その102
気持ちを入れかえてようやく俺達も練習を始める。周りを見てみると、霊能科のやつが一度術を見せてそれを普通科のやつが真似る、といった感じだった。
でも普通科のやつが真似ても南雲が見せたような立派な術は完成しないのがほとんどだ。
「南雲がやって見せたから、術自体は大体わかっただろ。今の時点でできる術はあるか?」
「うーん、証雷と豊風は前にやったことあるけど、他は練習したことないかも」
「じゃあ火緑と地泉と水票をできるように特訓するか」
「イエッサー!……あ、でも火緑は護符がないや」
南雲からいくつかもらったやつの中に火炎術の符だけがないのに気付いた。部屋に忘れちゃったんかな?
「自分で護符を作ることも覚えろよ。人からもらった護符だけを頼りにしてたら駄目だぞ」
「え……あ、そっか!自分で作れば良いのか!」
掌に拳をポンッと置き、ひらめいたように声を上げる。
そうだよ!なんで俺そんな初歩的なことに気付かなかったんだろ?南雲にもらってばっかりじゃ駄目だ。自分で護符を作らなきゃ!
「……まさかお前、護符の作り方を知らないなんて抜かす訳じゃないよな?」
「いやいや作り方は知ってるって!馬鹿にしないでよ!」
こいつ大丈夫か?的な視線が俺に刺さったので慌てて否定する。護符の作り方は小さいころから嵐武様の仕事をちょいちょい盗み見てたから暗記してるんだよね。紙に書く紋様とかもバッチリ。神様と陰陽師が使う護符は同一のものだから大丈夫だ。
でも今作るわけにもいかないから火緑以外の術を練習する。
南雲みたいにめっちゃ破壊力のある凄まじい術を使う訳じゃないからあまり緊張しないけど、やっぱ力を解放するのに集中してしまうのは未熟な証拠だな。
適当に手に取った水の護符を構え、詠唱する。
「水票」
水の術は初めて使う。だからか、発動するのに時間がかかった。
さっきの南雲の水票よりずっとずーっと小さい水の波紋が足元に現れる。直径五センチってとこかな。霊能科のやつが同じ術を使ったら絶対4倍くらいの大きさになるんだけど、普通科の俺はこれが精一杯らしい。
たった五センチ程度の水の波紋を現しただけなのにかなり疲労感を感じる。
うっすらと額に滲んだ汗を拭ったとき、奥ヶ咲が厳しい表情で言った。
「…………遅い。しかも小さい。術と呼ぶには程遠い規模だ」
おおう……さすが奥ヶ咲。ズバッと言ってくれるぜ。俺も南雲に対してこんなだったのかな。マジであのころの俺死ねば良いのにね。
「せめて直径20センチの規模にしないと術とは言えないぞ。もっと努力しろ」
「は……はい」
うーわめっちゃ凹むわぁ。全然なってないって頭じゃ分かってても実際に言われると凹むよ。南雲もこんな気持ちだったのかな。でも自虐の言葉をつらつらと並べるのはやめてほしかったな。俺でもあそこまで酷くない。でもやっぱ凹む。もっと努力しないとな。
「ほら、次!時間が有り余ってるからってのたのたしない!」
奥ヶ咲の目がなんかマジになってる。真剣に取り組んでる証拠だな。俺自身嬉しいよ。でも。でもね。
「地泉!」
「小さい!なんだそれは!?砂を少し盛った程度じゃないか!地泉っていうのは土の塊なんだよ!砂と土の違いが分かるか!?」
スパルタすぎやしませんかね!?
何!?奥ヶ咲が豹変したんだけど!変なスイッチ入った?やだ、もう少しゆとり教育でお願いしますよ先生……
「よし、ほかの術も見てやる」
「ほ、豊風!」
「なんだそれは!そよ風か?豊風っていうのはな、小さな竜巻を起こす術なんだよ!そら気合い入れろ!」
んな無茶な!気合い入れただけで力解放できるなら誰も苦労しないって!
「証雷!」
「ぬう……文句なしだ」
やった!証雷だけは文句なしだった!
「よ、よかったー……ゼエ、ひとつはまともに使えてハアハア」
力解放しすぎて息切れしてるけどね!先生に注意されたのに何やってんだろうね!
「なんだ、たったこれだけで息切れか?」
「だから、俺、術……使い慣れたゼエ、霊能科じゃないんだって……」
だからスパルタも程々にしてくれないと目の前にお星様が舞うことになるって。
周りを見てみなよ。霊能科が普通科に親切に教えてるところばっかりじゃんか。なんでここだけ異空間なんだよ。南雲とペアなら良かったのにな。
「あら、基本の術すら使えないなんてさすが普通科ね」
「うるさいわよ!今にマスターしてやるんだから!」
「あらあら、見物ねー」
…………ここ以外にも異空間が。
女子はなんか、一部吹雪いてる。ヒュォォォって効果音つきで火花散らしてる。霊能科が教えてる訳ではなく、普通科と対抗してるようにしか見えない。
「今に見てなさい!あんた以上の陰陽師になってやるんだから!」
「なれるものならなってみなさいよ!そら、水票!」
「くっ…………証雷!」
「ははははっ!効かないわねぇ!豊風!」
「うわっ……ナメんなぁぁぁ!!火緑ぅ!!」
両者共に目ぇギラギラ輝かせてバトルの様相を見せる。女子ってあんな怖い生き物だったっけ?
一方の男子は霊能科が普通に教えていた。なんだこの温度差。
「さあ、休憩したらすぐ練習するぞ」
「え、あ、あの、奥ヶ咲先生………」
「ちなみに休憩は5分な」
学園長の馬鹿!この鬼と同室にしやがって!どうせなら南雲と同室が良かったよ!
各々のペースで術の練習してるので休憩をとっても教師に咎められない。明らかにサボりだったら注意するみたいだけど、それ以外は生徒に干渉せず見守るだけ。
地べたに直接座って一息ついた。と同時に周りをよーく観察してみる。
一部を除いて、教え方に多少の違いはあれど、皆頑張ってるのが目に見えて分かる。
ふと近くで練習している高築を見てみると、ちょうど術を発動していたところだった。
「豊風!」
護符を前に翳すと、微風が発生し高築の髪を微かに揺らす。俺の出した豊風よりも微風だ。高築もペアらしき人も渋い表情で微風を眺めてる。
前に練習したことのある「空豊」とよく似てるけど、決定的に違うところがある。
空豊は風を操る術。豊風は風を発生させる術。
操る術は基本の術よりもすこーしだけ難しいものだから、初めの合同授業に組み込まれなかったのだろう。いずれ練習するときが来ると思うけど。
一方の豊風は風を発生させる術だ。風を生成し、竜巻に近いものを発生させる。だが竜巻といっても小さなものだ。自然災害レベルのものではない。だから初めて風の術を練習するのに豊風をよく用いられる。
俺もそうだったけど、高築も微風しか出せないんだな。仲間みたいでちょっと嬉しい。俺だけができない訳じゃないってわかると喜んじゃうよな。
気づかぬうちににやけてしまっていたのだろう。高築がこちらをパッと見た瞬間心底嫌そうな顔になった。そして拳を作り、親指をグッと真上に突き立てたかと思いきや……勢いよく真下に下ろした。
え、それはなんの合図ですか高築さん!?なんか良くない合図に見えるのは気のせいかな?多分気のせい……だと思いたい。
その合図の意味は理解できず、高築もそれからこちらに向くことなく休む間もなく術を練習している。まあ高築の俺嫌いは今に始まったことじゃないし、慣れれば問題ないから良いや。
そう思って他の人達をちらほらと視界に入れていると、白石さん・イオリちゃんペアが目に留まった。
イオリちゃんが順番に術を使ってるのを白石さんが見てる感じかな。遠く離れてるから会話は聞こえないけど、主に口を開いてるのは白石さんだ。んでもってイオリちゃんは顔を赤くして唇を噛んでる。ん?なんか様子が変だな。
白石さんの唇の動きをよーく見てみる。すると、イオリちゃんの様子に納得しちゃう言葉が飛び出てきた。
「なんですか、それは。あなた霊能科でしょう?竜巻のひとつも起こせないわ、雷は小さいわ、ロウソクの火くらいしか出せないわ、土じゃなく砂の山だわ、水は出せないわ、普通科に移動した方が懸命だと思いますがね」
鼻で笑ってふんぞり返っている白石さんを涙目で睨み付けるイオリちゃん。
ああ……やっぱり相性最悪だったよあの二人。




