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相縁奇談  作者: 冬葵
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二度目ましてのよろしく






私は桜の花の花粉症なのよ!私のデリケートな体に悪影響をおよぼす凶器が蔓延し、漂う現実世界には帰らないわ!

杏里の姉がそうニート宣言をして引きこもり続けた春休みもようやく終わりを迎え、世間の人々が新年度へ重い腰を上げ始める。



二日前、桜が一年に一度の仕事を全うし緑色になる準備を始めたばかりの今日この頃、杏里は高校三年生へと無事進級した。


成績上にも出席状況にも問題がなかった以上、当たり前とも言えるが。



暖かな日差しの中、心もち穏やかな気持ちで登校する杏里。

そんな杏里に忍んで……は無いが猛スピードで突っ込んでいく影一つ。


「おっはよ――!!」



凄まじいスピードで死角から飛びつかれた結果、杏里は――顔から転んだ。

もはや事故である。


加害者は戸高結華。

結華はおろおろしながらしきりに謝る。



幸いなことに怪我のなかった杏里は無言で立ち上がり汚れをはらう。否、少しばかり鼻が赤みを帯びている。鼻梁の通った高い鼻が災いしたらしい。


ともかく、その姿を見て眉をハの字にした結華が周囲をうろつく。



「だ、大丈夫!?ご、ごめんね!ごめんね!勢いつきすぎちゃって!」


「おはようございます。……ところで、―――――どちらさまでしょうか。」



場の空気が凍る。



「ご、ごめんって!ホントにごめんなさいぃ!!」


「ええ。気にしていません。馬鹿は死ななきゃ治らないと言いますが、人間は学ぶ生き物です。ええ。貴女は成長すると信じています。」


「あ、杏里ちゃん!!」


「とりあえず、学ぶまで沈んでいてください。」


「うえええ!?沈むって具体的にどうすることなのかな!?」


「そうですね、具体性に欠けていました。半径10㎞は近づかない、これで譲歩いたしましょう。お互いのためにも。」


「それはお互いのためになってないよ!嫌なものから遠ざかるだけでは人間は進歩なんてできないんだよ!」


「はぁ、では、あなたは私があなたのことを嫌なものと認識していると知ってこのような行為を?」


「違うよ!言葉のあやだよ!嫌なものだって認識なんてしてないよね、ねっ!」


「自分のことを客観的にみれないと社会に出る前に今後悔しますか?」


「文法がおかしいよ!本音と建て前混ざってる混ざってる!」



あんなに冷ややかな杏里の顔は久しぶりに見ました――by結華



上げて落とすの会話を繰り返しようやく、歩きはじめた二人。


「だいたい、いつも遅刻間際にしか登校しないあなたがなぜ今日はこんな早いのですか?」


「それはねぇ…」


結華はふふんと目を閉じて得意げに指を一本立てた。

その仕草を見て、


「あ、もう結構です。」


杏里は片方の手のひらを向けた。


「うわあああ!話すから!話すからそんな冷たい目をしてこっち見ないで!」


結華は泣き真似をしながらひっついてくる結華を引きはがす杏里。



「だって、今日は新学年だよ!クラス替えだよ!学校生活の一年の大半がここで決まっちゃうようなものなんだよ!早く行って新クラスについてリサーチしなきゃ!」


「はぁ、そうですか」


結華の会話を右から左へ流し聞きする杏里の元にその会話が聞こえてきたのは学校への道がまもなく終わろうとしている最後の十字路だった。



「クラス替えは重要な学校行事の一つ、一大イベントだよ?学校生活のおおよそがここで決まってしまうといっても過言じゃないんだから。」


甘めの青年の声がつむぐどこかで聞いたような言葉に、


「ふむ、だがその程度で自身の生活が左右されるとはいかがなものか。同じ日本人という括りではあるのだから一部例外を除いて意思の疎通は可能なはずだが。」


硬質なイメージをもたせる青年の声が返答する。



「でも、高校三年生だからね。いくら各地から人が来ている進学校とはいえ二年も経てばある程度の関係は各々築いているから仲の良い子とは誰しも離れがたく思うんだよ。」


「それはなかなかに面倒な心理だな。年度末にやってきた俺には適用されない感情だ。」


「えー、そこは嘘でも俺と一緒になりたいと思ってる、とか言ってほしいね。転校してきてから一番関わったの、俺でしょ」


「ん?ああ、一緒になれば他者と新たな関係を構築しなくて済むのか。面倒事が少なく……否、お前と共にいる方が面倒事が増える可能性の方が高いと俺は判断した。やはり適度な物理的距離が必要だ。10kmは離れていた方が俺の為になるだろう。」


「ははっ、否定できないなぁ。でも俺が思うに三年になったし、多分今年は…あれ?結ちゃん?」



曲がり角でばったりと顔を突き合わせた四人の中で一番初めに反応したのは茶髪の青年。

目を丸くした彼は、結華に向かって親しげに呼びかける。

その相手にハッとした顔をした結華は満面の笑みを見せた。



「桐くんじゃない!わー、久しぶりだねー。元気してた?」


「元気だったよ。結ちゃんも相変わらず無駄に元気そうで安心したよ!」


結華と青年――藤山桐は唐突にハイタッチをすると手を取り合った。

キャッキャと握った両手を上下に振りながら話し合う二人を眺める杏里。

コミュニケーションが一段落した桐は杏里の方に顔を向けた。


「ん?そっちの子は見覚えが…って高山杏里さんだ!ほらほらぁ。去年お前が公衆の面前でお気に入り発言して子だろ。」


「お気に入り発言?何のことだ。」


少し離れた位置で腕を組み彼らを眺めていた鋭利な美貌の青年の肩をバシバシと叩く桐。

相手は特徴的な白髪、編入生――永田陸――その人だった。


杏里は若干身構える。彼女の脳内ではいまだ、陸は『危ない人』である。

そんな杏里を一瞥した陸は


「あれは人違いだったということで決着がついていただろう……そういえば、謝罪していなかったな。あの時はすまなかった。自己紹介も無く突然あのような事を言って驚かせてしまったな」



陸にとっては杏里の否定ですべてが解決していたらしい。涼しい顔で謝罪を行う。


その横でにやにやしながら陸を見ていた桐は唇をとがらせる。


「何だよ!!俺はてっきりもう一度ぐらい告白するのかと思ったのにさ。すげなくあしらわれたからってそこで諦めるなんて男じゃない!!益荒男見せろよ!」


「お前しつこいぞ」


迷惑そうに細められた目は元来の鋭い目つきと相まって人を殺せそうなほどである。


しかし、これを気にも留めないのが結華と桐。


「そういえば桐くん、永田くんと友達だったの?」


「そーそー、こいつが転校してきたときに前の席でね。なんだかんだで家も近いから結構仲良いよ。」


二人ののんきな会話の横、取り残された杏里と陸は互いを見つめ合いながら膠着状態であった。



「とにかく!学校はもう目の前なんだから続きは学校で話そうよ!お二人さんも積もる話があるでしょ?」


二人の不穏な空気を察したわけではないが、そう結華が提案をする。

杏里にとっては背後からフレンドリーファイアを食らったようなものである。

要らぬことをして…、という訴えの視線が結華に解されるはずもなく彼女は満面の笑みを浮かべている。



「君の言うことも一理あるな。このような場所で立ち止まっているのは通行の邪魔でしかないだろう。ところで君は…」


「戸高結華だよ!そこの桐くんとは高校一年の時にクラスが一緒だったの!」


ねー、と結華と桐は顔を見合わせる。


「そうか、俺は永田陸也と言う。昨年度末に編入してきた者だ。」


「あはははは、お噂はかねがねだよ、編入生君!ほらほらぁ、杏里ちゃんも自己紹介しときなよ!」


くるりとこちらを向いた結華に逃げ場がないことをさとった杏里は仕方なく現実を見ることにした。


「………高山杏里です。」


「ああそうか。」


よろしくとも何もない二人の会話に


「こいつちょっと無愛想で無表情で何考えてんのかいまいち全く解んないけど、多分悪い奴じゃないから仲良くしてあげてよ。」


と、お見合いをすすめるおせっかいおばちゃんのように口出しする桐。



「だ、そうだ」


完全に他人事の体をとる陸也に



「あ、謹んでお断りします。」



表情筋を動かすことなく断る杏里。

何が面白いのか後ろで笑う結華と桐の声をBGMに校門を抜けた。

異様なほど目立っていたことは言うまでも無いだろう。






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