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その90

 南雲家の門の前で落ち合うことになり、急いで向かうも一足遅かった。



「待ちくたびれましたよ~清流様」



「緑弦さんが早すぎるんです」



 これでもかなり急いだのに。


 涼しげに微笑む緑弦さんに少しばかりイラッとした。



「で、賢陽鬼の群れはどこにいるんです?」



 歩きながら真っ先にそう質問した。



「あー……ちょっと驚く場所にいるんですよ」



「驚く場所?意外と近いんですか?」



「まあ近いっちゃあ近いんですけど、森とか人のいない場所じゃないんです」



 人のいる場所にいるってことか。人間にちょっかいを出すのが好きな賢陽鬼にとっては珍しくはないが、森付近にいないのは少し変だな。


 人の少ない小道から車や自転車の多い大通りに出る。日曜日の、しかも朝早い時間だからか、車は渋滞になりかけてる。旅行などで出掛ける家族だろうな。幸せそうに笑う子供とその親がチラチラ見えた。


 陰陽師の家に生まれなければ、僕もあんな未来が待っていたのだろうか。




 信号が青になり、渋滞していた車の列は徐々に崩れていく。


 信号を渡ると小さな店やマンションが立ち並ぶ通りに出た。ここから先は人口の多い街に繋がる道しかない。まさか、この先にいるのか?



「こっちですよ」



「…………ただの廃墟ビルですね」



 マンションの横にひっそりと佇む、存在が意味を成さない廃墟ビルを指さす。人の出入りはもちろんなく、誰かがいる気配もない。それどころか、通り過ぎる人達に認識されてるのかとすら思えるほど影の薄い建物だった。


 あまりに何も気配を感じないので緑弦さんに疑いの眼差しを向けた。



「何もいなさそうですが?」



 妖怪の気配なんて全く感じない。そこらの廃墟と同じ、ただボロくて存在が薄いだけ。



「いますよ。気配を殺してるだけです」



「僕には感じませんが」



「清流様は探知能力が劣ってますからねぇ。仕方ないですよ」



 悔しいが言い返せない。


 微弱な力を探知するのに長けていても、圧し殺された気配を探知する能力は僕には欠けてるから。その点は緑弦さんに負ける。



 緑弦さんに頼るのは癪なので自力でなんとか探知した。……だが、探知した瞬間絶句した。



「……10……いや、それ以上……?なんでこんな数の賢陽鬼が…………」



 賢陽鬼は本来、森で暮らしている。他の妖怪にちょっかいを出して遊んだり、妖怪を見る素質のある一般人を脅かしたりとイタズラ好きな反面、頭が良く人に化けて人里に現れ悪事を働くこともある。


 だが集団でいることはあまり見かけない。というか賢陽鬼の性格的に互いに衝突して馬が合わないため集団と化すこと事態極々稀だ。あっても2、3匹くらいだろう。


 だからこの異様な数の賢陽鬼に驚かざるを得ない。



「あれ?せっかく教えてあげようと思ったのに自力で探知しちゃったんですか?」



「頑張れぱできることを疎かにする必要はないので」



「可愛くないなぁ……まあ良いです。まさか10を越してるなんて思わなかったですよー。依頼書では5匹のはずなんですけどね」



 右手に持つ依頼書と廃墟ビルを交互に見る緑弦さん。そしてふと僕の方を向いた。



「清流様、どう思います?」



 どう……と言われても。依頼書と数が合わなかったことは想定外だが、討伐するのに変わりはない。



「少し手間取りますが、ビルの中なら人目を気にせず討伐できると思います。賢陽鬼は一般人の視界に入りやすいので、ある意味最適な場所かと……」



 廃墟ビルからの十数体の圧し殺された妖気を敏感に感じながらそう答えれば、緑弦さんは口の端を嫌らしく上げた。



「おや。清流様は案外子供なんですね」



 その言葉にムッとした。


 いったい何が言いたいのか。



 緑弦さんに詰め寄ろうとしたとき、人差し指を口元にあてて静かにするよう促された。



「しっ。来ますよ」



 その直後、人影が廃墟ビルからひょっこりと顔を出した。


 辺りをキョロキョロしながら出てくるその異形の者の気配を感じないはずはなかった。


 どんなに上手く隠しても隠しきれない妖気を肌で感じ、嫌悪感で眉を寄せる。



「ありゃ。俺達の霊力に気づいたかもしれませんね」



 注意深く、何かを警戒している様子の賢陽鬼を遠目に見ても声色を変えず間の抜けた声をだす緑弦さん。もしそうならここに留まるのはまずい。


 周りには通行人もいるし、術を使えばおそらく巻き込んでしまうから表立って術を行使できない。なので見つかった場合の対処が難しい。だが緑弦さんは隠れる気があるのかないのか、こうしてマンションの周りを囲ってる身の丈の半分ほどの花壇に身を隠してるのに緊張感が全くない。


 どういう神経してるんだ、と思いチラリと緑弦さんの方を向けば、それはそれは楽しそうに口元を歪ませていた。



 何も写さないその瞳からは何も感じないのに、なんか……すごく嫌な予感。



「……緑弦さん?」



「遠目からだと分からないなぁ……よし、行きますか」



 何が分からないんだと疑問に思ったのも束の間、にっこり笑って討伐に行く意思を示す。



「そうですね。早目に片付けましょう」



 花壇に隠れるように屈めていた身体を持ち上げ、廃墟ビルに真っ直ぐ進もうとするも緑弦さんに止められた。



「待ってください。討伐は後です。調べたいことがあるので、ちょっと偵察しに行きましょう」



 にっこり笑顔を崩さずに訳の分からないことを言い出した。


 さっさと討伐すれば良いだけなのに、何を調べる必要があるのか。



「調べたいことってなんですか?というか、何かを調べる意味が見出だせないんですが」



「ははっ、やっぱお子様ですねー。見事に討伐しか頭にない」



「…………」



 否定はしない。だが、それが何故お子様思考という結論になるのか理解に苦しむ。ジト目で緑弦さんを見るも、笑顔は一切崩されない。



「あくまで憶測ですけど、今日開かれる会合に関わることかもしれないんで」



 さらっと言う緑弦さん。その言葉には驚くしかない。



「それって、どういう………」



「あ、賢陽鬼がビルの中に入っちゃいましたね。追いかけましょう」



 賢陽鬼と今日の会合がどう関係するのか聞こうとしたが、それは叶わなかった。


 困惑する僕をよそに懐から符を取り出し、術を唱える。



「大気を揺るがし姿形を変えよ。幻象霧(げんしょうむ)



 一枚の符から白い霧が発生し、瞬く間に緑弦さんを覆い隠した。



 初めて聞いた詠唱だ。どんな術だろう。



 やがて霧は薄れ、少しずつ緑弦さんの姿が露になる。


 だが、それと同時に僕は腰の愛刀に手をかけ、臨戦体勢になっていた。



 ………何故、この人から妖気を感じる?



 霊力から妖気へと変わっていったのを確かに感じた。


 忌々しいそれを放つ緑弦さんの姿がはっきりと視界に入った。見た目はどこも変わってない。力だけ変質したようだ。


 刀を構える僕を見てヘラっと笑った。



「やだなぁ、そんな警戒しないで下さいよ。これが幻象霧の効力なんですから」



 力を変質させる術なんて聞いたことない。だから余計に警戒してしまう。それを見かねてか、緑弦さんは両手を上げて白状した。



「ま、霊力を妖気に変える術なんてそうそう在りませんしね。警戒するなって方がおかしいですよね。すみません。実は今の術、昔読んだ書簡に載ってた術なんですよ。今んとこ俺以外に使える人を見たことがないです」



「……効力は、どれくらい……」



「あー大丈夫ですよ。一時間程で効力消えるので。一時間もあれば調べ物もすぐ終わりますよ。さて、次は清流様の番ですよ」



「まさか僕もその術を……っ!?」



 否定も肯定もせず、微笑の仮面を被ったまま符を取り出した。緑弦さんが先程使ったものと一緒の符だった。



「潜入開始、ですね」




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