その78
〈爽side〉
一方の白帝学園普通科。
俺のいる教室ではいつもと変わらない日常が繰り広げられていた。
「おはよー高築ーー!!」
教室に入るなり例の如く爽やか悩殺スマイルで朝の抱擁を……
「うっわ……って柳か。オハヨー」
「ごあっはあっ!!!ギブっ、ギブ!!」
後ろ手にうつ伏せの状態……かーらーのーうなじチョップ!!
柳 爽に 致死ダメージ!!
うん、なんとなくわかってたけどね!高築ならもしかしたら、きっと、絶対やらかすかなーなんて思ってたけどもね!なんでか俺不審者扱いされてるんだもんね!爽やかに駆け寄っただけなのにいつもこんなひっどい扱いは悲しい!傷付く!そして痛い!!
「高築くんひどい!謝りなよー」
「柳くんは天使のような微笑みで挨拶しただけじゃない!なにも投げ飛ばすことはないでしょう?」
「投げ飛ばしてないし。床に縫い付けてチョップしただけだし」
俺だとわかったとたんに技から解放してくれたは良いけど謝罪もないなんて……なんて冷めたやつなんだ。いや分かってたけどさぁ。女子達の慰めの言葉が心に染みるわぁ。
「笹井さん、木下さん、ありがとねー。気持ちだけでお腹いっぱいだよ」
「でも高築くんがっ」
「あーいーの。あいつはあーゆーやつだから諦めてる。気にしないで」
そう言って笑ったら頬を朱に染めた。女の子って癒されるよね。
「なんだぁ?俺が冷めた人間みたいじゃんか。間違ってないけど」
「うっせ!もう知らんわ!」
淡々とぶーたれる高築を無視して自分の席に着席する。隣をちらりと見るが、そこにいるはずの轟木がいない。寝坊かしら。
しばらくするとチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
ガラッ!
「おっはよう皆ー!」
「おはようございまーす」
毎日恒例の変態発言が出てこない。クラスの皆もちょっとばかしざわついた。
そんなクラスを見て「ノンノンノン!」と人さし指を左右に動かす。
「皆さーん、もう忘れちゃったのかなぁ?来週の月曜日はさてなんの日でしたか!」
来週の月曜日……はてなんだっけ。先生が挨拶がわりの変態発言すら忘れるほどの大事なことって……
「…………あ!霊能科との合同授業」
教室にその声が響いた。
高築がだした答えによって水を打ったような静けさに包まれたと思えば一気に沸き上がる雄叫び。
「せーかーーーい!!よく思い出せました!」
パチパチと拍手する先生に嬉しさと興奮が混じった眼差しを送るクラス一同。俺も例外ではない。
「来週から毎週月曜日に霊能科との合同授業があるのよー!皆、霊能科の子達からしっかり学ぶようにね!」
意気揚々とホームルームを始める先生。
そっか、やっと合同授業のときが来たかぁ。めっちゃ楽しみだ。南雲が個人で教えてくれたときとは違うんだろうな。どんな授業かな。
いつもより断然テンションが高いホームルームも終わり、すぐに1時限目の数学が始まった。
わーいやったー俺数学好きなんだよね。小難しい数式大好き。うちのクラスでは不人気だけどね。
「じゃあ教科書63ページを開いてー」
先生の号令で教科書とノートを開く。いつも通りの授業が始まろうとしたまさにその時だった。
どがしゃああああん!!!!
パリィン!!バキィッ!!
1階からものすごい音が聞こえてきたのは。
「え……何?なんの音?」
「なんか割れなかった?」
「鈍器で殴ったみたいな音もしたよね」
授業中とは思えないほどざわついてきた。見かねた先生が静かにするよう言うが、あまり効果はないように思う。
どうしたんだろ。妖怪の奇襲ではないよね?サイレン鳴らなかったし。じゃあ誰が問題起こしたんだろ……
その後も何回か窓ガラスが割れる音が聞こえたのだが、ふとあることに気付く。
「音……段々近づいて来てない?」
誰に言うでもなくぽつりと呟いた数秒後、1年の廊下からまた窓ガラスが割れる音が響いた。
誰が原因でこんな事態になったのか見に行ったのだろう。先生の姿が教室から消えた。そして耳を澄ませていたら「ちょ、待て……っ」という狼狽した先生の声が聞こえた。
「柳ぃぃぃぃぃぃ!!!」
そして何故か俺を呼ぶ声が教室に届いた。
……俺以外にも柳って名字のやついるよな。きっとそいつだな。うん。決して俺じゃないな。だから皆して俺を可哀想なものを見る目で見ないでくれ。なにかに巻き込まれると解った上で傍観者決め込むその他大勢にならないでくれ。だってほら。
「柳!!助けてくれぇぇぇ!!」
なんかのフラグがああああ!!フラグが立っちゃうからあああ!!
「柳ぃぃぃぃぃ!!助けてくれって言ってるじゃないか!!友達を見捨てるのか!?非情か!?非情なのか!?」
この台詞で一発で誰か分かった自分が憎い。
「くっそ、何組だ!?柳ぃぃ!!」
頼むからこっち来ないで………トラブルの匂いしかしないから!
「キヨちゃあん!なんで逃げるのよぉ~!待ちなさぁい!!」
聞き馴染みのない女の子の声が聞こえたと思ったら再び物騒な鈍器を叩きつける音が聞こえて教室では主に女子がびくついてた。
「ひぃっ!?こ、ここか!!柳ぃぃぃ!!」
「わあああああ!!!」
勢い良く放たれた扉。そこから雪崩れ込むように入ってきた二人の男女。
うち男子の方はよーく見知ってる、というかトラブルを持ち込む天才悪友だったのだがもう片方の女子は会ったこともない見知らぬ子だ。そんで……
「ふふふぅ……キヨちゃん、もう観念しなさい!」
女子が悪友こと南雲に跨がって、指と指の間に挟んでるいくつものナイフを南雲の身体に突きだして頬を赤らめて息を荒くしてて、
「くっ……静乃!いい加減にしろ!久々に学校に来たと思ったらまたこんなことして!刀なら同じのを造れば良いだろうが!」
突きだされたナイフをいつも持ち歩いている愛刀で受け止めている南雲。かなり必死な形相でナイフの行く手を阻んでいる。
……何この状況!?
え、意味分かんない意味分かんない!!なんで南雲が見知らぬ女子に殺されそうになってるの!?つーかなんでここにいんの!?ここ普通科よ!?霊能科お隣じゃん!!なんかもう全部意味不明!!
「こらお前ら!今は授業中だぞ!ケンカなら休み時間にしろ!」
先程様子を見に出ていった数学の先生がそんなこと言いながら教室に戻ってきたけど、そこは「ケンカするな」って言う場面だよね。休み時間にケンカ勧めんな教師。
「おい教師!ケンカじゃなくて殺されそうになってるのが分からないのか?」
「俺にはじゃれあってるようにしか見えん」
「やだぁ先生、私達の愛の営みをじゃれあってるだなんて幼稚な言葉に納めないで下さぁい」
南雲の抗議も虚しく、ギリギリと追い詰められていく。
わけが分からず狼狽えるだけで何もしないクラスメート。うん、それが正しい選択だ。なんとなくあの女の子に関わったらろくなことにならない、そんな気がする。
だが現実とはなんて無慈悲で残酷なんだ。
「柳!!この女を止めてくれ!!」
またトラブルかよおおおお!!俺巻き込むなよおおおお!!せめて事情説明してから巻き込んでくれよおおお!!
先生の早く授業再開させろと言わんばかりの威圧がプレッシャーに繋がってるんですけど。やだ先生、そんなに見つめちゃイヤン……なんて冗談言ってる場合じゃねーわ。
「あ、あのー……やめてあげた方が良いんじゃないかなー……なんて」
止めろっつったってどう止めりゃあ良いんだよ……とか思いながらとりあえず声をかけてみる。
するとゆっくりこちらを見上げて、なにやら先生がいつも勝手に語りだしてその後興奮が冷めた表情になる瞬間に似た顔をした。
「私とキヨちゃんのラブラブっぷりに嫉妬してるのぉ?」
「は?そんなんじゃ……」
「私キヨちゃんとキヨちゃんの武器以外は興味ないの。ごめんなさいね。てかあなた普通科の子よね?なんでいるのよ」
「あなた方が普通科に乗り込んできたんでしょうがああ!!」
なんで俺、好きでもない初対面の人にフラれてんの?
「あら、キヨちゃんったらこんなところまで逃げちゃうなんて……シャイなのね」
「どうしたらそんな結論に至るんだ!!早くナイフ退けろ!!」
「嫌よ!本気で斬るつもりなんだからぁ!私だけのキヨちゃんにしたいのぉ!」
「うわあああああ!!!」
まさかの病んでる系女子だった。こいつ女絡みでも問題あったのかよ。




