その15
〈白狐side〉
満面の笑顔で去っていく爽をただ見守る私と嵐武様。
「行ってしまいましたね……」
思わず溢してしまった言葉。寂しさが滲み出ているのが自分でも分かるが、隠していてもこの方には分かってしまうみたいなので感情を出す。
「なぁに寂しそうな声出してんだ?らしくない」
「ふふ、そういう嵐武様こそ御叶神様に爽を学園に通わせる件を聞かされたとき影で「俺の役目もここで終わりかぁチキショー!」と目に涙を浮かべて叫んでいたくせに。人のこと言えないでしょう」
言われたので言い返したら黙ってしまいました。事実を述べただけなのですがね。
「屋敷の中、静かになっちまうな」
しかもあからさまに話反らしました。
大方、寂しさを表に出さないようにしているんでしょう。
このひとホントに分かりやすいですね。昔からですが。
「確かに。爽のおかげで賑やかでしたからね」
だがその通りなので頷きながら返事しました。
「ですが……気掛かりなことがひとつあります」
私のその一言に表情を曇らせる嵐武様。なんのことを言っているのか察してくれたみたいですね。
「霊能科のある学園に通わせるということは、御叶神様に例の件を言ってないんですよね?」
「ああ、そりゃあな。下手すれば爽を神界から追い出すだけじゃ済まない。消そうとする可能性がある」
「あの方に限って、それはないと思いますが……」
「他の神が分からんだろ。人間の爽を毛嫌いしてる神だって少なくないからな」
「…………」
すっと嵐武様から視線を逸らし、緑一色の森を見回す。
「ちょうどこの辺りでしたね。爽を拾ったのは」
「だな。あのときと違って随分落ち着いてる」
「まさか、この森全体が白帝学園の敷地だったとは予想外でした」
14年前、爽がまだ一才にも満たない赤子のとき。
爽はこの森に捨てられていました。
小動物がちらほらと見え隠れしている今とは大違いの、不気味で凄惨な森でした。
別の仕事でこの森の近くに来ていた私と嵐武様は、森からの異様で異質な気配を感じてそちらに足を運んだのです。
爽を見つけたときにはその異質な気配はすでに消えていて、あやふやな情報しかないのに上に報告するのも憚られたのでその件は何も言いませんでした。
捨てられていた爽を見つけた嵐武様が、赤の他人である赤ん坊の爽を宝物のように大事に抱き抱えていました。
そのときは人間の赤ん坊だと信じて疑わなかった。ですが、その後に。到底人間の赤ん坊が成せるとは思えない出来事が突如起こったのです。
あのときの光景を忘れられません。
……それほど異常でした。
「白狐。お前が危惧してることはわかる。霊能力を持つ、近い未来、陰陽師になりうる人間に爽が関わることで今は封印してる力を解放してしまうんじゃ、って考えてんだよな?」
「……はい。爽の本当の正体も知らないのに、勝手に祓われでもしたら………」
「同感だ」
私達の心配の種はそれなのです。
爽自身も知らない、爽の全て。
他の神に言うべきか、否か。
爽に関する問題は山積みです。
「あぁぁーーーっ!!」
嵐武様の叫ぶ声。肩を飛び上がらせるほどびっくりした。只でさえ常日頃から声デカいんだから急に叫ばないで下さい。
「いいこと思いついた!!」
さっきとは違い、ひらめいた!とパァッと明るくなって興奮しながら言う。
いいこと思いついたって……
この方は本当に神様でしょうか?
時々、このひとはどこぞの超ド級マイペースな妖精なのでは、と本気で考えてしまいます。
それだけ自由に生きてますからね……少しは我慢という言葉を覚えてほしいです。
ところでさっきのいいこと思いついたって発言、嫌な予感しかしないんですが。
「いいこと……とは?」
おそるおそる聞いてみました。
「それはなぁ……ーーーー」
嵐武様の提案を耳にしたとたんに涌き出た感情。
それは底はかとない殺意でした。
「………馬鹿ですかあなたは」
学園に行って爽を守るだなんて、神ともあろう方が何を言ってるんですか。そんなこと許可しません。私を差し置いて爽に会いに行くなど言語道断。
「さ、仕事しましょう仕事」
仕事したくないと駄々をこねる嵐武様の首をひっつかみ、仕事部屋へと放り込んだ。




