その99
女子も男子も編入生というワードに好奇心が心踊っている様子。そして先ほど噂の転校生の話をしていた男子の一人が納賀先生に質問した。
「先生!編入生は男ですか?女ですか?」
とっても輝く希望の眼差しで挙手する男子生徒に先生はふっふっふ、と意味深に笑い、そして。
「喜びなさい、男子諸君。女の私まで見とれるくらいの絶世の美少女よ!」
ホホを少し赤く染めてそう宣言すれば、俺以外の男子生徒全員の雄叫びが教室に木霊した。すげーな。女に飢えた獣みてーな叫びだぞ。廊下にいるであろうその美少女、多分引いてるかもな。
かくいう俺も少しばかり楽しみなんだけどね。獣と化した男子ほどじゃないけど。
「はーい皆静かにー!HR中なの忘れないでねー!」
手をパンッと叩いて教室を静まらせる先生。そしてようやく手招きされてその絶世の美少女とやらが教室に入ってきた。
肩まで届く金髪にタレ目なわりに意思の強そうな瞳の女の子。
その子を見た瞬間に思い出した。
恥ずかしいセリフと恥ずかしい行動でチャラ男から救ったあのときの女の子のことを。
「………あ、」
あのときの子、と呟く前に男子達の興奮気味な声で教室は埋め尽くされてしまった。
「可愛いー!!つか美人!!」
「うわー今回はガセじゃなかった!よっしゃー俺にも希望はある!」
「美少女万歳!!」
めっちゃ喜んでるよこいつら……美少女だからって喜びすぎじゃね?そんでもって恨めしそうに男子を睨むクラスの女子に謝れ。
「じゃあ自己紹介よろしくね!」
「はい、納賀先生。白石 心です。初めは何かとご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀する姿に見とれる皆。男子だけでなく女子も見とれてしまうほどの綺麗なお辞儀だ。
だが、白石という女の子と誰かの姿が重なって、俺は見とれるというより凝視する形で見ていた。
なんか、今の礼儀正しいお辞儀、どっかで見た気がするんだけどなぁ……
心の奥で何かが引っ掛かる。
首を傾げるも、自分の中で何が引っ掛かっているのか解明されず、白石さんの自己紹介を黙って聞いていた。
「じゃあいくつか空いてる席があるから、自由に座ってねー!」
先生の指示でぐるりと教室を見回す白石さん。そしてふと視線が俺に止まった。
じっと見つめられてる。めっちゃこっちガン見してる。え、何?なんでそんな見つめちゃうわけ?
「私、柳さんの隣が良いです」
さっきとは別の意味で首を傾げる俺ににっこり微笑んでそんな嬉しいことを言ってくれる白石さん。可愛い女の子にそんなこと言われて嬉しくないわけがない。けど残念ながら俺の隣には轟木がいる。諦めてもらうしかない。
「あら、柳くんと知り合いなの?でもごめんねぇ、隣は轟木さんがいるから他の席に……」
納賀先生が他の空いてる席を指差すと、残念そうにそこへと向かった。だがしかし、かなり近い。轟木の真後ろ、俺のナナメ後ろの席に座って俺の方をチラチラと見ている。やだ、モテ期到来?
なーんてちょっとばかし浮かれてたら男子の俺へと注ぐ視線がさっきのとは違うものになってるのに気付いた。
さっきまでは異常者を見る軽蔑の眼差しだったのに今は「なんでお前ばっかり良い思いするんだよ」と言葉が浮き彫りになって殺意の籠った死線、いや視線が四方八方から突き刺さってきてる。前より心の壁ができた気がするんだけど!?つーか良い思いって何さ?身に覚えがないんですけど。
女子ならいつも通りだよな……とそろぉっと周りを見ると、涙の滲む歪んだ顔で白石さんと俺を見、そしてすかさず目をそらすというわけの分からない行動をとっていた。なんのこっちゃ。
それを見て見ぬフリしてHRを再開する納賀先生。変態路線以外ホント眼中にねぇなこの教師。
「先日言った通り、今日の午前の授業は霊能科との合同授業よ。1時限目が始まる前に校庭集合だから、各自移動の準備をするように!」
合同授業は午前の授業全部を使うみたいだ。
つい今しがた発していた殺気と憎悪と嫉妬にまみれた眼差しはどこへやら。目を輝かせてぶら下がっている餌が落ちるのを待つ犬のようにうずうずしている皆。なんて単純な奴らなんだ。
「あ、でも校庭についたら寮で同室の子を探してペアになってねー……っと、もう行かなきゃ!じゃあ校庭に集合ね!」
明らかに説明不足なまま生徒を放って慌てて教室から出ていく先生。若干狼狽えながらも校庭に行くためにぞろぞろと廊下に出るクラスメート達。
「轟木、行こうか。白石さんも道分かる?」
席を立って教室から出ようと轟木に声をかけ、白石さんにも目をやる。
「皆さんの行く方向に向かえば校庭はありますから、大丈夫です」
「それもそうか。白石さんは誰とペアなの?」
「久ヶ島さんです。知りあいですか?」
「ああ、イオリちゃんか。俺と同室の奥ヶ咲の友達だよ。喋るの苦手だけどすごく良い子だから仲良くしてあげてね」
イオリちゃんと同室かぁ。てことは、白石さんが編入してくるまではイオリちゃん一人だったのかな。男子寮も女子寮も全室二人部屋だけど、住んでるのは一人だけのとこもちらほらあるみたいだからね。
気がつけば白石さんと轟木と俺だけになっていた1年1組の教室。早く行こうと歩を進める俺についてくる白石さん。
階段を降りて下駄箱を通ったところで言葉を発さなかった白石さんが口を開いた。
「轟木さん、どうかされたんですか?あなたに手を引かれるままに何も言わず従って……まるで人形みたいです」
少しムッとしたが、編入してきたばかりなのでそう思うのも仕方ない。
「轟木は人形じゃないよ。数年前にちょっと事故にあって、こうなっちゃっただけ。いつかは心を開いてくれるって信じてる」
真面目にそう言うと、白石さんはふっと柔らかい笑みをこぼした。
「そうですか」
それ以上は何も言われなかった。
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校庭ではめっちゃ沢山の生徒と教師が数人いた。すげー……何百人いんだよ。これだけ沢山の生徒が全員一年生なんだぜ?びっくりだわー。
普段普通科の生徒と霊能科の生徒が一緒に行動することがないためとても信じられない光景だ。月曜の集会でも、霊能科は皆妖怪討伐に専念するから体育館にいるのは普通科の生徒のみ。それでも結構いたはずだ。1学年につきこんだけの生徒数ってすごいと思う。
そんだけ沢山妖怪が見えるやつがいるってことだよな。
神様の誰かが言ってたっけ。昔は妖怪が見える者が異端者として社会から拒まれていたって。それが今やこんななんだぜ?笑っちゃうくらいすごいよな。
「おい柳、こっちだ」
二人組でペアになってる人達の中でひとりやや青ざめた奥ヶ咲の姿を発見。人の多い場所が苦手なんだな。
奥ヶ咲に向かって手をふって応える。
「奥ヶ咲!良かったー、こんだけ人いるとどこから探せば良いのかわかんなくなるもん」
「全く同感だ」
こめかみを押さえつつはぁ、とため息を漏らす奥ヶ咲。ふと気がついて俺の後ろにいる轟木と白石さんに目をやった。
「ん?そいつらどうしたんだ?」
「ああ、一緒にペアの人を探してたんだ。イオリちゃんと同室の白石さんとクラスメートの轟木だよ」
「白石 心です。以後よろしくお願いします」
「そうか。奥ヶ咲 雪だ。よろしく」
簡潔に自己紹介した直後、後ろからにょっと人影が出てきた。ひとりだと思ってたら違ったみたい……って。
「イオリちゃんか、びっくりした……」
相変わらず気配を感じさせず近付くことの多い美少女イオリちゃんが顔に表情を乗せずこちらをじっと見てきた。
「…………イチャ……してる」
イチャ?ど、どんな単語だ。口数が少なく言葉足らずなのも相変わらずだ。そしてやはり解読不可能。
「コラ、イオリ。嫉妬してないでちゃんと白石……だっけ?一緒にいなきゃ駄目だろ」
頭を軽くポンッと叩いて叱る奥ヶ咲に少しだけ不機嫌モードに突入するイオリちゃん。え、今の嫉妬してたの!?何に対して!?つか表情無かったのによく分かったな奥ヶ咲!
内心狼狽えていると白石さんがイオリちゃんに歩み寄った。
白石さんが一歩近付くごとに後ろに下がって警戒の色を見せるイオリちゃん。そんな彼女に少しだけ厳しい口調で諭すように言う。
「久ヶ島さん。私のことが嫌いなのは構いませんが、授業はきちんと受けなくてはなりませんよ」
白石さんのその言葉にちょっとびっくりした。イオリちゃん、白石さんのこと嫌いなの?
奥ヶ咲の後ろでじっと白石さんを見つめるイオリちゃん。いや、若干睨んでる?
「…………ない」
またもや解読不可能な単語。白石さんも首を傾げている。そして久々の助け船が出た。
「嫌いではない、と言ってる」
今の二文字で通訳できるってすげぇな奥ヶ咲。
「では何故私を避けるのです?私、あなたに避けられるような行為はしてませんよ」
するとイオリちゃんは躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「……ひと…………におう」
「……は?」
イオリちゃんのポツリと吐いた単語に奥ヶ咲は目を見開いた。通訳できないんじゃなく、その言葉に驚愕している。
「いや、それはさすがにお前の勘違いじゃないか?サイレンも鳴ってないし……」
「………でも、におう……」
「俺だってお前を信じたい。けど現にサイレンは鳴ってない。もしそうなら学園が対処してるはずだろ?」
「……………ぅん」
突如切り出された二人の会話についていけない。
「え……っと……」
白石さんも困り顔じゃんか!俺ら置いてきぼりやめて!
「イオリのやつ、白石から人じゃない匂いがするなんて言ったんだ」
白石さんと二人して困り顔してたらいきなりこっちに話題振られた。でもおかげでなんでイオリちゃんが白石さんを警戒しているのかわかっ……
……え、白石さんから人じゃない匂いがする?




