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天国に堕ちた勇者ども  作者: 新崎レイカ(旧:れいかN)
第二章 ミンナヤッテル
13/78

2-3 「もう厨二キャラではしゃげるような自分じゃないのを自覚しちゃってほんのり寂しい……」

「――着いたぜ拍ちゃん。ここがオレ達の拠点だ」


 おじさんと話しながら、【天秤地獄】の奥に向かってひたすら歩いていると、大きな木造の建物が見えた。ログハウス、ってやつ?


 【天秤地獄】は、大体の目測で高さは30メートル以上、幅は100メートルを超えるか、というやたらめったらに規模の大きい洞窟なのだが、目の前の建物は高さも幅も通路一杯ギリギリ、埋め尽くしてしまう程の大きさだった。普通じゃない。


「――どうよアレ。オレが作ったんだぜ!

 幅と高さはギリギリまで大きくしたから大所帯でも安心!

 構想約1分。制作3秒くらい。縮小機能付きにより持ち運び可!」


 ……制作過程はもっと普通じゃなかったらしい。

 本当になんでもあり過ぎる。


「……つまり、【蜜技】で作った?」


「そのとーり。スゲェだろ? 前に似たようなことやった経験もあったし、案外あっさり作れちまったよ。

 もちろん、オレがスゲェ【蜜技】使いってのもあるが、な!」


「はいはい」


「いやいやマジだぜマジ。数々の異世界を旅してきたこのオレ、『日本国王』様を舐めちゃいかんぞ~?」


「ハイハイ――で? ここにさっき話してた人達が居る、ってワケ?」


「おうよ。オレ達と同じく、ここに堕ちてきた他の【勇者】――総勢150人越えの強者どもさ!」





 >>>





「――僕達以外の、【勇者】……?」


 拠点へ行く道の途中、僕たち以外にもここに引きずり込まれた人達が居ることを教えてもらっていた。


「あァ。さっきも話したが、オレは一度は【天秤地獄】の最奥に辿り着いた。

 だが【ヒロイン】に返り討ちにされ、撤退して逆戻りすることになった。

 その道のりでオレと同じようにここに引きずり込まれた【勇者】達を見つけてな」


 一人で立ち向かった結果、返り討ちにされたおじさんは、彼らと力を合わせることでこの【天秤地獄】を攻略しようと考えたそうだ。

 そこからは最奥を目指すことを一旦中断し、【天秤地獄】を行ったり来たりしつつ【勇者】達を見つけて仲間を増やすことに注力。

 拠点を作り、力を束ねて大きくする為の組織――自分を長とする【天秤地獄】攻略隊を結成した。


「一人じゃ駄目なら皆で数揃えて袋叩きにすりゃあいいのさ! 戦隊ヒーローも五人くらいで一人の怪人ボコるべ?」


「どっちが悪役だよ……」


「【ヒロイン】に負かされた時は久しぶりの失敗だったモンで、ちょいと凹んでたが、他のヤツらのおかげで立ち直れたぜ……

 なんせ100人以上いたからな! ちょっと探せばいるわいるわ一騎当千の【勇者】どもがよ!

 そいつらが力を合わせればできないことはなんざねェぜ!」


 【黄金具現】によって「理想の世界」と「理想の自分」としての強い肉体を手に入れた者、【勇者】。

 それぞれの世界で主役を張れる程の、英雄達。

 確かに、そんな人達が協力し合えばそれは最強の軍隊だろう。倒せない敵、なんてあるのだろうか。


「オマエみたいに【黄金具現】から直通で、【天秤地獄】に堕ちたヤツはいないっぽいな。

 みんな『理想の世界』で思う存分人生を謳歌してたら、オレと同じように地面から生えてきた鎖につかまって、気づいたらココにいたそうだ。

 全員、バリバリの武闘派で、各々の世界で戦闘経験も長い。思う存分頼って良いと思うぜ」


「へぇ~……それじゃ僕はむしろ足手まといなんじゃ?」


「いーや? オマエの持つ【型無】と【終幕】のコンビは十分に役に立つぜ? むしろ切り札と言っても良い」


「えぇー!?」


「さっきの【ヒロイン】との戦いも、オマエ中々良い動きしてたからなァ。才能、あるんじゃねェか?

 【終幕】もオマエ用に作っちまったから他のヤツじゃあ完全には扱いきれねェし。

 つーことで、サボらず働いてくれや!」


「へ~い……」





 >>>





「オレは【勇者】達を50人ずつの三部隊に分けた。


 遠距離からの攻撃を担当する『ジャック隊』。

 近接戦闘を担当する『クイーン隊』。

 状況に応じて他二部隊のフォローを担当する『キング隊』だ。


 ……とりあえず、各隊の隊長、副隊長とはツラ合わせしとくか」


 やはり組織となると最低限度の役割分担はあるのか。

 全員が【勇者】で構成された部隊をとりまとめる隊長、副隊長って……どんな人なんだろう?


「隊長格は特に、結構クセのあるヤツらだからな。ま、覚悟しとけよ?」


「……おじさんをして『クセのある』、って……本当に人間? ちゃんと意思疎通できる?」


「……オマエめっちゃ失礼じゃね? 国王よオレ」


「今更じゃない?」


「それもそうか。いや納得するのもアレだが……まァいいや。入るぞ?」


 この美核式鐘というオッサンが、『日本国王』になってしまった過程――それはもう色々と滅茶苦茶というか、ほぼ異能による武力行使、「征服」みたいなものである。

 法的な手続きとか多分全部無視して押し通したのだろう。

 重要ポストにいた人物を洗脳したり、邪魔してきた国内外からの刺客を雑にぶっ飛ばしてたりしていた。

 幼稚で単純で行き当たりばったり、でも力だけは強くて性質の悪い、【蜜技】という本来ならありえない術を土台にした、暴力的なやり方だった。

 日本をいきなり王制にしでかすのは頭がおかし過ぎる。やっぱりテロリストだと思う。

 そのおじさんから見てクセのある人たち、なんて本当に悪い冗談だ。

 ……なんか、途端に不安になってきたぞ。やだなぁ。





 >>>





 入口の扉は、スペースを贅沢につかった大広間に繋がっていた。

 長テーブルの周囲に大量の椅子が並んでいて、多くの人がそこでおしゃべりをしたり、カードゲームのようなもので遊んでいたりしている。

 彼らが式鐘おじさんの言っていた、【天秤地獄】にひきずりこまれてしまった【勇者】達なのだろう。

 そのほとんどはやはりファンタジーな世界観の服装に身を包み、くらくらしてしまう程の美形であった。

「理想の自分」をブサイクにしたい、なんて人はそうそういないだろうから当然だろうけど。


「おうオマエら! 戻ったぞ~!」


 おじさんが声を上げると、彼らはすぐにこちらに集まってきた。

 一応は「日本国王」で、【黄金具現】の産み出した男でかつこの集団のリーダーともなれば、【勇者】の彼らにしてもカリスマ性を感じる存在なのだろう。


「おー国王様だ国王様。今回はどんな無茶したんですか?」


「おかえり~」


「お、生きて戻ってきやがった! おい、賭けは俺の勝ちだぜ!」


「あれ、新しい人連れてる~式鐘さぁん、だぁれそのイケメン~」


 ……なんか、カリスマはあれど威厳はないっぽいぞ。みんなフランク過ぎる。

 まぁ慕われてるってことでいいのか。


「あァ、こいつ、拍都って言うんだわ。俺がかなーり昔からつるんでるヤツだ。

 さっきここに堕ちてきたらしい。新しくウチに加わるんで、よろしく頼むわ!」


「あ、えーと、よろしくです」


 急に大勢の人間に注目されて、間抜けな返答をしてしまった。

 顔の造形がおキレイな人が集まると妙な圧迫感を感じてしまうなぁ。


「ほほう、国王様の古くからのご友人ですか……」


「えっと、そんな感じ? です」


「マジかよ。この人とそんな長く? 根性がありそうだなぁ」


「あ、あはは……どうすかね……」


「式鐘さんって国王になる前はただのオッサンオタクだったって本当? それがどうしてこうなっちゃったの?」


「……どうしてなんでしょうね……僕にもさっぱりです」


「ま、とりあえずよろ~」


「よ、よろっす」


 ……転校生みたいな気分。

 囲まれて次々と質問とされてどうも落ち着かないけど、まぁ悪い雰囲気では無さそうだった。


「――――――フ、新入りか……」


 唐突に、深みと広がりのある声が聞こえた。

 周囲の【勇者】と話していたのに、一発でそちらに注目させられるような存在感。

 思わず声の主を探そうと、辺りを見渡していた……のだが。


「――では、どこまでやれるか、この我が見定めてやろう!!」


「へ!? う、うわぁっ!」


 身の危険を感じて真上を向くと、巨大な紫色の火球が僕に向かって落ちてきていた!

 轟轟と燃え盛るソレの迫力は相当で、思わず震え上がった。


(こ、攻撃!? こんなところで!?)


 焦りながらも飛びのいて躱す、が――


「――やるではないか。この我の奇襲を躱して見せるとは。ククク……これ程生きの良い戦士ならば、禁術の生贄として役に立ってくれそうだぞ――フハハハ……」


 その声は僕のすぐ真後ろから聞こえていた。

 一瞬だ。一瞬で僕は背後を取られていた。

 恐る恐る後ろを振り返ると――



 肌は非人間的な淡い黒。

 白い長髪は今まさに獲物を捕らえようとする蛇の様に蠢いている。

 黒目の部分は爛々と紫色に輝いていて、その中心に真っ白な瞳が浮かんでいる。


 人間ではあり得なかった。まさしく、怪物と言うべき存在がそこにいた。


 その怪物が、耳元までいくのではないかと思うぐらい大きく口を裂けた顔で、僕に笑みを向けたものだから――


「んんんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッ!!!」





 >>>





「だ――はっはっはァっ! は、拍ちゃん、ふは、すげェ声出たなオマエ……ぶふっ」


「う、うぅ……」


「ククク……無理もあるまい。我の行使できる一番の笑みだ……魔界の邪竜ですら恐れ慄くであろう……」


 あの笑顔を見せられて、僕はしばらくパニックになってしまった。

 おじさんに大笑いされながらなだめられ落ち着きを取り戻した僕は、怪物のようなこの人が【天秤地獄】攻略に協力してくれる【勇者】――それも隊長格の一人だと説明された。

 【黄金具現】による「理想の自分」への変化の作用が、彼を怪人じみた姿にしたのだろう。

 ……どういう理想を持ってるのやら。


「つーかおい隊長さんよぉ! いきなり何ぶっぱなしてんだよ~!」


「ホントだよ~びっくりしちゃったじゃん!」


 最初の火球はそのままだと僕の周囲の【勇者】にも当たっていただろう――いきなり攻撃された形になった彼らが騒ぎ出す。

 ……といっても言葉では文句を言っていても、気の抜けたようなテンションだ。


「ハ、あの程度我ら【勇者】にとってみれば、戯れと同じであろう? それにあれは言わば演出用よ。

 この我の強大さを小僧の魂に焼き付ける為のな! フハハハ!!」


「目立ちたがりかよ、この厨二魔人!」


「ま、『頭おかしい人』って印象は焼き付いたでしょうね~」


「む、厨二だの頭おかしいだの――不敬、不敬、不敬なるぞ貴様等!」


「事実だろー!?」


「――よし貴様等、あとでカードで賭け勝負だ! 根こそぎ毟り取ってやるから覚悟しておけ!」


「お、じゃあ返り討ちにしてやる~!」


 巨大火球で不意打ちされたのにこの和やかさ。彼らにとっては本当にちょっとしたおふざけだったらしい。心臓に悪いわ!


「ひ、ひひひ、腹いてェ……しかしよォ、ちょいとやりすぎじゃねェか? 拍ちゃんには刺激が強すぎだぜ……くくっ!」


「む、はしゃぎ過ぎたか……許せ、小僧」


「い、いえ、大丈夫っす……ハイ」


「見た目に反して悪いヤツじゃね~から安心しな、拍ちゃん」


 「悪いヤツじゃない」――それはなんとなくわかるんだけど、このノリに慣れるのはもうしばらくかかるかも……





 >>>





「改めて名乗ろうか。我の名はフォーデ=フィマ……全てを焼き尽くす紫炎の魔人である!」


「ど、どうも……名姫 拍都です……っつーかなんであんなことしたんですか……?」


「ふむ。貴様らが来るまで少し暇だったのでなぁ……いたず、もとい悪魔の戯れの計画を立てて時間を潰していたのだ。

 しかし他の【勇者】どもは我の悪魔の戯れにもう慣れてしまっている。新鮮な反応はもう望めん。それが少し残念でな。

 そう考えている所に久方ぶりの新人がやってきたとなると……まぁ、とりあえずやってみちゃうであろう? 要は魔界の風に導かれたのだ」


「ま、魔界の……風?」


「要はその場のテキトーなノリってことだなァ」


 悪いヤツじゃないけどロクなヤツでも無さそうだった。珍しいくらいに雑な厨二キャラだ……


「む、そうデタラメな奴を見る目をするで無いわ、不敬者が。

 閃いた事はとりあえずやっちゃうのが我の信念。その閃きが本当に馬鹿馬鹿しいものなのかどうかは実際にやっちゃわないとわからない物よ。

 思考の中だけで正義を導き出せる程に賢い者など、この世のどこにもおらぬ。この我ですら。

 体験でしか得られぬ真理は確かに在るのだ。実際に『やって』いないのなら『わかっていない』も同然。

 しかし『わかっていない』にも関わらず自分勝手に語る人間の多いことよ。嗚呼、嘆かわしい。我は貴様にはそうなって欲しくないのだ。

 故に、我が一肌脱いでやったのだ。どうだ、我が慈悲に咽び泣く事を許すぞ」


「……なんか深イイ話っぽくまとめようとしてますけど、魔界の風に導かれながら適当言ってませんか? いや言ってますよね?」


「ほう、度胸のある者は好ましいな。よいぞ、クク、精進するが良い……あと10年もすれば我が禁断の召喚術の為の生贄にぐらいは出来そうだぞフハハ」


「・・・・・・・・・・・・」


 茫然とするしか無かった。僕が言うのもなんだが、適当にも程がある。

 ビジュアルとギャップがあり過ぎるぞ。

 マントのついた中世の貴族のような服は、黒と紫のツートーンカラーで、それを纏う彼――フォーデさんはスタイルが良く、とてもサマになっている。

 勇者、というより魔王と言った方がイメージに近く、気品の高さすら感じる。見た目だけは。


「フォーデ、コイツもここの攻略に同行するからよ。詳しいことは後で話すが――ま、とりあえずよろしくしてやってくれや」


「クク……良かろう。拍都よ、存分に我を頼るが良い。許す。

 対価として処女の血を貰うが――」


「処女の血て……と、トマトジュースとかで良いですか」


「良いぞ」


「良いんだ……」


「ワリと好きであるし」


「ワリと庶民的ですね……」


「……あー、拍ちゃん、フォーデは様々な補助を担当するキング隊の隊長だ。

 『こんなん』だが意外と気が回るし、サポート系の【蜜技】も多く扱えるヤツだ」


「サポート役ってツラしてないだろ……」


「貴様等マジ不敬であるな!? 

 ……まぁ良い! この【天秤地獄】攻略において、このフォーデ=フィマの圧倒的な実力を見せつけ、その認識を改めさせてやろうではないか!

 ――喜べ、我がその気になったのだから貴様等は勝利したも同然である! フ――ハハハハハハハハハハハッゲホッゲホ」


「……笑い過ぎてむせてんじゃね~よ」



 し、締まらない……こんな人が隊長格の一人で本当に大丈夫なんだろうか。

 確かにおじさんの言う通り、隊長格の人達はクセが強そうだ……

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