走馬灯
初投稿となります!
これから宜しくお願いします!
「————こんなところでどうしたの? 」
街の隅で膝を抱えて飢えていた幼少期の僕に、そんな言葉を投げかけてくれた人がいた。その子は、当時の僕とさほど背丈の然程変わらない華奢な体の女の子だった。
「うーんと、休んでる......かな」
僕に話しかけて来たということを周りの状況から理解した僕は、唐突にそんな嘘を並べた。悪いとは思ったけど心配させたくない想いが強かったからだ。
「嘘、だよね。だって顔色悪いし......」
僕が罪悪感を少し抱きながらついた嘘はものの数秒で気づかれてしまった。まぁ、顔色が悪いのは認める、昨日の夜から何も食べていないのだ。————と、そんなことを考えていると急に僕の腹の虫が悲鳴をあげ始める。
「あ、良かったらお節介かも知れないけど、これあげる! 」
差し出された手には大きなバスケットがあり、中からはとてもいい匂いがしている。いいの? と問いかけるよりも先に手を出し、僕はもらったバスケットの中身を食べ物だと確認した後、勢いよく食べ始めた。
「ねぇねぇ、さっきも聞いたけどこんなところでどうしたの? 」
彼女は僕の隣に膝を抱えて座り込むと、僕が食べ終わった頃を見計らってか、バスケットの中身がほとんど空になった時に質問を投げかけてきた。
「多分、僕はお母さんとお父さんに捨てられたんだ。『お前はもういらない』って言われたからね......」
質問に率直に答えた、嘘偽りなく。僕の言葉の意味を数秒程で理解したであろう彼女は、その理由を目を丸くしながら問いかけてくる。
「えっ......。どうして? 」
辛辣な話であることは彼女も分かっているのだろう。彼女の声音は先程とはうって代わりやけに暗い。
僕は理由を答えたくなかった。話せば、間接的に自分を否定し、親への憎しみや哀感が混み出てくる。更には、家の内情を説明したとしても、何も変わらない。そう感じたからだ。
ただ、彼女には恩がある。空腹で飢えていた僕に食べ物を分け与えてくれ、今だって話を聞いてくれている。話す他なかった......。
「————僕の家は、僕の目から見ても裕福だった。少なくとも、周りに疎まれることがあるぐらいには。それで、僕には姉弟が2人いるんだ。憶測だけど、僕が捨てられたのも姉弟が優秀すぎたせいだと思う。」
ここまで話したところで、彼女の顔色を伺ってみる。彼女の顔は先程同様、真剣な顔つきで僕の次の言葉を待っていた。
「僕の家では、勉強は二の次なんだ。優先するのは魔法が上手く扱えるかどうか、それに至っては僕は姉弟の中では群を抜いて下手だった。だから、捨てられたんだと、思う......」
「そっか...... 」
彼女も返す言葉がないらしい。返したところで慰めにもならないことを知っているからだろう。
少しの間、会話もなく時間だけが過ぎる。すると、ふと何かを思いついたかのように愛らしい顔をこちらに近づけてきた。
「じゃあさ、家においでよ! 私の家で一緒に暮らすの!————って、あははっ! 」
突然、彼女はそんなことを言い出し、一人で腹をかかえて笑い始める。どうも、笑いだした理由は僕の顔にあったらしい。まぁ、僕の顔が驚きでおかしなことになってることくらい自覚はあったけども。
「それ、本気で言ってる? 」
「本気じゃないのに男の子を家になんて誘わないよ! しかも、君と一緒に暮らすのも楽しそうだし、私の親も絶対了承してくれるはずだからね」
笑いが収まったらしい彼女は、はにかみながらこちらを見つめてくる。
「で、でも...... 」
そこから言葉を繋げようとするが、何も言えなかった。ここで、無理言って断ったとしても、僕には行く場所がない。とんとん拍子で進んだ突飛な話に数分悩んだ挙句、僕は彼女の話を有難く飲むことにした。
「————そう、だね。君がいいって言うならしばらくお邪魔させて貰うよ。親御さんには申し訳ないけど...... 」
そこまで言うと彼女は目をキラキラさせて、急に僕の手を握り勢いよく立ち上がった。
そして、彼女の家の帰路を少し進んだところで、ふと何かを思い出したかのように、彼女はこちらを振り返った。
「あ、そうだ、自己紹介しよう。私は リエル。君は? 」
「僕は、コウヨウ。これから宜しく リエル」
「うん! 宜しくコウヨウ! 」
二人共の自己紹介を終え、先程まで僕のいた路地の隅を振り返ると、日没で移動した夕日に照らされていた。
「あ、ちなみに私たちパーティーを組まない? 」
「え......? 」
————これが、齢13歳の時の僕、コウヨウの記憶。
・ ・ ・ ・ ・ ・
生まれて初めて体験した、走馬灯。ここまでくっきりと記憶を見せるものとは以外だった。雨に打たれながら、過去の記憶を思い出す。
「クソっ、何が宜しくだよ......、 結局何一つ守れなかったじゃないか」
独り言で虚勢を張り、必死に混み出てくる哀感を誤魔化している。今、目の前に映る無残な光景に、ただただ立ち尽くすしかなかった。何故ならそこには、血を流し横たわるリエルの姿があったのだから......。
————雨で広がった血溜まりはとても綺麗かつ無慈悲で、いつになく目頭が熱くなった。