毒をつけてあげましょう
この世はくそだ。汚い。吐き気がするほど汚い。
目に見える物体は言わずもがな、空気も、人間も汚い。
私は、この世界が、他人が、嫌いだ。
ガラララララッ
教室のドアを開ける。突き刺さるクラスメイトの視線。なんで学校来てんだよ、死ねという悪口。もう慣れた。
机に着いたらアルコール消毒をする。この机に誰が何をしたかなんて私にはわからない。そんな汚いものに触るなんて、できない。
人は皆、私のことを異端視する。変わっているって、潔癖症で人を信用できない私のことを普通じゃないという。私にとっては普通なのに。常識なのに。
普通の定義なんてない。あるとしたら本人が『普通』の定義にどのようなボーダーラインを引いて、普通と変わってるをわけるのか。それしかない。
周りに流されて、同調圧力を受け入れて生きるのを普通ととるか、1人になっても自分を貫くのを普通ととるか。それは人それぞれだ。私にとっては後者が普通だ。
授業を受けたくなくて屋上に行く。屋上から見える景色は綺麗だ。青空も曇り空も雨も雪も綺麗だ。
屋上から見下ろして見る教室。私がいなくてもお構い無しに進んでいく授業、日常。歪んだ教育、歪んだ友情。汚い。
昼休み。私は教室でご飯を食べる。1度空気に触れた食べ物は汚い。いつもコンビニで真空になっている食べ物を買い、お昼に開けて急いで食べる。
教室に居る男子も女子もお弁当を食べる。1度空気に触れた食べ物。誰かによって作られ、何を入れられたかもわからない食べ物。怖くないのだろうか。
ご飯を食べたらトイレに行く。上から降ってくる水。開かない扉。濡れた制服。汚い。
サボりたい5時間目。保健室に行き制服を乾かしてもらう。先生は虐めだという。私はいじめられてなんかない。そんな弱い人間じゃない。
6月という中途半端な時期に来た保健室の男性教員。沢山の人に笑顔を振りまく。私と同じ匂いがする。ああ、辛そうだな。仮面を付けて生きているなんて。
「先生、きっと先生は私と同じ」
「君と同じ?僕は人を守る立場だ。守られる立場じゃない」
「いいえ、強がっているだけ。あなたは私と同じ。きっと同じ感情を持っている」
「そんなことないよ。君と僕は違うんだ」
「なら、確かめてみればいいじゃない」
生徒という毒をもった私。先生という殻にこもったあなた。保健室で唇を重ねた。少し背伸びしないと届かない。汚い。
「君は僕を潰したいのかい?」
「いいえ、私は認めて欲しいだけ。また来るわ、先生」
先生と生徒の恋は普通じゃないという。私にとっては普通なのに。
きっと先生にとっても普通。
だって、私達は同じだから。
「先生、元気?」
「僕はいつでも元気だ。君はどうだ?」
「私は普通」
「そうか、ならいい。前みたいなことは辞めてくれよ」
「分かったわ、それ以上のことしかしないでおくわ」
「お願いだ、それ以下にしてくれ」
楽しい会話。これを恋と呼ぶのかわからない。恋のように汚いのかわからない。綺麗な花には棘や毒があるように私たちの関係にも毒がある。甘く、まとわりつく毒が。
最近知った。先生には婚約者がいるらしい。まだ結婚はしていないみたいだけれど。
なのに私を拒まない。とっても汚い。私が大っ嫌いな汚さ。でも、そこがいい。
いつしか羨望は嫌悪に変わると人は言う。私が周りから距離を置かれているのは、きっと私の容姿が羨望から嫌悪に変わったからだわ。
でも私は嫌悪から羨望に、変わることもあると思う。先生の汚さは好き。私と同じ匂いがするのにとっても汚い。そこが好き。うふふふ。