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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

歪み

作者: 一切


(件名なし)

GD

GOTO Daichi(sb0063xf)

2018/04/12 (木) 23:47

受信トレイ; 送信済みアイテム

宛先:

GOTO Daichi(sb0063xf);



歪み

とかく、北尾は細川を非常に軽蔑していた。細川良平には、周囲に反抗する性質があった。教師にしばしば反抗態度をとっていた。号令を無視したり、提出物をわざとサボタージュしたりした。怒鳴られようが笑われようが、それを通した。北尾正義は、彼とは正反対の性質の優等生であった。彼はなんでも教科書通りに信じるような、教師から見ればおそらく模範的な少年であった。名の通り、非常な正義漢で、そいつが時々、良平の顔を見て注意した。「そんなんでは、社会に出たら絶対苦労するからな。」

[社会に出たら、絶対苦労するからな!]これがこの男の口癖であった。度々にらまれたが、良平は行動を改めなかった。諭されると毎回、ただ一言、「そうかも、しれないね_」と返した。このように返されては、諭す方は拍子抜けするようだが、北尾にはそのような心配はなかった。それは、良平が「感じやすい」人間だったからである。つつくと、顔を赤くしたり青くしたり、くるくる変わるのである。(彼は非常にその傾向が強かった)見ていて、決して退屈になるようなことはなかった。

 良平は留年せずに、何とか高校を出た。(親が学校に贈賄したとのうわさもあった)しかし、細川の卒業が決まったとき、北尾はたいへん不愉快であった。留年の決まった間抜け面の彼を指さし、「ハハハ、やはりお前は間違っていたのだ。」と嘲弄するつもりであったのである。

 帰り道、心配そうな表情で、細川に話しかけた。いっぱしの教育者のつもりだったのである。「将来のこと、真面目に考えなきゃいかんよ。あと数年だろ?将来どうするつもりだ?」細川は黙々と歩きながら、相手の目を見ず、返した。「バイトしながら、小説書く。」やはりアタマお花畑族だ。「あなたの考えはよくわかります。しかし、日本人には勤労の義務というのがあります。そのような考えでは、今は良くても必ず苦労しますよ。」細川は顔を赤くして、それでも一生懸命に目を見張って返答した。「うん、苦労はするよ。でも、どんな生き方をしても、結局苦労はするんじゃないかな_」北尾はさらに追い打ちをかけた。細川をおこらせようとしたのである。「自分はうまく小説が書ける。君が勝手にそう信じてるだけ。誰もそう思ってない。独りよがりの考え方してもねエ。」良平はただ、「_そうかもね_」と返答しただけであった。あてが外れた。北尾は足元の石ころを一つ蹴飛ばした。冷たかった。

 卒業した後、二人が出会うことはなかった。キャンパスがお互い遠いせいもあったが、それだけではあるまい。つまり、良平は北尾を恐れていたし、北尾も良平に会うのが不愉快だったのである。

 北尾は夢を見た。戦争が起こった夢だった。良平が徴兵され、敵弾に狙撃された。正義は透明人間になって、向こうからそれを目撃した。はじめ、戦場のあまりのむごたらしさに目をそらした。しかしある瞬間、彼ははっきりと知った。太陽のように、はっきりと自覚した。いま目をそらしてはいけない。俺は必ず、こいつの最後を見届けなくてはならぬのだ。愚人が苦しみ終わるさまを、確認する必要があるのだ。乱れ髪の一筋、表情のゆがみを1mm逃さず、目に焼き付けておく必要がある。北尾は目を上げ、まっすぐに目を見据えた。目が血走り、野獣のそれを連想させた。細川は苦しみ悶え、汝の罪のさいなまれ、みるみる弱っていった。彼はまるで、肉食動物が獲物の窒息死を待つように、残酷なエゴイストの目をもって、断末魔を見ていた。

せいぎのなかに影はある。自分だけは正しい、という自覚。

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