その79
「止めなって!!南雲が死にそうなの見て分かんない?」
「あら、軟弱ねぇ。まあ良いわ。キヨちゃんがその武器を譲ってくれるまで諦めないから!」
「頼むから諦めてくれ……」
いまだかつてないほどに憔悴している南雲を見たのは初めてかもしれない。大丈夫かあれ。
「同じのを造れば良いって何度言わせるんだ!僕の刀だけが特別なんじゃないぞ!」
「やだ!キヨちゃんの刀じゃないとしっくりこないのぉ!同じのを造っても意味ないのぉ!」
「駄々をこねるな!」
南雲が振り回すんじゃなく振り回されてる。良い様だ。だがちょっぴり可哀想に思えてきたのでもう一度助け船を出す。
「ふ、二人とも、霊能科に戻ったら?今授業中だよ」
南雲は目を輝かせて「その手があったか!」と喜びに満ちている。一方の女の子は少しうんざりしたような顔でため息をついた。
「もぉ~しつこいなぁ。なんでわざわざ授業でまで妖怪討伐しなきゃいけないのよ!せっかく病院から抜けれたのにまた怪我しろって?」
あ、霊能科の1限妖怪討伐なんだ。
「お前の場合怪我よりも虚弱体質の方が深刻だろ!授業受けたくないのなら見学すれば良い!僕は仕事も兼ねて授業に出るからな!!」
「えー!?そんなことしたらキヨちゃんと離ればなれになっちゃう~!」
「ソレ狙ってるんだよ!分かれよ!!」
駄目だ……また言い争いがヒートアップしてきちゃったよ。てか女の子の方、虚弱体質ってまじか。あんなに元気そうに見えるのに。
ああああ先生も目に見えてイライラ度が上がってる!早くなんとかしないと……でも俺がなんか言うたびに言い争いが酷くなっていってる気がするし……どうすりゃ良いんだよ!?
そんなとき、南雲達がいる方のドアに人影が見えた。
南雲達が入ってきたときからドアは開きっぱなしだったが、その人物を見てぎょっとする。
「と……轟木!?」
そこにはホームルームには姿を見なかった轟木がいた。
ただの遅刻なら俺もこんなに驚かないけど、ところどころ傷があって血ぃ出てるもんだから周りの目なんか気にせずに、気がつけば駆け寄っていた。
「なんで保健室行かないんだよ、轟木!!」
先生も誰も顔をしかめるだけで手助けしようとはしない。轟木に対してはいつもこれだ。
憤りを感じつつも保健室に連れて行くと先生に言い、轟木の手を引く。
と、そのとき、南雲と言い争いを繰り広げていた女の子と目が合った。
「……人形に優しくするなんて、変わった人ね」
ぼそりと聞こえた声は間違いなくその女の子のもので。
キッと睨んだときにはもう言葉を紡がず、一瞬轟木を見てから南雲を引きずって教室から出ていった。
「その怪我どうしたの?」
「…………」
廊下を歩きながら聞いてみるも相変わらず黙秘を貫く轟木。いまだに声聞いたことないけど、喋ってくれる日はくるのかな。
保健室までの距離はそう長くないので数分で到着した。
「先生!怪我人がいるんですけど……」
保健室のドアを開けても誰もいない。……かと思いきや、ふたつあるベッドの片方はカーテンが閉まっていた。
「あのー、先生?いないのかな……」
カーテンの中で眠ってるであろう生徒を起こさないよう小声になるが、やはり誰もいないようだ。え、俺しか手当てできる人いないの?手当ての仕方とか知らねーぞ!?
「怪我人はどこだ?」
プチパニックになりかけたとき、カーテンの中から誰かが出てきた。
なんかこう、ダンディーな白衣のイケメンだ。保険医かな?
つーかなんでベッドに?まさかサボりか?
ちょっとだけ疑いの眼差しを送ったそのとき、再びカーテンの中から人影が見えた。
「北里先生!あなたは手だししないで下さい!あなたは霊能科の保険医でしょう!?」
今度は美人な白衣の先生だ。なんでか北里先生を涙目で睨んでる。
なんで普通科の保険医と霊能科の保険医が二人でベッドにいたんだ?
「別に良いじゃねーかよ。こっちは暇なんだ、少しくらい仕事させろ」
「私から仕事を奪わないで下さい!」
北里先生をぽかぽかと殴る先生。可愛く殴るので痛みは感じなさそうだなぁと思ったが我にかえって声をかける。
「あのー、どっちでも良いので早く手当てお願いします」
「ホレ、お呼びだぞー春島センセ」
「言われなくても行きますっ!」
最後に一発どかっと拳を腹に入れ、ちょっとだけ痛そうにする北里先生を無視して轟木に目を向ける。身体中の傷を見て気を引き締める春島先生。すぐに手当てをはじめてくれた。
「なんでお二人、ベッドにいたんですか?」
それとなく聞いてみた。
「んー、大人の事情ってことで納得しとけ。……聞きたいなら聞かせてやろうか?生々しい大人の事情」
怪しくニヤリとする北里先生と目が合った。聞かない方が良いな。
「遠慮しときます」
苦笑混じりに断るが、北里先生は何故か俺をじっと見てきた。
「……あ。お前こないだの……」
指差されてなにかを思い出すような仕草をする北里先生。ん?どこかで会ったっけ?
「南雲 清流の仕事に巻き込まれて大怪我したやつだよな?あんとき治療したの、俺なんだよ。つってもお前は意識がなかったから覚えてねーだろーけど」
「南雲の仕事で大怪我……ああ!あのときの!」
南雲の結界の中で妖怪に腹斬られたときのこと言ってるのか!
治癒の神様に治療してもらう前に応急処置されてたけど、あれは北里先生が治療してくれたんだ。南雲の結界からは霊能科の方が近い。だから霊能科の保健室に連れてかれたんだろう。
「その節はお世話になりました」
改めて深々とお礼を述べた。
「気にすんな。保険医として当たり前のことしたまでだ。……でもびっくりしたなぁ。あんだけ力があるのに普通科か」
「はい?」
力があるって……なんのこと言ってるのかさっぱり分からん。
キョトン顔をしたら北里先生は少しびっくりした表情をこちらに向けた。
「お前……まさか自分に強力な力があることがわかんねぇのか?」
「えっ!?俺そんなに力あるんですか!?」
今のとこそよ風しか起こせないんだけど。てか何故に北里先生がそんな信じられない事実を知ってるの?寝てる間になんかやらかしたか?
顔面?だらけの俺をじーーーっと見つめる北里先生。少々気難しい表情なのでこちらもちょっと気を引き締める。
しばらくにらみ合いに近い状態が続いたが、ふと視線を外された。
「ま、そのうち分かるだろ」
無責任なその一言とともに。
「ちょ、先生!?今割りと真面目な話してましたよね!?そんな無責任なこと言わないで下さい!」
「あ?俺だってチラッとしか見てねーもん。それに状況が状況だったし」
「どんな状況だったんですか!」
「守秘義務が発生しているため事情は学園長に聞いてくれ」
意味不明にも程があるわ!!
なんで治療した人に守秘義務が発生して学園長なら説明可なんだよ!意味わからんわ!!守秘義務が発生するほどの重大な情報ってか!?ますますわからん!!
「北里先生!生徒に何を吹き込んでるんですか?」
ちょうど良いタイミングで春島先生が轟木の手当てを終わらせて声をかけてきたため、続きを聞くことは叶わなかった。
「べつにぃ」
「もう!あまり余計なことを言わないで下さい。あとその椅子にも座らないで!」
怪しい微笑はそのままに保険医用の回転椅子に座る北里先生を叱る春島先生。だが怒る姿は可愛いためちっとも恐くない。
春島先生の口振り……守秘義務が発生してるってのもあながち嘘じゃないみたい。うーむ、正直めっちゃ詳細気になるけど聞かない方がいいのかなぁ。
「はあ……手当てありがとうございました。教室に戻ります」
「えっ?ああ、その子、傷はあまりたいしたことないから心配しないでねー」
「はい。失礼しました」
保健室から教室へと向かうときもひたすら無言だった俺達。
その後の授業も普通に受け、放課後になった。
北里先生が言ってたことも気になるけど、それよりも轟木の怪我の原因を探らなきゃ。轟木本人が何も言ってくれないんだから、俺がなんとかしなきゃ。
あのところどころあった切り傷、明らかに転んだとかそんなものじゃない。
誰かが故意にやったとしか考えられない。
クラスメートは教室にいたから違うとして、別のクラスのやつだろう。一人ひとり聞くしかないかな……なんて思ってたら、背後から殺気に近い気配を感じて勢いよく振り返った。
「し……静乃から、ようやく逃げてこれた……」
わざわざ普通科に逃げてきたらしい南雲がいた。疲労感半端ない。今までずっとあの女の子から逃げてたのか……だから昼食堂にいなかったのか。
周りのびっくりしてるクラスメートを気にも留めず真っ直ぐ俺のもとに来る南雲に視線を移してる間にイオリちゃん並みの気配の無さでいつの間にか轟木が教室からいなくなっていた。
もう女子寮に帰ったのかな。相変わらず気配を読み取れない……
「聞いてくれ柳ぃぃぃ!!」
南雲が頭突きしてくるんじゃないかってくらい勢いよく突進してきたかと思いきや俺の腰に抱きついて泣きべそをかいていた。
「離れろ南雲!野郎に抱きつかれて喜ぶ趣味はねぇ!!」
今この場に納賀先生が居合わせたらめっちゃ面倒なことになる。それは勘弁。
「あーもー、話は寮で聞いたげるから!だからこんな目立つ行動は……」
南雲の頭をべしべし叩いて慰める体勢になるが、周りの視線が痛い気がしてちらりと見やる。そしたら高築をはじめ周りがドン引きしてるのに気づいた。
「うわ……お前らってそーゆう関係……」
「高築違う!誤解だ!」
担任の先生があんな変態だからこんな誤解を受けやすくなってるのだろうか。
「わかったから近づくな。同類と思われる」
「前にもこんなことなかった!?」
ものすごく不快な誤解を招いてしまった感が半端ない。非常に不本意。
見てごらん。高築のあの異常者を見る目を。あれ絶対しばらく口きいてくれないよ。なんて可哀想なんだ、俺。




