その4
〈嵐武神side〉
爽が出ていってすぐ、玄関を叩く音が耳に入る。まだ物申したげにしていた白狐が俺を睨むようにじろりと一瞥するも、来客を招き入れるためにこの場を去った。
「まさか離れる日が来るとはなぁ…」
誰もいなくなった空間で独り言のようにぽつりと呟く。
そりゃ俺だって、永遠に一緒にいられるなんてことは欠片も思ってない。
神と人間は生きれる時間が大きく異なる。
人間は俺ら神にとってほんの僅かな時しか生きることができない、哀れな存在だ。
それこそ、力が強い神なんかは無限に生きれると言っても過言ではない程だ。
……わかってはいた。いつかはこうなるってことぐらい。
だけど……
「いざそうなると、やっぱ寂しいもんだなぁ」
これが親心ってやつかねぇ?
こんな情、神には必要ないのに。
「嵐武様。御叶様がお見えになりました」
「……白狐、気配を殺して背後にまわるなって何度言ったらわかるんだ?」
突如背後にあらわれた白狐。
俺の神使であり、爽の遊び相手でもある。
何百年も前に狐の高位妖怪として恐れられていたのだが、やりたいこともなくなってしまったため、人間界でひっそり暮らしていた所に仕事でたまたま鉢合わせたのがキッカケで俺の神使となった。
元々、妖怪としては珍しい物静かなやつだから、周りの神には何も言われなかった。
ただ、物静かではあるが怒ると怖い。
白狐は基本誰に対しても隙を見せず、弱みや本音、愚痴などをこぼすことはないのだが、唯一俺と爽だけにはありのままの姿を曝している。
普段と表情があまり変わらないため見極めるのが大変だが。
「御叶神が来たのか。以外に早かったな。ここに来るよう案内しろ、白狐」
「了解しました」
白狐は御叶神をここへと案内するために再び部屋を出ていった。
……全く。害がないから良いとはいえ、なんで毎回背後にぬっと現れるんだか。
アレ意外と心臓に悪いんだぞ?知ってるか?
そんな中ふと思い出した。
「……あっ、あいつに言い忘れてたことがあったんだった」
まぁ学園に着いたらわかることだし、説明面倒だしいっか。
御叶神が白狐に案内されてこの部屋に来た。
御叶神は最上の神。
数多く存在する神の中で最も上の位につく……人間界で言やぁ総理大臣とかそんなもんだな。簡単に説明するとそんな感じだ。
いやしっかし、いつ見ても若いな。
20代のクソ真面目男子みたいな見た目してるもんな。神の中じゃダントツで一番長生きしてるってのにその外見は衰えを知らない。
なんでクソ真面目男子みたいなんだって?
黒い短髪に切れ長の黒い目でキリッとした感じのやつだからだよ。
若さを保つ秘訣を教えてほしいもんだ。
「御叶神、話とはなんだ?」
床にどかっと座り、さっそく話をする態勢になる御叶神。
酒を酌み交わそうとか面白い話しようとかそんなことではなくかなり真面目な話をしようとしてるのがわかったため、こちらも自然と話を聞く態勢になる。
「話というのは他でもない、柳 爽のことだ」
まあそうだろうな。だいたいの予想はつく。
「爽ももう15だ。1人で生きていけるだけの力はある。……そこで、だ」
言葉を一端とめ、俺の瞳を捉えて言う。
「今回の学園入学を機に、我々との縁をすっぱり切ろうかと考えている」