第三十章
非常に更新の方が遅れてしまい、読者の方に迷惑をかけました!申し訳ありません。実は私は受験生ですので、なかなか更新できる時間を作るのは難しくなっています;
だいぶ長い期間をあけてしまったので一応簡単な前回のあらすじを書いておきます。忘れてしまっている方はあらすじを読んでください。申し訳ありません。
[あらすじ]
無事タイムガード校に入学し、早速実技授業を受けたみゆと5人の新入生。実技授業は想像以上にきつい基礎トレーニングだった。その後の夕食で、拓先輩と静香先輩と話をするみゆたち。そこで、静香先輩はトムの新情報を手に入れたと、みゆたちに報告した。トムは実は複雑な家庭で育ち、悲惨な日々を送ってきた。いじめ、虐待、妹と引き離され、そのせいか荒れてしまい問題ばかりをおこしていたらしいのだ。推薦が来たときは大喜びで、反対する両親から逃げて入学してきたというトムの事実にみゆたちは驚く。トムは3年生とコソコソと何かを企んでいる様子で、拓先輩と静香先輩そして熊先輩はトムを警戒し、引き続きトムの監視を行うことになったのだ。
7時30分からの授業は、1時間。
教室に設けられていたスクリーンが天井から引っ張り出された。
最後の授業はタイムガードとして名を残してきた英雄たちの再現ドラマのビデオ鑑賞だった。
でも再現にしては演技が下手くそだ。
スクリーンに映し出される人物たちはほとんど棒読みで演技している。
私以外にもほとんどがそれに気づき、全くスクリーンに興味を持たなくなっていた。
先生でさえ、椅子に座ってうたた寝だ。
トムは大あくびをした後、堂々と寝ていたし
心は暇そうに手遊びをしている。
ただ真妃と賢は真面目に見入っていた。
匠は珍しく何かを考えているのかボーっとしている。
その横で私はスクリーンをチラとも見ずにうつむいていた。
頭の中はドラマのことなど考えてもいなかった。
私はもっと別な事で頭を働かせていた。
真妃と偶然きいてしまったあの会話……。
石の像の陰で話していた男声。
小さな声だったが聞き覚えがあった。
その声をどこで聞いたかと考えはするのだが頭には浮かんでこない。
そうして考えているうち、ドラマは終わってしまった。
先生はあくびを押し殺そうとしたが、うまくごまかせず、とんでもない表情になっていた。
「今日見た内容は、まあ、タイムガードとしての知識として覚えておけ」
スクリーンが片付けられて、授業はあっけなく終わった。
しかし隣を見ると匠は立ち上がろうともせずボーっとしている。
「匠君! 何かあったの? 調子が悪いの?」
心が最初に匠に駆け寄った。
匠は心を見て、パッと表情をかえ、引きつった微笑をみせた。
「あ、す、すいません! ボーっとしちゃってて。き、きっと、あまり寝ていないせいでしょうかね、なんだか、あ、頭がボーっと……」
匠はゆっくりと立ち上がった。
「もう寝た方がいいんじゃないか?」
賢が匠の肩を軽くポンっと叩いて声をかけた。
「そ、そうですね。少し、か、体を休めないと」
匠はフラフラと歩き出した。
「何か悩んでる事とかあるの? 夜寝れないほどに」
真妃が心配そうに聞く。
匠はゆっくりと振り向いた。
その顔は青白く、目は疲れ切っていた。
「ああ、えーっと、ぼ、僕は大丈夫です。し、心配かけてすいません。悩むことなんてそれほどないですし、ただ、昨日、よ、夜更かししちゃっただけで」
匠の表情からそれが嘘であるとはっきり読み取れた。
「フッ」
トムが鼻で笑うと匠の前に立った。
「体調管理には気をつけたまえよ。ああ、君の言いたいことは大体分かるが、俺は弱々しいメガネ君に気をつかって声をかけただけで、嫌味を言っているわけじゃない」
賢がトムに何か言いかけて口を開いたが、トムはそれを見逃さずそう言った。
賢は開いた口を閉じ、目をそらして後ろに下がった。
トムは賢に向けた顔をまた匠へと戻す。
「最後にもう一度だけ言っておこう」
トムはそう言ったあと匠に顔を近づけ、小声で何か囁いた。
そして「じゃあ、俺は疲れたから寝る」とだけ言って教室を出て行った。
私たちは匠を見つめ、そしてトムの出て行った後のドアを見た。
「僕には聞こえたよ匠君」
いきなり賢が言った。
心と真妃と私はサッと賢に視線を移す。
しかし匠は気にもせずに
「僕は寝ます」
そう言って教室を出て行った。
「明日は行事が入ってる。僕らもまだ早いけど自分の寮室でゆっくりしよう」
心もそれだけ言って出て行った。
賢はまだ険しい顔をして突っ立っている。
「トムは何て?」
真妃が聞くべきなのか聞かぬべきなのか躊躇した後、賢に問いかけた。
「『お前の存在は俺のおかげで保たれてる』」
「それって、どういうこと?」
私は真妃より先に言葉が出た。
「2人の関係が気になってきたね」
真妃が言った。
「……僕らも、部屋で休むべきだ。今日は疲れたよ」
賢は無理やり作った笑顔を向けて、部屋を出て行った。
「第●●回、新入生歓迎会を開会します」
教頭がマイクに向かってそう言うと、先輩達は嬉しそうに『イエーイ』と叫んだ。
昨日のトムが匠に囁いた一件が気にはなっていたが、今は考えないようにしようと決めていた。
それにトムも匠も昨日の出来事がなかったかのような、いつも通りの様子だった。
入学式を抜いて、学校行事は初めてだ。
心はキョロキョロと体育館中を見まわしては、指をさして賢に何か囁き、大声で笑っている。
先輩達は何やらギャーギャー言いながらその辺を走り回り、何かの準備をしている。
「ウヘヘヘヘ」
「笑い方、気持ち悪いわよ!」
いつの間にか私たちの隣に拓先輩と静香先輩が立っている。
拓先輩は上下真っ赤な服を着て、静香先輩は真っ赤なドレスを着ていた。
「なんです? その格好?」
賢が引きつった表情をしている。
「そりゃ、お前らにはまだ公開できないぜ! 俺達は夜中に頑張って―――」
「余計な説明はいらないの! あたしたちの出番はもうすぐよ」
静香先輩は拓先輩の背中を平手で叩く。
「おっと失礼!」
拓先輩は人をかき分け、舞台の方へ走って行った。
「全く、あたしももうすぐだから行かなきゃ」
静香先輩も走りはしなかったが、急ぎ気味でその場を離れた。
「それでは、さっそくですが準備が整いましたので、3年生と2年生は持ち場についてください」
照明は落とされ、真っ暗になり、舞台の幕が下りた。
1年生の私たちは舞台の目の前に座っている。
先程までにぎやかだった体育館は今では不気味なほど静まり返っている。
何が始まるのかと期待感を持ちながら、私たちは舞台の方を黙って見つめた。
「時空犯罪組織! 奴らを撃退すべくタイムガードは立ち上がる。ここ、タイムガード育成校は世の平和を守るタイムガードをより多く育成させ、戦闘技術を備えさせる学校である。よって、これまでの伝統を守り、先輩方に並び、犯罪組織から世を守る勇ましい生徒であるように」
生徒会長、そして鉄の兄でもある和先輩の声が舞台から聴こえてきた。
そして幕がいっきに上がり、照明が舞台に向かって当たっている。
舞台の上にはズラッと先輩たちが並んでいた。
「1年生諸君」
和先輩が1人前の方に立って言った。
「我が校へようこそ!」
そして先輩達全員が後ろから叫んだ。
「うわぁ!!!」
心が声を上げる。
先輩達は笑顔を向け舞台の奥へ下がる。
「さてさて、かたっ苦しい式はやめにしてと―――」
「入学歓迎会を盛り上げていきましょう!」
舞台そでから拓先輩と静香先輩が現れた。
2人はマイクを持って、真っ赤な服に真っ赤なドレス姿でたっている。
「俺は盛り上げ役、いや、司会役の拓です。ま、新入生とはもうとっくに仲いいので自己紹介なんていらないでしょうが」
拓先輩はニヤリとして腕組みをしている。
「このバカのフォロー役! 静香です。ではさっそく我が校の秀才メンバーの登場です」
静香先輩は拓先輩の腕を引っ張り、自分より一歩後ろに立たせた。
静香先輩の合図で、奥に下がっていた先輩達の数名が前の方へ出てきた。
人数は5人だ。
「秀才メンバーとは、言葉どおり! 我が校でより優れた生徒たちです」
静香先輩はたんたんと言った。
「おい、お前はフォロー役だろ? 俺に言わせろ! えっと、右から和先輩、長井先輩、黒田先輩、空先輩、村田先輩(和先輩以外の4人は今後登場がないと思いますので、名前は覚えなくてもいいと思います)」
拓先輩は前に進み出た。
和先輩は一番目立っていた。
自慢げにニヤつき、バカにしたようにこちらを見下げている。
「俺は知っての通り、生徒会長を務める。じきにエリートとしてタイムガード組織で活躍するだろうと、我が家庭だけでなく、学校や組織から期待されている。命中力100%の攻撃型能力。これが俺の生まれ持った力だ」
和先輩は誇らしげに銃を取り出した。
「弾を外すことはない」
そう言って拓先輩に銃を向けた。
「か、会長さんよ! いくら俺が憎いとはいえ、この場で銃なんて凶器を……」
拓先輩は慌てて両手を上げ、息を荒げて後ずさりし始めた。
「新入生が見たいとさ」
和先輩は発砲した。
拓先輩はサッとしゃがみこむ。
私たちは一斉に悲鳴をあげて目をつぶった。
「いってぇな!! 遊び道具なら初めから説明しといてくださいよ」
目を開けると拓先輩の胸元に赤インクがついている。
「いくらお前でも、本物ぶちこんだりしないさ。ただ、俺の命中力を新入生に見せるよう言われていたからやったまでだ」
和先輩は満足げにフッと笑うと一歩下がった。
拓先輩は胸元のインクを指差し、皮肉な表情を浮かべながら
「まあ、生徒会長の命中力はこんな感じです。司会者の胸元に見事命中! もし本物であれば確実に司会者はもう二度と動く事はなかったでしょう」
と言い、マイクにため息をついた。
「続いては、長井先輩です」
静香先輩はまたも拓先輩を押しのけた。
長井先輩は体のひょろ長い、青ざめた青年だった。
細長い腕をぶらつかせ、ガラ声で眼の下にはくまが出来ている。
「僕は、体がとにかく柔らかい。昔からそれで人から気持ち悪がられてた。ま、最も戦闘中は自分の命を守るのにとても役に立つ。たとえば、こんな風に―――」
先輩は骨がないのではないかと、疑ってしまうほど背中を後ろに曲げた。
そして顎を床につけた。
私はあまりの柔らかさに気持ち悪くなった。
隣にいるみんなも顔をひきつらせている。
「相手の攻撃をかわすとき、しなやかに動けるんだ。自慢にはあまりならないけど、でも守備的能力だ。先生方もここまでしなやかに避けられてしまうと敵もやる気がしなくなるだろうなってよく誉めてくださる。なぜこんな奴が秀才メンバーにいるのかと、そう疑問に思ったら、僕ではなく先生方に聞いてみてくれ」
長井先輩は体育館にしらけた空気を残し、元の位置に戻った。
続いては肌の黒い黒田先輩だ。
ショートヘアーの早口な女性である。
「あたしの両親は優れた人なの。だから、子供のあたしも秀才なのよ。あたしの父は有名な心理学者! タイムガードではないけれど、人の表情や言葉なんかですぐにその人の性格や行動が分かっちゃうし、人によって、適切な接し方を知ってるの。人の感情についてよく教えてくれるんだけど、とにかく複雑で無限大なものだから、あたしの父は特殊な力を自分は持ち得たって言ってる。学者としてその名を語ってるけど、学者というよりは能力者なのよ。そして母は天才的占い師。母の方もタイムガードじゃない。でも、母は確実な予言ができる人なの。あたしがどういう子なのか生まれる前から分かっていたそうよ。だから人を占えばどんな事でもお見通し。それに―――」
相当の話好きらしく、なぜか両親の事を二十分も語っていた。
私たちは漠然と話を聞いてはいたが、いつ終わるのだろうかとその事ばかりを考えていた。
先輩は早口で休むことなく話し続けていたので、逆にここまで口を動かせている事が不思議でならない。
拓先輩はついに呆れかえり、腕時計をみて、静香先輩に頷いた。
「彼がいうには、うちの父は神のような眼の持ち主だって! 見抜きの天才でまさに―――」
黒田先輩はまだ口を動かしていたが、これ以上こちらも聞いてはいられないので、ついに拓先輩が咳払いを大きくして見せた。
さすがの黒田先輩も口を止め、サッと拓先輩を見た。
「あら、拓! あたしのスピーチに不満でも?」
明らかに気を悪くしたらしい。
「先輩、申し訳ありません。時間が限られておりますゆえ、ご両親のお話はその辺に……あ、あの別に、聞きたくないわけじゃないんです。ただ、時間の問題がありますから、今日はとりあえず先輩の能力を披露してくだされば」
拓先輩は俯きかげんで先輩に小声で言った。
「そう? もうそんなに話しこんでしまったのかしら? あたし、話しだすと止まらないのよね。じゃあ、残りの三分の二は時間がある時に話して聞かせましょうか」
黒田先輩は仕方がないと思っているらしくそこで両親の自慢話をやめにした。
残り三分の二と聞いた直後、拓先輩だけでなく、私たち全員が呆れかえる。
しかし黒田先輩はそんな私たちを気にもとめず、やっと本第へと話を移す。
「えっと、あたしの能力、というか特技は人を惑わすこと」
その瞬間にトムがフッと吹き出す。
「人を惑わす?」
黒田先輩はキッとトムを睨みつけた。
「くそ生意気な新入生が入ってきたようね! まぁいいわ、見せてあげましょうか」
そういうと黒田先輩は拓先輩の腕を乱暴に引き寄せた。
そして、真正面から拓先輩と向き合う。
「この司会者を立てないようにしましょう」
拓先輩は嫌そうに少し顔をしかめたが、黒田先輩の目つきの怖さに渋々立っていた。
「あなたの足は自由を奪われる。そしてあなたを支えることは出来ません」
先輩は、拓先輩の肩に手を置き、真剣な目つきで先輩の目を見ていた。
体育館中になぜか緊張した空気が流れ始める。
拓先輩はどうにか抵抗しようとしているらしく、拳を強く握り、体を震わせて今にも倒れそうなところを踏ん張っている。
「ん〜! ちっくしょう」
拓先輩は震えたかすれ声をだし、本当に足が体を支え切れなくなったようにドサッと倒れた。
私は少し怖くなって声が出なかったが、心は大感激だ。
「うわぁ!!すごいすごい」
賢は口をポカンと開けている。
「人を惑わすというのは、正確に言うと人の体の神経を惑わせ、狂わせるということ。なぜそんな事が出来るかっていうと、あたしの言葉の力。催眠術とは違うのよ。あたしは言葉に力を持っているの! あたしのそうしろと念じる思いが強ければその分言葉に力がこもる。そして人間の心理も関係してくる。あたしが、さっきみたいに『あなたの足の自由が奪われる』とハッキリ言いきった形で相手に言うと、その人はほんの一瞬でも『そんな事出来ちゃうのかな?』と疑うでしょう? 少しでも信じ込む心が生まれてしまったら、体もそれに反応する。最終的にあたしの言葉の力が体を惑わせ、神経を狂わせる。だからこの司会者は足が自由を奪われた。まあ、ちゃんと説明すると、自由が奪われたかのように、力が入らなくなっただけのこと! 催眠術と変わらないと言われたらやっぱり否定はできないけれど……あたしの場合は言葉による能力といったところよ」
黒田先輩は『どうよ!』という感じでトムを見た。
トムは舞台下を見つめ、『それがなんだ。つまらん』とでもいうような態度で腕組みをしている。
それを見て尚更気に入らないのか、黒田先輩はこう言った。
「次はハーフの君が実験台になる? 新入生も彼があたしの言葉の力に負けてしまえば、その凄さをよりよく分かっていただけるでしょうし! さっきのは2年生だったし、わざと倒れる事も可能だったわけだから、君が舞台に上がって体感してみればもっと理解できるんじゃないかしら?」
しかしトムは嘲り笑いをすると
「先輩、すばらしい能力でしたよ! まさに秀才ですね。僕が体感するまでもない。それに次失敗したら大変な事です。何しろ、1回目で成功したんです。その成功が無駄にならないよう、この辺で見せびらかしはお止めになってください」
と言った。
黒田先輩は顔を赤らめ、口をパクパクさせ、何かトムに言ってやろうと言葉に迷っている。
拓先輩が体育館の空気が悪くならないようにと前に進み出た。
「まあまあ、新入生君! 彼女はこの学校の秀才メンバーだよ? ここで一番優れた一員だ。この能力の強さ必要性。今後偉大なタイムガードになるのではと僕ら一同期待している先輩方だ。言葉は慎もう。さあさあ、改めまして次行きましょうか」
体育館が落ち着きを取り戻した。
あまりやる気がないらしくポケットに手を突っ込んでダラダラと前に進み出たのは空先輩だ。
空先輩は坊主頭で目が細い。
無表情な顔をこちらに向けると、大きく深呼吸した。
そして肩を回し、首を回す。
最後に軽くジャンプして準備完了といった様子で身構えた。
それは一瞬の出来事だった。
「せいや!」
先輩は一声叫び、舞台床に拳を振り下ろす。
『ズガッ』っとたったそれだけの音だったのだが、舞台床は壊れ、体育館が一瞬だけ揺れた。
床は穴があいて悲惨な状態である。
私は真妃と心と目を合わせて、お互いに信じられないと首を振った。
賢と匠は感動したらしく、力強く拍手した。
トムは驚いていたようだが完全に隠そうとしている。
先輩があんなにやる気がないように見えたので、このいきなりの大技に驚かされた。
先輩は一礼するとサッと一歩下がり、先ほど同様、ポケットに手をつっこんだ。
「さ、さすがです! これぞエリート! えっと……確かこの能力は」
拓先輩は間を置いた後、前に進み出た。
「手の中で空気の球体を作る。空先輩は、全集中力を拳にそそぎ、それと同時に空気を手に集める不思議な力を持っているんです」
静香先輩は拓先輩をまたも押しのけた。
「空気を手に集める? いったいどういう意味なんですか?」
心が椅子から立ち上がり挙手した。
「そ、それは……だなぁ」
妙に焦った感じの拓先輩は頭をかいて、必死に考えているようだ。
結論が出ないのを判断したのか、空先輩はついに口を開いた。
しかし、その口調は冷たく、声はやけにキビキビしている。
「空気の波動を掴んだんだ。君たちには理解不能かもしれん。だが、簡単に説明する。俺は正確には特殊な拳の持ち主だ。まず拳に全神経を集中させ、空気の波動を感じ取る。空気の波動ってのは眼には見えず、簡単には感じ取ることができない。これにはかなりの修行が必要だ。そしてその波動の中で大きな波動を感じたら、すかさずつかみ取り、手の中で握りつぶす。正確に言うと手の中で空気の球体を作っている。最後にその全ての力に神経を集中させたまま、振り下ろす。するとたちまち大きな破壊力が生まれる。そんな複雑な技を創り出したのが、この拳の能力。人間の頭じゃ考え切れないことが、俺の手の中で起こりうる。俺はそういう能力者だ」
なんだか難しいが心も納得した様子で、黙って座った。
先輩もまた黙り込み再びやる気のない体勢に戻った。
「それでは続きまして、村田先輩! ちなみに! 静香の兄貴であります」
整った顔の優しい目をした先輩が拓先輩に紹介され前に立った。
村田先輩はスラッとしていて、さわやかだ。
「紹介されたように、ここにいる司会者静香の兄、村田大輔だ。早速、見せたいところだが、時間が足りないみたいだな! だろ? 司会者君たち。とにかく俺は別にいつでも見せられるし!」
拓先輩は慌てて腕時計を確認した。
「す、すいません。え、でもそれじゃあ」
「何言ってるのよ! 時間なんてどうってことないでしょ? お兄ちゃんの能力は簡単な事なんだから」
静香先輩はそうやって遮った。
「しょうがねぇな……よし」
村田先輩は右腕をつきだし、力を入れた。
「よ〜し、こい」
先輩は手のひらを穴のあいた床に向け、顔を真っ赤にさせて、全身から力を入れている。
すると、床の壊れた板が『メキメキ』と音をたて始めた。
徐々に板はひどく動き出し、『バキバキ』とすごい音がなった時、スッと空中に数枚の板が浮いたとおもいきや、先輩の手のひらにくっついた。
そして次々と割れた細かい板が先輩の手のひらにくっついていった。
「なんじゃこれ?」
思わず心が声をあげ、賢も
「なんなんだ?」
とかなり疑わしそうにみている。
「顔がものすごく真っ赤だけど酸欠しないの?」
私の質問が聞こえたらしく、先輩は力を一気に落とした。
板もバラバラと床に落ちていった。
「も、もの、す、すごく、た、大変だけどな! ま、まあ俺は、と、特訓に特訓を、か、重ねたわけだ」
村田先輩は息を切らしながらそう言った。
「あたしの兄は、気持ち悪いけど磁石人間なの!」
静香先輩は嫌そうに説明をした。
「な、なんだと? お、お前! そ、それ、でも妹、か? き、気持ち悪いだ? それは、お、前が、じ、磁石人間なんて、い、うからだろ?」
村田先輩はあまりの息苦しさにしゃがみこんだ。
「だってそうなんだもん! あたしだってそりゅあ恥ずかしいよ。でも仕方ないのね、妹なんだから」
静香先輩は困った困ったとばかりに首を振った。
「まあまあ、静香! 自分の兄貴だぜ? ま、たしかにな不格好だが……。とにかく××先輩は磁石的能力の持ち主で、右手にグイッと板を引きつけるというか」
「説明がなってないぞ拓。俺の能力は引力だ! 言いかえれば磁石人間らしいが、でも俺はそうは思ってないぞ! なにせ、磁石ならこんな板なんて引きつけないからな」
村田先輩は、呼吸が整い立ち上がった。
「ようするに、この気持ち悪い男はエリートのあたしの兄って事覚えておきなさい」
静香先輩はそう言って村田先輩を下がらせた。
先輩は何か言いかけたが静香先輩のひと睨みで黙ってしぶしぶと俯く。
「え〜この五人が我が校エリートであります! みなさん拍手を」
私たちは拍手をした。
照明が消え、丸い光が拓先輩だけを照らし出した。
先輩達は舞台裏へと姿を消す。
「ではでは、次は部活動紹介です」
拓先輩は舞台を降りて私の目の前にやってきた。
「え?」
私はみんなの注目を浴びる。
「みゆさん。君は作ることが好き? 動く事が好き? どっちだ?」
「え……っと」
私は拓先輩のいきなりの質問に緊張し、口ごもる。
「クイズじゃないぜ」
拓先輩は『落ちつけ』と優しく笑う。
「ん〜、う、動く方です」
私が躊躇しつつ言うと、
「みんな聞いたか? 今年も新入部員だぜ!」
拓先輩はマイクで大声で叫び飛び跳ねた。
「よっしゃ〜!!!!!」
声がして、舞台の照明がついた。
7人の先輩たちが舞台に並んでいる。
中には熊先輩もいた。
「俺達は体育系。動く部活動。まあ、好きな種目をいろいろするんだけど、今回は特別に君たちとゲームをしようと思ってる」
拓先輩は、ついにきたという表情を浮かべ、にっこりとしている。
「ゲーム?」
6人が同時に聞いた。
「ああ、その名も! 『俺様を捕まえろ』」
拓先輩は親指を自分にむけ得意げにニヤリとする。
「なんだよ! だっせぇ〜ネーミングだな」
トムが笑う。
拓先輩は片眉を吊り上げ、トムを指差す。
「笑いやがったな? どうせお前のような腰ぬけはこのゲームの敗者だ」
トムは笑うのをやめて、「なんだと?」と小声で言った。
「ルールを説明しようか? 10分間の間に俺様、他、3名の部員がこの広い校内に姿をくらます。そして50分間でお前らが俺ら4人を見つけるというゲームだ。見つけたらタッチして『捕まえた!』ということがルール。ただし、1人もみつけられなかった者に関しては……俺に柴崎ルームで何かおごること、つまり罰ゲームさ! だから意地で探せよ」
拓先輩は愉快に言う。
「あんたにおごる?」
トムがふざけるなとばかりに言い返す。
「これは強制参加だ! わりと盛り上がるぜ」
拓先輩が言うと、即座に真妃が手を挙げた。
「無理だと思います」
「なぜそう思う?」
真妃に言われるとは思っていなかったらしく、拓先輩の声が少し小さくなった。
「だって、そんなの考えたら簡単な事ですよ。校内って言ったって広すぎます」
賢も仕方なさそうに言った。
「そういうことか……それはこっちで計画済みだ」
拓先輩はまた笑顔になる。
「校内といっても、範囲もある程度ある。そこで地図を渡そうと思う。指定範囲の中で俺達を見つけてくれ! そして捕まえること。ただ、お前らはこれだけの条件じゃ不利だろう? だからこれを俺達は身につける」
拓先輩がポケットから緑の装置を取り出した。
「これは10メートル以内にお前らが近づいたら、それに反応して音が鳴るという仕組みだ。つまり、俺らに十メートル近づいたらすぐに居場所が分かってしまうという優れものさ」
先輩はにやりとした。
トムも納得したようで小さく頷き腕組みをした。
心は愉快そうに満面の笑みを浮かべている。
「面白そうだな」
賢が首を回してやる気を見せつけた。
「納得のようなら今すぐにでも始めたいのだが?」
拓先輩は今すぐにでも走り出しそうな雰囲気だ。
しかし……
「ちょっとまったぁぁぁ!! 俺達の立場なくす気かい? お前ら体育系どもだけ目立って、ゲームなんかで時間取るなんて卑怯じゃないか? 俺達、技術系も黙っちゃいねぇぜ」
舞台端にサッと現れたのは、拓先輩にそっくりの顔の眼鏡をかけた青年だ。
「滝!!」
拓先輩は引きつった表情で大きな声を上げた。
「誰?」
真妃と私は思わず聞く。
「拓の双子の弟、滝よ。彼は、うるさいのは同じだけど拓と正反対で頭脳的でオタク系の引きこもりの……」
「静香! 俺の自己紹介は俺がするから黙っててくれないか? 俺は拓とは正反対で頭脳的で正義感の強い男だ。真面目でオタクで引きこもりといった言葉は撤回しろ!! つまり、馬鹿な兄貴の優れた弟ってわけだ」
滝は決まったとばかりにピースした。
「うざいのは同じでしょ? で? 滝は何をやらかしたいわけ?」
静香先輩は呆れた口調で聞いた。
「その事なんだが、今井部長!!」
滝先輩の合図で、技術系の部長がゴーカートのような乗り物に乗って現れた。
「これで校舎を回って、学校探検プラス体育系のお前らを捕まえる。そして忘れちゃいけないことがいくつかある。その緑の装置は俺達が制作した物だし、柴崎先生のお菓子だって俺達の協力のもとで作られてる。つまり、俺達の存在価値は高いんだよ! それに技術系の部活を卒業された先輩方は偉大な方たちだ。タイムマシーンの改良から、新しい技術を踏まえた装置の製作を行う、タイムガードになくてはならない職についている。いいかい? 1年生諸君! この部活も将来に大きく関わりを持ちやすい。すでに俺は、職場が決まっている。才能を認められ、上のかたからお呼びがかかったのさ!」
滝先輩は自慢げに言った。
拓先輩は気に入らないらしく、バカにしたようにニヤッとした。
「技術系なんて、ただのオタクの集まりさ! 俺達はタイムガードに最も必要な戦闘能力が備わっているんだ。たとえ部活とはいえ、能力を存分に全身から発揮できる大きな部活だ。あんたらとは違う」
拓先輩の後ろから『そうだ! そうだ!』と体育系の声がした。
「オタク? 違うね、知的で才能ある集まりさ! そっちこそ、ただ遊んでるだけのアホどもだろ?」
今度は滝先輩の後ろから『そうだ! アホども!』と声が上がる。
「今年の1年は俺達がいただくぜ」
両者ともそう言って睨みあう。
そこで、静香先輩が我慢の限界を超えたらしく、マイクをぎゅっと握ると
「黙れ! どいつもこいつも自分勝手にベラベラと見苦しい! これは1年生を楽しめるイベント、違う?」
この怒鳴り声に体育館中が凍りつき黙り込んだ。
滝先輩は後ずさりし、拓先輩は縮こまる。
「分かったら、さっさと始めなさいよ」
静香先輩は人睨みすると、マイクを拓先輩につきつけた。
拓先輩はヨロヨロと進み出て細々とした声を出した。
「これから10分間の間に俺達は校内のどこかに隠れる。10分たったら静香がスタートの合図をする。そしたらゲームスタート。君たちはその車に乗って俺達を探し捕まえること」
「そしてルール追加! アイテムを3つだけ俺達からプレゼントだ。これを使って体育系の連中を捕まえてもよい」
滝先輩が拓先輩を押しのけてそう言った。
「なんだか、私たち先輩たちに振り回されてるような気がしない?」
真妃が小声でそう言った。
確かに私もこのイベントが始まってからずっと思っていた。
「先輩たちがやりたいことを大威張りでやってるだけの争いのようなイベントだよね」
私は真妃に同意した。
「ゲームって結構お金かかることするよね? この学校……」
心が首をかしげて言った。
どうなる事やらと1年生は、スタートを座って待つばかりだ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
作者の都合上により更新がかなり遅れてしまい申し訳なく思っています。今後も更新が遅れてしまいがちだと思います。身勝手な作者ですがどうか今後ともよろしくお願いします。本当にすいません。




