その32
目が覚めるとそこには見覚えのない天井。
……あれ?いつもは白狐が起こしに来てくれるのに……
そう思って起きたばかりでまだダルい身体を起こしたとき、とある光景が目に入った。
「やあ柳、よく眠れたか?」
サラサラで艶のある黒い髪に吸い込まれそうなくらい棲んだ漆黒の瞳。
その姿には見覚えがあった。
「なななな南雲ぉ!?」
通常ならまずいないありえない人物がそこにいた。
思い出した、白狐と嵐武様と別れて俺学園に来たんだった。確か学園長に探検してこいって言われたのに寮でゴロゴロしようと……して、同室者の奥ヶ咲にびっくりして、それから……あれ?そっからの記憶がないぞ?
それから俺何してたかな……とか考えつつ伸びをして南雲をチラリと見ると、床に正座して優雅にティータイム。
ベッド以外に物がない殺風景な部屋には似合わないオシャレなティーカップを手に、紅茶の程よい甘い匂いを漂わせている。
紅茶の茶葉もカップも持参してんのか。
「どんだけ寝てたんだ、俺……?」
「さあ?ついさっき来たばかりだからそんなこと僕は知らないが、今の時刻は19時だ」
「うそぉぉ!?」
そんなに爆睡してたんか俺……気付かなかった。
「ついさっき仕事を終えたところでね、ようやくゆっくりできるよ」
紅茶を飲み干すとほぼ同時にそう言う南雲。
ゆっくりするのは良いけど自分の部屋でゆっくりしてくれよ。なんでわざわざ俺のいる部屋なんだよ。というかどうやって侵入した?鍵かかってなかったのか?
疑いの眼差しで見れぱ南雲はフッと鼻で笑って、
「ああ、どうやって入ったか知りたいのか?なに、ただ単にピッ○ングしただけさ」
ピッ○ングすんなよぉ!!
知ってる?住人の許可なしに勝手に鍵をこじ開けるのは立派な犯罪なんだよ?
なのにコイツ平然とやってのけやがったからね?やっちゃ駄目だからね?
「安心しろ、鍵はちゃんとかけた」
「お前がそこにいる時点ですでに安心できない」
問題点が違うだろ。
って、そこ!本気でわからないって顔すんな!
しばらく経ったあと、南雲が俺にもと紅茶を差し出してくれたのでそれを飲んで一息ついた。
「ところで柳、いつまで制服のままでいるんだ?」
南雲のその一言でハッとなった。
そう言えば俺、私物ひとつも持ってきてない。制服と学生鞄以外は何も持ってないんだった。
「制服以外に着るもの持ってきてないんだけど……」
茫然と呟き、どうしようと口にすると南雲がしれっと言った。
「男子寮と女子寮の間に24時間営業の売店があるからそこに行けばいい。衣服も飲食物も最低限の家具も置いてあるから非常に便利だぞ」
言われたのだが、ひとつ大きな壁があった。
「俺、金持ってないんだけど」
この際もう恥ずかしげもなく堂々と言ってやった。
そうだよ生活するには最も必要になる金というものが手元にないんだよ。金がなけりゃ何も買えないのにどうしろと言うんだ。
「なんだ、そんなことか。それくらい僕が出す。友達だし良いだろう?友達だし」
何故か2度言われてちょっと困惑したがグッジョブ!ありがとう南雲!
親睦を深めたい、から友達に格上げされてるけどなりふり構ってられないからもうそういうことにしとこう。白狐に言われたことは今は頭の中から消して、素直に南雲の厚意を受けとろう。
だって制服洗濯してるときとか素っ裸だよ!?パンツ一丁じゃなく素っ裸だよ!?パンツも今はいてるのしかない俺にとってそれは致命的だわ!!
という訳で俺は南雲という財布と一緒に売店へ向かうのであった。
ところで、19時ってことはとっくに授業終わってるはずだけど、同室者の奥ヶ咲が見当たらないのはなんでかな。




