表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様と友達な彼と最強くん  作者: 雨園 咲希
小さな変化、大きな変化
81/230

その81

〈清流side〉




 今日は最悪な日だ。


 幼馴染みの静乃が現れた。



 いつの頃からか、僕の武器を狙ってあらゆる手段を行使してくるから何度も死にかけた。斬られそうになることは日常茶飯事で、静乃が入院するたびに平穏を取り戻したと喜びに満ちていたのを今でも思い出す。


 昔はもっと可愛かったのに、いつからあんな狂気的になったんだろう。不思議で仕方ない。



 静乃から逃げ切り男子寮にて柳に愚痴を聞いてもらっていた。



 柳は約1ヶ月前に編入してきたやつで、出会い頭に妖怪討伐用結界内に侵入していてびっくりした。


 入ったら危険だろとか言う以前に何故入れたのかという疑問が真っ先に頭に浮かんだのだが、いまだに原因不明だ。柳自身もわからないと公言していた。


 最初はそういった謎の原因究明を目的に仲良くなろうと思ったのだが、柳の術に対する的確なアドバイスがきっかけで純粋に仲良くなりたいと思い、つい強引な手段を試みたのだが柳も何だかんだ言っても友達になってくれた。端から見てとても良いやつだ。



 だがその優しさにつけこんで無理に妖怪討伐の手助けをさせたのは悪いと思った。


 そこそこできる自分がいるからと油断して、怪我をさせてしまった。もう柳を危険な目に合わせるのは止そう。唯一の友を失うのは嫌だから。



 しかし本当に柳はお人好しだな。


 いつの日か普通科に移動した元霊能科の『人形』の異名を持つ問題生徒を気にかけたり、さりげなく女子に優しくしたり。だから柳自身無自覚にモテるのだろう。顔も整ってるし頭も良いし、それで体力まであったら完璧男子滅びろって思うだろうな。普通の男子は。


 あれで告白されてないのが不思議なくらいだ。



 柳の部屋を出て自分の部屋へと向かう。


 静乃と平穏無事な話し合いができるかどうか怪しいものだが、努力はしてみよう。柳にも逃げるなと叱咤されたしな。最悪斬られて愛刀をぶんどられるだけ……それはいかん。死守しなくては。



 僕の愛刀は幼いときに母にもらったもので、それが親からもらった最初の武器だったために大切に使ってる。それなりに愛着もあるため奪われるわけにはいかない。



 どうやって静乃から愛刀を守るか考えながらエレベーターにつくと、ちょうどエレベーターが開いた。階段を使っても良いのだがここからだと遠いためいつもエレベーターを使う。


 ……だが、エレベーターの中から現れた人物を見てしまった、と思った。



「…………あ」



「………!」



 そこには金髪赤目でピアスなどをつけた一見不良にも見える男、奥ヶ咲 雪がいた。



「…………」



 嫌でも沈黙が訪れる。



 お互いに少々驚きはしたものの無表情を保っている。



 やがて視線を外し、僕の隣を通り過ぎようとした奥ヶ咲 雪に思わず声をかけてしまう。



「…………大丈夫なのか?」



 あのとき、奥ヶ咲 雪はかなりひどい怪我を負っていた。僕でも手こずったあの妖怪夫婦にやられたものだ。



 少しは心配していた。……だが、話しかけるのはまずかったかもしれない。



 奥ヶ咲 雪はこちらを見もせずただ黙るのみ。背を向けて足を止めているだけ。


 だがその沈黙はふと破られた。



「…………怪我のことを言ってるのなら、今ここにいる時点で分かるだろ」



 話しかけるな。と、その視線が語っていた。



 けど律儀にも答えてくれた。怪我はもう完全に治ってるらしい。



「………そうか」



 それだけ言って僕も背を向け、まだ開いていたエレベーターに入ると今度は奥ヶ咲 雪から問われた。



「あのとき、助けてくれたのはお前か?」



 冷たい口調で聞かれたが、僕は当然こう答えた。



「僕は何もしていない」



 奥ヶ咲 雪を直接助けるような行動はしてない。お互いにとってそれが一番良いと分かってるから。



「…………わかった」



 奥ヶ咲 雪も話は終わりとでも言うように部屋へと向かった。


 エレベーターの扉が閉まっていく瞬間、その背を見届けた。



 僕の実家と奥ヶ咲 雪の実家がいがみあってるせいで、挨拶すら交わせない。



 中等の入学式で奥ヶ咲家の跡取り候補が入学したという噂を聞いたあと、興味本意で実力を確かめた。



 そしたら僕と肩を並べるくらいの実力を持っていたから、驚愕した。当時はライバル意識が芽生え、仲良くなりたいと思った。



 だが、実家のしがらみのせいで父親に猛反対されてそれは叶わぬ夢になった。


 先祖代々続く下らない争いのせいでライバルとの友情が育めないのは遺憾だが、現当主である父親に反対はできない。


 この学園の入学手続きも父親が全部済ませてしまい、仕方なく通ってるというのに、交遊関係にまで口を出されたら余計行く気も失せるというものだ。


 だから学園長に交換条件を持ち込んだ。学年首席キープし、尚且つ討伐系の依頼は全て引き受けるから代わりに授業は免除してほしい、と。


 当時は討伐系の依頼が大量にあり、霊能科総出でも何ヵ月かかるかって学園長がぼやいていたのを偶然聞いたので交換条件を持ち込んだのだが案外すんなり了承してくれた。



 その後1ヶ月足らずでほぼ全部の依頼をこなしたらこなしたで学園中に色んな噂が広まってやれ一緒に討伐しようだのやれ凄いだの言われていた。


 そのころはまだ周りの人ともうまく信頼を築けていた、と思う。


 だが、僕の知る限りライバルと呼べるほどの実力がある者は奥ヶ咲 雪以外にいなかった。



 あれ以来、あいつの実力は見ていない。が、僕の次に、あるいは同じくらいに強い力を持ち合わせていると確信がある。


 きっとその実力を見ることができるのは霊能科総出の妖怪討伐くらいなのかもしれない。けど来週から普通科と合同の特別授業がある。そのときに見れる可能性は充分ある。



 今でも友達になりたいという気持ちは消えてない。同時に、いつまでもライバルでいてほしいと願う自分もいる。



 奥ヶ咲 雪は、どうなのだろうか。



 実家同士がいがみ合ってるからと南雲流陰陽師である僕を嫌煙してるのか。それとも、実家は関係なく何かしら思うところがあるのだろうか。後者だったら嬉しいな。



 いつか、両家のいがみ合いが解消される日が来るだろうか。


 いつか、奥ヶ咲と心通わせる日が来るだろうか。



 …………そんな日が、来れば良いのに。




 エレベーターから降りて自分の部屋へ入る。



 他の部屋同様二人部屋なのだが、この部屋には僕しかいない。


 高等に進級するまでは同室のやつがいたのだが、家庭の事情で転校してからはずっと僕一人だ。



 暗闇の部屋にパッと電気をつけると、全体的に白っぽい色の家具が露になる。


 開けた扉から右にある椅子に座り、宿題を手早く終わらせる。誰もいなくて静かだからすぐ終わった。



 妖怪討伐の許可が降りる時間はもう過ぎてる。だが食事を摂るほどお腹が空いてない。……少し早いが風呂でも入るか。


 そう思って椅子から立ち上がり扉に手をかけたとき、味気のないシンプルな着信音が部屋に鳴り響いた。



 ………久しぶりに聞いた着信音。この音が鳴るときは気分が下降する。


 だが出ない訳にはいかないので早めに鞄から携帯を取り出す。



「お久し振りです。……父様」



 その電話は実家にいる父親のもの。実家の電話と違って父親の携帯の番号だからいつも出るのを躊躇ってしまう。



『清流か。あまり時間は取らせないから聞け』



 約2ヶ月ぶりに声を聞いたのに、実の息子に「久しぶり」の一言もなしに単刀直入に用件を述べるか。相変わらずというかなんというか。


 昔は辟易していたが、今は特に何も感じない。いや、諦めたと言うべきか。


 この人が息子のために言葉を投げることも行動を起こすことも絶対しない。



『今週末、一族の会合がある』



 会合とは、南雲流陰陽師が妖怪に対する情報を交換する場で、同時に一族ぐるみで討伐しなくてはいけない妖怪が現れた場合に開かれるもの。僕のような学生も強制参加させられる。


 だが珍しいな。この時期は僕が把握する限り会合が開かれるほどの強力な妖怪が出現するのは極稀なのに。僕自身、心当たりはあるが父様には言ってない。奥ヶ咲 雪のこともあるしな。



「今週末……ですか。珍しいですね。この時期に会合なんて滅多にないのに」



『前々から問題視されていた案件に新たな情報が流れたんだ。そこで緊急会合を開くことになった』



「前々からの案件なんてないはずですが?」



『私含め一族の中枢しか知らない案件だ。今週末の会合で発表する』



 一族の中枢しか知らない貴重な情報なのか。それは別段驚くことでもない。だが、前々から秘密裏に情報交換してたであろう案件を何故今打ち明けるのか。……それも、会合のときに説明するつもりなのか。



「わかりました。今週末、本家に戻れば良いんですね。会合が開かれる時間はいつですか?」



『13時だ。遅れるなよ』



 淡々とした口調でそれだけを言い残し、ぷつりと通話が切れた。



「…………はぁ」



 親子らしくない淡々とした会話。仕事やそれに近いことしか話さない内容。機械を思わせる言葉に感情が乗ってない、抑揚のない声。いつ聞いても全く同じだ。



 どこからともなく深いため息が口をついて出た。



 それなりに楽しみにしていた合同特別授業の前日に、まさか会合があるなんて。気分は沈み、忌々しいという感情だけが頭に残る。


 せめて一族揃っての会合じゃなかったらこっそり柳についてきてもらってたのに。会合で学生は僕一人だから、異様に居心地が悪い。


 それに一番年下だからか毎回年長者にねちねち言われる。




『その年でそれだけの力を持つのに時期当主との噂がないのは器がないからかねぇ?』




 …………誰かが嘲笑とともに言ったあの一言を思い出して怒りが沸々と沸き上がってきた。


 べつに、僕自身時期当主に立候補してないだけ。一族のしがらみに縛られるのは嫌だから、自由に生きたいと望んだからその道を目指してないだけだ。


 なのに何故そんなことを言われなきゃいけないのか。当主の一人息子だからそんな見られ方をするのか?



 段々思考の渦に落ちていき、色んなものがぐちゃぐちゃになりそうになったところで頭を切り替えた。今考えても仕方ない。なるようになる。



 さっさと済ませて素早く帰ろうと心に誓い、それまでのもやもやした気分を振り払うように風呂へ直行した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ