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94/230

その94

 下手したら禁術になるような厄介な術を使ったというのに、相変わらずの冷ややかな微笑。この人に感情があるのか?と疑いたくなるレベルだ。


 それはそうと、まだ数人賢陽鬼が残ってる。どう始末するのか。先程のような禁術に近い術を行使するのか。……なんとなく緑弦さんはやりそうだな。


 仏頂面賢陽鬼達は仲間が消えたという事実を受け入れられずに狼狽えている。



「その紙……貴様、陰陽師か!だが何故妖気を発している?」



 仏頂面賢陽鬼の問いの答えは至ってシンプルだった。



「術を使っただけだよー」



 あっけらかんと言い放つ優男風の冷徹な男を睨みつける。



「そんな珍妙な術、お前達の世界では禁術に値するものだと思うが?」



 え、そうなのか?まさか緑弦さん、禁術ばっかり使ってるのか?



「……それが何?サツにバレなきゃ良いんだよ」



 ……物凄く不本意だが激しく同意してしまった。



「我らを殺すか、陰陽師。……禁術を立て続けに使えるほどだ。抵抗しても無駄だろう。やるならさっさとやれ」



 両手を上げて降参の意を示す仏頂面賢陽鬼。その後ろにいる奴の仲間も似たり寄ったりだ。



 これでようやく終わる。


 緑弦さんのやることは不可解なものばかりだったが、ようやく解放される。緑弦さんが残りの賢陽鬼を討伐すれば……


 だが僕は油断してしまった。緑弦さんの不可解な行動がまだ続いていたことに気付くのが遅かった。



 護符を右手に構え、前に突き出した。



「君達にはもう少し役立ってもらおうかな」



 いつもより一層怪しく口角を上げ、符が光りだしたと思ったら、ガラスが割れたような音が上から聞こえてきた。


 ガラスを割ったのか?そんなことすれば外の人間に被害が及ぶのに。


 地下だからか全く音が聞こえてこない。だが騒ぎになってるのは間違いないから警察は来るはずだ。


 何考えてるんだこの人は!



「緑弦さん!」



「ホラ、早く逃げないと警察来るよ?俺らももう用はないし、少なくとも貴重な情報を手に入れたからね。今はこれで十分」



 僕のことなんて無視して、逃げるように促す緑弦さん。賢陽鬼達も何かを探るように疑念の眼差しを向けるが、外から人が来る気配がした。階段を上がる音、下がる音。こちらにも近付いている。警察か……以外に早かったな。



「……ちっ。何を考えてるかは知らんが、あまりこちらの情報を探る真似はしない方が身のためだぞ。あの方々は怒ると怖いからな」



 スーツの内ポケットから取り出した小さな四角い箱を床に叩きつける。すると、一瞬にして光が溢れて視界が眩んだ。



「……っっ!!」



 そう長くない時間視界が真っ白だったがすぐにそれも納まり、目を開けたら賢陽鬼達の姿はなくなっていた。


 任務内容は『賢陽鬼の群れを討伐する』。だが討伐できなかった。これは……任務失敗だ。



「緑弦さん……任務失敗ですよ。何やってんですか!何ですぐにとどめを刺さなかったんですか!?」



 任務失敗なんて滅多にないからかカッとなってしまった。あくまで微笑を崩さない緑弦さんだが、いつになく強い口調で言った。



「討伐しちゃったら、利用できるもんも利用できないでしょう」



 緑弦さんが放った利用できるという言葉に内心混乱した。


 何を利用するってんだ。


 にこにこ笑顔を崩さない緑弦さんの真意が本気で分からなかった。




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