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青春恋愛

目指すは行動派大和撫子

作者: 心音
掲載日:2016/06/05

私は、いつだって人前だと縮こまってしまう。

言葉より沈黙が似合うし、誰かの注目を浴びることは得意じゃない。だから、行動的で明るいアヤ――戸松綾乃は、私の憧れそのものだった。彼女は私の背中を押す風みたいで、困るたびに笑って手を引いてくれる。


そんな彼女の存在を心の支えにしていた私は、あの日、自分の世界に突然違う風が吹き込んでくるとは思っていなかった。


くじ引きで決まったクラス委員。

どうか当たりませんようにと祈った願いは、あっけなく裏切られた。しかも、よりによって相方は――下見ヒロ。


明るい。

話し上手。

距離が近い。

そして、ときどき唐突に思いもしない言葉を口にする。


私が最も避けてきたタイプだった。


その日の放課後、委員の仕事を終えて、心臓が逃げ出したいほど緊張したまま、私は彼に向かって声を張り上げた。


「あなたのことが大ッ嫌いです。私に関わらないで」


自分でも驚くほど乾いた声だった。

言った瞬間、胸の中にひどく冷たい痛みが走った。

本当は、そんな言葉を誰かに向けたかったんじゃない。ただ、怖かっただけだ。近づかれるのも、見られるのも、触れられるのも。


だけど、ヒロはふふっと笑った。

私の言葉を跳ね返すみたいに、柔らかく。


「俺は桜さんに恋に落ちました」


その瞬間、胸の奥で何かがひっくり返った。

理解が追いつかず、冷たい驚きが体の中で溶けていき、代わりに熱が広がっていく。怖さだと思っていた感情の正体が、少しずつ違う形を持っていくのが分かった。


帰り道、電車の窓に映る自分の顔は、困惑と高揚が綯い交ぜになっていて、うまく笑えなかった。


アヤに相談すると、彼女は眉を寄せ、すぐに優しい笑みを浮かべた。


「いいじゃん、桜。人見知り治すチャンスだよ?」


その声に救われもしたけれど、胸が痛んだ。

最近起こした騒動、噂、アヤを巻き込んだこと――全部が私を締めつけていた。それでも、ヒロの言葉だけが胸の中で温かく灯り続けた。


翌日。

教室に入ると、ヒロがふらりと現れ、私の机にそっと飴を置いた。


「はい、ドロップ。甘いの好きでしょ?」


ピンク色の飴玉。

手にした瞬間、その小さな粒から、彼の気配が伝わる気がした。飴を口に入れると、甘さがゆっくり喉の奥に広がり、胸がじんわり温かくなる。


そのときふと、彼の横顔をじっくり見てしまった。

笑い方、仕草、時々見せる気まずそうな視線の逸らし方。

そんな細かいところを、私は知らないうちに覚え始めていた。


――あれ、私、いつからこんなに見てたんだろう。


放課後、再び二人で委員の仕事をしていたとき、ヒロは慎重に口を開いた。


「桜さん、昨日の……驚かせたよね。ごめん」


その謝罪は無意味なものじゃなかった。

私の気持ちをちゃんと考えてくれている声だった。


「……ううん、大丈夫」


そう言おうとした矢先、続く言葉で思考が止まった。


「もっと桜さんのこと知りたい。話してくれたら嬉しい」


“知りたい”。


こんなふうに誰かに言われたのは初めてだった。

自分のことを差し出すのが怖くなくなる言葉だった。


気づけば、私は小さく頷きながら、自然と微笑んでいた。

その笑顔は以前よりずっと軽く、ちゃんと私自身のものだった。


日が経つほど、ヒロに心が触れていく瞬間が増えていった。


誰かが私について噂していたとき、

「桜さんに変なこと言うなよ」

とさらりと言い返してくれたとき。


緊張で手が震えた私に、

「深呼吸、一緒にしよ」

とそっと手を添えてくれたとき。


廊下ですれ違っただけなのに視線が合って、

彼の瞳がほんの一瞬、私だけを映した気がして胸が跳ねたとき。


そういう細かい瞬間が、小石みたいに積み重なって、気づいたときには胸いっぱいに広がっていた。


――私、恋してる?


そう思ってしまったら、もう後戻りはできなかった。


ある夕方、委員の仕事が終わったあと、ヒロがふいに手を差し出した。


「疲れた? 少しだけ、いい?」


気づけばその腕の中にいた。

夕方の風が冷たかったのに、彼の胸はあまりにも暖かかった。


「桜さんのこと、大事にするよ」


その声は、飴より甘くて、飲み込んだら泣いてしまいそうだった。

私はただ小さく頷いた。

言葉にしたら涙になってしまうから。


夕方の風が冷たかったのに、彼の胸はあまりにも暖かかった。


「桜さんのこと、大事にするよ」


その声は、飴より甘くて、飲み込んだら泣いてしまいそうだった。

私はただ小さく頷いた。

言葉にしたら涙になってしまうから。


抱きしめられたその瞬間、世界が少しだけ静かになった。

廊下の足音も、部活の掛け声も遠くなって、

ヒロの腕の中だけが、確かな現実になった。


――ああ、私……もう戻れないんだ。


怖かったはずの距離が、こんなにも安心できるなんて。

誰かに寄りかかることが「弱さ」じゃないって、初めて知った。


私はもう、ただの「泣き虫の桜」じゃない。

好かれることを知って、誰かを好きになる勇気を覚えた自分がここにいる。


夕暮れの校舎は少し橙色で、

その光の中でヒロがそっと私の髪を撫でた。


その手のぬくもりが、

私の新しい一歩を照らしてくれた。



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