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Operation.3 E住域、『シャドウ』

「…ボス…E住域西ハブ空港発、A1区N・NY住域空港着の飛行機の手配したところです」

「そうか…メモリーカードは幾つ集まった?」

「まだ…二つです…」

「そうか。気にするな。そんな物を自分で持つ輩なんざ社会に対するプレッシャーで圧し潰されるせいでほとんど居らんのだからな」

「ボス…」

座椅子に寄っ掛かる黒づくめの男はワイングラスを静かに震わす。

「彼らは『区民』なのだ。だから法やら国権とやらで封じ込めば一瞬で散る。どんなに知恵を持っていたとしても国権には一対一では敵わん…だが、俺達『シャドウ』は違う。そんな社会に対する恐怖やら不満やら…此方は国家よりも多く経験しているのだからな…」

ワインを一呑み。男は立ち上がり、部下達に言う。

「諸君よ。快く聞け。我ら『シャドウ』は、永遠に栄えるのだ。この腐った社会でも押し倒し、更に金で潤おうではないか!…乾杯…」




ロアは部屋に戻る。マントを片付け、手を洗い、受話器の赤ボタンを押す。

《…通知が一件来ています。メッセージを…》

『YES』を押した。音声のみが発せられる。

《…儂じゃー!チャーマンじゃっ!情報が集まった!今直ぐ電話に出てくれい!夕方までだ!…》

ロアは仕方無さげに番号を入力する。今の通信番号の桁数は十六桁ある。

《…あいよ、チャーマンじゃ。ロアか?》

「ええ、そうです。漸く情報が…」

《そうじゃ。早速だが言おう…マフィア共が賭場で呑気に飯でも食うつもりなのだ》

「その賭場は何処なんです?」

《…バッキンガム・カジノパラダイス》

ロアは一度窓を見る。二つの塔が目印である。微かにしか見えないが許容範囲らしい。

「意外と近いな…」

《ああ、そうだ。そっちに黒服共がぞろぞろと来るはずだから、ちゃっちゃと取っちめてくれんか?》

(…黒服…あいつか!?)

昼から疑い、目をつけていた者も黒服。その上、メモリーカードを持つ。メモリーカードを金にして…駄目だ。それだと単純過ぎて不可視の罠が襲ってくるかもしれない。

《…どうした、黙っておって》

「考えていたのですが、なぜ私達にその仕事を押し付けるのです?それらは特務課の役目では?」

《特務課だけじゃ歯が立たんらしい》

「…マフィア一組織程度にそこまでするつもりですか?腑抜けも良いところです…」

《バカモンッ!そんな事はない…武装しているんだよあいつらは。特に金を持っている組織だから、兵器もまた持ち込んでいるかもしれん》

「そうですか…そして取っちめると雖も、私達は何処に行けば…」

《…E住域ハブ空港でも監視しておけ》

「空を経由する手段を切る…ユーロ・ロードの方は如何致します?」

《そっちは軍で十分だろう。海の方は無論。そうすれば、E住域で包囲が可能だ。バッキンガムから最短の空港はそっちだからな…多分そっちの方に行くはずじゃ》

ロアは少し考えた。

「バッキンガムの方にチームの二人を行かせ、私が飛行場を監視しましょう。勿論、軍からも数人同行お願いしたい」

《…了解だ!金は弾ませる。午後四時五〇分辺りに来させるように伝えておくんじゃ!電車は通っておるからの》

電話が切れた。受話器を置き、腰に提げていたデータ情報機器、ODを起動させる。銀棒を元の場に戻す。

『Sound recorder stick1

"Sound data 50'26 "』

音声が流れてくる。三分の一を飛ばして聴く。


《…詳しくは知らないが、取り敢えず凄いことに使うんだろう》

《A1区域にもう帰るべきかな?そこまで重要だとすれば尚更、正規軍の奴らに渡すわけにはいかねえ筈だろう?》

《それは言うまでもない。だが、国家の方がもう動き出している。移動は慎重にな》

《ああ、分かっている》

《最悪、泊まりになるだろうが、必ず持って来い》

《もういいよ。何度も言いやがってよ。ボスに借りがあっから…絶対に守り抜いてみせるさ》

《…じゃあな…》

《…ああ》

暫くの沈黙と、水と共に音も流れる。


その後も聴いたが、有力な物は無かった。トイレの中には彼一人であるという事を踏まえ、考える。

(…一つ確信したことは、彼はメモリーカードを盗んでいた奴であり、且つ犯罪組織の一人…)

ロアは携帯を手に取り、メールを送信する。

『直ぐに事務室に来てくれ。任務が入ってきた』

嫌々と席を立つ。


一方で、区域軍はE住域の包囲を行っていた。イレイザー・ライト主砲搭載の戦車、『マーラ』で大陸への道を妨げていた。事前に発表されたのかのように、一般車は通ろうとしていない。

「彼らの目的は『住域外を出る』ことだ!何としてでも此処からは逃がさん!」

兵達から意気込みが感じられた。


「…任務って何?」

ヤナが入室と同時に問いかける。

「今は二時。バッキンガム賭場にジーノと直ぐに向かって近辺の味方と接触してくれ。説明はそこで」

「了解!」

「私はE住域西ハブ空港へと向かう。さて、後はアリサを何処にするかだ。臨時の為に私と同行してもらおうか…」

ヤナが退室すると同時にジーノが面を合わせる。

「…今度の任務は何だ?」

「説明は後だ。まずはヤナと同行してくれ」

「ジーノ君。よろしくね」

「ああ。そっちこそ!」

直ぐに事務室を出る。すると、ロアの携帯電話が突然鳴った。

「何だ?」

《…ごめんなさい…遅くなりました…少し話が長くなってしまって》

「外か。今何処に居る」

《今は西の方で…》

「そこら辺にタクシーはあるか?」

《…今、確保しました》


アリサは小型車に乗った。

「何処に行けばいいんです?」

《E住域、西ハブ空港だ》

「そこまで行くのですか?」

《そうだ。追い討ちをかける。GTSは持っているか?それがあれば一番助かるが》

「勿論あるわ!」

《分かった!此方も今行く!》


ロアはODをしまい、カードケースからカードを二枚取り出してそれを腰に装着する。そして、光線銃を腰に挟めてからマントを羽織ってとんがり帽子を被る。そして、コンピュータ回路の見える、スケルトンの杖を背負う。ロアは事務室の電気を消した。

ロアはカードキーを手に持ち、エレベーターの挿入口に読み込ませ、ドアを開ける。そしてその中に入っていった。


後にジーノやヤナもエレベーターで地下へと行く。

「ん?此処って…」

「バイクに乗って。ちゃんと別のもあるから」

ジーノはゴーグルをつけ、一枚のカードを持って挿入口に差し込む。

『Unlocked』

『Unlocked』

ホバー式スクーターで現場へと向かった。


ジーノはヤナと無線で連絡を取る。

《行く場所は『バッキンガム・カジノパラダイス』だからね!私の後ろに付いてってよ!》

「了解!」

車が居ない内にスクーターは大道を走る。


「間も無く、バッキンガム・カジノパラダイスでございます、ボス」

「ふん…あれか。やはりカジノと言うと、ラスベガスを思い出してしまうよ。狭苦しいが飯を食うには十分だろう」

「今日は貸切になっておりますので、何なりと…」

「そうか。一般市民を巻き込んでこそ、賭博の面白さが感じられるというのに…」

「…間も無く到着します」


空はまだ青みがかっている。殆ど夕暮れに包まれている中、一つの黒い影が空を飛んでいる。

(あそこが賭場…その更に奥に行けば空港…そこの飛行場状況を確かめれば…)

ロアは飛行を続けた。




午後四時五二分。二台のスクーターが素直に駐車場へと向かわなかった。兵達が集まっている場を見てそこに行く。

「お疲れ様です」

「ああ、お前達がチームの…私は今回の任務にてカジノ側を担当するナトリーだ」

「スターダストチーム、ヤナです」

「ジーノです。よろしくお願いします」

「それは此方のセリフでもある」

ヤナはジーノに顔を向けて言った。

「ジーノ君、作戦に移る前にその光線銃のロックを解除してね」

「…」

ジーノはにやつき頷く。光線銃を手に持って、カードキーを挿し込み、光線銃の先端の出っ張りの部分を引っ張る事で読み込ませる。

『Unlocked』

「解除はバッチリね。あと、その出っ張りを前方に押し込んだら、ミドルレンジになって、ある程度遠くの敵を撃つことができるからね」

「凄いな…軍とは比べ物にならない…」

「なんせ、君達のは特別製なのだからね。カードの追加挿入はバレルを前にしてロングレンジ。そして側面のどちらかに入れれば良いよ」

ヤナは自慢げに説明する。

「ご説明どうも」

「…作戦に移る。周囲を包囲する者と侵入する者と分ける。スターダストチームの二人は侵入をしてくれ。ただし、目の付かない所でな」

「え、何故です?」

ジーノは少し焦った。ナトリーは言う。

「我々『特務課』の方が威厳があり、少しはプレッシャーにもなる。…まあつまりはだ、国内をずっと彷徨くインターポールレベルのサツってな感じさ。そいつが周囲に居ただけでも、彼らの活動は一層厳しいものとなるからね」

「えぇ…?」

「初めてだから驚いても仕方ないわね。喋る暇は無いらしいから、さっさと行ってもう寝よ!」

「ああちょっと待った」

ナトリーが声をかけた。

「君達はODでカジノの内装についてのデータとかあるか?」

ヤナが応える。

「ええ。勿論です」

「流石だ。我らは勿論マフィアを逃がすつもりは更々無い。まあ逃がしたとしても、彼らは逃げられん。重犯罪の償いからは…な」

「そんじゃ、行くよ!」

「お、おう…」

ヤナとジーノは裏口へと向かう。ナトリーは早速部下と共に玄関へと向かう。


「残り、五分となりました…」

「移動だな?」

シャドウのボスは部屋を出た。監視ロボの後に付いて行った。

「…外の様子は?」

「只今監視しておりますが、現在は異常ございませんので…ごゆっくりお過ごしくださいまし…」

「…」

表情を変えずに階段を下りる。監視ロボは手摺に縋って下る。

カードキーを挿す。静かに扉を開けた。

扉を開けると、部下達が立って待っていた。ボスが台座に座ることで物事は始まるようだ。


ヤナとジーノはODを見ながら移動する。部屋の場所や監視ロボの位置等々、情報が画面上に載っていた。大体はハンドサインで行動して、時に言葉を交わす。

「丁度集まってるところよ」

ヤナは無線を取り出して起動する。

「今高場に居る。情報流すよ」

《了解。今は?》

「何か話しているらしい…今食べ始めたとこよ」

《了解だ…入ろう…》

「…私達は裏で待っていますね」


ナトリーらは影で待っていた。

「…」

ハンドサインを部下達に送る。3、2、1…


《犯罪組織『シャドウ』の者達は身柄を投降せよ!逃げ場は無い!》

メガホンを鳴らして呼びかける。


「…社会の犬共か…食事の最中話しかけるとは、どっちがマナー悪いんだか。ちゃっちゃと此処から出て行って空港に急ぎ向かおう…」

ボスは嘲るように嗤う。

「駐車場まで案内致します」

「いや、お前も来るのだ」

「…」

ロボットは黙る。


二人は走り続けた。足音も隠す。

「…ん?」

「どうしたの?」

「…このドアって…」

「データには無いね…っ!危ない!」

小声で避ける。運良く、扉を少し開けて中に入っている。

「此処は俺に任せて、そこん中一旦調べられます?俺は奴らを潰しておくんで」

ジーノは銃のバレルを前に押し込み、一枚のカードを差し込んだ。

「…頼りにしてる」

『Install "Buster"』

ヤナは階段を降りる。インストール中でも、継続して光線銃は撃てるが、敵も光線銃である為にそう簡単に顔は出せない。

『…"50"%』

(…速い。一度顔を出してもう…)

『"MAX"percentage』

ジーノは一気に仕掛ける。一発だけ相手の手前側に撃つ。着弾時、黒服の三人は後ろへと勢い良く吹き飛ばされていった。ジーノは無線を使う。

「そっちはどうだ?」

《…一人だけ居たわ。この人は一応転送させた方が良いと思うわ》

「…そうか。それなら此方は引き続き一階を回る。直ぐに戻れますか?」

《上等!》

無線を切られた。ジーノは足を速める。


立体駐車場。カジノの直ぐ地下にある。黒の車が立ち並ぶが、その前には

「…特務課だ。『逃げ場は無い』と言ったはずだが諦めの悪い奴だ」

「諦めの悪さは何が悪いのです?」

「素行の悪い連中が使う台詞じゃないぞ」

ナトリーは嘲るが、マフィアの部下達は突っ込む。

「数で押せば…容易さ」

双方、体を奮い立たせる。ボスと幹部二人は自車へと急ぐ。

「逃がさない!…ぐっ…」

やはり、数で押されている。それでも、ナトリーは彼らを見逃さない。

「…」

(くそ…)

「邪魔だ!」

「…へへ…せめてものの、そちらで先に…」

「分かっている。追いついて来い。エイドリアン、運転は頼んだ」

「了解です」

三人は急ぎ、小型の車に乗る。ナトリーは敵を寄せて三人を追う。だが、もう遅かった。

「…チッ…」

仕方なく無線を使う。険しい顔をする。

「そっちは今どうだ?」

《手下しか見つかりません…》

「そうか…此方は今ターゲットらを手放してしまった所だ」

《…私達が追います!特務課は此処で残りの方の処理をお願いします!》

「え!?ちょ…」


「ジーノ君!スクーターで行くよ!」

「…」

首を縦に振った。現在、裏口に居るので移動は厳しいものだが辿り着いた。

「今度は西ハブ空港よ。また、私の背後をついてきてね!」

二台は黒車を追った。




「…お疲れ様です」

「そちらこそ」

ロアは兵の二人に話しかけられる。二人の兵は彼に聞く。

「何故此処で…」

「此処発の飛行機をマフィア共が襲い、帰還するらしい。今占領されていて、飛行中の交渉の時に人質数人が降りてきた所を狙う」

「それではばれるのでは?」

ロアは二つのリング、カードを二人に渡した。

「そのリング、手首に掛けてロックを解除すればステルスが発動する。長い時間発動し続ける。それを利用してまずはコクピットのパイロットを救い、もう二人は…と言っている間にそろそろ来るぞ」

彼らは空を見る。星々の中不気味に、規則的に点滅する明光。見る内にその光は広がってゆく。

『『『Unlocked』』』

飛行機の着陸時の風圧は酷いものだった。前すら見えない。

「…」

搭乗口より、

「今だ」

三人は走る。人質の六人が手を挙げ一つの銃口を向けられている。人質と一人が降りた後、三人は急いで乗る。流石、音すら鳴らぬ忍足。


コクピットには脅し役とそれを護る役と二人居た。

「貴方達が先頭だ」

小声でロアは指揮をとる。兵はまず一人、もう一人と首を背後から締めた。

「次は客室。VIPルームを見て来たが、誰も居なかったらしく、一般客の方に混ざっただろう…そろそろステルスを外せ」

ロアはカードキーを読み込ませる。

『『『Locked』』』


「ふぅう…ふぃ…」

「…ううぅ…」

一人が席を巡回している。女は近づかれると恐れて頭を抱えた。その隣の男は自分の両手を掴んで祈り続けていた。

(おお、神よ!なぜ私達を見捨てたもうか!)

その時であった。

「…E住域兵だ!そこの武装している男は直ちに武器を置き、身柄を投降せよ!」

「ふん…事情も知らん奴か。これだから民も困っちゃうね」

女の髪を引っ張り、およそ十二センチもの刃物彼女に突きつける。

「…此処の乗客全員が人質…か。この俺達もその内であると?」

「…そうさ。この俺の持っているナイフが彼女の死を意味する。殺したくなけりゃ、俺の言うことでも聞いておけ」

「…」

「まずは、お前達の持っている武器を置いて、手を挙げておけ」

二人の兵は何の躊躇も無く銃を置いて両手を肩より上にあげた。

「…よし…」


その間、ロアは兵達の影より出でて、銃口を直ぐに彼に向けた。

彼は銃口を向けられて初めて、彼の存在を知る。


…光線によって額を撃ち抜かれた。血が噴き出る。

「ひぃいっ!」

「イヤァァァッ!」

ロアは一番血を浴び、恐怖していた女性へと足を運んだ。白いハンカチを彼女に渡す。

「…これを使って、浴びた血を落としてください」

「あ、あぁ…」

気が動転しているらしい。ロアは優しく彼女の顔を拭いて、肩を組んだ。

(落ち着かぬのも仕方あるまい。突然の事だ)

「…私が行く。彼女を頼む」

「了解」

「ひ、ひぃぃ!」

「落ち着いてください…」

「無理だ。暫くそのままにしてろ」

ロアはもう一人を狙っている。時々外を見て、機会を窺う。マフィアの男が近づき、段差を昇る音を聞き取った。

「…ん?」

上にはロアが居た。彼が男を光線銃で撃ち抜いていたのだった。男は下方へと転げ落ちる。シルバーケースの一部が欠けた。ロアは息を荒らさずに客席に呼びかける。

「皆さん。気を静めてください…」

マフィアからの威圧、多量出血、落ち着けるはずがない。乗客は騒めいた。

「…ええい!黙れ!マフィアに殺されたくなけりゃ黙って聞け!」

「…」

兵の口からとうとう出た。皆、此方に注目する。

「…この飛行機は危険だ。今直ぐ降車するように。非常用装置ならある」

「…なっ!?外にスナイパーが居るかもしれませんけど!?それで次々と撃たれてしまったら…」

ロアは呆れ顔で溜息を吐く。

「分かりました、私が先に出ましょう。安全を確保できたら…無線で伝えましょう。その間に、爆破物が無いかそっちも確かめる必要があるのでは?」

二人は気づき、直ぐ行動した。

「…その動き、新人だな?場慣れできずに言われなければできない…いや、命令を遅らせた私の方が悪かったのかもな」

そう言い残し、外へ出る。夜中は月の光を頼りに行動を行う。今宵は満月を過ぎ、半月辺りか。それでも十分明るかった。腰のカードケースから、二枚手に取り出し、一枚は腰の右手側のスキャンボックスに入れ込んだ。

『Install "Eye scope"』

そして、もう一枚を光線銃に差し込む。

『Install "Divider"』

『"MAX"percentage』

一旦右目を隠し、位置を確認する。山の方を見る。そちらが東側である。この山を越える通路をロアは見たのだ。今度は左目を隠す。

「…もう来たか」

『"MAX"percentage』

光線銃のバレルを押し込み、ロングレンジにする。照準を合わせると黒車を見つけた。


「…エイドリアンよ」

「何です?」

「今宵は本当に、はっきりと月が昇るようだね」

「今は逃走中なのに…呑気に景色を見る暇があるのでしょうかね?」

「いや…心配しているんだ。いつも見るときはぼやけているのに、此処まで明白に見えたのは初めてだよ…悪い予感がしてきて…」

「ボスゥ…本当に大丈夫すか?」

「…初めてには、二つの『予兆』がありますね」

「エイドリアン?」

「ボスも、フィリップも、心してお聞きになられてください。まず一つは悪い方から。不思議にも決戦の場にて、人集りができる。その『決戦の場』の大半は見た事も無いほど美しき景色に包まれているのです。その中で主人公は美しく散り失せるでしょう…。

もう一つは良い方。不思議にも旅路の途中である事件に見舞われる。それが切っ掛けとなり、主人公は新たな力をつけて、悪へと立ち向かう」

「その新しい力が、フィリップという事かな?」

「恐らく、未来の事までは存じませんが大体はそのパターンでしょう…ね」

「二つの『初めて』っていうのはつまり、悪い方が『散り様』で良い方が『切っ掛け』で判断すると良いっちゅうことかい?」

「私の独断ですけどね。どうも国語を習うのは退屈でしてね。まあそれでも、どんなに景色が変わろうが、どんなに切っ掛けが生まれようが、勝つのは…私達、シャドウですよ…」

ボスは微笑み、フィリップは顔に皺を付ける。その途端にエイドリアンは此方を振り向いて笑う。

「…」

「どうしたの?」

「…どうやら、私はもう駄目みたいですね」

二人は何を言っているのか理解できなかった。少し待った。


それは、瞬く間に起こった出来事であった。フロントガラスを通り越し、斜めからエイドリアンが撃たれる様子を、フィリップは見た。

「はぁ!?運転手さん!?」

「俺に任せろ」

エイドリアンを寄せて直ぐにブレーキを踏む。

「此処から徒歩で向かった方が早いだろう…エイドリアンの死は必ず無駄にはしない」

「ボス…」


(…此処は奴らに来させる方が早いだろう)

ロアは待った。腰の機械の赤いランプを回す。

『Uninstall』

「…」

右眼の照準が消えていく。潤いも戻っていく。


夜道を走る二台は速く一列に動く。ジーノとヤナは目の前に物陰を見つけて停車する。黒車がただ一つ留まっている。

「この車…あいつらの…」

生い茂る森の中から音がする。ジーノは察して先に森に入る。

「ちょっと待って!単独行動は…」

「直線距離で行く!」

「…」

ヤナはやる気を失せども彼を追う。ジーノは音を頼りに草木を掻き寄せる。掻き寄せた先には、男一人が震えていた。

「…」

「…フィリップ…お前を連行する」

ヤナがそう言っていたときには彼も意識を失いかけているようだ。

「…転送ですか?」

「…無理ね。メモリーカードだけ、攫っていくよ」

ヤナは腰の機械の電源を落として、メモリーカードを取り出した。


「ハァ…ハァ…ハァ…」

呼吸が激しくなってきた。そんな中でもボスは笑っていた。

(…ふん…絶対に逃げ切る。必ず…シャドウは永遠に不滅なり…永遠に永遠に永遠に永遠に!)

ボスは走り続けた。森を抜けた先には柵があった。

(あった…あったぞ!いや、今なら手前側の一人乗りの方が割が良い筈だ!此処までお疲れさん。結局のところ、最後に勝つのは…俺達…『シャドウ』なのだ!)

柵を乗り越え、弱り切った体を格納庫へと移そうとした。


その勝利も、束の間の浸りでしかなかった。今にも腐りそうな体を無慈悲に閃光が貫く。左肩が異常に重かった。右手が震える。右手が、恰も何かを求めるかのように震えていた。しかし、その手も何かを掴む前に無様に踏み躙られた。

「…」

面と面を互いに向かい合わせる。

「シャドウのボス、ベルナルド・デューイ。今此処で殺処分しよう…」

「…ふん。やれるもんならやってみろ。神がお前を見て泣き怒っているだろう」

ロアは笑う。ボスは話を続ける。

「お前は、無慈悲に人を殺し続ける悪魔だ。結局は人に忌み嫌われるべき存在なのさ…」

「弁明はそれまでか」

ロアは銃口を向けてショートレンジに変え、撃つ。撃つ。彼の体中を光線で熱し貫く。

「…その程度の言葉で、脅せると思ったのだな」

何度でも撃ち続ける。光線銃から微かに音が鳴る。それでも撃ち続ける。

「…神の名に頼るとは…愚かだ」

『Was dead…Power off』

電源が切られた。ロアは銃をしまった。

「…私は、元から宗教物が嫌いなのだ。脅す相手を間違えたようだな…」

血は絶えず流れる。そして、目の前には血の水面が広がっていった。

「…ベルナルド・デューイ。殺処分…完了」




任務はこれで完了した。国際指名手配、暴力犯罪組織『シャドウ』の鎮圧。ロアは乗客が助かる様子を影から見ていた。

「…隊長…」

「…?何だ。何か失敗でもしたか?」

「いえ…カードについてです」

「光線銃の場合は電源落とせば自動的にアンインストールされるからな。心配は要らん」

「…そうですか」

ジーノはロアを見る。ロアは察して彼に言う。

「また、昔話でも聴きに来たか?」

「…いえ。別の話です…」

ロアは涼しげな顔をして聞く。

「今回の任務で大きく関わるでしょう、メモリーカードとは一体何でしょうか?どの様な能力を持っているのです?」

「…メモリーカードは、今までの私達の記憶を保存してくれるものだ。今回は報告書が出てくるから、貴方にもカードを提出願いたい。あと奴らが狙っているのは、何も記録されていないメモリーカードだ。それに奴らの記憶を捻じ込むことで、もう一つのほぼ『同じ』メモリーカードができる。

メモリーカードは貴重な物だ。そのカードの記憶を自分の頭に無理やり積めたり、メモリーカードで精神を移すことだって可能だからな」

「メモリーカードにおける精神転移が悪の事業を活性化させる…ということにもなり得るか」

「名答。しかしながら、そのメモリーカードによる精神転移にも一人、犠牲が必要だ。乗り移る体も重要だよ。動きやすい体は人によって違うからね」

「…その犠牲者の精神はどうなるのか?」

「もし乗り移された場合の大半は、被害者の記憶が消される…」

ジーノは目を見開いた。

「…大半の場合だ。入力次第で精神転移の阻止、容量の縮小化などできるから…最良として荒らされたデータも、元に戻る」

「…そ、そうか…」

「関係無い話だ。予備知識として覚えとけ」

ジーノは気を静めた。

「さて、そろそろ特務課が来る。帰還の準備をするなり、此処の空港を回るなりしておけ。貴方は此処に来るのは初めてなのだからな」

ロアは先にその場を離れた。ジーノは辺りを見回した。少し血生臭かったが、気にしなかった。ジーノもその場を離れる。その時だった。

「…!!?」

そこにはただ、紅に染まっている肉体一つが置かれていた。流石に身震いした。その様子は奇妙な事に幽かな美しさも感じられた。




陽が丁度落ちた頃に、要塞から光が照らされる。そこに居た殆どの者達は、機械で包まれていた。

《…そろそろ交代だ》

《了解》

《…なあ、今思ったんだけどよ》

《何だ?》

《此処とか守ってまだ数日だけど、未だ死人とか出てないらしいぜ》

《俺達のお陰って言いたいのか?》

《そんでなきゃこんな仕事、やってらんねえよ。やはり、ヒーローらしく生きていきたいからな!》

《確かに、同感だ。だが、俺達はそんな英雄達の中でも…》

二人は互いの手を握り合った。

《《最強の英雄だ!》》

英雄らは、また二つに分かれていく。

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