第1話:たんぽぽになった王子様
とある国のとある原っぱ。
冬の間寒さに耐えるように押し黙っていた草木や花々は、やっと温かくなったことが嬉しくて、それはもうおしゃべりに夢中なご様子。
うわさ話や恋のお話に花を咲かせて、あっちでクスクス、こっちでクスクス。
原っぱは春満開です。
その原っぱの片隅に、黄色のまあるい頭をもたげた、陽気でお調子者の花たちの集落がありました。
その中に、一際金色に輝く上品な花が一輪おりました。
「全く。のんきなもんだぜ。おれ達の気も知らないでさ!」
そうぶつくさ文句を垂れているのは、せっかち者の青年ドム。
「ああ〜、ステキ!私もあんな恋がしてみたいワ。」
そううっとりと見惚れているのは、夢見る乙女のナナ。
視線の先には、毎日この原っぱに現われる、一組の物静かな男女がいました。
ドムとナナはその二人を見ては飽きもせずに、同じセリフを繰り返しています。
「おい、お前どう思う、あの二人。くっつくか?それともだめか?!」
なかなか進展しない二人がじれったいドムは、その一際金色に輝く上品な花に聞きました。
するとその花はこう答えました。
「私ならばさっさとあの女性を抱き寄せてものにしている。それで私になびかなかった姫はいない。」
そして、フンとあごをしゃくってみせました。
ドムは、あきれた、と言わんばかりの表情で、
「おいおい、お前はいつもそれだな。そうじゃなくてさ。あの二人ならどうするかって話をしているのさ!」
とおおげさに首を振ってみせました。
どこからか飛んできたてんとう虫をアクセサリーにしたナナが、おかしそうにクスクスと笑いながら割って入ります。
「彼にそんなこと聞いたってだめよ、ドム。だって、彼は魔法をかけられた王子様なんだもの!あんなじれったい恋なんてしたことがないのヨ、きっと。」
そうなのです。
この一際金色に輝く上品な花。
なんと、王様の魔法でたんぽぽにされてしまったリッピ王子だったのです!
昨日まで、甘いマスクと王子のステイタスをいいように使って楽しく遊びまわっていた王子のことです。
魔法をかけられた自分の姿に、大変なショックを受けたことは言うまでもありません。
甘いマスクはもうありません。あるのは黄色くてまあるい頭だけ。
遊びまわることはもう出来ません。だって、今の彼は動くことすらままならないのですから。
身の回りの世話をしてくれる優しいばあやもここにはいません。
王子はがっくりと首を深くうなだれると、溜め息をついて下ばかり見ています。
王子の耳には、他の花たちがにぎやかに咲かせるうわさ話も恋の話も入ってきません。
あるのは、早く元の姿に戻もどりたいという強い願望だけ。
話しかけてくれるドムやナナに対しても、冷たくえらそうな態度をとるばかり。
「ああ、いったいどうしたら元に姿にもどって、また楽しく遊びまわることができるのだろうか・・・。」
せっかくの春だというのに、ただ一人、王子だけが暗くて悲しい顔をして毎日をやり過ごしていました。