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神様と友達な彼と最強くん  作者: 雨園 咲希
小さな変化、大きな変化
84/230

その84

 そこでふとキヨちゃんがちらちらと私以外に視線を向けているのに気付いた。


 その視線を追ってみるとその先にいたのは青い髪にエメラルドグリーンの瞳の、全体的に爽やかな感じの男の子。


 なかなかのイケメンくんだわ。


 キヨちゃんほどじゃないけど。


 ていうか、キヨちゃんと知り合いなのかしら?もしそうなら仕事関係の繋がりしか浮かばないけど、どうもそんな雰囲気には見えないし。


 ひとり悶々と考えながら内心唸っていると、乱入した教室の外に人の気配を感じてそちらを振り返ってみる。



「…………、」



 ……びっくりした。



 そこに佇んでいたのは、昔霊能科に所属していた女の子だった。


 “あの日”以来その瞳には光が宿らず、お面を被ったかのような無表情を貫いている彼女が。


 人形と称される轟木 いばらさんがそこにいた。



 どうしてか全身びしょ濡れだけど、そのことに気を取られかけてすぐにハッとした。


 キヨちゃんが彼女を視界に入れる前に瞬時に意識を飛ばす。かなり物騒な音が聞こえたけど気にしない。


 轟木さんとキヨちゃんを鉢合わせないために今まで色々根回ししてたのに、まさかこんなところで会うなんて……



 キヨちゃんと轟木さんは会わせちゃいけない。絶対に。


 “あの日”を思い出してしまうかもしれないから。


 あくまで可能性。思い出す保証はない。でも、キヨちゃんが壊れてしまいそうな可能性は潰しておかなきゃ。


 どんなに歪な形でも、キヨちゃんを守りたい。ただそれだけ。


 愛しい彼を、キヨちゃんを守るためならどんなことだってやってみせる。



 心配そうに轟木さんに声をかける青い髪の男の子を視界に入れる。


 どんな経緯でキヨちゃんと知り合ったかは分からないけど、轟木さんも気にかけてるのは目の前の光景を見てれば分かる。


 どうやらここは彼と轟木さんのクラスみたいだけど、それだけでこんなに気にかけるかしら?単なるお人好し?


 まぁなんでもいいけど。


 キヨちゃんが“あの日”を思い出さなかったらそれでいいや。



 青い髪の彼への興味が薄れ、意識を飛ばしたキヨちゃんをずるずる引きずっていく。


 彼や彼のクラスの生徒達を気にするでもなく霊能科の校舎裏へ移動。当然の如く授業はサボり。


 ここら辺はよくキヨちゃんが討伐任務をするために特殊な結界を張ってたから人が寄り付くことはない。


 ここなら好都合だわ。



 どさっとキヨちゃんを仰向けに寝かせ、その上に跨がる。


 ふふふ。さっきは勢いで意識飛ばしたけど、これはまたとないチャンス!既成事実つくるのにもってこいの状況だわ。


 キヨちゃんが目を覚ます前に男女のあれこれを……ぐふふふふ……



 ネクタイを緩めた瞬間、バッドタイミングでぱちっとキヨちゃんの目が開いた。


 視界いっぱいに見える私という存在に目を見開き、そして視線をずらせば中途半端に緩められたネクタイ。



「ひっ!?」



 小さな悲鳴とともにキヨちゃんが瞬間移動さながら後ずさった。人間技とは思えないほど俊敏な動きでちょっとびっくり。


 内心舌打ちする。


 あとちょっとで既成事実つくれたのに……!


 むすっと頬を膨らませる私を見て顔を青ざめさせているキヨちゃん。こんな可愛い幼馴染みに迫られてるんだから、どうせなら頬を赤く染めて慌てふためいてほしいなーと思いつつ適度に距離を取る。



「さっきの青い髪の人、だぁれ?」



 顔を青ざめたまま距離を開いていくキヨちゃんを逃がさないようがっしり拘束して話題を振る。


 また小さな悲鳴が聞こえた気がしたけど知らない。


 私とこれ以上距離を縮めまいとするキヨちゃんだけど、質問にはちゃんと答えてくれた。



「友人だ」



 それは至ってシンプルな回答。


 その単語を聞いた瞬間信じられないと目を見開いた。



 だって、だって!あのキヨちゃんに友達!?


 “あの日”からあらぬ噂が流れて恐れられてきたあのキヨちゃんに!と、友達!?



 普通に考えたら喜ばしいけど、相手が問題だわ。


 あの青い髪の人は轟木さんとクラスメート。しかも轟木さんにもキヨちゃんにも分け隔てなく接していた。


 誰かが言ってた、友達の友達は友達だーっていう言葉を思い出す。


 もしかしたら彼を通じてキヨちゃんと轟木さんが再会を果たしてしまうかもしれない。


 なら、彼には忠告しておかないと。



 何も知らないなら、“あの日”を知っておいてもらわないと。




 次の日、刀を磨ぎながら青い髪の彼を待ち伏せしていると目的の人物が姿を表した。


 お連れの黒髪男子くんには悪いけど二人きりで話をさせてもらうことに。



 会ったばかりの人に軽々しく言えるような内容じゃないけれど、彼には知っておいてほしかった。


 キヨちゃんの態度から気を許してるのは察せれたから尚更。



 そして私は語りだした。



 轟木さんが人形と噂されるようになった出来事を。


 キヨちゃんが恐れられるようになった出来事を。



 “あの日”の悲劇を。




 ―――――――――――――――――




 事件が起こったのは3年前。



 入学して間もなく、妖怪討伐の任務を言い渡されたときのこと。



 その任務はキヨちゃんの実家から送られたものだったんだけど、当時のキヨちゃんの実力では五分五分で、一族の誰かと、もしくは傘下の者と一緒に任務に向かえと命令が下ったらしいのだけど、キヨちゃんは私じゃなく轟木さんを選んだ。


 元々轟木さんは私の家と同じでキヨちゃんの実家の傘下に入ってる一族の子だったからか南雲家現当主、つまりキヨちゃんのお父様からは咎められなかったのだけど、私は怒りに満ちていたわ。


 武器が欲しかったのももちろんだけど、何よりキヨちゃんのために頑張って霊力を身につけたのに私以外の子を選んだキヨちゃんに怒りが沸いた。


 だから発作が起きてもすぐ対処できるように薬を持って、二人のあとを追いかけたの。


 身体の弱い私でも、力を身に付けて強くなったよって。だから今度からは私を選んでって。言うつもりだった。



 二人に追い付いたときにはすでに妖怪と対峙していて、私が途中から応戦する隙もないくらいの接戦だったのを今でも覚えてる。


 でも二人は遠目からでも分かるくらい連携がとれてなくて、キヨちゃんと轟木さんの怒鳴り声が森一帯に広がってた。


 ケンカの内容は距離がありすぎて分からなかったけど、轟木さんの悲しみに満ちた顔とキヨちゃんの憎しみの籠った瞳は頭に焼き付いて離れなかった。


 そして一瞬の隙が生まれた。その一瞬の間に二人の元に跳んでいこうとしたときだった。


 二人が追い込んだ妖怪が怪しい光沢を放つ紫色の柄が特徴的な刀を手にしたのは。



 キヨちゃんはそれをただの武器と思ったのか、距離を詰めて一気に畳み掛けようとしたの。けど、轟木さんがそれを邪魔した。


 キヨちゃんが放った術は対妖怪用であって人間には効かないもの。だから轟木さんは怪我をしないはずだった。なのに、轟木さんの背中からは鮮血が飛んだ。


 次の瞬間には背後にいる妖怪がつけた傷だと理解したけど、不思議なことに轟木さんは微動だにしなかった。傷を負ったのに苦痛を感じる素振りも見せず、ただ立ってるだけ。


 そして異変に気付いたときには、表情のない、己の意思を持たない『人形』に成り果てていた。



 おそらくあの怪しい紫色の刀が影響してそうなったんだろうことは容易に想像できた。


 でもキヨちゃんは頭が追い付かないといった慌てた様子で狼狽えるだけで、何もできなかった。


 そんな中、下級や中級の妖怪が沢山現れた。大方轟木さんの血の匂いに誘われて寄ってきたんだと思うけど、あまりにもタイミングが悪すぎた。


 混乱してる思考の中、まともに戦えるはずもなくキヨちゃんはあっという間に押されていった。


 そこでようやく我にかえった私はキヨちゃんを助けるべく跳んでいったわ。人形に成り果てた轟木さんを避けながら攻撃して尚且つ轟木さんも守りながらの応戦は終幕に時間がかかった。


 でも終わったときにはキヨちゃんは瀕死の重体、轟木さんも背中の出血量が多くて危険な状態だったの。そんな中ただひとり佇む二人と対峙した妖怪は高らかに笑い、やがて森の奥深くに身を隠した。



 その後すぐ学校に連絡して二人は入院した。轟木さんの怪我は傷自体は浅かったけど心の空洞はぽっかり空いたまま。キヨちゃんも大怪我を負って、一時は大騒ぎしたわ。当時からキヨちゃんの強さは際立ってたから。



 そして面会に行った日。



 キヨちゃんは自分を責める言葉しか唱えなくて、痛々しくて、俯くしかできなかった。


 あのとき、なにかキヨちゃんの心に響く言葉を見つけられたなら、少しは違ったのかな。


 俯いた瞬間に発作が起きて、そばにいた看護師さんに連れられて………




 そこから先は、あんまり覚えてない。



 けどひとつ確かなのは、退院したキヨちゃんの顔にはそれまでよりも鬼気迫る何かがあったこと。



 キヨちゃんの様子がおかしかったことに気付くのがあまりにも遅かった。




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