第二十七章
「ではでは、入学祝いに乾杯といきましょう」
柴崎先生はワインの入ったグラスを持ってにこやかに声を上げた。
「カンパ〜イ」
全員がそう言って柴崎ジュースの入ったコップを片手に乾杯しあう。
「こんな事して何になるんだい?」
トムが馬鹿らしいとばかりにぼやく。
「まあまあ、仲良く行こうぜ」
拓先輩はジュースを一気に飲み干した。
「こんな奴と一緒じゃそうもいきませんよ」
賢がトムをチラッとみて言った。
「そう言うなって……友は貴重な宝だぜ」
拓先輩は1人でクスクス笑った。
「おお! いいこと言うな拓!」
柴崎先生も会話の中に入ってきた。
「そうでしょ? じゃあ成績もあげてくださいね」
調子づいて拓先輩がにやけると、
「何を馬鹿な事を? っていうか……お、お前なんでここにいるんだ!」
柴崎先生は今更気づいたようだ。
拓先輩は『ギクッ』っという表情をする。
「せ、先生! 俺は、この学校を代表する風紀委員で……」
「あほか! 関係ない出て行け馬鹿野郎」
先生は先輩を怒鳴りつける。
「でも、俺最後まで責任持ちたいんで」
引き下がらない先輩。
「そうか……明日からお前にだけは商品を販売しないこととする」
先生も痛いところをつく。
「……クッ、分かりました。帰りますよ教室に」
先輩は悔しそうに出て行った。
「ところでトム君、君は日本生まれ日本育ち?」
心はにこやかにトムに尋ねる。
トムは答えるのが嫌そうな顔をしたが、鼻で笑って答えた。
「違うね、十歳まではアメリカにいたよ」
「十歳までって事は英語ペラペラ?」
心は興味をしめす。
「まあそうだけど」
自慢げにトムが頷く。
「へぇ〜話してみてよ」
心は嬉しそうに言う。
「Step back!」
トムはただそう言って心をはらいのけた。
「何て言ったんだ?」
賢が機嫌悪そうに匠に聞いた。
「たしかにいい言葉には聞こえなかった」
真妃も嫌そうにトムが部屋を出て行く姿を見つめる。
「えっと……『下がれ!』って言ったと思います。じゃまだってことでしょう」
匠は遠慮がちに言った。
「なんだって!」
賢はドアの方を睨みつけた。
「心、気にすることないって」
私は一瞬ショボンとした表情になった心に声をかけた。
「そうだよ、あの人ちょっと言うことひどすぎるし」
真妃も心配そうに言った。
「ちょっとだって!? 許せるもんか! あいつ俺達を馬鹿にしやがって」
賢は壁を思いっきり蹴った。
その後、私は飲み会が終わるといよいよ父との別れの時間となった。
「おい、みゆ! 頑張れよ」
父が肩をポンと叩く。
私は頷いた。
「何かあったらよ、連絡しろ」
父はそう言って私に背中を向けて、手をふるとT・Tにのった。
父は泣いているのだろうか、振り返ることはなかった。
『新一年生のみなさん、我が『タイムガード育成校』へようこそ! 新入生を含め、全校生徒に連絡です。ただいまより、学力テストを行います』
と放送で言っているのは校長のようだ。
生き生きした女校長の声だが生徒の反発声が返ってきている。
『文句言う奴には、食事抜きとあたしからの罰則です。自分のクラスへ急ぎましょう♪』
校長は愉快にそう言ってチャイムを鳴らした。
「なんて校長だ! 夕方にいきなりテストとは」
賢が呆れた様子で言った。
「きまぐれなのは、見学会の段階で分かってたじゃない」
真妃がため息をついた。
「でも、学力って言われてもなぁ」
心が腕組みをして困ったとばかりに首を振る。
「っていうか教室行かないと」
私はみんなに呼びかけ、新入生である事も忘れ急いで教室へと走った。
教室には細田先生が1人黒板と向き合い、何かを書いているようだ。
「さあさあ席へ! 急いでください」
細田先生はこっちを見ずに指示する。
「これより君たち1年は、特別テストを行う! 校長は学力とは言ったが、実際のところは能力テストだから心配するな」
黒板には『得意なこと』と書かれていた。
「さてと、君たちには1人1人個性があるな……得意な事も1人1人違い、不得意な事もみんな違う」
細田先生は手に持っている棒で『得意なこと』の文字を指した。
「今から1人1人得意なことを教えてほしい」
「そんな事して、何になるんですか?」
トムが偉そうな口調で聞く。
「トム君、君は口が悪いと聞いている。少し口を慎んでくれるか? もうテストは始まっている」
細田先生はトムに厳しい目を向けた。
トムはため息をわざと大きくつき、黙りこむ。
「僕は得意なことと言われても、特になくて……でも勘が鋭いんです。その人の考えている事とかだいたい当たってたりするんです」
心が進んで手を挙げると言った。
「そうか、それはスゴイ! じゃあ真妃さん得意な事、なんでもいい」
真妃は少し考えた。
「ん〜、私は記憶力が昔から結構あって。道に迷うことは今までありませんでしたし、1週間前の晩ご飯だって覚えてるんです。だから記憶することが得意なんだと思っています」
「記憶力か! なるほど、では賢君いってみようか」
賢は「はい」と返事をして
「僕は耳がとても良くて、結構ヒソヒソ話も聞こえちゃったりして、少し気に入らない部分でもあるんですけど、得意というよりは、自分的に一番優れた部分です」
と賢。
「ではみゆさんは?」
先生にそう言われたときハッとした。
自分の特技……。
しまった考えるの忘れてた。
「え〜と、得意な事は、え〜……」
何かあったけ?
自分のことなのに。
でも実際は何もかもが普通で……。
「みゆちゃんの得意なことと言うか、すごい所って観察力とかじゃないかな?」
心がフォローなのか、そう言ってくれた。
「え?」
少し驚いた。
そうだっけ?
「まあ、確かにそうだね」
賢が納得する。
「パズル、得意ってあなたのお父さんさっき自慢してたの。だから確信持てるんじゃない? 観察力が優れてると思う」
「そうかも……しれません」
私はあまり自信がないが先生に言った。
「周りが認めてくれた。一つの才能じゃないか! さぁ匠君」
匠は眼鏡をいじってから「はい」とわざわざ立ち上がった。
「ぼ、僕は計算力なら自信があります。し、心君とは少し違って、僕の場合は、計算して人や物事をみて判断します。……もちろん数学はかなり得意です」
「そうか、それは見かけ通りだな。よし最後にトム君」
トムはめんどくさそうに口を開いた。
「俺は小さい時から足が速いことかな。まぁ中学の時は大会とかめんどくさいからゆっくり走ってたけどな」
意外とまともな事だ。
「そうか、それぞれいい物持っている。おそらく……90%の確率で君たちが今言った特技は、ここに推薦された並はずれた能力の事だろう。まあ確実といってもいいがな。君たちはまだ未熟だ。だから『得意』としか思ってないのかもしれないが、この学校はその才能を極限まで引き出すよう訓練させる。人間だからさすがに完璧にはなれなくとも、引き出せる力は全部意地でも引っ張り出す。それはこの学校の一つの目標!」
細田先生はそう言って心に目を向けた。
「たとえば彼の場合は、努力次第で人の心を読むことができるかもしれない。はっきりと読み取れるかは別だが。それから真妃さんもその記憶力がもっと強力になれば、タイムガードとして、敵には手ごわい存在だ。よく使う手でタイムガードを迷わせようとするが、道に迷い込ませようもなかなか道に迷わないとなれば、やつらは逃げ切れない。それに賢君の場合もそうだ。敵は身を潜ませようにも物音や話し声や息遣いが聞こえてしまう。今まで以上に耳が役に立ってくるだろう」
「それからみゆさんは、その観察力を鍛えればかなり戦闘において強力な武器になる。敵を見極める事もできるし、おそらくご両親の才能を受け継いでいれば、敵の次の攻撃が瞬時的に行動で予測できるようになるだろう。そして、匠君ももちろん敵の策略を計算できるようになれば敵なしだ。かなりの戦力。そしてトム君。その足は奴らを逃がすことがなくなる。努力しだいでな」
先生の説明はなんだか自信をつけられた。
そんな力が自分たちにあるのだ。
嬉しくて仕方がないけど、全員が冷静さを装っているのは感じた。
「全員の才能、これは世に必要な重要な財産。宝だ。タイムガードという誇らしき仕事はそんな素晴らしい人材がそろっている。だから、君たちにはできるだけ努力して、引き出せる最大限まで力を出し切れるようになってもらいたい」
「先生、テストって?」
心が手を挙げる。
「あ〜、そうだった、そうだった」
先生は手を叩くと引き出しから、紙の束を取り出した。
「これだ!」
先生はそれを私たちに配った。
しかし、紙は真っ白だ。
「どういうこと?」
私が尋ねると満足そうにうなずいた。
「その質問待っていた。その紙に何が書かれている?」
細田先生は意地悪な目をしてにやけている。
「クイズは必要ない。なんでこんなめんどくさいことで脳みそ動かさなきゃいけないんですか? 俺は質問に答えるのが嫌いなんだ。さっさと答えを……」
トムが偉そうに言うと先生はそれを遮った。
「では君はテスト不合格! もうテストは始まったといったんだ。真面目にやれないなら0点だ」
先生はトムの机にある紙を取ろうとしたが……。
「0点取りてぇとは言ってません。俺はめんどくさいと言っただけです」
トムは紙を引っ張って、先生の手を軽くはらった。
「そうか、なら結構。ただし暴言はマイナス点今後は気を付けたまえ」
「先生、続けていただけますか?」
真妃が迷惑そうな表情で言った。
「ああ、そうだね。さてさて、この紙に何が書かれてるか分かった人は手を挙げて」
『……』
「うん。まあ、真っ白い紙にしか見えないんだろうな」
「当り前です」
賢は答えが出ないことに機嫌を損ねたようだ。
「せ、先生、この紙には本当に何か書かれているのでしょうか?」
匠も賢同様に、苦戦して自分に腹を立てている様子で、いつもより眼鏡を頻繁にあげている。
「書かれているから、こんな質問をする。と、思わないのか?」
「先生、答えは真っ白じゃダメなの?」
心が投げやりにいった。
「そうですね、まあ言いたくはなるだろう。よし、そんな君たちにアドバイス! もっと集中してじっくり見ることだ。何か必ず見えるはず」
「何かって……」
全員が頭を抱えたとき!
「おい、これって何かのマークか? 星型?」
トムが真っ白い紙を顔をしかめて見つめている。
何かが見えているのか……。
「いや、四角か、いや、丸、やっぱ星型?」
トムは首をかしげて言う。
「何言ってんだ!?」
と賢。
「でも、これ!」
トムに一体何が見えているのか、誰にも分からない。
心が嬉しそうにトムの戸惑いぶりを笑っている。
「君には見えてるか、OK。ほらほら、君たちもちゃんと紙みて見なさい」
細田先生がそう指示する。
私は集中して紙をジッと見たが、どの角度でどう見ても真っ白だった。
「分からないよ」
心はあきらめて紙を机に置いた。
「くっそ〜」
悔しそうに賢が紙を見つめている。
「しょうがないな……君たちはまだ集中力が足りていないらしい。能力をうまく引き出すにはとても重要なことなんだが」
と細田先生。
真妃も必死で紙を見つめている。
私も『集中集中』と懸命に見たが、やはり無理だ。
「よし、そこまで!」
先生は時計を見てから言った。
「あと少し待って」
心が悔しそうに机をたたく。
「あ〜だめだ」
賢も同じく歯を食いしばる。
「さあ、終わって。こっちを見なさい」
トム以外が悔しそうに先生を見つめた。
「いいかい、これは君たちの能力テストと言っていいほど重要だ。この紙は我が校長が生み出した最高のテスト用紙。たった一枚の白い紙で、タイムガードに必要な最低限度の能力レベル数に達していれば必ず何かが見えるはずなんだ」
と言って先生は白い紙を手に取る。
「これはただの紙じゃありません。私がこれを見た場合、すぐに何かが映って見える。それはレベルが備わっているからです。つまり、新入生の君たちは、当然備わっていないわけだから、なかなか見えるものじゃないよ。見えなくても今はいい。でもこれからは見えるようにならなきゃいけない」
「でも俺は見えたぜ」
トムが自慢げに言った。
「うるさいな!」
賢がトムを睨む。
「負けたからって、そんなにキレることないだろ? ま、初めに会った段階でレベルの低い連中だってこと分かってはいたぜ」
トムは賢の怒りを誘うかのようにニヤついた。
「お前性格悪すぎなんだよ! 僕たちだって訓練さえ受ければ君以上の力が発揮できるさ」
「その通りだ、賢君。最も! トム君は最初の段階で身に付いていただけであって、レベルはまだまだ分からない。君が超えられてしまう可能性だってある。訓練しだいでその才能は生かされるものだ」
細田先生はそう言って頷くと時計を見た。
「新一年生、これから私と共に頑張っていこう。それでは、明日からみっちりと活動に入るぞ! 日本史は頭に入れるよう努力していけよ。じゃ、今日は長い一日だったと思うがこれにて終了! 寮に戻ってもいいが少し学校を歩きまわって、探検してみるのもいいかもな。とりあえず今日はここまでだ」
『キーンコーンカーンコーン』
トムと賢の仲も気になるところだが、私は寮へ直行した。
またまた頭が興奮のあまり混乱しているので1人になりたかった。
才能という言葉が、すごくうれしく、そして期待が膨らんでいる。
これからの事、考えてしまうときりがなくなることだろう……
更新遅れてしまいました(ーー;)
すいません。なかなか今回は時間がなかったもので……。言い訳はさておき、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。これからももちろん頑張っていきますので、作者の都合で更新が多々遅れる場合があると思いますが^^;
どうか次回作も読んでください。本当に更新遅れてすいませんでした。




