表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様と友達な彼と最強くん  作者: 雨園 咲希
小さな変化、大きな変化
80/230

その80

 南雲の行動のせいでクラスメート(主に男子)から一線引かれて傷心中の俺。だがそんなのお構い無しに時間は戻ってはくれないわけで、只今俺の部屋で南雲の愚痴を聞く体勢になってる次第です。


 つーか毎回思うけどなんで俺の部屋なんだよ。いまだに南雲の部屋に入ったことないんだけど。料理作るのも俺の部屋だったし。せめて愚痴るときくらいは南雲の部屋にしてくれよ。



「今日、ホームルームのときに突然現れたんだ……奴が」



 椅子に深く座って青ざめた顔のまま語り出す南雲にお茶を出して俺も床に座る。



「静乃って子?前に話してくれた刀マニアの幼馴染みだよね?」



「ああ…………女子寮で療養してるか入院してるかのどっちかなんだが、病院から抜け出したらしくてな……いきなり斬りかかってきて思わず窓から飛び出した」



「よく怪我してないなお前………」



 命懸けの攻防戦から見事逃げ切ったことを褒め称えれば良いのか、病弱な幼馴染みのパワフルさに驚けば良いのか……



「あれで病弱とか詐欺だ……あんなに元気に動き回ってるのに心臓が弱いとか詐欺だ」



「あ、うん、それは否定できない」



 あれが初対面だと病弱だとは到底思えないわ。



「明日の昼には病院に戻るみたいだが、それまでどうにか逃げ切らなくては……」



 死線をさ迷う戦士の瞳をしてる南雲は無茶苦茶必死だ。それこそ授業に出なきゃいけなくなったあのときよりもずっと必死で笑いが込み上げてくる。



「で、でもさ、授業は出なきゃ駄目だよ?サボったら担任から何を言われるかわからないって言ってたじゃん」



 サボりOKな条件を満たしてないからあとでぐちぐち言われるんだとか。


 今更だけどわかった気がする。南雲が授業出なかった理由。


 常日頃から狙われるってわかっていながら無防備に授業出れないよなー。


 南雲の口振りからして毎日出席してる訳じゃないっぽいけど、こりゃとんでもない爆弾だな。



「わかってる。条件を満たしてないのにサボる気はない」



 よかった。そこら辺は弁えてくれてた。


 あれでも逃げ回ってたってことは今日1日サボってたってことになるな。それは良いのか。



 椅子に凭れて疲れたようなため息を吐いた南雲。さっきまでの青ざめた顔じゃないけど、まだちょっと顔色が悪い。



「……まさかとは思うけど、南雲の部屋まで乗り込んできたりはしないよね?」



「それはない。受付で引っ掛かる」



「良かったー。イオリちゃんみたいに受付の人眠らせたりはしないんだね」



「あいつは刀と霊力をうまく合わせるのに長けてるだけで、それ以外はからっきしだぞ。てかイオリって誰だ?」



「奥ヶ咲と一緒にいた子だよ!忘れたの?」



 奥ヶ咲の名前をだしたとたんに顔つきが一変した。


 怒ってる……風じゃないけど、なんか表情がないわりに威圧感がある。



「……そういえば、同室なんだったな。そうか。あいつの知人か」



 なんだかボソボソ言ってて聞こえにくい。いったい奥ヶ咲の何に反応したのか。


 それからしばらく黙ってた南雲だが、ふと時計を見てこちらに向き直った。



「あいつが帰ってくるのは何時ごろだ?」



「あいつ……って奥ヶ咲?さあ?少し前まで入院してたし……あ、でも放課後に仕事するとか言ってたし門限ギリギリまではいないんじゃないかな」



 少し考えてから思い出したことを告げると、何故かホッとした表情になった。……奥ヶ咲がまだ帰ってくる時間じゃないからか?前にも思ったけど、この二人ケンカしてるのかな。


 あのとき、奥ヶ咲も南雲を見た瞬間ピリッとした空気醸し出してたし、目が合うことすらなかったもんなあ。その線が濃厚かな。


 でももしそうだったとして、部外者の俺が口を出すのもどうだろう。



 なんて考えてたら南雲がアホなこと言い出した。



「そうだ、仮病使おう」



 さっきの静乃さんの件に戻ってますね。わかります。



 けどよぉ南雲さんよぉ!思い詰めたような真面目な顔して言う台詞じゃねぇぞソレ!



 夕焼けの陽の光が部屋を包み込み、緋色に近いオレンジに染まっていく。窓からは太陽の光が漏れて眩しい。こういうときってもっと真面目な話するもんだけど南雲の口からは仮病の二文字が出て呆れた状態。


 いやまあ逃げたい気持ちは痛いほど分かるけどさあ!さぼりも仮病も一緒じゃんか!俺そういうの嫌いなんだってば!



 ふう……と息を吐いた。



「俺さぁ、この学園に通うまで学校って行ったことないんだよね」



 突然のカミングアウトに少々驚く南雲。



「特殊な家庭事情だからまあ仕方ないんだけど、学校ってずっと憧れてた。皆と勉強して、誰かと特別仲良くなって、恋人とかつくったりしてさ。青春するのに憧れてた。でも、小学校でしか、中学校でしか学べないことを学べなかった後悔もある。だからせめて高校くらいは皆と同じ場所にいたいんだ。……だから俺、南雲みたいに逃げるためだけに当たり前の日常を壊すやつは嫌いなんだ」



 目をそらさずに真っ直ぐ言った嘘偽りのない言葉。



 神界にずっといたいと思ってたのは本当。けど学校という若者にとっての当たり前なものに憧れてたのもまた事実で。


 逃げる手段としてその当たり前なものを簡単に壊してしまう南雲を見てると悲しくなってしまう。


 入学早々南雲のことを学園長に聞いたときは怒りすら感じた。なんで自ら今しかないものを壊すんだ、って。


 あのときは訳ありそうだから引いたけど、こんな逃げるためだけに授業を受けなかったなんて……そんなの、嫌だよ。



「……………」



 俺から視線を外してすっかりぬるくなったお茶を飲み干し、再び黙る南雲。


 沈黙が訪れたことで俺もふと思う。


 多分今言ったことは俺の価値観を押し付けただけなのかもしれない。



「あ……ごめん………」



 零れ落ちるように口から出た謝罪を聞いてるのか聞いてないのか、俺へと視線を移した。



「……あのときと立場が逆だな」



「え………あのときって……」



 もしかして、力を欲するくせに努力してないやつは嫌いだーって南雲に怒られてたときのことを言ってるのかな。


 それしか思い付かない。



「柳に逃げるなって怒っておいて、自分が逃げてたなんてな……結局は僕も逃げ続けてただけだ。仕事で逃げてることすら忘れて、静乃と真っ向から向き合わなかった。柳の言う通りだな……こんな些細なことで日常を壊してしまってはいけないな」



 しんみりした態度の南雲はまるで反省する犬のよう。こんな南雲初めて見た。


 すると意を決したように立ち上がり、堂々と宣言した。



「よし、決めた。ちゃんと静乃と向き合っておとなしく斬られてこよう!」



「なんでそうなる!?」



 なんかまた馬鹿なこと言い出したぞこいつ。



 玄関に歩きだした南雲の首根っこを引っ付かんで床に叩きつけるといかにも不満げな南雲がこちらを睨み付けた。



「何故止める?静乃と向き合って斬られてこいと言っただろ!」



「そんなこと一言も言ってない!!平和的解決を求めてるんだよ!!」



「静乃を相手に平和的解決は無理だ」



「んなの分かんないじゃん!」



 シリアスムード一瞬だけだったよ!また同じテンションに逆戻りかよ!こいつはなんでこう馬鹿なんだよ!?



「と……とにかく、静乃さんと会うのは絶対だけど斬られちゃ駄目だから!」



「僕の中では会う=斬られるって認識なんだが……」



 昔から付きまとわれてたらそりゃそうなるか。恐怖植え付けられて思考がノックアウトしてやがる。俺がフォローしてやらないと何やらかすか……



「でも……ありがとな」



 息を整えて椅子に座り直した南雲が素直に感謝の言葉を吐いたので少なからずびっくりした。思わず南雲を振り返る。



「逃げてたことを指摘されなければ今も仕事に逃げてただろうから……正直言うと助かった」



「そんなお礼言われる程のことはしてないよ!自分の価値観を押し付けただけなんだから」



 慌てて否定すればふっと柔らかい、でもどこか悲しげな笑みを浮かべた。



「お前は、どうしてそう……」



 口元が動いていたけど声は俺の耳には届かなかった。



 外がかなり暗くなってきたため、南雲は自分の部屋へと帰っていった。


 カーテンを閉め、部屋に灯りを灯し、ベッドに突っ伏した。



「……逃げちゃ駄目、か」



 自分で言ったことをもう一度口にする。


 あのとき南雲に背中を押されてからは力を得る努力をするようになった。諦めて、逃げるのを止めた。それ以外で逃げてると思うことはない。



 ……なのに。



 一番逃げてるのは自分だろって、心のどこかで感じてしまったのは何故だろう。




『お前、自分に強力な力があるってわかんねぇのか?』




 そのとき唐突に北里先生の言葉を思い出した。思わず自分の掌を見つめる。


 俺にはそんなのないと思ってた。生まれつき才能があるみたいな、そんな……



 どうしてだろう。力を欲していた俺にとってそれはとても喜ばしいことなのに、その力を解放してはいけないって警報が鳴ってる。



「……て、何変なこと考えてんだか。さーて宿題やるかー」



 考えたくなくて宿題に手をつけようと鞄に手を伸ばすも、頭にちらついたある光景のせいで動きを止めてしまった。




『本気で自分が人間だと思ってるの?』




 その言葉はいつの日か見た夢に言われたこと。冷酷に笑うそいつの声は何故か自分と全く同じ声だった。



 ……あの言葉は、俺に対して言ったのか?



「……だから、考えちゃ駄目だってば!」



 頭を勢いよく左右に振って宿題に取りかかるも沸き上がった疑問がそう簡単に消えるわけもなく、全く集中できなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ