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一杯のビール

作者: けい
掲載日:2016/05/15

その日、俺は人でごったがえす駅のホームにおりたった。ちらほらとユニフォームを着た人も見え、これから見る試合について話しているのも聞こえてくる。

そう、俺は野球観戦に来たのだ。


俺はごく普通の会社員だ。独身で、特に趣味もなく、仕事に勤しむ毎日だ。もちろん野球観戦などという趣味もなく、この日来たのはたまたま友人にもらったからであった。

野球については疎いが、貰い手がおらず友人が困っていたこともあり、今回観てみることにしたのだ。


電車を降り、改札をくぐりあたりを見回す。そもそも野球場がどの方向にあるのかもわからないのだ。だが、迷うことはなさそうだった。ユニフォームを着た集団がみな同じ方向にむかっている。

そちらに歩いて行くと、予想外の喧騒につつまれ少し驚く。見れば、駅に面した形で出店が並んでいた。ジュースにポテトに弁当、観戦グッズと種類は豊富だ。そういえば友人が、球場内は物価が高くみんな外で色々と買う、と言っていた気がする。


俺もなにか買っていくかと思い、出店があるほうに足をむけてみる。すると、こんな声が聞こえてきた。

「生ビール、350円!球場内の半額ですよー!」

球場内は生ビール700円もするのか。そういえば、缶やビンなどは持ち込み禁止らしい。独占商売というわけか。だが、紙コップの持ち込みは許可されているようだ。せっかく半額なので、買うことにした。


350円を払い、ビールを受け取ってからまたユニフォームを着た人たちに紛れる。ここから球場までは1キロ弱らしい。遠くの方に目を向けると、その1キロほどが人でうめつくされているのが見える。数千人はいるだろう。すごい数だ。15分くらいはかかるかもしれない。


駅を出てしばらく歩くと、道は線路に沿うようになってくる。そして線路と道を区切るフェンスには、大きな選手紹介のようなものが貼られている。選手名はあまり知らないが、迫力のある写真と共に選手のわかりやすい説明がされており、とても面白い。それを眺めつつ、右手に持ったビールを味わいながら歩くのもなかなかに楽しい。これは1キロも退屈せずにすみそうだ。


右手には飲食店や出店が並んでおり、ビールに合いそうな枝豆などのつまみも並んでいる。買っていきたいところだが、線路側のこの位置からつっきるのも迷惑だろう。それに、球場内にしかない食べ物にも興味がある。


選手説明や出店を見ながら歩いていると、球場がもう目の前に見えてきた。試合開始まではあと少し、ちょうどいい時間だろう。入場口までへ歩き、チケットをみせて中へ入る。


中へ入ったとこで、大きな歓声が聞こえてくる。そろそろ選手がでてくる時間なのだろうか。席には予想以上の観客がおり、あらためてプロ野球の人気がうかがえる。


さて席までいくかと思ったが、野球場初心者の俺には席までの行き方がわからない。係員に聞き、案内してもらうことにした。席までの通路にも多くの飲食店があり、あとで買うのが楽しみになってくる。どうやら友人がくれた席は三塁側のようだ。細かく分けられた通路をおりていき、席に到着した。


係員にお礼をいい、席につく。ベンチの上5列目の席で、かなりグラウンドが近い。かなりいい席だろう。あとで友人にお礼を言っておくべきか。


荷物を足元におき、俺は右手にもったコップを口に運ぶ。座れたしちょっと休憩と思ったのだ。だが、口に流れてくるはずの液体が流れてこない。おかしいなと思いつつ、傾けていくがいつまでたっても飲めず、ついには垂直にまでなってしまった。まさかと思いコップの中を見ると、なんとビールは空になっている。球場からここまで歩く間にいつの間にか飲みきってしまったようだ。途方に暮れていると、近くを歩いている売り子からこんな声が聞こえてきた。

「生ビールはいかがですかー?一杯700円でーす。」

結局安いものには裏があるのかと思い、俺は苦笑しながら売り子に声をかけた。





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