Operation.1 A4海域
列車は進み続ける。E住域直通。ジーノは震え上がった。
(…しかしな…昨日のあの徴兵とか自分だけ突然渡されたとか信じられないな…言ってみればあの徴兵書とか何日前だ?…六日前の奴だぞ。その上、チームの方の手紙は八日前の…く…もっと早めに来てくれれば)
「隣、いいかしら?」
「ええ、どうぞ」
女性の声が聞こえた。ジーノは立ち、窓際の席に座らせる。
「貴女は何処へおいでになるのです?」
「E住域よ。ちょっと、買い物したくて…」
「そうですか…」
「貴方の方は?」
「私も同じくE住域で友人の家を伺うつもりです。お呼びがかかってしまって」
話をしているうちに、列車はE住域に着く。
「もう到着ですか…これは速い」
「そうですね…後でお茶でも」
「気持ちだけで結構よ」
ジーノは立ち、女性の荷物を先に下ろす。
「あら…」
「礼は要りませんよ」
自分の荷物を背負い、列車が止まるのを待った。
E住域駅に着く。列車から降り、改札を通る。
(…駅の近くっぽいな…西口を通って左がそうか)
地図の通りに道を歩けば確かにビルがある。
「おお、此処か…合ってるよな?」
どれだけ疑っても、地図にはそう描かれている。ジーノは恐る恐る中に入る。
「…貴方が…ジーノ・モンテレオーネですね?」
突然声をかけられた。柔らかい女声で焦った。
「…俺はジーノ・モンテレオーネだ…」
「間違いないですね?手紙を拝見しましょうか…」
女性は差し伸べ、ジーノは手紙をその手に渡す。手紙の内容をざっと見ていた。
「…本物ね。さ、私について来て」
彼女はカードを持ってエレベーター横の挿入口に読み込ませる。すると光は赤から青へと変わり、ドアが開く。ジーノは震えながら数歩踏み出して乗る。
「…なあ、お嬢さん…その服装からして、貴女もチームの一員でしょうかね?」
「まあね。結構前からやってるの。リーダー以上の経験はあるのよ」
「うん?なぜリーダーより経験あるのにリーダーになれなかったんだ?」
「経験を賄う実力があるからよ。能力的に彼の方がずっと上だし、実績は歴代一」
「つまりは凄い人、そうゆう事だろ」
「そう。でも凄いとは言っても私と彼の二人だけで動いているチームだからね。それで決まっただけ」
ジーノは少し怪しんだ。無駄に話す様は、何となく裏がある気がする。
「それはともかく、もうそろそろで事務室よ」
事務?チームは戦うだけでは?一瞬そう思ったが心を変えて考える。
(国家外のチームの良さは情報網の広さにある。だから必ず姉の行方がわかるはず)
ドアを二度叩く。
「入れ」
彼女はドアノブを握り扉を押す。奥で待っていたのは昨日のとんがり帽子の者だった。表情を見せずに此方を見ていた。
「また会ったな」
「…」
「…見た感じ事務所だな。もっと軍隊っぽい場所かと思っていたが、良い場所だな…」
「区域には所属していないからな。非公式だからこそ良いと言うのも場合としてある」
「ま、こう見えて場所を転々と変えているのも事実だけど」
女性が話に突っ込んできた。
「…紹介する。彼女はヤナ・ボゴスロフスキー。此処の遊撃手だ」
「よろしくね」
「…よろしくお願いします」
ジーノは深くお辞儀をした。
「さてと…ヤナさん。もう一人は…」
「まだ彼だけだわ。そろそろ来ると思うけど」
「…私は暫し彼と話でもする。もう一人を下で待っておきなさいな」
「了解だよ」
ヤナが部屋を出ようとしたときに、視線を感じた。正面のロアの物と後ろからの物。
「…」
扉は閉ざされた。
「…話とは早速依頼に付き合ってもらうということだ。小手調べに貴方の実力を測りたくてね…」
「…んで、その依頼は何だ?」
「A4区域へある輸送船が来るらしい。輸送物の種類は修正プログラムの『インストールカード』やその他修理物だ。荒されたA4区域を立て直すのだろう」
「それで俺達はどうすべきか…」
「簡単。一緒に空で監視をしてもらいたい」
今回は至って単純。まとめると、E区域からのA4区域の復興を行う。その為に輸送船を送る。その船が道中で襲われぬよう、監視しろということ。
「分かっただろう。予定は明日の明朝だ。お前は前衛を行ってもらう。準備は怠るな」
ジーノは頷く。それと同時にノックの音がする。
「…入っても良い。今、話を終えたところだ」
ドアノブの擦れる音もなく扉もゆっくり開かれる。
(…?)
見た目はチームに入るとは到底思えない金髪の格好の女性だ。
「…アリサ・ソウル。よろしくね」
「彼女は特別枠だ。戦闘ではなく、補助的役割を果たしてもらう」
ジーノは少し驚いた。
「四人で依頼の作戦について話でもしよう。一度しか言わない」
ロアはホワイトボードに書き込む。簡易地図、スタート地点とゴール地点等々…。
「では言おう。今回の場合はただ北から南へと少しだけ行くだけのルート。ここら辺を頼んでもらいたい。時間は大体往復で十時間くらいしかかからん。海中の方は船に任せている。以上だ」
「お、おう」
「海上の者は私達が倒せば良い。では解散と、その前に二人に言いたいことがある。ついて来い」
二人はロアを見た。
「此処が、貴方の支度の場」
ワンルームに小さな円卓一つとベッドというシンプルな構図であった。ロアはラジオ機器を円卓に思い切り置く。
「…!?」
「ラジオやら街で盗み聴きするやらで、情報でも集めておけ」
「」
「あと、食事は二〜三食までしかと摂れ。アリサはこっち…」
「と、隣ですよね?」
「そうだ。だが、向かって左の方だ。そっちは空き部屋」
「あれ?部屋四つあるのに…隊長は何処で寝たり支度したり…」
「気にするな。知っているなら…さっさと部屋に入っておけ…ラジオは置いてある。カードキーを挿し込んでから起動させるんだ」
「あ、本当だ」
「では、一時解散」
ロアは部屋から出て行く。ジーノは少し焦った。
クローゼットを覗くと専用の服もある。独特な臭いも無い。
(…凄い設備だな…今思ったが、日光も方角的に浴びられるような部屋だしな…ん?何だこれは…)
写真が飾られていた。誰かが置いていったものだろうか、そこにはロアやヤナ、そして姉と他二人が写っている。
(…)
ジーノはそれを見て、黙っていた。
青空が広がり始める頃合いに軍はもう動いている。戦闘機の用意が行われている。
《…調整が終わった。乗車可能、アンロック済み》
「了解」
一人が二人の兵に言う。
「戦闘機の調整が終わった。これより格納庫へと向かう」
「はっ!」
彼等が向かっているうちにスターダストチームはもう格納庫に着いていた。
「互い頑張ろう…な!新入り」
「…はい」
「そう固くなんなよ…」
特殊戦闘機『フォルテ』に乗り込む。
《ジーノ、聞き忘れたことがある》
「何ですか?」
《戦闘機に乗った経験はあるか?》
「今の時代の訓練兵なら空地双方の戦闘は当然」
《そうか…今乗り込んでいるのは特殊戦闘機のフォルテ。そいつは意外と立ち回りの良い代物だ。健闘を祈る》
二人の兵がロアの方を見ている。
「あの…」
「ん?どうした」
「戦闘機用意しなくても良いのですか?」
ロアは微笑む。背中の棒状の物を取り出し、カードキーを二つ手に取って挿入する。
『Unlocked』
ロアが跨ると、宙を浮いた。
「私はこれで行く」
《準備は済んだ、早く行こうぜ》
「分かった、直ぐ外に出せ」
《了解》
ロアから無線を切った。そして、遠くへ飛んでいった。二人はその様子を見て唖然としながらも直ぐに格納庫へと走る。
「飛行準備完了。間も無く発進する」
《待ってくれ!もう二人来るはずな》
《時間は時間。遅れた方が悪いのよ。もう行くよ!置いて行く!」
《ちょ、待て》
《発進!》
ヤナが間髪入れずに飛ばす。その後に渋々とジーノが飛ばす。もう二機が近づく。
「あいつら…」
《遅れてしまいました!》
「遅い!もう別チームは行ってしまったんだぞ!」
「何処にあるんだ?その船とやら」
《見つけた。その周りを見張っておけ》
「了解」
《私は一旦乗り込む》
「えちょ」
切られた。小さな影が船へと消えていく。
「先程、動かし始めたところだな。敵襲は?」
「ありません」
「そう…なら良い」
ロアは再び浮上する。兵はそれを気にせず雑用を務める。
《…船は無事だ。依頼は監視のみだ不審物を見かけ次第、伝えてくれ》
「そうか…だったら右前に発見だ。こっちに向かって来るぞ。戦闘機三機…」
《…初戦闘ね》
《伝達ご苦労。では、小手調べといこうか》
少しばかりロアの声に力が入っていた気がした。
《他方向からは?》
「今の所はあっちだけだ」
《折角だ、三人で行こうか》
空舞う三つの影は、海上で待ち構える。敵はこっちに向かって来る。
《右前方向より敵を確認。至急撃墜せよ》
「了解」
ジーノは狙いを定めた。射程内に入った。
(…来た!此処でレーザーを)
後ろから猛スピードで一機が突っ込んでいく。
「へ?」
《全く…》
一機で敵機を圧倒していた。ジーノは驚愕した。
(…嘘だろ?一機であそこまで立ち回れるって…)
気づけば敵は皆黒煙を吹き出している。ロアはそれを見て呆れた。
《ヤナ。貴女が一人で倒したら意味は無いだろう》
《わわ、悪かったってば!》
船は進み続けている。
「陸地が見えてきた」
《そうだ。そこがA4区域だ。一旦そこで補給でもしろ。必ずだ》
陸地にたどり着いた。
《この区域の復興を時間かけて見守ることは不可。後に戦艦がやってくる。それが来てから行こうか》
「了解」
「おけい!」
二人はそれぞれ戦闘機から出る。
「う、うーんっ…ウォームアップは完了よ」
ジーノはいち早くロアの方に足を運んだ。
「隊長!」
「なんだ?さっきの事か?」
「…話をしたいです」
「そうか…なら、それは任務の後にしてくれ」
ジーノは頷く。ロアは何かを察した。
「…?A1区域の空中戦艦…だと?」
「どうしたの?遠くに何か見えているらしいけど…準備とかする?リーダーさんよ」
ロアは即答した。
「二人とも準備していろ」
「…?」
「ジーノ…初見にしては荷が重いとは思うが、戦ってもらう。直ちに乗って応戦しろ。私はもう三人を呼ぶ」
「了解」
ジーノは急ぎ自分の戦闘機の方へ乗り込む。起動させて空へと出る。その間にロアは無線のノイズを調整して応援を求む。
空を出ると空中戦艦が向こう側から向かって来た。
「あれを…どうしろってんだ?」
《帰す戦艦が無ければ敵はほぼおしまいだけど、ロアしか止められないね》
「は?俺はどうすりゃ…」
《戦艦から出てくる機体を殲滅させるのよ!そうゆうチームなの。正式には『非公式国際鎮圧チーム』なんだから、その意気で行かないと名が廃れるわ》
「つまりは、戦えってことだな!」
A4海域にて敵襲。ジーノとヤナは迎え撃つ。彼らの目つきは本気になった。
《我々の邪魔をするものならば、此方も手荒く戦おうじゃあないか、詫びを言うなら今の内だぜ》
「嘘!?ノイズも一緒…ロア君に伝えなきゃっ!」
光線が邪魔をしてくる。ジーノから無線が来た。
《ヤナさん!二人対戦艦じゃ無理だ!》
「ヘタレ言わないの!私達が戦わなきゃ」
《隊長がこっちから伝えてきた!!今直ぐ向かってるって!》
「!」
ヤナは正面のレーザー弾を避ける。避けたときに敵機が次々と撃墜された。
「大丈夫ですか!?」
《ええ。でも、そろそろ戦艦とか来ないと…》
《…遅れてすまなかった。増援を呼んだ》
突然の追加報告に二人は驚いた。
《隊長!?》
《味方陣営に戦艦が来た。奴らの方を撃墜させれば後は帰るだけだ》
ロアは右腕を離して電光を纏わせる。その右指を敵に向けたとき、一閃の蒼い光を放った。敵機を一気に破壊し尽くした。ヤナを除く戦場は彼に驚く。
《…ちょっと待て!それはズルいのではないのか!?その力…明らかにハート・キューブの…》
「此処は戦場だ。そこまで臆するとは…腑抜けが。痛いのは一瞬だと言うのに」
《…この悪魔が…それではメイソンと一緒だな》
ロアの表情は一切変わっていない。
《知っているだろ。貴様もあの時の一人だったな。顔ぐらい覚えている。我が同志を殺すならば…死んだメイソンと一緒、虐殺者だということよ》
「…それは今、皆に伝わってるか?」
《知りたければ、降伏しろ》
「そうか、それでも反抗する」
ロアは決心していた。
「味方との永遠の別れ、それは双方悲しいものだ。技術が進んでも最終的には争う。その中で戦っている。だが、戦いに負ければ『全部』奪われる。それらが貴方達によって如何に用いて棄てられるか。もしその『全部』が護られるのなら…」
ロアは再び、右の掌に雷玉を放つ。
《まさか…!?急ぎ空中戦艦から出るのだ!》
「悪魔になろうが、虐殺者になろうが…構わない」
光の柱が空中戦艦を襲った。
《…こ、こいつ…墜ちていやがる!》
《悪魔め…これ以上貴様に殺させる前に撃ち落としてやる!覚悟しやがれ!》
敵機が一斉に向かってくる。ノイズが同じせいか、盗聴は容易だった。ロアは更に浮上した。
(…飽くまで新隊員の小手調べの為のこの任務。此処で死んだら話にならん。ジーノ・モンテレオーネよ)
「…敵機が突っ込んで来ただと!?」
《今回の任務の…最後の指令だ。五人で全敵機を撃墜せよ》
現在、チーム・スターダストで三人、正規軍人でもう三人居る。
「「「「「…了解!」」」」」
まずは前方の敵を一つ落とす。ジーノはこれで終わらず、味方の後ろを取る敵機を撃ち落とす。
《一台が街に向かっている。至急、撃墜を》
正規軍の一台はその瞬間を逃さなかった。これで辺りの敵機を一旦撃破した。
《まだ居る。…V字》
正面から見てその通りに並ぶ。そして、レーザー弾が点々と閃く先に、残りの敵機が残っていた。しかし、それも呆気なかった。五機は街へと戻った。
時間はもう午後の夕暮れ。ジーノ達は区域の格納庫にて一時、待機していた。
「…今回について確信したことがある」
「…まさか、反乱軍がA1区域の一部を…?」
「そうだ。ノイズが一致している。A1区域の無線に間違いは無い」
「ちょっと待て。なぜそう断定できる。俺達が使っているのはE区域の物じゃ…」
「無線の場合はA1の方が上級。ノイズの安定度もそうだ」
「…国際的に考えればって話なんだな、成程」
「…。今、皆は無線は切っているか?」
「勿論」
三人は黙り込む。
「A1に関しては調べておく。今回はとりあえず退くが良いだろう」
ロアは正規軍兵に言う。
「そろそろ出る。後は頼んだ」
「はっ…」
ロアは再び棒に跨る。
《…ちょっと!!無視しないでくださいよ!》
「ああ、無視していない。助かったぞ。もう少しでメンタルで二人は海の藻屑になりかけた」
《リーダーの口から出てくるような言い方じゃないですよ》
アリスから無線に出てきた。それもロアに直で。
「その増援の早さは、誰にも劣らぬ。正しく、最高の『コネクター』に相応しいと」
《それは、まあ、嬉しい限りですわ》
「そして、その名を買って一つ頼み事がある」
《ん?何です?》
二機はもう飛んで行った。
「…あの方との対面をしたい。連絡は取れるか?」
《…大丈夫です》
「そうか。では、もう休んでて良い」
陽は、そろそろ暮れそうになっていた。