その66
〈白狐side〉
目の前に二人、陰陽師がいます。妖怪にとっては忌々しい存在です。現に今も私の言葉に耳を貸す気はないようです。時間がないというのに……煩わしい。
まったく、陰陽師というのはいつの時代も妖怪の言葉なんて耳に入らないのですね。
私は元は妖怪でも今は立派な神使だというのに。まあ、見た目妖怪なんですから言い訳はしませんが。
ですが、少しくらい聞いてくれても良いと思いますが。妖怪も悪いやつばかりではないんですから。
「ああ、もうこんな時間ですか。早くしないと嵐武様に叱られてしまいます」
気づけば時計を見てひとりごちていました。
手荒なマネはしたくなかったのですが、向こうが聞く耳を持たないのですから致し方ないですね。
二人の陰陽師の周りを赤黒い炎で覆い、閉じ込めました。二人の力を肌で感じるに、出ることは不可能でしょう。
さて、邪魔もなくなったところで爽を探しに行かなくては。嵐武様の命令ですし、なにより私自身が会いたいです。
近くの建物……校舎とやらですか?そこの屋上まで跳躍して普通科の校舎を探します。………ですが、やはりと言いますか。
馬鹿みたいに広いのですから生徒もそれなりに大勢いると頭で分かっているのです。二つの校舎、二つの寮。今立ってる建物も含めて合計四つの建物が見下ろせます。
ですが、建物ひとつひとつがとにかく大きいのです。探すのに苦労しますね、これは。
ところでさっきから鳴り響いているサイレンのような喧しい音、どうにかなりませんかね。頭に響いてとても不快です。
「まずは普通科の校舎か男子寮を覗かないと、居場所を特定できませんね。さて、一番手っ取り早い方法は……」
最近ひとりになると独り言が多くなった気がします。爽が人間界に来てからでしょうか。人間界の主婦のそれと似てると嵐武様に馬鹿にされたので直さなくては。
独り言をぶつぶつと言っているときでした。少し距離のある隣の建物の1階の一室に、治癒術を使うときの複雑な霊力の流れを察知しました。
それ自体はどうでもいいです。それよりも。
なんですか?この、霊力と妖力が合わさったような、変な波動は。人間じゃ、まずありえない霊力の波動です。
……………まさか、爽が?
こんな不思議な波動の持ち主が二人といるわけない。
隣の建物の1階まで急降下し、ふわりと着地。
先程の不思議な波動……近づいてみるとひしひしと伝わる力が霊力でも妖力でもない、摩訶不思議なものだと理解できました。
そして部屋の中を見てみると。
「…………っ、爽!?」
どういうことでしょうか。
爽の身体から霊力とも妖力とも違う得体の知れない力が溢れています。それを見て驚愕している教師と思われる人間はどうでもいいので無視しますが、これは異常事態です。
まず爽が怪我をしてるので治療しなくてはいけません。摩訶不思議な力を発していても、爽は一応人間なのです。人間の身体は脆弱ですから、小さな怪我も命取りになります。………ああ、もしかしたら人間にとっては大きな怪我かもしれませんね。
早急に神界へ連れて帰らねばなりません。
「爽は一旦こちらが引き取ります」
「…………っ!」
人間の治療はたかが知れている、と頭の片隅で思っていたからか、うっすらと目を細めてよく分からない威嚇をしてしまいました。八つ当たりは良くないですね。
人間も一瞬怯んでいました。そんなに強面ですか?私。
爽を壊れ物を扱うみたいに丁寧に持ち上げ、窓から出ようと歩くと同時に人間がハッとなって声を荒げました。
「待て!その子をどうするつもりだ!?すぐに病院で治療しないと命の危機が……」
「ですから、我々が治療するんです。人間の治療では治るのが遅いですから、治癒の神に治してもらうんです」
「治癒の神……?神だと!?お前、まさか神使か!なんで神がたったひとりの人間を治療するんだ!?」
「ああ、おしゃべりが過ぎましたね。あなた方には関係のないことです。治療したあと、きちんとこの学園に連れ戻す予定ですので安心して下さい」
「戻ってくれば良いって訳じゃ……っ」
「うるさいです。黙って下さい」
爽を抱えながら一瞬で人間の目の前まで移動し、片手で人間の口を押さえました。
私が優しさを見せるのは爽と極稀に嵐武様だけです。その他大勢はこういう対応です。元が冷たい性格ですからね。
「では、我々はこれで。あ、さっきの神とかどうとかって話は他言無用ですよ」
一応釘を刺してから出立しました。
………今の爽を見たら嵐武様、どんな反応しますかね。
怒り狂ったら止めるのに骨が折れそうです………
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白狐が降り立ったことで学園側は最大級の警備を張った。
サイレンが鳴ってから学園各地で教師が主に結界を張り、霊能科の生徒も各地に散らばって協力した。
南雲も加わり強固な結界を張ったが、白狐はいとも簡単に結界を破り南雲達を退け、爽を連れて神界に帰ってしまった。
爽を看ていた保険医は学園長やその他の教師に全て話し、想像通り混乱を招いた。一生徒、しかも霊力を持たない一般人を治療のために誘拐する神の御使いがいるなんて聞いたことない、と騒ぎになっている中、ただ一人だけ混乱に乗じず冷静に現状を見つめる者がいた。
「…………はぁぁぁぁぁ……」
その者は混乱している教師陣を哀れむような目で眺め、かなり長いため息を吐いた。
「あの方は本当にもう……何してくれちゃってんのさ」
教師全員参加の重大会議でなければ今にも頭を抱えたくなる状況に思わずこぼした言葉はあまりにも小さな声だったため誰の耳にも届くことはなかった。
「次会ったときは絶対結界を張ってくれた人全員のお願い聞いてもらうんだからっ!」
「えーっと、何をそんなに騒いでいるんですか?」
「ん、なんでもなーい!それより何の話してたっけ?」
「普通科の生徒が連れ去られた件と学園の結界が崩壊した件での重大会議でしょーが!!あんた何聞いてたんだ!!」
「あっそっか!でもリンリン、怒ってばっかだと血管破裂しちゃうゾ!」
「リンリン言うな!怒らせてるのは誰だと思ってんだぁぁぁ!!」
本当に血管がノックアウトしそうになった保険医をほかの教師が宥める。けらけらと笑ってその光景を眺める紫色のツインテールに白いワンピースを着た一見少女な彼女は、一通り笑ってから至って真面目な話をしだす。
普段の言葉遣いとはかけ離れた口調で語られたことは、その場にいる教師全員の度肝を抜いた。
「学園の結界は時間がかかっても必ず修復できる。それは心配いらない。あと普通科の生徒の行方だけど、そっちも心配いらない。心当たりがあるからね」
「なっ………っ!?」
「どういうことですか!?」
驚愕の声を聞いたとたん、紫色のツインテールをしたゲーマー学園長がニカッと笑った。
「残念だけど企業秘密だよん♪詮索しないでね~」
詮索したくなるように吹っ掛けてさっさと退散するのであった。




