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第17話 見せちゃう?

 ドアを開けるとそこには鶴…ではなく普通の南田が忙しなく動いていた。部屋は前に来た時よりも少し散らかっていた。

「玄関で待機するように告げたはずだ。」

 不機嫌そうな声色の南田はゴミ袋を片手に、テーブルにあったコンビニの容器に手をかけていた。それは今しがた買った夕食のではなく、以前に食べた時の物のようだった。

 もしかして、これを見られたくなくて?

 華は意外な理由に驚いたが、昨日鍵を渡されている時点で来て良かったはず…そう思って部屋を見ると昨日一日分の散らかり具合かなと思えてきた。

「昨晩は堕落した時間に甘んじていた。まさかそれで今日こうなるとは…。」

 最後の方はブツブツとつぶやくように言いながら脱いだままだった服なんかも片付け始めた。

 南田さんに合わせる義理はないんだけどさ。もしかして昨日私が来るかもと色々な準備したのかな…。料理とかも…前みたいに準備してあったとか…。

 行くなんて、一言も言ってないのだから後ろめたさなど感じなくてもいいはずなのに、華は悪いことしちゃったのかな…との思いが心に浮かんだ。

 リビングの物入れのようなところから掃除機まで出し始めた南田を見て「さすがにもう今日はこれくらいでいいと思います」と静止した。


「客人を迎え入れるのに完璧でないなど慙愧に堪えない。」

 ダイニングの椅子に座った南田がコンビニで買ったパスタを前に不満そうな声を出した。

 コンビニで温めてもらったはずのパスタは待っている間に冷めてしまって、湯気さえ立たない。それを手に取ると「温め直そう」と小さくつぶやいて華にも手を出した。

「いいえ。このままで大丈夫です。パスタも南田さんも。」

 華の言葉に手を止めて南田は華を見た。

「私は南田さんの人間らしい一面が見られて安心しました。」

 にっこりした華の言葉に南田は首を振り、ますます不満げな声が転がり落ちる。

「僕だって消耗する。体も…心も…。」

 南田さんも心がすり減っちゃうことなんてあるのかなぁ。未だに表情を崩したところを見せない南田に信じられない思いだった。


 食事が終わると出してくれたグラスを洗う。「客は座ってろ」の言葉を発した南田を無理矢理に座らせて華が洗った。

「部屋も片付けられないほどに疲れてる人ができるわけないですよね?」の強めの言葉に言い返せなかったのだ。初めて華が南田を言い負かすことができた瞬間だった。


 嬉しくて鼻歌まじりに片付ける。その姿を見ながら南田は不思議そうに口を開いた。

「君の行動は予測不可能だ。」

 それ、こっちのセリフ!

「何故、今日はいいのか理解に苦しむ。」

 そういえば…南田さんのマンションに来たかった理由って残業しているかどうかだった!一緒に会社を出た時点で分かったことなのに…。

 でも…。まぁ今日は来て良かったかも。うん。きっと良かった。

 まだ怪訝そうな眼差し…と勝手に理解した無表情を向けている南田は立ち上がると「何か飲むだろう?」とキッチンに来ようとしている。

「大丈夫です。おかまいなく。南田さんお疲れなんですよね?疲労困憊がはなはだしいんじゃないですか?」

 グッと押し黙った南田に華は一段とご機嫌な気分だった。


 洗い物が終わった華は鞄から出した数枚の紙と雑誌くらいの大きさの何かを持っていた。

「どうしてそれを…。」

 言葉に詰まる南田に「リビングをお借りしていいですよね?」と声をかけた。

 華が取り出したのは『わかりやすい機械設計の基礎』の本だった。

「せっかくだから復習して、南田さんに分からないところは聞こうと思ったんですけど…。大丈夫です。適当に自分でやりますから、南田さんは休んでてください。」

「やはり君の行動は…。」

 何か言いたそうな南田に華は鞄からスマホを取り出して得意げに見せる。

「分からないところは自分で調べますから。もし南田さんがおやすみになっていたら適当に帰りますし。」

 鼻歌まじりにスマホを操作していた華の手が止まる。愕然とした顔のまま止まった華に南田も焦ったような声をかけた。

「なんだ。何かあったのか。」

「これ…電源落ちてます!充電するの忘れてました!」

 フッ。笑ったような息が漏れた音に南田の顔を確認しても何も変わらない。でもきっと南田が笑ったんだろう。心なしか華の気持ちも温かくなった。

「南田さんがこんなに穏やかなの久しぶりな気がします。」

「君こそこのようなリラックスなど…。仕方がないことだな…。」

 言い澱みながら南田は自分のスマホを差し出した。「え?」と驚いていると「僕は充電忘れなどしない」と誇らしげな声をかけられた。

 いや…。そういうことじゃなくってさ。プライベートな色々を見ちゃうとか気にしないのかな…。

 南田に視線を移すとソファにもたれ掛かってリラックスしている。本人がいいならいっか…とインターネットをタップした。


 入力しようとカーソルを合わせると入力予測が自動で表示された。それを見て華はまた愕然とする。

 華の様子に気づいた南田も一緒にスマホをのぞきこむ。

 画面には

『年下の女の子とキス』

『緊張させないキスの方法』

と表示されていた。

 何件も同じような検索ワードが続いていて何度も調べたことがうかがえる。

 南田がバッとスマホを奪い取った。その表情には焦りの色が見えて「いや…これはちがっ…」と動揺しているように感じる。

 するとズレてしまった眼鏡を押し上げて、息を吐いた。

 眼鏡を押し上げるところ、初めて見たかもなぁと思っていると、手をどかした顔はいつもの無表情だった。

 えぇ…!もしかして眼鏡に無表情機能とか無表情変換スイッチとか、そういうのがついてるわけ!?

 珍しく表情が崩れたところが見られると思った華は拍子抜けしてガッカリした。もちろん南田はいつも通りに戻ってしまっている。入力予測を消したのかスマホが華の手元に返された。


 何も気にする様子のない南田に華は一人モヤモヤする。もちろん2つの検索ワードにも驚いた。しかし同じような検索ワードが何件か並ぶ下の方に表示されていた言葉が引っかかっていたのだ。

『政策 ハニートラップ』

『認証 税金 騙す方法 誘い方』

 前に打ち消していた南田は政府が仕掛けた華へのハニートラップではないのか。という疑念がまた頭をもたげていた。

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