その101
てかさ、なんで俺のいる場所分かるわけ?俺そんな目立つ?目立つ要素なんてどこにも…………あ、頭か。青い髪がいけねーのか。くっそ、黒髪ならその他大勢に紛れたのに。
「やーなーぎーー!!何点だーーー!?」
「だああああもう今授業中だろが!!基本の術で何点とか聞くなよ!85点ってとこだよ!細かい力の流れが少し乱れてたくらいだよ!」
律儀に答えちゃう俺も俺だな。
「あーもう、授業中に悪目立ちしたくなかったのに……」
満点じゃなかったからかショボくれる南雲を横目に見つつ先生に怒られるなーと少し覚悟したのだが、一向に叱咤されない。そぉっと周りを見てみると、目を見開いて俺を凝視してる教師と生徒が視界に入った。
先生は分かるけどなんで皆まで俺を見るの?奥ヶ咲まで同じ顔してるし。
先生も俺を叱りに来る様子ではないし、俺なんか変なこと…………
言ったなぁぁぁ!!やらかしたわぁぁぁ!!
普通科のやつが霊能科の術見て感動するのはよくあるけど、評価するなんてねぇもんな!学園最強の陰陽師が普通科のやつに評価求めるとかおかしいわ!
しかもお互いに習慣ついちゃってるから「何点?」て南雲もつい聞いちゃうんだね!答えなきゃ良かった!こんなことなら術の練習に俺を引っ張りださないでほしかったな!なんだかんだ付き合っちゃう俺も俺だけどね!!
まあそれもそうだけど、霊能科の人にとっては学園最強の陰陽師が普通科のやつに評価を求めてることにじゃなく人殺しと噂される南雲にズバッと物申す俺に驚愕してるんだろうな。
あ、どうしようコレ。収拾つける算段とかねぇぞ。いつの間にか納賀先生も泣き止んでこちらを凝視してるし。誰か収拾つけてくれそうな先生もいないし。ど、どどどうしよう!?誰かー!助けてー!
内心パニックに陥っていた俺。だが否応なく視線は集まったまま。本格的に逃亡してしまいそうになったそのとき、マイクがキィィィンと嫌な音を奏でた。我にかえった皆が見てる先には納賀先生の持つマイクをぶんどってる北里先生がいた。
「基本の術の構成の仕方はだいたいこんなもんだ。質問はあるか?ないな。じゃあ各自練習はじめ!」
北里先生の一声で俺への視線は薄れ、護符を取り出す皆。
なんで霊能科の保険医がここにいんだよとか思ったけどとりあえずありがとうございます!!
「お、奥ヶ咲!俺らも練習しよっか!」
「………………」
なんとか皆術の練習をしはじめたおかげで俺に向けられる驚愕の視線はなくなっていったけど、ペアの奥ヶ咲はそう都合よくいってくれない。驚愕の視線から一転、疑いの眼差しへと変わる。
「……何故、普通科のお前が力の流れが見える?」
「あ、えーと、う……生まれつき?」
「なわけないだろ。力の流れが見えるのは強力な霊力保持者のみ。なのに何故、普通科の……霊能科に移動するだけの力がない柳が、力の流れを探知できる?どう見てもおかしいだろ」
南雲みたいに不思議だなーってちょっと頭捻るだけだったなら良かったのに、奥ヶ咲は騙されてくれないらしい。え、強い霊力保持者にしか力の流れ見えないってマジ?俺レアケース?
こればっかりは神様どうこうな理由じゃないと思うから下手なことは言えない。てか、結界すり抜けた件といい今回の件といい、よく考えると俺って不思議要素満載じゃね?
うわー奥ヶ咲めっちゃ睨んでる!怖い!それっぽい理由すら浮かばなくなるほど怖いよ!
「本当に普通科か?力の流れが見えるならそれ相応の実力もあるはずだが」
「普通科だよ!だから土日に練習してたんじゃん!」
「……初めて会ったときから何か変だなと思ったんだ」
初めて会ったときからってまさか今も疑ってんのか?
「イオリが言ってたから妖怪ではないんだろうが、俺は人間かどうかも怪しいと疑ってる」
えええええ!?妖怪でも人間でもなかったらもう神様じゃん!!え、何?もしかして長年神界にいたせいで矛盾が生じてるの?イレギュラーなのってそのせいなの?
「さぁ答えろ。お前いったい何者だ?」
ごくごく平凡な男子高校生です。なんて言ったら睨まれるだけじゃ済まないだろうな。
精神的にも物理的にもじりじりと追い詰められていく。皆はもう術を練習してるのにここだけ異空間みたいに錯覚してしまう。蛇に睨まれる蛙のごとくびくついてる俺に誰一人見向きもしない。術の練習で頭いっぱいだろうから仕方ないけど。
何者だ、って言われてもなぁ……人間だ、としか答えようがない。
「あのねぇ、俺は見ての通り……」
人間だ。
そう答えようとしたそのとき、胸の奥がドクンと脈を打った。
『…………本当に?』
誰かが俺に問いかける。その声は……誰の声だ?
ドクン、ドクンと早鐘のように次々と脈を打つ俺の心臓。なんだ、これ。
俺は、この声を知ってる。どこかで聞いたことがある。でも、どこで聞いたか思い出せない。
『本当に、そう答えて良いの?』
その問いかけに逡巡する。どういうことだ?人間だって答える以外に何も答えようがないのに。
“俺”に質問をぶつける“誰か”の声は、俺が何かを口にする前に続けざまに言葉を紡いだ。
『お前は…………人間じゃないのに』
その言葉が脳内を駆け巡る。
俺……俺は…………人間じゃ、ない?
「おい、柳?どうした?」
奥ヶ咲の呼び掛けに何も応えれなかった。視界に映るのは白帝学園の校庭ではなく、真っ暗な常闇。出口などはなく、一生そこから抜け出せないと思うくらいの闇に包まれた視界。
だが、ある考えが頭を過ってその暗闇は一気に晴れた。
いつの間にか俯いてた顔を奥ヶ咲に向ける。奥ヶ咲の顔はいまだに疑ってるようだ。俺が人間ではないと。
でも、これを伝えればそれもなくなる。
確信に近い思いが込み上げる中、口を開いた。
「…………もし俺が人間じゃなかったら、力を解放した瞬間に学園の結界が反応してサイレン鳴るでしょ?」
震えそうになる声を必死に抑えながらそう言ったら、ハッとした表情になった。
「そういえば……そうだな……」
「ね?だから言ったじゃん!俺は人間だって!さーもう詮索は終わり!いい加減練習しないと先生に怒られるよ?」
「ああ、そうだな……」
疑いの眼差しは薄れ、術の練習をするために符を取り出す奥ヶ咲を視界の端に入れながら俺は精神を落ち着かせた。
落ち着け、俺。あれは錯覚だ。多分、知らないうちに疲れが溜まってたりしたからあんな幻覚が見えちゃうんだ。
だから、何も思い出さなくて良い。俺は俺のままで良いんだ。
そう自分に言い聞かせてるとき、白石さんとイオリちゃんが心配そうにこちらを見ていたことに少しも気づかなかった。




