あまりに甘党な彼女はコーラ(こら)と叫んだ
「マジックアイテム! 天使の涙召喚! これであなたの人生は救済されるわ! さあ、私を崇めるといいわ。なにせこの私は最強のチーター、この世の最強の支配者なのだから!」
そんなことを急に言われても、本当、痛いのでやめてほしい。この女は誇大妄想にとりつかれた狂人なので、いつもこんなおかしなことばかりいっている。
ここはゲームの世界ではない。異世界でもない。ただの日本という先進国なのだ。この女はそれがわかっておらず、自分を神か悪魔だと思っている。
テストでマイナス十点という最低記録を更新したことが、よほどショックだったのだろう。
ああ、哀れなり。
「レジェンドウェポン、魔剣ゼロハリム召喚! 我は漆黒と紅蓮を極めし二属性の悪魔。この恐怖の存在にひれ伏して、悪魔との契約を結ぶがいいわ。それによってあなたは、悠久の大地へとやがて導かれていくのよ」
「マッスルボディ! プロテイン飲んでるか?」
やけにムキムキな先生が急に言葉を挟んできたので、俺は慌ててその口を塞ごうとしたが、もう遅かった。最強の神であり悪魔である彼女の顔が、歪んだ。
「我の邪魔をするとは、あなたを救済するわ!」
神と悪魔が混ざってわけわかんないことになっているが大丈夫だろうか。
とりあえず、なんとかしてこの女を正気に戻して、痛い子の狂人として全世界で有名になる前に、手を打たなくてはならない。
そうだな、この女の好きなものを与えてやれば、まともな人間らしい心を取り戻すかもしれないな。
購買部まで駆け足でいって、あいつの好きそうなものを買ってきてやった。おこづかいが残り百円の俺のおごりなのだから、一生をかけて感謝してほしい。一生、とはなかなか興味をそそるワードなような気がするなあ、ふへへ。
「ほら、甘党のお前にプレゼントだ。メロンパンだ。特製パン屋さんの、出来立てだ」
「コーラ!」
「え?」
「こら、と言ったの。あなた今、心の中で私に対して愚劣な感情を働かせたでしょう。そのことをしかったのよ」
「ま、まさか、お前能力者だったのか! このなんでもない平凡な世界で、ついに能力に目覚めてしまったのか。頭がおかしすぎて異常が発生して取り返しがつかなくなったんだな。実にかわいそうだと思うよ、本当」
「あなた私のこと馬鹿にしてるの。あなたは心の中で言っていたつもりでしょうけど、口から漏れてたのよ。そのぼやきが私の耳に聞こえたの。聴力いいからね、私」
「とりあえず、コーラ買ってきやったから飲めよ。おこづかいなくなっちゃったよ」
「ありがとう、それのみたかったのよ、だから、こら、最高ねと言わせてもらうわ」。
「こら最高って何さ」
「こら最高っていうじゃない。方言かな? いやそうじゃなくて、私はコーラ最高ね、と言ったのよ」
「ややこしい! お前、さっさと死ね!」
「ひどい。あなた、残酷な悪魔ね。仕方がないわ、契約してあげる。今日から毎日コーラを私におごる代わりに、神の祝福を毎日与えてあげるわ」
「いらん。とりあえず、こら、最悪だわ、といっておくよ」
「コーラ最悪だわ?」
「こら最悪だわといったんだ。お前、耳悪いな」
「失礼ね。私は聴力に関しては化物クラスの異能力者と言われていたこともあるのよ。昔、親父が病気になって寝込んだ時にこの能力に目覚めたわ。これによってぼそぼそと呟く親父の最後になるかもしれない言葉を、全部耳に入れることができてみんなに伝えられたわ。親父はそれに感動してちゃんと昇天したわ。安心して」
「昇天したんかよ! 親父可哀想だな。まあ、お前が新たな属性に目覚めてしまったようだから、俺はお前を元に戻すことは諦めて、さっさと異世界にでも転生することにするよ。金もないし、女運もないし、イケメンでもないし、ついでに俺の名前はなんだか覚えてるか?」
「忘れたわ。興味ない。喋らないで」
「こらだぞ、そんなことも忘れたのか」
「怒らないでよ、こらだぞ、なんて」
「コーラだぞ、って言ったんだよ。俺の名前は、コーラは」
女は高笑いをしてから、狂人のように変な顔をして大爆笑した。
「コーラ! 変な名前ー!」
今日も彼らの日常は平和だ。
明日もまた、平凡な毎日が始まるだろう。
感想があったらぜひください。どんなものでも泣いて喜ぶようなふりをして感動します。