ったかと思うと、マジさんは唐突に体を大きく反らせてブリッジの体制を取り、そのまま非人間的なスピードでカサカサと移動し扉から出て行った。

 ……やっぱり、あの様子だと背向け状態のままガードできたりするのかな。やめてほしい。


「・・・・・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・・・・・」としか表現できない静寂がおりた。

 どうしてくれんだよコレ……


「・・・・・・・・・・・・ギャグ?」


 とりあえず思いついた可能性を言ってみたが、だとしたら笑えないなと思う。

 お笑いだとすれば、ちょっとセンスが宇宙の真理に近すぎる。


「・・・・・・・・・・・・多分、素だし」


 まぁ、そうなんだろう。救いようがない。


「・・・・・・・・・・・・悪いヤツでは、ないんだ」


 ここに来てから何回か聞いた言葉。「悪いヤツじゃない」。

 それがここまで空虚に響いたことがとてもツラかった。

 いや確かに悪い人ではないとは思うけど、だからどうしたという話である。


「あー、ごほん。ちょっとは慣れてきた気がしてたんだが、急に来られると、ほら、どうもアレだな。対応しきれん。

 ……そうだ、アイツも隊長格だからな。

 キング隊副隊長だ。見た目に反して能力のバランスは良い方だな」


「だよねーそういう話の流れだったよねー」


「……わたくし今日はもう寝るだし」


「おっつー」


 静留さんがログアウトした。意外と常識人である彼女に敬礼。


「拍ちゃんよ。ああいうのでも【黄金具現】があれば生きられるんだぜ……ますます決意が固くなるとは思わねぇか……?」


「……なるほど、そういう考えがあったか……僕頑張るよ……」



 何百週して心優しくなってしまった。

 僕の顔に菩薩のような笑みが浮かび上がる。我、悟りを得たり。やめてほしい。

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