その88
体育館についた俺に否応なしに視線が集まる。頬を赤く染めた女子達からの視線はもう慣れてきたけど、男子達からの嫉妬と羨望と怒りと悲しみに染まった痛い視線はいつもの倍以上の威力があった。その中には美少女をナンパしてた男子の姿も見える。
「おー、遅かったなー」
「ああ、ちょっと色々あって……」
痛くも痒くもない視線をあびる中そそくさと高築のもとに行くも高築まで距離をとってる。開いてた心の距離が現実化したようだ。
「聞いたぞー。美少女をナンパから救ったんだって?」
話が広がるのはえぇ……
「巻き込まれることはあっても自分から首突っ込むのってあんまないのになー。やっぱ美少女相手だとヒーロー気取っちゃうのかー」
棘のある言い方でこちらに冷たい視線を送る高築。嫉妬の眼差しよりもこっちの方が心に刺さるのは何故かな。
「ヒーローって……ただほっとけなかっただけだけど」
冷めてる目がすっと据わり、一言。
「ヒーローは皆そう言うんだよ。天然かますんじゃねーよクソイケメン」
ドスの効いた声で言われてボッキリ心が折れました…………
あれ完全に俺を敵と見なした顔だったよ。明日にはもとに戻ってるといいな。希望うっすいけど!
高築も構ってくれなくなり、結局いつもと変わらず一人で術の練習をするはめに。ぐすん。もういいやい!誰も構ってくれなくても練習はきっちりやるから良いもんね!
気持ちを切り替えて隅っこに寄って術を発動するときの基本動作を思い出しながら力の流れを確認する。
南雲みたいに強力な力はない。もし北里先生が言ってたように潜在的にあったとしても今の俺には分からない。だから微弱な力の流れを感知してそれを身体の外に放出する感じで、あとは術を唱える。
「雷証」
一瞬だけ、だが確実にピリッとした。静電気くらいの小さな小さな力。あまりに小さすぎて距離はあっても一番近くにいた高築ですら気付いてない。
目を閉じてもう一度集中する。力の流れを感知するとこまではさっきと一緒だけど、今度はただ単に力を放出するんじゃなく、力を符に乗せる感じ。上手く力が乗れば、符に描かれてる紋様がそれを察知して術の手助けをしてくれる。だから威力が跳ね上がる。
そっと目を開き、もう一度術の名を口にした。
「雷証っ」
すると今度は誰の目にも見えるほど大きな電流が一直線に天上付近まで迸った。
周りはしぃんと静まり返っている。だがやがてざわつきはじめた。
「え……何今の!すごい雷だったよ!?」
「あの蒼い髪の人がやったの?」
「まじかよ……早くも霊能科入りか?」
等と言われてるが、実際はまだ霊能科に移動できるだけの実力ではない。
最低でもD地区の妖怪を討伐できるくらい強くならないと霊能科への移動は考えられない。だからこれくらいで浮かれるのは駄目。駄目……なんだけど……
「や……った!」
小さくガッツポーズをしてしまうのは仕方ない。
そよ風しか起こせなかったのにすごい進歩だ。南雲と同じで風系は苦手なだけだったのかな。初歩的な簡単な術だけど、完璧に発動できた訳じゃないけど、自分に力があるって確かな証があるのは嬉しい。
高築も、残念ながら声はかけてくれなかったけどチラチラと俺の方を気にしてる様子。
ざわつく周りの声なんか耳に入らない。嬉しさが込み上げてにんまりしてしまう。
この調子で少しずつ皆に追い付けたら良いな。
ほんわかと決意の混じった暖かな気持ちに浸っていると、いつぞやのダンディーな保険医・北里先生が渋い顔でこちらに近づいてくるのが見えた。
「おい、今雷だしたやつ前に出ろ」
な、なんか怒ってる……?というか術の練習で怪我人はでないはずなのに、なんで保険医がここにいるんだろ?周りの先生も知らない先生ばっかり……あ、もしかして霊能科の先生かな。そしてその人達も苦笑したり苦い表情だったり。あまり良くないことをやらかしたのか俺。
「お、俺ですけど……」
おとなしく前に出ると少し驚いた様子の北里先生と目が合った。
「なんだお前か。細かい規定はねぇが、多少術が使えるやつは校庭で練習する決まりだぞ。なんで体育館にいるんだ?」
「え!?そーなんですか!?俺は体育館か校庭で練習できるって聞いただけで……はじめてきたので分からなかったです」
「あー、そっか。南雲に個人指導してもらってたやつってお前のことか。そりゃ知らねーのも無理ないか」
高築以外の周りのやつは南雲の話題になった途端に表情が強張った。
「えーと……じゃあ俺、校庭に移動した方が良いんですか?」
「ったりめぇだろ。あんだけ派手に術使えるやつが体育館で練習してたら体育館が吹っ飛ぶわ」
なるほど、怪我人がでなくても惨状は免れないわけだ。
でもそしたら唯一の顔見知りと離れ離れになっちゃうじゃんか!せっかく高築と練習できると思ったのに!運命の意地悪ー!
あ、でも術がまともに使えたことは素直に嬉しいから良いか。……なんてニヤニヤしてたら目ぇ据わった高築に口パクで「死ね」と言われて再び再起不能となった。周りからもさっきとは別の意味で嫉妬に満ちた視線が送られるし、俺こんなんばっかじゃね?マジ悲しいわー。
そんなこんなで、改めて校庭に出て練習しようと周りを見渡せば、体育館で練習してた人達とは比べるのも馬鹿馬鹿しくなるほどのすごい光景が視界に入った。
ある者は水を自在に操り、ある者は草に術をかけて成長させたり、ある者は強い風を起こして小さな竜巻を発生させたり。
南雲のように強力な術でも、安定感のある術でもない。けど、何故か感動した。
南雲は霊能科だから術が使えるのは当たり前。だけどここにいる人達は俺と同じ普通科。その人達がこんだけ力を使えるなんて……
『陰陽師になることが叶わなくて一般人のまま成人する子も少なくないからねぇ……』
納賀先生の言葉を思い出す。
そんなことないよ、先生。学園で霊能科に入れるだけの実力がなかっただけで、『一般人』の枠に入るような無力な人達じゃないんだよ、きっと。
霊能科に移動できなくても、成人してからだって力を身につけることはできるんだ。
希望は無限だなぁ。なんて、青春っぽいことを考えたが、すぐに俺も術の練習に取りかかった。




