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第三十一章

あれから十分経過……。


「1年生準備はよろしい?」


静香先輩はあたしたちの方を向いて聞いた。


私たちは技術系の人たちの作品、専用の車に乗る。


だいたいの操縦の仕方は教わったので、後はスタートを待つのみであった。


「先輩!! もし……1人も見つからなかったら?」


と私は念のために尋ねる。


「そうね〜、全員が拓におごるって事になるんじゃないかしら?」


静香先輩は興味なさそうに言った。


それはただの適当な発言なのか本当の事なのかを疑問に思った。


しかし、静香先輩はどこからかピストルを取り出す。


「よ〜い」


私たちは手に力を入れ、慌ててアクセルに足を置く。


『パ〜ン』こうしてゲームスタートである。



トムは賢に思いっきり体当たりしてから、すごいスピードでスタートしていった。


真妃はと言うと、見ていてじれったいと思うほどノロノロと走っていく。


賢はトムの体当たりでなぜかバックしていき、後ろの壁にぶつかり、すでに煙をあげている。


私はとりあえず、と地図を確認した。


拓先輩の事だ狭い複雑な場所に隠れているに違いない。


と考えた私はまだ行ったことはなかったが地図に示された名もなき通路へと車を進めた。


ブウォンブウォンとエンジンから妙な音がしている。


「ねぇ、みゆちゃんどこへ向かうの?」


声に一瞬驚いて後ろをふり返る。


それは心だった。


私は運転を誤らないように前を向いて叫んだ。


「とりあえず私は大物狙いなんだけど」


「なるほど拓先輩か……」


心は私が言い終わるか言い終わらないかのうちにそう言った。


私は何気なくスピードを上げた。


心は卑怯な手を使うつもりなのかもしれないと警戒しているからだ。


「僕が君と協力するっていって、君はまんまと僕の言う事を信じ、一緒に探す。でも拓先輩を見つけたら僕は君に体当たりでもして捕まえに走る。そんな卑怯な行為を僕がすると警戒してるんだろう? 僕はそれほど嫌な奴じゃないけど?」


図星だ。


「そう驚かないでよ! 最近上達して来たんだ。寮で寝る前に一生懸命訓練を積んだんだよ。僕の能力はスパイに向いてると思わないかい? スパイってカッコいいよね! 小さなときから憧れていたんだよ。もしここで腕を磨けばそのうち好きな職に就けると思うから」


心は愉快そうに言った。


「それってつまり―――」


私がその次の言葉を言うまでもなかった。


「大丈夫だよ。そう簡単に心を探ったりしない。それに僕は心を読んでるわけじゃないんだ」


「じゃあなんなの?」


「雰囲気だよ。でも限界がある……今僕がやってる事はその人の事を知っているから出来ることなんだ。本当はなんとなくじゃスパイになんてなれないけどね。安心して君の心を知り尽くして、君を脅すつもりもないし、他人にペラペラ話したりなんかしないよ。それに簡単には人の心なんてわからないもんだよ」


私は少し安心する。


心は隣に車を走らせ、安心した顔の私を見てクスッと笑った。


なんだか、全ての事を見通されているようで、気持ちが悪くなる。


「あ!」


私は今自分が何を目的に車にのっているのかを忘れてしまっていた。


急ブレーキをかけて車を停止させる。


心が驚いて少し前で止まる。


「どうしたの?」


心配そうな表情をしている。


私は膝に置いていた地図を見る。


少し通り過ぎてしまったようだ。


「心、ここからは別行動! 2人だとゲームにならないでしょ? これはチームプレイじゃないし」


心も下を見下ろし、地図を見ている。


数秒間があって


「いいよ」


と小さく頷くと、心はにこっとしてから車を走らせ角を曲がると見えなくなった。


私はゆっくりバックして、少し細い道の方へと車を走らせた。


とっさ的な予感でこの道だと思った。




四、五分走っているとなんとなく飽きてきた。


庭の風景というのもこの学校は不思議だった。


この学校のすべてを知り尽くすには五年以上かかるのではないかと考える。


入学式の前、


「俺は未だにこの学校が不思議でならねえんだ」


そう父親が言っていたのも頷けた。


珍しい木や花が生えているのもたしかで、自然とゲームの事を忘れかけていた。


その時だ……!


『ウォンウォンウォンウォン』


音がする。


それは緑の装置からだった。


「ということは十メートル以内にターゲットは潜んでいるってことね」


私は独り言を言いながら装置のスイッチをそっと切った。


ゆっくりと車を止めて、辺りを見回した。


不気味な静けさだったが、私はそっと地面に足を下ろすとそっ。


と身をかがめて歩く。


ん? なんか物音が……。


何やら数メートル後ろで人の気配を感じる。


『ガサガサ』


確実に誰かがいる事は明らかだ。


そっと木の陰に隠れて、目を細めた。


「た、拓先輩?」


嬉しさ半分、緊張感が生まれた。


拓先輩らしき人物は身をかがめ何かをジッと観察しているように見えた。


何かおかしい……。


するとあちらの方も首を傾げ、何らかに接近していく。


私もそーっと後をつける。


と、いきなり静止して、後ずさりし始めた。


「も、もしかして!」


やはり拓先輩だった。


驚いて声を上げた先輩にやっと見える距離まで近づけたのだ。


私はゆっくり立ち上がろうとした。


しかし、足もとにあった小枝を踏んでしまった。


『パキッ』っと音がしてすぐに拓先輩がこちらに顔を向けた。


「お、お前!」


先輩は見つかったことへの驚きといった様子ではなかった。


様子がおかしい。


「え?」


思わずそう声が出た。


「さっさと車に戻れ!」


拓先輩は青ざめた焦った表情でこっちに走ってきた。


「え?」


私はわけも分からず少し後ずさる。


「いいから、走れっていってんだよ馬鹿野郎が!」


ゲームの事など私の頭から吹っ飛んでいった。


拓先輩は私の手をいきなり引いて走り出したのだ。


「ちょっと先輩?」


いつもと違う先輩の慌てっぷりに私は戸惑うことしかできない。


「くっそぉ! いったい誰がこんなこと」


先輩はわけも分からないことを呟いた。


その瞬間だった……。


『バーン』


耳が痛いほどの爆音がして、いきなり目の前がまっくらになった。










「みゆちゃん、みゆちゃん」


聞き覚えのある声で私は目を開けた。


眩しい光に目を細め、最初に見えたのは心だった。


「よかったよ、みんな来て来て! 助かったんだ」


心が嬉しそうに飛び上り、賢や匠、真妃に静香先輩、そして拓先輩が走ってきた。


私は白いベットの上にいるらしいことに、今気づいた。


「良かったぁ、軽傷ですんだから」


静香先輩は疲れ切った顔をしていた。


「ほんとさ! 俺も責任を感じていたんだ」


眼鏡をかけた拓先輩がホッとした様子で頷いた。


「いったい何が?」


私はあの時の事を思い出したが、爆音が最後であとは、何一つ思い出せない。


ただ、自分の体は手当てされた後である事に気づいていた。


「覚えていないの?」


真妃が驚いた様子で顔を近づけた。


「うん……何か私の身に起こったのは確かでしょうけど」


その場にいたみんながお互いの顔を見つめ、困った表情をしてみせた。


「爆弾だよ」


賢が声を低くして言った。


「爆弾?」


「拓先輩と、き、君のいたところに、ど、どうやら爆弾が仕掛けられていたようなんです」


匠が視線をそらして言った。


「でも拓先輩も私もこの通り生きてる」


私は眼鏡をかけた拓先輩をみた。


無傷で健康体だ。


「俺を忘れたかい? 拓じゃねぇよ」


眼鏡をかけた拓先輩が困った様子で言った。


「彼は滝。ほら、拓の双子の弟の」


静香先輩は弱々しく言った。


私はハッとしてみんなの顔を見た。


まさか、拓先輩は!


という不吉な予感が頭をよぎる。


「拓先輩は、生きているから安心していいよ」


心は優しく頷いてくれた。


私はそれを聞いて安堵した。


「でも、今意識不明なんだ。先輩は自分の中で闘っている最中だ」


賢が険しい表情で言った。


「今先生たちも犯人を必死で突き止めようとしてるの」


真妃は心配しなくてもいいというように言った。


「あいつ馬鹿だけど、いなきゃ困るのよ」


いきなり静香先輩が涙声で言った。


「まだ生きてるだろ。あいつは仮にもこの俺と血がつながってんだ。爆弾ごときで死ぬようなやわじゃねぇ」


滝は静香先輩を慰めると同時に自分に言い聞かせているように感じた。


「でも、どうして? 先輩は重傷なの? 私も一緒にいたのに」


私は不思議でならなかった。


「拓のことだ、あんたを守ろうとしたんじゃないか? そういうカッコつけさ」


少し離れた所から誰かが言った。


それは生徒会長の和先輩だった。


「具合は? あんたは軽傷で済んだようだな。爆発が起きたときの事詳しく教えてくれないか?」


「まだみゆは休まなきゃダメなんです。話なら後にしてくださいよ」


真妃が和先輩の前に挑むように立った。


「拓が意識不明なんだ。いいか? これは俺にも責任があることだ。それに早く犯人を見つけなきゃ、次も別の誰かが被害にあう可能性だってあるだろ」


和先輩は舌打ちをすると真妃を押しのけた。


「君はすくなくとも意識がある。話せるだけ話してくれ」


和先輩はそう言ってその場にあった椅子に腰をかけた。


「そんなに拓先輩の事が心配なんですか?」


私は先輩を睨んだ。


「別に大した男でもないが、俺はこの学校の生徒の頭だ。放っておく事はできない」


イライラした表情をうっすらと浮かべて生徒会長は言った。


「じゃあ結局自分のためですか?」


私は自分でも考えていなかった質問をした。


脳よりも口が素早く動いた。


「責任を負わなきゃいけないから? もし拓先輩が助からなかったら自分の責任に一切したくないから?」


「何を馬鹿な事を……」


和先輩は唇を噛みモゴモゴとし始めた。


「先輩は個人的に拓先輩を嫌ってました。そうでしょ?」


私の質問に先輩はバッと立ち上がった。


「だったら何だ? 文句あんのか? そうさ、俺のためだ! 拓は邪魔だった。でもな、いくら邪魔な存在だろうがそいつのために動かなきゃいけない。それが義務だからだ。分かったらさっさとその時の事を話せ」


「あんた思ってたより最低だね」


静香先輩は涙目で言った。


手が震えている。


「べつに俺が拓の近くに爆弾を仕掛けたわけじゃねぇだろ? むしろ助けるために行動してるようなもんだ」


和先輩は顔を真っ赤にさせて怒鳴った。


「あんたじゃないのか?」


全員の視線が滝先輩に向けられた。


「あんたが拓を狙ったんだろ?」


拓の弟はそう言って眼鏡を外した。


「おいおい、今度は犯人扱いか?」


和先輩は鼻で笑う。


「身近にいる存在だって考えてた。そうすればあんたの名前もあがる。あんたか他の誰かがやった」


滝先輩は引き留めようとする静香先輩を制して言った。


「じゃあ、滝、君もだろ? 兄貴が邪魔だったって考えてもいい。仲があまりよくないと見えたが?」


「たった一人の兄貴だ。殺すまでの動機はない」


部屋に静けさが襲った。


静香先輩はしゃがみこんで俯いている。





「おい、大変だ! 犯人が見つかったって!」


ドアがいきなり開いたと思いきや大きな体の熊先輩が入ってきた。


『何!?』『何ですって!?』


その場にいた全員が反応した。


「いったい誰が?」


滝先輩が全員を代表して聞いた。


「それが侵入者らしい」


熊先輩は少し小声で言った。


「侵入者だと? 警備は万全なはずだ」


和先輩は慌てたように言った。


「先輩、嘘だとお思いで? 早く校長室へ向かってください。今回の件は全校に知られてはいけませんので、ここにいたみんなは黙って一時待機。先輩、校長がじかに話がしたいと……」


和先輩はすぐに頷きその場を去った。


「熊、侵入者って? 詳しく教えてくれ」


と滝先輩。


「ん〜、あまり話さないようにって先生たちが」


「親友にも?」


静香先輩の一言に熊先輩はため息をつくと、話はじめた。





熊先輩の話では今日の朝方早くに敵の1人が侵入したという。


侵入者は小柄な男で鼠のように林の中に潜み、人が来るのを待ち伏せしていたようだ。


理由はまだ分かっていないが、先ほど捕まり取り調べを受けているらしい。


「という事は?」


心が後が読めたらしく、不安げな顔つきになる。


「この学校の警備は万全。すなわち」


「校内にいた何者かが裏切り者で、敵を向かいいれたってことね」


賢と静香先輩は考えが一致したらしい。


心も頷いた。


「で、でもちょっと待ってください」


匠がいきなり声をだした。


「それは推測のうちですよね?」


匠は熊先輩に聞いた。


先輩は小さく首を振った。


「残念ながらほぼ決定的だ。裏切り者がいる事は間違いない」


「どうして決定的なんですか?」


熊先輩はまた小声で言った。


「防犯カメラのビデオが盗まれていたらしい」


私はベットから起き上がり、床に立ちあがった。


「みゆちゃん、まだ安静にって先生が……」


「拓先輩は今どこなの?」


心を遮って私は聞いた。


「ここにはいないの! とにかく今は待機しなさいっていわれたでしょ?」


真妃はきつく言った。


私は黙って頷くしかなかった。







「みゆ、爆弾だぞ! 早く逃げろ」


拓先輩が叫んだ。


でも先輩はずっと遠くにいた。


「先輩、時間がないよ」


私が叫んだとき先輩が悲鳴を上げ、どこかで聞いた爆音がした。


先輩は炎とともに消えた――――――




ガバッと起き上がると、今私がどこにいるのかすぐには思い出せなかった。


ここは医務室だ。


枕が汗でぬれていた。


「悪い夢でもみたんですか?」


そこにいたのは黒いサングラスの男だった。


「山田先生!」


冷静で表情のあまりない山田教諭は頷いて、コップを渡してきた。


コップには水が入っていた。


「水分補給をした方がいいですよ。だいぶうなされていましたね」


私はコップを手に取ると素早く飲んだ。


「みゆさんにある物を届けようと学校の方へ帰ってきました。ついでに久々の休暇でもと思ったんです。ここのところスパイが多いため行動範囲がかなり広くなりました。みゆさんが侵入者の件に巻き込まれたと聞き、慌てて医務室にかけこんだら、こうして眠ってたわけです。ほっとしましたよ」


少し口元が緩んで山田先生は微笑んだように見えた。


「でも、先輩が」


私は俯いてボソボソといった。


「はい、私も聞きましたよ。みゆさん、あなたは自分に責任を感じているのですか?」


私は先生の方をゆっくり見た。


「自分だけがこうして無事である事に嫌気がさしてるようですね」


まるで心を見透かされたようだ。


「みゆさん、タイムガードは冷静な判断力を求めれます。あなたには責任は一切ないと判断しなければいけませんよ。あなたが生きている事、それも軽傷ですんだ。後遺症もありません。それは素晴らしいことです。任務を成し遂げたも同然」


「これは任務なんかじゃないんです。先生、それとこれとは」


私が反論しかけたが先生は手で制して首を振った。


「あなたは分かっていません。拓君は生きているんです。意識はなくとも心臓も動いています。彼は闘い続けていますよ、もう何時間もね」


先生はみんなが置いて行ったのであろう花瓶の花を見つめた。


「そして可能性は高くなっているとかで、意識は取り戻しつつあると情報が入ってきています。犯人の方も最初は黙秘していましたが、昨日の夜、一言だけ質問に答えたそうです。犯人は自分が悪いと認めています。あなたも自分を責めるのをやめるべきです。自分を認めてあげなさい」


私は先生のサングラスの奥にある目を見た。


謎めいた感じが瞳に現れている。


「犯人の動機は?」


私はゆっくりと尋ねた。


「私たち教員もそこが知りたいのですが、犯人の方はタイムガード本部にいます。情報がこちらに届くのに時間がかかるんです。こちら側に、いえ、学校側に裏切り者がいると把握した以上、本部の方も警戒が強くなっています」


本部も学校側を警戒しているとなれば、学校には重い雰囲気が流れる事だろう。


もちろん本部に両親のいる生徒もたくさんいるため、学校は保護者からの訴えも受けることと予想できる。


「私の父母にも報告を?」


こんな事は山田先生にしか聞けないとなぜか思った。


個人的質問だったが先生は丁寧に答えた。


「その事なんですが、先ほど私の方から電話をしました。あなたの無事を聞いて安心なさっていました」


先生は苦笑いをすると続けた。


「実のところ、かなりきつく怒鳴られました。無事だと伝えるまでに時間がかかりましたよ。最後まで話を聞いてくれずに、怒鳴り散らされて……。『娘を返してくれ』だの『お前ら全員今すぐ八つ裂きにしてやる。娘を巻き込ませたのはあんたらの責任だ』って言ってました。謝っても謝っても次から次に怒鳴られて、あなたを心から心配なさっているんですよ」


親だから当然だろうが、私はとてもおどろいていた。


冷静な先生が言うほどかなり怒鳴ったようだ。


「しかし、本当に良かったですよ。拓君もみゆさんも命を落とさずにすんだわけですからね。さて、先輩方はショックを受けているみたいですが、新入生歓迎会は強制終了に終わりました。今日からは全員いつも通りの授業にもどっています」


私は表情を曇らせた。


先生が微妙に笑みを浮かべ私に何やら封筒を渡した。


「ある方からこれを預かりました。あなたにです」


私は先生をチラッと見た。


先生は頷いて見せ、私は封筒を受け取った。


「これどなたから?」


私が封筒から顔を上げると、先生は黒い鞄を片手にドアの前に立っていた。


「その方は……、読めばわかりますよ。じゃあ、また今日から勉強に励んでください。私は2年生に用がありますので実習室に行ってきます。ではまたいつか」


先生は一礼して出て行った。


私も「さようなら」と小声で言った。


気になっていたので、封筒の封を切って中をのぞきこむ。


手紙のようだ。


私は誰もいないのを一応確認して、手紙を取り出した。


見覚えのない字だったが薄汚れた紙に殴り書きで書かれた文章で誰であるかが分かった。


『さっき山田って先生に会った。俺をどうしても入学させたいって言ってた。でも俺はそのつもりもないし、お前たちも無事入学したと聞いてる。元気か? みんなが俺を心配してたと山田先生が言った。でもその必要はないから。真妃にも伝えといてくれ、元気にやってるからって。山田先生に手紙を預けたのは余計な心配をあんた等にしてほしくないからだ。賢は俺がいないから好き勝手やってるのか? 体験入学の時喧嘩したことまだ怒ってるかな? 俺は今家を飛び出してラーメン屋のおっちゃんに助けてもらってる。働かせてもらってお金には困ってないんだ。あんたら立派なタイムガードになってくれよ、じゃあな』


突然すぎるめちゃくちゃな手紙だ。


だが、それが鉄だということに私は気づいていた。


手紙を封筒にしまい、そばにあった机にそっと置いた。


私も授業に出なければならないだろうと思い立ち上がる。


ちょうどその時ドアのノックする音がした。


「授業始ってるぞ。起きたならさっさと来いって先生が言ってる」


それは意外な人物だった。


「トム,わざわざむかえに来てくれたの?」


私が驚いて声を上げるとドアの向こうでため息が聞こえた。


「頼まれたんだよ、さっさと来いよな」




その後の授業で拓先輩の事についての話はなかった。


先生たちも触れないようにと考えているらしい。


日本史についての先生の熱弁に私たちはだんだんと飽きてきた。


「みゆ」


後ろから声がした。


真妃がそっと私の手にくしゃくしゃに丸まった紙を渡してきた。


先生の様子を確かめ、そっと机に隠れて紙を開いた。


『例の犯人、脱獄しちゃったって』


私は先生がこちらに背を向けた瞬間、真妃の方をチラッと振り返った。


真妃は『うそじゃないわよ』と言いたげに頷いた。


『本部の警備も万全じゃなかったって言うの?』


私は熱心に勉強している生徒を装いくしゃくしゃの紙に返事を書いた。


その後も手紙での会話は続いた。


真妃『いいえ、警備は万全だった。だからこそ本部は大騒ぎみたいよ』


私『一体どうなっちゃうんの?』


真妃『安全は確保されないでしょうね』


私『この学校にスパイがいるのかな?』


真妃『その可能性は90%に等しいでしょうね』


私『そんなに自信あるの?』


真妃『本部の内密な調査により、この脱獄の手助けをした犯人がいるという結果が出たらしいの』


私『手助け? じゃあ、本部にもスパイがいるって事かな?』


真妃『それもあると思うけど本部会議によると、この学校と本部どちらにも行き来できる。もしくは、普段から学校と本部との関係が深い人物。という犯人の予測もされているところらいいよ』


私『学校にも本部にも……。それって』


真妃『この学校の教員! それが一番可能性が高いわけ』


私はそこでやっと状況が読めた。


先生たちがこの話題にあまり触れてこないのは、ここの教員が疑われ、調査されているからだ。


下手にぺちゃくちゃとこの事件に関して話せば、疑われる事もあると考えたのだろう。


と、考えていた時だった。


「先生少しいいですか?」


トムが挙手している。


「なんだね? 足利氏の所は実に興味深いところだぞ。集中して学ばなきゃいけませんよ」


先生はそういって黒板の方に体を向けた。


「別に、授業妨害のためとかじゃないんで、質問に答えてください」


トムはまだ手を挙げている。


「なんですか? トム君」


トムは黙って立ち上がり、先生を真正面から見た。


「拓先輩の事故についてですが、先生は何もご存じになってないんですか?」


いきなりの質問に先生は思わずチョークを落とし、戸惑ったように目を泳がせた。


「そ、その事は……、あまり話題に。というより、今は授業中です。授業にあった質問しか受け付けるつもりはありません」


慌ててチョークを拾い冷静さを装おうと咳払いをした。


「先生、僕たちが、あんな事件があったすぐ後で冷静でいられるとでも? 一週間は落ち着いてられませんよ。その事に関して情報をいただきながら、僕たちは学校生活を送るべきそうでしょ?」


私たち頷けるトムの発言に、今までにないトムへの同意の声が上がった。


「先生、僕もトム君と同じだよ。だって僕たち安全じゃないって分かった以上は、情報を聞く権利が欲しいもの。この学校にまだ爆弾があるかもしれないでしょ? 僕たちはこの件に対して注意深くなるべきなんだ」


と心。


「せ、先生、僕もそう思います。拓先輩は今現在どんな調子なんでしょうか? か、回復は? 順調に言ってるならいいのですが、で、出来れば報告を」


と匠。


「それに先生たちみんなして緊張した顔ばかりしてますが、この学校を本当に大切だとお思いなんですか? 私たちはこの学校の生徒です。教師も生徒も我が校を守るべく協力し合うべきなんです。隠すのはやめて話し合うべきですよ」


と真妃。


「私からもです、先生。本部の方での調査はどうなるんですか? この学校も取り調べを受けるんですよね?」


私も真妃に続いた。


「普段はトムに賛同することはありませんが、今回ばかりは僕の方も賛成です。質問に答えてください」


最後に賢が立ち上がった。


先生は『あ〜』とうなだれ始めた。


「お前らってやつは分かっちゃいないみたいだな。いいですか? これは話し合うとか協力し合うとかいう単純な問題じゃないんです。教師は黙秘しなければいけない条件のもとで、本部へと時たま足を運んでいます。生徒を守ることを重点的に置いているのです。あまりにも秘密を知りすぎればいずれは、あらゆる問題に巻き込まれ安くなる。それを防ぐため教師はみな、この件について極力、生徒たちに伏せています」


私たちはそれ以上聞こうとは思わなかった。


授業は続いたが、先生は疲れ切った声になっていた。


隠しきれない先生の苦労をそこに感じられた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

更新の不定期、本当にすいません。

今後もよろしくお願いします。

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