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第三十二章

更新遅れてすいません。

「ふぅ、やっと慣れた」


私はベッドの上で教科書を100ページ読み終えたところだった。


入学してすぐに渡されたこの重たい教科書。


これを毎日100ページ読むように言われたときは正直、無理だとあきらめていた。


しかし、この1週間、強くなりたい一心で教科書を読み続けた。


その結果、やっと時間を有効に使うことに慣れたのだった。


拓先輩との爆弾事件から私は自分がどれほどの力不足かについて考えた。


やるからにはやりこなす必要があった。


集中力を鍛えるためにトランプを使った。


トランプを机の上に30枚ほど並べて、3分だけ暗記時間を作る。


3分経ったらひっくり返して、どこにどのマークのどの数字があったかを当てて行く作業をする。


3分集中すれば、かなりの枚数を覚える事ができ、記憶力もそなえられた。


腹筋、背筋、腕立て、もも上げそれぞれ50回、ランニング校庭30周、ストレッチ朝と夜の2回、これもかかさずやるようになった。


白い紙に丸い点を書いて10分間目を離さないという訓練も言われたとおりやっていた。


これがまた、大変な集中力が必要だ。


点を見ている間に頭の中は、いつの間にか違う事を考えてしまうのだ。


私はやれるだけの事をすまし、ベッドに倒れ込んだ。


今日も1日ハードだった。


拓先輩は四日間ほど意識がなかったが、五日後に突然目を覚ました。


しかし、上手く言葉が出ないらしく唸っていたり、歩く事も起き上がる事も出来ないという。


静香先輩と熊先輩は見舞いに行く事を許されていた。


もちろん滝先輩も同様だった。


見舞いを許されない私たちは3人から拓先輩の様子を聞いていた。



拓先輩の事を考えながら、ウトウトとし始めたときだった。


『コンコン』


ドアをたたく音がして私は飛び起きた。


「はい!」


私は慌てて、鏡の前でみだれた髪を整えた。


「みゆさん、私ですが分かりますか?」


その声は山田先生だ。


「はい、今開けます」


私は急いでドアを開けた。


「今晩は、みゆさん。夜遅くにすいません」


サングラスをかけた男は小声で言った。


「構いませんけど、何か御用ですか?」


先生は周りを見渡してから、また小さな声を出した。


「校長先生がお呼びです。あなたを連れてくるように私が頼まれました」


校長先生……。


思い当たることは何もない。


「分かりました。今ですか?」


私が聞くと先生は頷き、もういちど周りを見渡した。


「そんなに、深刻なんですか?」


あまりに警戒する先生に私は不信感をいだいた。


「いえいえ、あなたがそんなに深刻になることでは……では行きましょうか」



背筋を伸ばし、堂々とした先生の後を私は歩いた。

その時だ。サッと風のように何かが私の前を通りすぎ、先生の目の前に現れた。


「悪ふざけのつもりですか?」


先生は落ち着いた口調で言った。


先生の目の前にいたのはトムだ。


「別にふざけてませんよ、先生」


トムはニヤついて言った。


「では寮に戻りなさい。トム君、君は毎晩こうして夜遊びをしているのですか?」




トムは私の方に視線を移した。


「いえ。さっき匠君と勉強していて、自分の部屋に帰ろうとしたところでした。その時先生とみゆさんが通ったのをみました。部屋に帰ってから、みゆさんの落し物を今朝ひろった事を思い出して、慌てて追っかけて来たんです」


トムはそう言ってスッと私の前に現れた。


その速さに私は茫然とした。


「俺は生まれつき走るのが速い。最近じゃ、人の目には見えないぐらいになった」


トムはそう言ってポケットから封筒を取り出した。


「これ、あんたのか?」


見覚えのある封筒だ。


私は黙って受け取った。


「鉄って誰かな?」


トムはさらにニヤついた。


「読んだの!」


私が怒鳴るとトムはサッと私の後ろに回った。


「落とすからだろ?」


トムは当然といった口調だ。


「落としたからって、人の手紙を……」


「君たち!」


山田先生が私たちの間に立った。


「すみませんが、時間がないのです。早くいかないといけません」


トムはまだニヤついていた。


「一体、何がしたいわけ?」


私が聞いた時、また、からかうようにトムはサッと私の横に来た。


「忠告だよ、落とし物には気をつけな」


「トム君、もう遅いです。部屋に戻りなさい」


先生が注意すると、トムは何も言わずに風のように部屋に帰って行った。


「みゆさん、落とし物は、この広い学校でしないことですよ。他の誰かが先に見つけたら、盗まれたりしますし、手紙の場合は読まれてしまいますよ」


先生はそれだけ言うとまた歩き出した。


でも、おかしい……。


私が覚えている限り、あの手紙をもらった日はベットのそばにあった机に置いたはずだ。


その後、部屋に戻ったら医務室の先生が勝手に部屋に届けてくれていた。


だから、机の引出しに大事にしまっていたはずだ。


そして、あれ以来持ち出したことなど一切ないはずだった。


どういうことだろうと考えていた時だ。


「すぐに終わりますから、校長の言うとおりにしてください」


どうやら校長室の前まで来たらしい。


先生はそばにあった機械に手をかざす。


『ピー、ロックカイジョ』


ドアがガチャッと自動的に開いた。


「さあ、どうぞ」


私は緊張しつつドアをくぐった。


「そのまま奥へ、私はここで失礼します」


先生はそう言うと頭を下げた。


「え? あ、あの〜」


私は、わけも分からず声をだしたが、ドアは閉まり先生は姿を消した。


立ち尽くしていてもしょうがないので、とりあえず、私は奥へと進んだ。


廊下は真っ白い空間で目がおかしくなりそうだった。


ただひたすら、歩いているとやっと部屋が現れた。


壁は赤く、たくさんの写真が飾られている。


そのうちの三枚には、歴代校長が映っていた。


棚にはトルフィーがいくつも並び、中央には上品で高価なソファーが並んでいる。


そして目の前に見えるのは大きな机だ。


そこから、ひょっとこのお面をつけた人物がこっちを見ていた。


「ようこそ、校長室へ♪」


明るい声で、すぐに校長先生と分かったが、お面をつけているので変な感じだ。


「失礼します。先生」


私は部屋にゆっくりと入った。


「どうぞ遠慮なくソファーに座ってちょうだい」


ひょっとこ校長は、立ち上がって私にそう言った。


「は、はい」


始めて会う校長先生の姿。


いや、顔はひょっとこのお面をつけているが、スタイルのいい元気な女性。


これが校長か……。


私がソファーに座ると、先生はまた机に戻った。


「改めて、初めましてね! 会ったのは初めてだから」


校長はそう言って『フフフ』とお面に隠れて笑った。


「はじめまして……校長先生」


なにしろひょっとこのお面だ。


校長と言っている自分に違和感がある。


「そう、かたくならないで! 校長室に来れたのよ、めったに来れない所なの、お分かり?」


私は苦笑いで頷いた。


「あなたを怒鳴るとか怒るために呼んだわけじゃないの。私はめったに生徒と目の前で話したことはないけれど、生徒の行動・仕草。この二つを見ていれば、何を考えているかわかります。あなたは、落ちいていないし、私に何を言われるのか聞かれるのかを恐れています。それに、このひょっとこのお面にかなり違和感を感じているようですが?」


ひょっとこ校長の眼がまっすぐに自分を見つめている事を私は分かっていた。


「あの〜、そのお面は何の意味が?」


私が小声で聞くと先生は大笑いした。


「ああ、気にしないで、あたし顔を人に見せるのがダメなの」


私はここは笑っておこうと先生に合わせて笑った。


しかし、やっぱり変な先生だ。


「さてさて、本題に入りましょうか。みゆさん、あなたは自分の能力を少しでも感じたりしている? ん〜、この質問じゃ答えにくいかな。あなたの能力がどういうものか少し自覚できるようになった?」


校長先生の声のトーンが少し下がった。


「え? えっと、まだできていません。最近気にはなってたんですけど」


先生の質問には正直戸惑った。


もし、このまま能力が少しも現れず、学校側の勘違いだったとしたら、私はこの学校にいる意味をなくしてしまう。


退学という文字が頭をよぎった。


先生の表情をうかがいたいところだが、ひょっとこ顔しか見えないし、表情なんてもっと見えやしない。


「ふむふむ、それは少し困りましたね。他の子はどうでしょう?」


いきなり先生の言葉がかしこまり、余計に不安を感じた。


「え、ええっと、その、私のクラスで言えば、さっきトム君の足の速さに驚きました。それから、真妃さんなんですけど、かなり記憶能力がしっかり出ています。他の人も時々、能力的な物を感じるんです。だけどあたしは……」


そこで言葉を失った。


自分だけに能力を感じられない。


その事実がはっきりと学校長にばれてしまった。


いや自分の口から言ってしまったことに更なる不安の波が押し寄せた。


「何も感じないの?」


先生のその質問はなぜか恐ろしく頭の中に響いて、何も言えなくなった。


「そう、感じられないのね」


先生の声は今までの弾んだ口調とは違う、冷たい感じがした。


俯き、完全に自信を失った。


「という事は、あなたは急成長型ってことね! なかなかまれにしかいない成長型よ!? しかし、驚いたわ。そんなとこまでご両親に似ていらっしゃるとは、あなたもただ者じゃないわね」


校長はいきなり弾んだ声を出し、椅子から立ち上がった。


「あの、急成長型っていうのは?」


1人で飛び跳ね始めた先生を見上げ、私は驚いて聞いた。


「あら失礼、無様に跳ねまわっちゃって、あたしったらオホホ。急成長型っていうのはね、言葉の通りなの。あなたは能力がなかなか自分で自覚できない、つまり現れないことに今不安を感じているでしょう? でもそれは実はすごい事なのよ! 自分がタイムガード校に来た理由、入学できた理由はどこにあるの? まぎれもなく、秘めたる能力よ。あなたに能力が存在しないはずはないの! ただ、引き出すのに時間がかかるのよ。それも人によるから個性なんだけど」


と言うと先生は私の方へ歩み寄った。


「実は私もその一人! なかなか引き出せなくてね、くやしかったなぁ、あの時期はさ。みんなが成長していく中で、あたしだけが取り残されて。でもその一か月後、いきなり能力らしきものが現れてきて、それが急成長したわけ! 先生たちもあまりの成長に唖然だった♪ だから、みゆさんもきっと急成長型だと思うわよ」


私は早口な先生の言葉に追い付くのに少し時間がかかった。


ひょっとこお面の穴から先生の輝いた瞳が見えた。


「あの、私の力っていったい何なのでしょうか?」


私はずっと気になっていた。


だれに聞いても、これまではしっかりとした答えを聞いた事がなかった。


先生は間をおいて私から離れ、腕組みをしながら室内を歩きだした。


「ん〜、そうねぇ……言ってしまうと、きっとつまらないわよ!」


先生はそう言って額に入れられた歴代校長の写真を見つめた。


「つまらない、ってどういう意味ですか?」


私が尋ねると先生は、こちらに向き直った。


「実は、あたしたちも予測でしか生徒の能力を見る事が出来ないの。おそらくこの子はこういう能力を持っているであろうとか、この程度の能力が備わっているだろうというのを予測する。それは、教員学校である程度予測能力をつけられるから出来るんですけどね」


先生はお面にかくれ、微笑んでいるように見えた。


「あなたの能力は予測できてますけど、あくまでも本当にそうだとは言い切れないし、もしかしたらぜんぜん違うかもしれない。あたしたち教師は一人一人の能力を楽しみにしているの。まだ予測だけの能力を本人に言ったところでどうなるの? なんの面白みもないでしょ?」


先生にそう言われ、私は


「そうですか」


とだけ答えた。


先生はひょっとこ顔でじっとこっちを見ている。


「あの、私をここに呼んだのには、どういった理由が? 成長経過を確かめるだけですか?」


私は校長室にいる事に再び違和感を感じていた。


なんだか落ち着いてしまっていたのだ。


「ごめんなさい、長くなりました。今日はあなたにお渡ししたい物があります!」


先生は咳払いをすると、棚の引出しをあけた。


何が入っているのかは見えない。


先生は何かを取り出し、慎重に握ると、こちらにゆっくり歩いてきた。


校長先生の手から何かキラッとするものが見えた。


「なんですか? それ」


私は目を細めて、先生の手の中の物を見ようとした。


先生はフフフと笑うと、私の隣に座った。


「みゆさん、手を開いて」


私は先生の前に開いた手を差し出した。


先生はそーっと、私の手の上に先ほど手に取ったものを乗せた。


直径が2cmほどの赤い宝石のついたネックレスだ。


「きれいですね!」


私は一目見て、思わず見惚れた。


先生は満足そうにうなずいた。


「でも、なぜこんなお高そうな物を私なんかに?」


少し重みのある宝石だ。


「これは、いずれあなたに必要なものなの。それを忘れないで」


先生のその言葉は何か深さを感じた。


「どういうことですか?」


私の問いかけに先生は首を振る。


「まだ、知るべきことじゃないのよ。でも首にかけておきなさい。それは大事なものとして持っていてほしいから。それと、このことは誰にも話してはいけません。いいですか?」


私は先生の鋭く観察するような目線を受け、ただ頷いた。


「絶対に口外しないでね。そして絶対に手放さずずっと、首にかけておきなさい」


私は不思議に思ったが、首にかけて見えないように服の中に入れた。


「先生、一体これ……」


「さっきも言ったように、まだあなたに話すわけにはいかない。それに他の人も知るべきじゃない。約束なさい、あたしとあなただけの秘密なの」


私の言葉を先生は、そうやって制した。


私は、


「はい、分かりました」


とだけ答えた。


先生は大きく頷くと私の手を握り


「それじゃあ、勉強、頑張りなさい!」


と言うと立ち上がり自分の机へ向かった。


「あの、先生、私は」


「ありがとう。退室して結構♪ 御苦労さまでした〜!」


いつもの調子で先生は弾んだ声を上げた。


私はためらいつつも校長室を後にした。




廊下に出ると山田先生が腕組みをして、出迎えた。


「お帰りなさい。校長室はいかがでしたか?」


先生に聞かれ、私はネックレスの事を言いかけたが、押し黙った。


今約束したばかりだ。


「いろいろと話をしました」


私が答えると先生は安心したのか、ふっと肩の力を抜いたように見えた。


「そうでしたか、それは良かったです」


先生はまた元来た道を歩き始めた。


私も黙って後に続いた。


少し歩き先生は立ち止まる。


「まだ走り回っていたんですか? 処罰を与える必要があるようですね」


そこへまたもトムが現れた。


「みやぶられちゃいましたか」


先生の目の前に立った少年はフフっと笑う。


「明日の朝私の部屋にきなさい」


先生は腹立たしげに言った。


「すいません、先生のお部屋知りませんので」


トムは意地悪く言うと、私の前にサッと回った。


「なぁ、もしかしてさ、先生たちにひいきしてもらってんのか? 俺はただそれを確かめ……」


その時、山田先生はトムの胸ぐらをつかむ。


サングラスを外し、トムを真正面から見つめた。


「何するん……zzz」


トムはグタッとなり、気絶した。


私は驚き、その光景を唖然として見ていた。


先生はサングラスをかけなおし、私の方に顔を向けた。


「驚きましたね? すいませんでした。私の眼は昔から、いいようにできていません。人を気絶させ、憎しみを込めた眼は人を麻痺させた。度が過ぎると生命にかかわる。だからこうしてサングラスをかけているんです。感情がたかぶったとき、人を傷つけるから。今のは見つめただけですから気絶で済むようにコントロール出来たんです」


その表情には悲しみが見えた。


自分の能力に悩んできた先生の姿は切なく見えた。


能力を使うたびに苦しみを感じているのだろうか。


「行きましょう」


先生は落ち着いた声でそう言った。




部屋に戻り、私はもう一度ベッドの上でネックレスを見た。


「これは、いずれあたしに必要なものって、ネックレスに何が隠されているっていうんだろう」


ネックレスは謎を秘めたままキラッと光った。



ここまで読んでいただきありがとうございました。

これからも宜しくお願いします。

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