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神様と友達な彼と最強くん  作者: 雨園 咲希
妖怪討伐 IN 白帝学園
74/230

その74

〈白狐side〉



 護符をサクサクと仕分ける爽を横目に見て私も作業を進めます。


 少し前なら有り得なかった光景です。


 嵐武様と私は仕事、爽は部屋で勉強。それが常だったのに、今や爽は嵐武様の仕事を手伝うまで成長して……子供の成長は早いものですね。嬉しいやら寂しいやら。


 ですがひとつだけ不快に感じることがあります。



「霊能科の人間に教わったのですか?」



 さっきから見てればなんですか。私がいちいち教えなくとも簡単な紋様の護符は仕分けているじゃありませんか。間違いなんてないです。完璧です。


 妖怪にとっては忌々しい陰陽師に教わったのかと思うと虫酸が走ります。



「あー……教わったよ。友達に」



 友達ですか。私という元妖怪と仲良くしてるくせに敵である陰陽師とも仲良くするとはなんですか。


 ……とは言えません。誰と仲良くしようがそれは爽の自由ですからね。友好関係にまで差し出がましく口は挟めません。



「そうでしたか」



 それだけ返事をしてあとは黙々と作業してました。


 沈黙が重いですが話題がないので黙ってるしかありません。どうしましょう。何か話題をつくらなくては…………



「ねえ白狐。赤ん坊の俺ってどこの森に捨てられてたの?」



 沈黙が破られたのは爽のそんな爆弾発言でした。



 何故急にそんなことを問うのでしょう。今まで1度も聞かれたことなどなかったのに。まあ聞かれたとしても上手くかわせば良いのですが。


 …………ですが、爽のあまりにも純粋な眼差しに思わず正直に応えてしまいました。



 そしてしばらくしたあと、また爆弾発言をかましました。



「なんで霊能科の人間と仲良くしちゃ駄目なの?」



 いくら真剣な眼差しを注がれても、それは応えることはできません。ですが爽も食い下がるようでいつまでも私の言葉を待ってます。


 さっさと終わらせて嵐武様に護符を届けてしまおうと部屋を出ていこうとすれば、爽に引き留められました。


 仕方なくそれっぽい理由を言ってさっさと出ようとすれば、爽はまた言葉を紡ぎました。爆弾発言どころか地雷に近い発言でした。



「俺が人間じゃないから?」



 驚愕して爽を凝視すれば、見たことのない顔でこちらを見つめる爽がいました。



 闇を写したような、暗く澄んだ青い瞳。


 まるで何者も写さない、人形のよう。


 今までの爽がいなくなったかのように錯覚しました。



 ですがそれは一瞬のことで、次の瞬間にはいつもの光の宿った瞳でこちらを見据える爽の姿がありました。


 爽も自分で何を言ったのかわからないようで、私の驚愕顔にびっくりしてます。



「えーっと………白狐?どうかした?」



「………なんでもないです。爽も早く仕事を終わらせて下さいね。私は嵐武様の部屋にいますので、なにかあれば呼んで下さい」



「え、ちょ、白狐………っ」



 爽のことは無視してピシャリと戸を閉めました。




『俺が人間じゃないから?』




 頭の中で爽の言葉が反芻する。



 今までも考えなかったわけではないんです。赤ん坊の爽は不思議な力があったので、それがまだ生まれたばかりの未熟な妖力だと思ってました。


 ですが、成長する爽を見て、違うという考えが頭の中を占領していたのです。



 人間のように非力で、無知で、臆病で。でも努力で補おうと足掻いて、もがいて。人間らしすぎて、とても低能な妖怪には見えなくて。


 だから逃げてしまったんでしょう。



 『本当の爽』から私と、もしかしたら嵐武様も目を背けてしまったんです。


 その結果がこのザマでは聞いて呆れますね。



「おー白狐、終わったんならこっちの仕事も頼むなー」



 私が部屋に入るとほぼ同時に嵐武様の気の抜けた間延びした声が聞こえました。


 ふと見ればざっと書類に目を通して判子を押したりしながらもその姿は適当と言わざるを得ないものです。ヤル気の欠片もない適当さです。


 このアホ神様は常にお気楽で羨ましいですねぇ。


 爽のことで本気で悩んだことなどないでしょう。今さっき不可思議なことが起こったばかりだというのに……



 何か急にイラついてきました。



「自分の仕事は自分でやりましょうね」



 気がつけば冷ややかな目で突き放してました。



―――――――――


―――――――――――――



「はあ?爽がそんなこと言ったのか!?」



 仕事をしながら私の話に耳をかす嵐武様。先程の爽のおかしな様子を説明したらあんぐりしてます。仕事の手を止めたら駄目ですよ。



「はい。爽自身も自分で何を言ったのかわからないといった様子でした。……あれは爽だったのか?と疑うほど、別人でしたよ」



「爽はれっきとした人間だ。………と、言いてぇところだが、拾った場所が場所なだけにそう言いきれねぇな」



 舌打ちして爽のいる部屋を見る嵐武様。その顔は苦渋の満ちた顔でした。



「爽が通う学園の近くですと妖怪が山のようにいますからね。わざわざそんな場所に捨てる人間がいるなら見てみたいものです」



「ま、少なくともただの人間じゃねぇわな。可能性としては妖怪って説もあるが……」



「それはないです!信じませんっ」



「だっからあくまで可能性っつってるだろーが!俺だって我が子が妖怪だったらと思うと退治せにゃならんから嫌だわ!」



「そんなことになったら死ぬ気で爽を守り抜きますよ!」



 自分で言うのもアレですが、けっこう私達親バカですよね。だって仕方ないでしょう。我が子は可愛いのですから!



 親バカ口論が繰り広げられたのはそう長くなかった。



「あのー嵐武様、仕事終わったんだけど……」



 爽が戸を開けて除き見ていました。びっくりしましたよ。そんなのっそりこっそり除き見なくても、普通に入れば良いのに。いやまあ私も背後から静かに声をかけるから人のことは言えませんが。


 まさか親バカ口論を聞いて引かれたのでは……



「なんか俺を死ぬ気で守るとか聞こえたけど何話してたわけ?」



 疑問符を浮かべて苦笑いする爽。当たらずも遠からずでした。危ない。



「なんでもないですよ。さあもう自室に戻って下さい。爽に任せれる仕事は今のところないんですから」



「そーだそーだ。ガキは大人しく勉学に励め」



 仕分けてもらった護符を受け取り、やんわりと厄介払いしたのですが……


 一歩もその場から動きません。


 どうしたのでしょう?



 なんだろうと思いつつ爽を見れば、ジトーっとした目で見られました。睨まれてるわけでもないのになんでしょう。ピリッとしました。



「……またそうやって隠すつもり?」



 口を尖らせて言われました。不満しかないとでも言うような口振りです。



 私や嵐武様が何か言う前に続けざまに言葉を並べます。



「神の秘め事なら別に口出ししないけどさ、それ以外に隠さなきゃいけないことなんてないじゃん。親子なら腹割って話すじゃん。なんで二人して俺に隠し事すんの?」



「お、おい、落ち着けって……」



 どうやらまだ止まらないらしい。嵐武様が止めても無意味でした。



「白狐が過保護なのは知ってたし嵐武様もそうみたいだけど、俺が秘密を知ったらどうにかなっちゃうとか考えてるんじゃないの?」



「そうですね……あ、いえ、そうではなく……」



 口が滑りました。爽の不快指数が上昇してます。



「隠されてるってわかったらそれこそ傷つく。だったらいっそ話してくれた方が良い」



「爽…………」



 今にも泣きそうな悲痛な面持ちで言われてしまい、こちらが折れてしまいました。これ以上隠せば爽に嫌われる。そう思ったからです。



 まあ、話したからといってなにかが変わるわけでもないですしね。



 本当に今更ですが開き直りました。



「嵐武様、そろそろ話しても良いのでは?」



 諦めがちにそう声をかければどこか必死な嵐武様があわわと慌てふためいてすがりつくように私を見ました。



「だ、大丈夫か?爽にその、そういうこと話しちゃっても……」



「今話さないと本気で嫌われますよ」



「よし話そう」



 単純馬鹿は動かしやすくて楽ですね。あまりにも必死で笑いが込み上げてきます。


 ですが同時に憐れです。今まで散々いびり倒して若干嫌われつつあると嘆いていたので本気で嫌われるのは精神的ダメージが大きいのでしょう。


 はっきり言って自業自得です。



「爽。あなたも知っての通り私達は爽に隠していたことがあります。爽は、もしかしたら………霊能力や妖力といった、力のある人間かも知れないのです」



 事実は打ち明けます。ですがいきなり「あなたは妖怪かもしれない」とか言えるわけないです。嘘は言ってないので良いでしょう。


 どんな反応をするのでしょうか。やはりダメージは大きいと思うのできちんと心のケアをしなくては。



 苦い思いで爽から目線を外しました。しかしその瞬間、予想だにしなかった言葉が爽の口からこぼれました。



「…………なんだ、そんなことか」



 いかにも拍子抜けした顔であっけらかんと言われて愕然としました。


 今、そんなことって言いました?私達にとってはかなり重大なことなんですが。



「はああああっっ!!?そんなことか、じゃねーだろ!!お前は普通の人間じゃないかもしれねーんだぞ!?そんなことで済まされねぇだろ!!」



 私の気持ちを代弁して下さいました。嵐武様も同様愕然とした表情で爽をガン見しています。



「え、だってあの学園は皆陰陽師や陰陽師の素質があるやつが通うとこだもん。そんなとこに入学したってことは俺もなんかしら可能性があるってことじゃん。友達にもそう説明されたし……」



 きょとんとした顔でサラッと言われましたが理解不能です。


 霊能科と普通科に分かれてるので学舎にしては珍妙だなと思ったのですが、まさか霊能科=陰陽師の巣窟、普通科=陰陽師の卵、といった構図なんでしょうか?


 なんだってそんなところに入学させたのか……御叶神様はなにを考えてるんでしょうねぇ。



 沸々と怒りが沸き上がってきました。最初からそうと知っていれば、なにがなんでも入学阻止して平穏でごく普通の学舎に通わせたのに。



「あんのやろー!!直談判しに行くぞ!!」



「賛成です。今すぐ問い質しましょう」



「ええええ!?急にどしたの二人とも?」



 なにがなんだか一ミリも理解できないといった困り顔の爽は完全放置し、嵐武様と揃って御叶神様邸に直談判しに直行。


 主に嵐武様の怒り任せな説明に手をぽんっとさせて「ああ!そいやぁそんなような学舎だったような気がするわ!」とか抜かしやがりました。



 嵐武様の神速アッパーと私の高速肘鉄が御叶神様の頭と顎にクリティカルヒットしました。



「なんだよ!?元はと言えば入学先の情報を何一つ調べずに見送ったそっちの責任じゃないか!!親ならきちんと調べろよ!!」



「んな訳あるか!罪を擦り付けるな!爽がもし陰陽師の端くれになっちまったらどーしてくれる!!爽が普通からかけ離れていくだろ!!」



「前と言ってること違うぞ!?爽の人生に俺らが口出すもんじゃないとか言ってたろ!?思いっきり口出してるぞ!!」



「あのときはあのとき!今は今!!気持ちの問題だ!!」



「自分勝手も程々にしろ!!」



「どの口が言うかぁ!!」



「いい加減にしなさい神ども!!」



 アホ神二人胸ぐらを掴み合った瞬間に一喝しました。



「確かによく調べもしなかった私達にも否はあります。ですが、陰陽師輩出のための学舎だと知りながら本人の意思関係なく入学させた御叶神様にも責任は充分あります」



 わざと棘のある言い方をすれば二人は俯き黙りこくっていました。


 まあ、今更入学取り消しや退学なんてできないので現状は変わらずといったところでしょう。



 ………ですが、妖怪のみならず神にとっても時に敵になりうる者と親しくしてるのです。このまま黙って見過ごすわけにはいきません。




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