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Operation.8 要塞周辺(英雄達の村)

陽の無いこの夜、夢想も無く。空母は要塞支部にて一時的に駐留していた。ジーノはロアに問う。

「隊長」

「どうした?」

「…先程の戦闘で暴れていた彼女は…一体」

「『ミシェル・ヒラリー』だ」

「いや、名前だけ言われても…」

「…聞いたことがないようだな」

ロアは溜息を吐いた。ジーノに言う。

「彼女は開発中止超兵器、私と同じく『ハートキューブ』を用いている」

「…隊長も!?」

ロアは頷く。そして、小さな唇を滑らかに、軽く動かして話を続ける。

「後の作戦にも関わってくるだろう。多分…」

ジーノは唖然としていた。ロアは疑問に思ったのか彼の顔を見つめた。

「何話してるの?」

「ヤナさん!?」

「取り込み中だ」

「ハートキューブって言ったよね?少し興味があるからさ」

「一度聞けば十分だろう」

「そこを何とか…」

ヤナは子供のように頬を膨らませた。

「また聞きたければ別に構わないが」

「んじゃ聞こ」

まあ、元気なだけ何よりである。そう思ってロアは密かに口だけ笑う。

「ハートキューブは臓器アクチュエータ、つまりは臓器の補助機器。特徴は波エネルギーからの異常なエネルギー効率。割合の五割は勿論、前代未聞の120%だ。100%までならともかく、それを易々と越すハートキューブには謎しか無かった」

「一旦話を止めてくれ」

ジーノが待ったをかけた。

「エネルギー効率の方については、今まで無駄にされていた分(廃棄熱や音等)が全て指定のエネルギーに分けられ、副産物もまたそれと同じ様な感じの物って考えていいか?」

「詳しくは異なる。今は指定の大幅なエネルギーに変えられるとでも考えておけ」

ジーノは付いていけない表情をする。それを影で見て愉しむヤナ。

「その『謎』は多々ある。エネルギー効率については無論、耐久性や自動調節…等々あるが、本来の目的は心臓のアクチュエータとしての役割を果たすことにある。どの謎にも当てはまらない」

「どの様なエネルギーが作られるんだ?」

「私の場合は電気エネルギー変換、もう一方は熱エネルギーの方だ」

「…そんで、そのエネルギーは何処へ行く?体内にでも残るのか?」

「主に外部だ。得られるエネルギーが異常な時で、核兵器以上の危害にも及ぶものだ。その危険を知ってから、ハートキューブの開発は中止された」

「開発中止…隊長のも未完成と言うのか?」

ロアは何度も問うてくるジーノに笑う。

「まあそうだ。事実、その間にまで二個しか作られなかった。それは残念な事に一個分の開発に異常な時間をかける必要があったからだ。未完と言うのも仕方あるまい」

「…んで、ミシェル・ヒラリーって誰なの?」

ヤナが問う。ロアはとうとう頭を抱えた。

「ハートキューブの適切除去を行うために私と一緒に保護された女性…と思い出せないのか?」

「悪かったって!」

ジーノは改めてロアに質問する。

「…質問ばかりで申し訳ないが…」

「いや、好きに聞け。同じチームだ。一人で悩む必要は無い」

「ありがとう…先程、ハートキューブは心臓のアクチュエータ、つまり心臓の運動を助けるものと説明した。それを除去するということは…」

「死ぬ。その一言だ」

場は静まる。今宵に相応しい静音だが、ロアは話を止めない。その前にジーノが聞いた。

「ハートキューブを除去するなら、保護したままにした方が良かった。それなのに今、此処に居るのはなぜ…」

「ジーノ君。深〜い事情は聞いちゃいけないものなのよ」

「そこまで深くも無い。私が此処に居る理由、奴らから解放された理由は、ヒラリーを再び『生け捕り』するための戦力として戦うためだ」

「!!?」

「わお」

ヤナは手でいかにもわざとらしく口を押さえる。だが、ジーノの方は唐突過ぎる答えに驚く。

「スターダストチーム隊長殿。大将殿がお呼びですよ。司令室へ」

「了解。話はここまでだ」

ロアは休憩室を抜けた。しかし、一体何だと言うのか。あの化け物、怪物を生け捕りする任務をしている彼。到底太刀打ちできるようなものでもないはず。今日の戦闘の様に、彼女一人で戦闘機数台は軽く倒せる。

思い込むうちに、ヤナが肩に手を乗せてくれる。

「だから言ったでしょ。深い事情は、聞いちゃいけないものだって。葛藤が生まれて、どうしようもなくなる」

ジーノは、また新たな間隔を感じた。誰とも感じたことのない間を。

「…だから、迷わず真っ直ぐに!…ね?」

「…」

先程までの彼女からあの様な雰囲気を出す場面を見たのは初めだった。


司令室の中でも、全体に伝える為のディスプレイと個人個人の子機がある。今その子機の一つが連絡待ちとなっている。

「どうぞ」

「少し離れてくれ…大将」

《…お疲れ様。要塞支部の制圧に加担して、本当に頼もしいぞ》

「今宵は一体、何の御用で」

《次の作戦といこう。直ぐだ》

「…そうですか」

《よろしく頼む》

通信が切れた。ロアは至急、司令室から移動しようとした。出る前に、アリサが待っていた。

「…隊長。司令官が渡せと仰いました」

「ありがとう」

(やはり、司令官からの許可も出たか)

司令官はこの司令室には居ない。大司令室という場で司令室に指示する。

「隊長」

「今度は何だ?」

「…残党が現れるかもしれません。この宵を機に襲撃も」

「分かってる。補助は頼んだ」

ロアはデュアルロッドを持ち歩く。アリサも元の席へと戻る。


《これから作戦指揮を行う。至急外部へ》

「…ハイッ!?」

「ジーノ君!」

ジーノは頷き、トレーニングルームを出る。


ロアは外に出ていた。デュアルロッドにカードキーを挿しこむ。

『Unlocked』

デュアルロッドに跨いで一気に斜め前に飛ぶ。夜だから微かに涼しい。だが、風が透き通らないのが唯一、物寂しい原因だろう。

(…雲はもう過ぎたか。なら心配は無い)

ロアは下方を眺める。高所から広い範囲を見られる。ロアは即決で光のある方向へと向かった。

「見つけた。西側の方だ。およそ5キロぐらいか?真逆ってところか」


「…西にあるのだな?」

《敵の罠かもしれない。わざと光を放って其方へと誘い込ませることもある。くれぐれも気をつけてくれ》

「了解した…西だ!…」


《…進行方向8キロ先に光がある罠かもしれないが思い当たる場はそこしかない。そちらへ向かい、制圧せよ!》

「了解。行くぞ!西だ!」

とうとう行動を始めた。8キロ間の緊張はもう当の昔から解けきっている。

「…」

空母から出る。西側の方の森がとても遠く見えた。大人数が列を成して足元を合わせるように歩いている。

(…この暗闇を利用して敢えてバラバラに散って相手と戦うつもりか…)

ジーノは歩いているうちに自主的にシミュレーションを行った。

(相手もそうだろう。この森林の中で同じ戦法を、同じように行う…森林では音に頼るのは難しいものだ…無理ならば、奥の手を使わざるをえまい…ま、そんな奥の手に頼らずとも俺の実力は奴らよりも天を越えて宇宙か?それと地の差の様なもんだ)

「これより、森林に入る。チームで動き、無事に本拠地へと向かうように。ただし、合流してからそこに進む」

シミュレーションしている内にもう森林の目の前まで歩いていた。ジーノは唾を呑む。

それぞれのチームに分かれた。ハンドサインと共に皆が皆、気配を消して闇に身を包む。


ロアは光の溜まり場を上空から見ていた。中途半端に発展している村は、無駄に気配を漂わせるようわざと目立たせていると思われる。

「…やはり、所詮この程度か」

侮蔑する目で呑気に生きる彼らを見ている。

「敵本拠地、グリーンゾーン。危険などと考えてすらいない」

《何!?付近から兵を出しておいてのうのうと生きていられるのか?。残虐な奴らだ》

「此方が言えない立場だがな。やはり敵兵が居るのか?」

《かなりな。中々通してもらえないようで》

「…武運を祈る」

《そっちこそ》


目の前は赤の点の大群がある。近づいているのか遠ざかっているのかは分からないが、左右に散らばっているのは確か。

(…近づいている)

(…え?)

ヤナは一瞬で気づいた。何が起こったのか分からず、ジーノは彼女の方を見る。

(赤いのが手前側に来ている。感覚的に)

(感覚かい…)

ジーノは一度、感覚で敵の探査を試みる。そんな事できるはずなど…あった。丁度その時だ。

「ウグッ…」

銃声と共に始まる。醜い姿すら見えぬ闇の戦いが此処に勃発する。

「クソッ!」

兵は点に目掛けて撃つ。だが、何も起こらない。

「喰らえっ!」

連射連射、連射する。すると敵に掠ったのか、血が噴き出る影が見えた。

(そうか、ならもう一度だ!)

銃口を向ける。ただし、それは脳天に撃たれてからの出来事であった。

「…うぉあ!!?オイ!」

組んでいたもう一人も撃たれる。恐らく光を辿られ、場所を知られてしまったのだろう。叫ぶしかない。ジーノはその悲鳴を聞く。鉄砲耳な彼でも受け止められるほどの大声は、彼の出し惜しみを妨げた。

(…やってられるか!)

ジーノは早速、光線銃とスキャンボックスをサイレントモードにし、二枚の一つ、二回り分小さいカードを取り出す。まずは一枚、丸いボタンを押して腰のスキャンボックスに入れる。

『Install, "Circle Gun"』

脳裏に浮かぶ音声。イヤホンの様に外には聞こえないようだ。さて、次は光線銃にもう一枚。音声は無い。エラーも無い様だ。

『"Max"percentage. Wireless…』

(何やってるの?)

(もう十秒だけ!)

そのほんの十秒が命取りである。ヤナは時々応戦しながら相手の出方を伺う。そして此方の場所も暴かれてしまう。ヤナとジーノは飽くまでも気配を隠しながら移動する。

(まだ!?)

『Complete』

(…完了!)

ジーノは銃口を敵に向ける。円形の照準が次々と無作為に敵の居場所を見つけ出す。だが、味方もその中に映っているかも知れない。ロアは此処で再び頭の中で考える。

『Options』

(CODE '032,' clear!)

味方の照準は無くなる。『032』の様に暗号を脳裏に描く。そして、引きボタンを押す。

「!!?」

一瞬にして大量の点が消え失せる。実体はあったようだ。

「行け!突破しろ!」

一人が声を出す。ただただ前へと進むのみ。それでも光はまだ見えない。敵の攻撃は今度は後ろからとなる。今度は後ろに銃口を向けた。

(決め技っていうのはこうでなくちゃな!)

ボタンを押すと同時に更に多くの者を撃ち抜く。薄らぐ光が後ろから包み込んでくる。

「そろそろ村だ!急げ!」

「ジーノ君!」

ジーノは朧げな光に身を委ねようと、草叢を駆け抜け突っ込む。森から抜け出した先には、町が見えた。いや、あれは町なのか?技術を中途半端にまねて作った遺産を張りぼてにした村なのか?行かねばならない。そこを知るために。外観だけでなく、芯までも輝ける街なのかを。


此処は恐らく、廃園だろう。折角今日見られるはずの月光も点滅する電灯に邪魔される。

「待てっ!」

「ここまでおいでっ!」

「クソッ!」

その大路地にはただ二人だけ、追いかけっこしている少年らが居た。それを屋上から見物しているロア。彼は知っている。町の住民らの最後を。

(本当に似ている。あんな愚かな町に…)

デュアルロッドで移動した。

(…人間の力は殆ど等しいに近くなっている。それをカバーするのは技術だ。そうさ、技術さえ無ければ瞬く間に…)

ロアは恥じなかった。ただ武器を振るいながら醜く争うこと。そして、それが汚い手であること。とにかく自身の手を汚すことを。

「まさか、あれではないよな」

広大な敷地を使って、一つの建造物が佇む。ロアは我慢ならなかった。


入村。真正面から堂々と侵入する。勿論、警戒は怠らない。隊長は辺りを見ながら言う。

「妙だな。静か過ぎる。それなのに此処まで電灯が点いている…」

「これは罠でしょうか?」

「こちらフィオナ。村の様子は?」

《皆居る。子供も居る。若僧を出さないまま罠を仕掛けるほど馬鹿ではない》

「そうか。報告ありがとう」

「おい!」

目の前には大衆が斧やら箒やら、中には角ばった石ころをそのまま持ってきている男も居る。

「此処は貴様らの来るような場所じゃねえ!!この地を侵すつもりか?」

「お前達の様な悪人なんかとっとと消えてしまえばいいさ!」

「出て行け!」

大衆は叫び嘆く。子供を便乗させる。

「止めるんじゃ!」

老けた声が背後から聞こえてくる。大衆は顔だけをそちらに向ける。

「…っ!」

「とことん…汚ねぇ手を使いやがって!」

「…!?」

隊長のフィオナまでも驚く。ロアは容赦無く銃口を老人に突きつけている。

「屑野郎!今直ぐ離しやがれ!」

「待て!待つんじゃ!」

「俺達はまだ負けてねぇ!此処で死ぬわけにはいかねえ!!そう決めて…」

銃声は沈黙を生む。フィオナは銃を空へ上げて威嚇していた。

「そうか。なら今から相対しても文句は言わないはずだな?」

その一声で大衆の騒ぎは唖然としてしまった。ジーノは恐れた。

「…」

ヤナは彼の肩に手を乗せる。

「ジーノ君…時に止むを得ずこうなることもあるのよ。思い通りにいかないことも」

「…でも、それだと」

ヤナは首を横に振る。

「ロゼリアちゃんも、同じ様な事を何度も経験している」

「…」

「そうね。…多分、ジーノ君の夢を壊したくなかったからじゃ…無いかな?」

「此処の子供達は…」

ヤナは寂しそうな目を向ける。

「…今まで反抗してきた、彼らの父や母を恨む様に政府側から仕向けるでしょうね」

ジーノは熱り立つ。軋る。銃を握り締める。

(今にでもこいつで撃ち抜きてぇ気分だ!)

ただ…左手が許さなかった。激情を抑えるために堪え、気を静める。




空母に戻ると、アリサが待ち侘びていた。

「お疲れ様です…」

「お疲れ様〜」

「…」

ジーノだけがほぼ抜け殻になっていた。

「…ジーノ?」

「あの時とほぼ一緒だ」

「隊長?」

「…触れるなということだ」

見つめて、三人は先に行く。とその途端にヤナがジーノの背中を強く押した。

「うおうっ!?」

ヤナは半ば笑っている。ジーノはヤナに尋ねる。

「ヤ…ヤナさ」

「え?いやいや違うもん。アリサがやったもん」

「ヤナさん!?」

「だよね?隊長?」

「私は知らん」

「ええ!?」

ロアは完全に放棄している。

「ヤナさん?」

「…えっ、ああいやぁ、あはは…」

「それよりもだ」

三人は隊長の話に耳を傾ける。

「そろそろ出発するぞ。揺れに気をつけておけ」

皆、吹っ切れた顔をしていた。ロア以外は。


司令室にてロアは呼ばれる。音声のみの通話である。

《良くやった。今回もまた快挙だねぇ」

「…大将」

《ん?何?》

「私は…何か変でしょうか?」

《いや?全然変じゃ無いよ》

「…そうですか」

《寧ろ、この世界じゃ君の様な人が優遇されていると思うんだけどね》

「?」

《心が何処か曲がっていて、それでも味方をいかにして護り抜くか、それを考えている人。特に君の場合は自分の事なんか気にせずに闘うからもっと良く見られても良いんじゃ…》

「…買い被り過ぎです」

《そうなるのが欠点ね》

「…」

《とにかく、今日は終了ね》

「…」

機械音だけが残る。ロアは拳を握り締める。分からない。知らない。今の自分は本当に可笑しいのか。

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