その11
「白狐、機嫌はなおった?」
「はい。……すみません。私が心を乱してしまったばかりに、こんなことになってしまうなんて」
俺達は今、御叶神様の屋敷にいる。
あのあと我に返った白狐は俺に何度も謝ってきた。嵐武様には殺気を送っただけみたいだけどね。だからかな、嵐武様、白狐に恐怖したのか、ご機嫌とりに必死だった。
何故御叶神様の屋敷にいるのか。
それは多分言わなくても分かるだろうけど一応説明しよう。
無惨な光景……つまりは焼けた痕とかそんな生ぬるいものではなくまさしく砂漠と化した嵐武様の屋敷に今まで通り暮らせる訳もなく、急遽御叶神様の屋敷に置いてもらっているのである。
俺と白狐は仕事の邪魔にならないように客間でごろごろしている。
まあ、ごろごろしてるのは俺だけで、白狐はずっと腕の中だが。
ちなみに嵐武様は御叶神様とは別の部屋で仕事をしている。
白狐が見張りとしてついていこうとしたのだが、「真面目にやるからついてくんな」と真顔で言われたため俺の傍に来たのだ。
嵐武様はさっきとは打って変わって真面目に仕事をしているのか、ここに一度も顔を出さない。
「御叶神様の屋敷に来るの久しぶりだなぁ。白狐も?」
白狐が罪悪感いっぱいの顔をしていたため話題を代えてやり過ごすことにした。
「私は嵐武様の仕事についていってたのがほとんどですね。わりと頻繁に来てました」
「へぇ、そうだったんだ!知らなかったな」
「と言っても少し前の話ですが。爽が神界に来て少ししたらそれも無くなりました」
少しってか大分前だな。神様や白狐は少しの範囲内になるくらい短い時間なのか。……こういうとき思い知らされる。俺と皆は違うんだって。
置いてきぼりにされた気分になってしまうんだ。
「今はどうなの?」
「今……ですか。今はそこまで頻繁にってほどではありません。爽が幼い頃は心配だからと、二人してよく仕事を放って赤ん坊の爽を見に行ってたものです」
初めて聞いた、そんなこと。
嵐武様も白狐も過去のことは滅多に口にしないから、知らなかった。
………知らされなかった…
二人共、仕事に支障がでてたのに何も言わなかったんだ。
俺がいたせいで、仕事を遅らせたのに。
白狐も嵐武様も優しいから何も言わないけど、きっと迷惑だったんだろうな。
幼い俺を心配して、仕事を遅らせて、きっと沢山上の神様達に怒られたのだろう。
成長した今でも、それは健在だった。
仕事をサボると言いつつ俺の部屋に来ては雑談をしたり遊ばれたり……ん?これは心配とは違うな。
でも、俺がいなかったらそんなことはなかったはずだ。仕事を遅らせたりして上の神様達にこってり絞られることもなかったはずなんだ。
きっと俺がここに居る限りそれは変わらない。
二人共、優しいから。
なんだかんだ言っても優しい二人だから、これから先もずっと俺を心配して無茶してしまうのだろう。
俺がいなかったら、それもなくなる。
御叶神様も、それを考慮して俺を学園に入学させたんだ。
ぎゅうっと狐の姿の白狐を抱き締める。
俺の熱が伝わったのか、こちらをじっと見つめる白狐。
「どうか、しましたか?」
しばしの沈黙の後、心配そうに俺を見上げる。俺の様子がおかしいことに、すぐに気づいてくれる。
だけど俺はもう、甘えちゃいけない。
「なんでもない。眠くなってきたから添い寝してよ、白狐!」
いつもと同じ笑顔で、いつも通りに。
白狐も暫くしてから「いいですよ」と答えてくれた。
神界では何の役にも立たない、お荷物な存在。
ただ守られるだけの存在。
そんなやつ、居て何になる?
白狐を抱き締めたまま布団に潜った俺はある決意をした。
――――――人間界で、普通の生活を送ろう
そうすれば皆のお荷物にならないし、自律できるし、良いことだ。
人間界で普通の生活をしたら、きっともう皆には会えない。正直すっごい寂しいし、もっと甘えたいけど。
そんなことしたらまた迷惑かけちゃうから。
お荷物になっちゃうから。
だったら、俺は。
皆と離れ離れになってしまう未来を、受け入れるよ。
受け入れて、ちゃんと前に進むよ。
そんなふうに固く決意した俺に気づきもせずに、白狐はそっと眠りについた。
俺もそれを追うように睡魔に襲われ、意識を手放した。




