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Operation.7 A1対空要塞支部(2/2)

A1対空要塞支部の外部側周域にて、戦闘機とMC隊との衝突は混戦となり、白熱化していった。縦横無尽に飛び回る蝿の如し。

「チッ…しつこい!」

ジーノはホーミング砲で一気に二体倒す。楕円を描くように宙返りし、敵の攻撃を躱す。

《増援が来た。至急撃墜を》

「ええっ!?今やっと十数体ぐらい倒したのに!」

ヤナも驚く。だが、ある物が言う。

「…増援に向けてブラスターを使う」

《ポー隊長!?》

「そちらは頼んだ」

彼は増援のMC隊の方へ機体を向けた。前方の五つのボタンの内の『03』を押す。すると、カードが一枚だけ取りやすい位置に出てくる。それを挿入口に的確に入れた。

『Install "Blaster" 50%』

ポー隊長は狙いを定めた。かなり遠くの増援部隊に照準を、後は処理を待った。

『"MAX"percentage』

「発射!」

赤き光玉が真っ直ぐ空を走る。爆散。追加のMC隊の姿が一切見られない。

《…やったか?》

《吹き飛んだのは確か…でもまだ》

ジーノとヤナは無線で話を交わし合う。

「一旦散らしたが、直ぐに集まる。ただのブラスターじゃ一点しか狙えぬ」

「だったら追撃だ!」

ジーノはレーザーを撃った。何発も何発も。


要塞の内部は薄暗い、青みがかった壁で張り巡らされた物だった。空は明確に鮮やかな色をしている。

「侵入者をとっ捕まえろ」

「「了解」」

アーマーを装着している、一人の男を頭首に、二人の女性の声が聞こえる。その内一人の女性が陰の通路を見張る。

「…」

「どうしたの?」

「人影が見えた」

「やはりか。早速ステルス破りが発揮されたか」

「此処は私に」

「分かっている。必ず戻って来い」

「了解」

二人は先に行く。もう一人が潜入した。確かに見えたはずだ。ほんの一瞬だが、漆黒の中の陰が一部動いて更に陰へと進む姿。

(…仕方がない)

ロアはリングを掴んだ。静かにリングを外した。女は警戒していた。

「…大人しく投降しなさい。そうすれば、悪いようにはしない」

「…」

沈黙が続く。両者黙っていたが、

「居るのは分かっている!」

と途端にロアが突っ込んできた。まだステルスは続いている。それでも的確に彼女は狙った。

物質的で不自然な音が辺りを過る。アーマーの頭部に異変が起こる。

『Error』

『Error, Power off』

電源が落とされた。ロアのステルスが剥がれる。彼は今、光線銃を彼女の頭に突き付けていた。

「司令室の場所は?」

「…誰が教えるか」

ロアは電流を流した。女は、悲鳴を挙げることなく倒れてしまった。

「…最悪だ。ODは持っていない…奥の手を使わざるを得まい…」

ロアは床に手を当てた。脳裏にコードが自然と浮かんでくる。ロアは手を離して直ぐに移動する。

(…あの遥かに高い塔はフェイク。直ぐ近くの方が司令塔…ならこっちか!)

リングを再び身に付ける。

(ステルスで逃げるしかないか…)

直ぐ近くとはいえ、リングの電力もあと僅かしか保たない。持ち前の俊敏力で裏口の扉へと向かう。




海の上空、そこで浮かぶ杖と女性、ヒラリー。右耳に掛けている無線のスイッチを入れる。

《まだ戦場に来てないようだな》

「ごめんごめん!あそこら辺のアトラクションとかとても楽しかったし…」

《急げ。もうほとんどのMC隊が出動している。奴らを完全上陸させる前に決着を付けたい所だが》

「…舐めちゃあ駄目だよ。彼らの団結力というと正規軍を一応打ち負かした実力持ってんだから」

《いや、その期待も直ぐに砕け散るだろう。奴らはとうとう、『伏兵』をも無駄撃ちしてしまった》

「無駄撃ち?一体何の事?」

《正規軍の連中が伏兵を出す前に出しやがった》

「あっそ。何か妙に急いでいると思ったらそれね。仕方無いわね…」

付近からぎこちない連続音が続く。ヒラリーはスピードを上げる。

「何でこんなとこに!」

遠い青のその先の、旧式のヘリコプターが彼女を脅かした。




空母側の司令室では様々な機械のアンロックが始まっている。熱抑制装置にクリーナー、そしてワクチンコンピュータ、等々。

その近くでアリサは言う。

「第三隊の出撃を」

《了解。第三隊、出撃せよ》


《…了解…第三隊!出撃せよ!》

「了〜解。第三隊、出撃よ」

「待ってましたァ!」


「捗るのぉ…」

「…お褒めに預かります」

「絶縁の方は、未だ連絡なし…と。寂しいか…」

アリサは黙った。だが、黙っている中でも何かは心中で思っている。目の前の混戦中、戦況の行方を。

(…ヤナさん、ジーノ君…隊長)

二人の名が挙がる。最後にもう一人、武運の行方に託すしかなかった。




その対、要塞支部側の司令室。フードを被る女と通信していた。

《…まだ其方に来ていない様だ》

「そんな!伏兵ももう出してしまったと言うのに」

《防壁の中に重光線銃があるだろう。今の内に命令を出しておけ。対空要塞にはMC隊だけではない。存在を忘れるなよ》

「…」

無線を切られた。歯を食いしばり、別の方へと命令を出す。何か鉄臭い。

「こちら司令室。休止中の守護者達はイーストエリアへ直ぐに行き、重光線銃の用意を」

《了解》

直ぐに体を反転させる。だが、人がバタバタ倒れていくだけであり、目の前には死体、死体、死体。そして自分自身までも。気づかぬ内にその室内の人は全滅した…その中で悠々とステルスを外すロア。無線を通して話す。

「…こちらロア、最終連絡だ。絶縁を始める。ワクチン、マニュアルバスティング等で再点検、通信を切ってくれまいか?」

《了解、良くやってくれた》

「では…」

無線を切った。ロアは辺りを見回す。

「…これか。コード入力装置」

しかしながら、それにはカードの挿入口が影も形も無かった。ロアはカードケースから有線のカード挿入機器を差し込む。そして一枚だけ、白のカードを挿入した。

『Install, "Insulater"』

ロアはコード入力を始めた。

(…失態は許されない)

コードを追加入力することにより、読み込みの快速化や容量の増加が可能。ただし、元々あるデータも消す必要があり、なるべく早く消せるデータを選択してコンピュータの処理による電源落ちを免れるようにコントロールする。

そして、絶縁プログラムを完全に取り込ませるのに時間は軽く一時間はかかる。その内に敵が襲う。

「動くな…侵入者め!」

ロアは一旦手を休めて、光線銃を向けた。容赦無く初撃を敵の急所に撃ち抜く。そして、その周囲の敵にも次々と撃つ。


MC隊らの数は確実に減少してきている。ただし、戦闘機の量もまた大幅に減らされていた。それでも真っ直ぐ突っ込む様子を見せる。ポー隊長は要塞を注意深く見た。

「…重光線銃…これは駄目か」

「…もう機体の燃料も少ない」

「暑い」

ジーノとヤナは疲れ切っている。

《第三隊の出番だ。第一、二隊はもう退がれ》

《お疲れ様》

ポー隊長は伝える。

「…第一、第二隊…退却だ!」

「「了解!」」

前線の戦闘機は退避。だが、遅かった。

「…!?ぐぅっ!?」

何かしらが機内を貫通した。腕が醜く溶かされる。あまりの痛みのあまり、操縦どころでは無かった。

「…お待たせ」

帰り途中でヒラリーが不気味な笑みを浮かべる。

「…まさか…嘘…ちょっと!ジーノ君!」

ジーノの機体は彼女へと突っ込む。ヤナは彼を止められなかった。ヒラリーの二撃目。


『"40"%…』

ロアは必死だった。ディスプレイは赤くなる。警告か何かだろう。その途中、何者かからの音声メッセージが流れる。

《お前があの、『二代目』のスターダストチームの生き残りか》

ロアは何も話さず、コード入力を続けた。

《私が誰なのかは…知っているだろう》

何も、驚く要素が無い。此処の者達以外で此処に辿り着ける人など、まず居ないのだから。自分に語りかけているのは確かである。

《彼らは今、ヒラリーと闘っているところだ》

「…!」

漸く反応を見せた。

《早く出て行かなければ、な…》

音声メッセージが切れた。ロアは気を取り直して専念…しようとしたが、また部隊が邪魔をしてくる。


ジーノは恐れている。先程、知らぬ間に撃墜された味方の二の舞を受けるのではと。光線での攻撃を試みた。が、奇怪な事が起きた。

「…!?レーザー光線が当たらない!?」

光が歪に曲がりくねって、照準とは異なる無辺世界へと飛んでいった。火災も起こらず、目を疑った。

《ジーノ君!今は駄目!早く退避して!!》

「分かっています!!」

ジーノは強く拳を握り締めて空母へと向かう。ヒラリーは彼を追う。


『"99"%…』

最後の一歩…が踏み出せない状況であった。それは長く、心が折れそうでもどかしい物だ。この最後の一歩を出すのに、四度敵に襲われた。

『"MAX" percentage』

遂に取り込んだ。後は起動させるのみ。

『Start up, "Insulater program."…204/369

"Cancel"』


防壁周辺での接戦、重光線を放つ要塞側と第三隊との攻防が激化している。

「…Fire!」

一般の光線銃よりも重い。だが、破壊力はある。まだまだ重光線銃での攻撃は続く。しかし、第三隊も光線銃で迎撃。相手を仕留めていく。そして、戦の分かれ目の時が来た。

「…Fire!」

「…発射できません!!」

「何だと!?」

「マスクの電源が落ちました…入りません!」

「…!!?」

「隊長…」

「…空中のMC隊隊員達が落ちていく…」

外を見れば、無様に底へと落ちていく姿が一目で確かめられる。

(私は…英雄達が敗れ、殺されていくということに…気づいているのか?そんなはずは無い。彼らは、この世の先を築き上げる希望の種なのだ!)

彼らが地に着いたときに、その場で爆発が起こる。地雷による攻撃を図っていたのだろう。それが種を最後の最後まで砕き抜く定めを、予兆していたのかもしれない。

(…せめてもの、一人だけでも残り、この世に革命を起こす英雄として残ってくれれば!)

マスクで顔を隠して、同時に涙も隠す。それしかできない。身の程を知るという屈辱は、記憶から削ごうとしても削げ落とせなかった。集団の中から一人が階段を降りる。

「…!おい!」

その一人がこの場から走って去る。


ロアは疲れ切っていた。なんとか一時間程度には抑えたものの、その中での強襲によるストレス、ディスプレイの光による眼精疲労、機械熱による急激な温度上昇でスタミナはほぼ無い。ロアは漸く立ち上がる。体はかなり震え、間の狭い呼吸をする。それと同時に微かに帯電していた。

(…よし)

電気が発されなくなった。その時にロアはカードケースから二枚、カードを手に持つ。

(今はノイズが0co。なら、手は一つ)

それぞれ、同時に腰の左右のスキャンボックスに入れ込んだ。

『Install, "Noise Regulator"』

『Install, "Buster's Systems"』

『『"MAX"percentage』』

光線銃、無線を起動させた。

「こちらロア、デュアルロッドの転送を頼む」

《了解!》

ロアはもう一枚出して光線銃に差し込む。

『Install, "Buster"』

ロアは入り口へと急ぎ、扉に銃口を向けた。

『"MAX"percentage』


「機械杖の転送!」

「了解しました!」

アリサはキャリーケースの中身を開く。すると、組み立て式であったようだ。複雑であった。横から逞しき腕が掴んでくる。

「まだ分からないのか、俺に任せろ」

「…いえ」

「そう言わずに、緊急事態なんだろ?」

巧みな手使いでどんどん組み立てていった。

「…凄い…」

「こうゆう感じの奴はかなり凝って作られていたからな。とても人気がある。ちゃっちゃと転送補助室に向かいなさいな」

「場所はどこだ?」

無線を通し、追加で問う。

《最も高い塔の付近に》

「分かった。もう完成したところだから急いで」

《誰かに頼んだのか…全く》

「貴方のためにやってるのでしょ!?」

《それは置いておき、早くしてくれまいか?》

「置いとくな。了解だ」

後ろを振り向けば、彼女の姿はもう無かった。


アリサは走る。かなり重く、体も倒れそうになる。意識もふらつき、立ってられない。とその時に一人の女性がデュアルロッドを持つ。

「ご苦労様!後は任せてね!」

「あ…ありがとうございます」

息が荒くなっている。


ロアも同じく走る。此方は意識を保っている。空を見上げて何かを待っていた。何を待っているのか、それは勿論。

(…外れか)

空で輝きを見せて、地へと降りようとしているが此方には来ていない。ロアはその方向へと疾走した。角を曲がると直線方向に光が見えた。そして禍々しく光が剥がれていく。ロアは確信して其処へと突っ込む。

「そこまでだ!悪魔め!」

走る途中で一人のMC隊隊員が現れた。彼は憤怒のあまり、強く重みを感じさせる声で止める。

「俺達を此処までして、何のつもりだ?」

「正規連合の防衛ですよ。貴方達こそ、一体何の真似でもしてるんだ?」

「俺達は!お前らの様に自然が!世界が!崩れ落とされていく殺風景を、高みの見物をして嘲笑しながら更に破壊を助長する奴らを止めて、世界を変えて平穏な時代を取り戻す!お前らを止める為に!」

「…それにしてはちっぽけなスタートだったな」

「な…」

「まずはそのマスクでも外してみたらどうだ?貧相な顔を露わにするのは怖いか?」

「ほざけ」

隊員は、マスクを外した。眩い光。だが此処は根気を持って意思を保つ。そこには若々しく綺麗な肌が見られた。

「外した方がかっこいい方か」

「一つ聞きたい」

「すっとぼけた考えはよせ。私は行く」

隊員は光学散弾を連射する。向こうに見えるデュアルロッドには近づけなかった。ロアは物陰に隠れ、身を潜める。物陰を用いて別ルートを用いる。

隊員は心の奥底から激怒している。己の仲間を他所から嘲られ、中傷される。此処まできて許さないはずがない。

(愛情を、絆を、勇気を…!)

限界だ。

「馬鹿にすんなぁっ!!」

『Install, "Blaster"』

今度は真正面からではなく、真横に走ってくる悪党の姿が見えた。散弾を放つ。

ロアは回避し、隊員の後ろへ回り込む。敵は

(電源切れ…か…)

ただ目の前の状況を悔しみ、目を閉ざす。


『"MAX"percentage』


爆破と共にロアも吹き飛ばされ、態勢を整える。息が荒かった。デュアルロッドの方へと急ぐ。カードキーを二枚差し込む。

『Unlocked』

ロアはデュアルロッドに乗り、空を飛んでいった。


第三隊は今、苦戦している。重光線銃に対しての話ではない。一人の魔女によるものだった。

「あっちゃ…こりゃもう全滅は避けられないかな?私が早く来なかったせいかもしれないけど」

ヒラリーは肉眼では見えぬ攻撃をする。戦闘機が二台撃墜された。

「…何も、礼すらできずにお別れの様だ」

《おい!しっかりしろ!アベル!》

「妹に…よろしくと伝えておけ…」

《アベル!》

大破。無惨にも散ってしまった。一機がヒラリーに突っ込もうとした。

《止めろ!回避!》

一機は察したように、彼女を避ける。ヒラリーは声のした方に顔を向ける。その表情は再会か何か。そんな感じのものを表していた。

「ノア君…?」

「…」

ロアは冷酷な表情をする。そこまでする必要のある天敵とでもいうのか。

「そんな怖い顔しないで!元の場に戻って来て!」

「…元の場というのは、あの収容所にか?」

「違う!私達の居た故郷よ!」

ロアは命令する。

「第三隊、退いてくれまいか?」

《いえ、我々は》

「戻れ」

第三隊は仕方なく退陣する。彼女を許せない者も居たが心を移して空母へと向かう。

「二人にしてくれたのね…」

「ヒラリー」

ヒラリーは喜ばしい顔をする。

「…それは無理だ」

「…え?」

ロアは断言した。

「私は行かない。もう戻れない身だ」

「そ、そんな事無いもん!私達が協力すればあんな変な世界やその収容所とかも」

「…私は…そんな変な世界を好きになってしまった…見惚れてしまった」

「ノア君…」

ロアは難しそうになった。表情そのままには表さなかったものの一目で分かる雰囲気だった。

「あの世界にずっと居てから、故郷の事を思えばいつもそっちを嫌って、否定して、とにかくその存在自体が許せなくなって…」

「…もう、戻れないのね」

ヒラリーは此方に突っ込む。その面には涙の跡が。ただただ辛そうに此方を見ていた。ロアは避ける。

「…これで最後だ。俺達が一緒に帰る場なんか…そもそも無いんだ」

ヒラリーは叫ぶ。

「駄目!自分でも嫌だったんでしょ!?」

「…今は、双方共に休むときだ」

ロアは言い逃れて空母へと戻る。ヒラリーは彼の姿に涙するしかなかった。

(…)

「待っ」

《今回は『負け』だ。戻ってこい》

突然の連絡で、更に悲しむ。本当にこの様な最期で良かったのか。虚しかった。


ロアが帰還した。相変わらずの無表情であった。

「お疲れ様です」

「…そちらこそ」

陽は既に落ちていた。その要塞は、もう二度と光を得ることは無いだろう。光は戦で英雄達から奪われた戦の代償の様なものだった。

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